【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第五章 王国動乱

122.王都の片隅(1)

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 ――私は、ツイていた。


 リティアから、孤児の食堂の運営を任されたガラは、常々そう思って生きている。

 あの日、たまたまクレイアに会わなかったら、そこにアイカがいなければ、アイカがリティアに頼んでくれなけば、今でも地下水路で凍えながら暮らしていただろう。

 いや、西域の兵士が王都を占領して、娼館は人手不足だと聞く。

 今頃、娼婦に身を落していたかもしれない。


「うわあ! うめえ!」

「なんだこれ? なんてお菓子?」

「おいしー!!」

「もっと、ないの? ノクシアスゥ!」

「はは。今日持って来た分はおしまいだ。また、買って来てやるよ」

「ほんと!?」

「絶対だよ! 約束? 約束だよね、ノクシアス?」

「ああ、約束だ。無頼は約束を破らねェ」


 食堂に寝泊まりする孤児の数は増え、いつも賑やかで騒々しい。

 リティアが王都を去り、先行きを不安に思っていたが、北の元締シモンは「心配するな」と何度も言ってくれた。それだけでなく、西の元締ノクシアスも気にかけてくれている。

 最初にノクシアスが顔を出した時、ガラも孤児たちも、北の無頼たちも警戒した。

 が、


「菓子を持って来ただけだ」


 と、包みを置いて、早々に立ち去った。

 それから、ちょくちょく顔を見せるようになり、今では孤児たちから兄のように慕われている。

 孤児たちには気安く振る舞っているが、王都の無頼の3分の1を従える大親分だ。西域の兵たちとも繋がってると噂で、たくさんの怖い男の人たちを従えている。


「ガラ。お前も食べろ」


 と、西域から来た珍しい菓子を、目の前に置いてくれた。

 王族や貴族とは別の意味で、孤児あがりの自分が気軽に口をきける相手ではない。その大親分が、優しく接してくれるのも、リティアのお陰であり、アイカのお陰であった。


「い、いただきます……」


 遠慮がちに両手で菓子をつかみ、頬張る。


 ――お……、おいしっ!


「美味いか?」

「はい! ありがとうございます」

「どうだ? 変なヤカラからつけられたりしてないか?」

「あ……はい……。おかげさまで」

「お前が一番、変なヤカラだろ」


 と、館の入口に立ったのは、シモン配下の若頭ピュリサスだった。29のノクシアスの4つ下。北街区の無頼を取りまとめる親分のひとりだ。

 ガラにとっては、街ですれ違っても遠目に憧れることしかできなかった若き親分だ。すぐ隣に腰を降ろすのは、いつまで経っても慣れない。少し頬を赤くして、俯いてしまう。


「お前が顔を見せると、北街区の無頼がざわつく」

「だから、ひとりで来てるだろ」

「余計に怪しむヤツもいるさ。随分、手下を増やしてるって話も聞くしな」

「へっ。言いたいヤツは、なにもなくとも言うさ」


 孤児にとって無頼は身近な存在であった。その中でも親分クラスとなれば、孤児にとっては憧れのスターだ。博打に勝って気分を良くした無頼が、飯をおごってくれるときなど、親分たちの武勇伝を聞かされる。

 そのスター2人の席に座っていることが、ガラには自分事とは思えない。


「気を付けろよ、ガラ」


 と、ピュリサスが片目を細めて、ガラの顔を覗き込んだ。


「えっ……?」

「ノクシアスは、おぼこい顔して、何人もの女を泣かせてる悪い男だからな」


 そういうピュリサスも、なにげにガラの肩を抱いている。


「はっ。お前に言われたくないわ」

「足繁く通うのはガラに気があるからって、噂になってるぜ?」

「ええっ!!!」

「ばか。ガラが本気にするだろ。…………無頼姫に、頼まれたからな。孤児の食堂を守ってくれって」


 ノクシアスは拗ねたように、顔を横に向けた――。
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