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51.ウキウキのワクワク
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「そうそう」
と、シーシが顔に滴り落ちる汗を拭いながら、軽い調子で言った。
「剣士団の篝火に屋根を付けるのは、明日中には出来る予定だから」
「え? 明日?」
「うん。明日の晩には間に合わせるよ」
「スゴイな。仕事が速い」
「ニシッ。もっと褒めて」
という、シーシの顔を流れる汗は止まらない。俺の顔にも汗が浮かび始めてる。……篝火って屋内で使うもんじゃないよね。
「司空府の皆さん、ちゃんと休み取れてる?」
「取れてる取れてる! でも、休んでられないんだよね、みんな。楽しくて」
と、シーシはニヤッとして第2城壁の根元を照らす、円形の光に目線を移した。
「楽しんでくれるのは、いいけど……」
「ボクら普段は家を建てたり、宮殿建てたり、水路作ったりしてて、もちろん、それはそれで楽しいんだけど、今回のは剣士団の闘いに、直接役立つものでしょ? そんなの作るの初めてだし、なんなら王国史上でも初めてかもしれない。みんな、ウキウキのワクワクで、ちょっと寝ただけで飛び起きて、すぐ手を動かしてんだから!」
「そうか……」
「それに人獣に最終城壁を壊されちゃってから、篝火に屋根付けても意味ないでしょ?」
「うん。それはその通りだ」
「だから、マレビト様も、もっとムチャ言ってね! ボクらムチャ言われた方が燃えるんだから!」
「よし。一旦、汗を拭こう」
「そうだね」
シアユンさんから渡された手拭いで、ゴシゴシ顔を拭く。メイファンとミンユーも汗ばんでたみたいで、顔に手拭いをあててる。
涼しい顔をしてるのは、シアユンさんだけ。あなた、氷の女王の眷属とかですか……?
次のテストに移るために、メイファンに望楼の手すりの前に立ってもらう。
「あの光の中を通る、人獣を弓で狙える?」
「んーっ」
と、メイファンが目を凝らした。シーシも興味津々で見詰めている。
「いけるんじゃないかな? ……だけど、人獣って、どこ狙えばいいの? 急所的な?」
その場にいた全員が、うーんと、考え込んだ。
あの強靭な体躯で暴れまわる人獣の急所……。剣で斬るならともかく、矢で射抜いて倒すなら……。
「眉間……」
と、ミンユーが望楼の外に、強い視線を向けながら呟いた。
そうだな。心臓とか、矢が刺さったくらいじゃ元気に暴れてそうだし。
「分かった、眉間ね? やってみていい?」
俺が頷くと、メイファンは長弓を構えて矢をつがえた。弦を引き絞り、狙いを定める。円形の光の中を、一体の人獣が素早い動きで通り過ぎようとした瞬間、放たれた矢が眉間を貫き、どうと倒れた。
「お見事!」
と、俺が褒めるより早くシーシが手を叩いて喜んだ。
「すごいな、メイファンは」
俺が遅れて褒めると、メイファンは照れ臭そうに目線を下げた。
「そう……?」
「うん、すごい。メイファンのお陰で、今晩、剣士が命懸けで相手にする人獣が一体、減った。この距離で、一発で命中させられるのは、本当にすごいと思う」
へへっと、照れ笑いを浮かべたメイファンが、頬を赤くした。そんなメイファンを、ミンユーがジッと見詰めている。
「もう1回、見せてもらえる?」
「いいけど……」
と、メイファンは躊躇うような素振りを見せた。
すると、ミンユーが俺の方を向いて口を開いた。
「矢がない」
「ん……?」
「私たちは、獲物を射た矢を回収して使う。最終城壁の外までは拾いに行けない。使った分だけ矢が無くなると、私たちは困ってしまう」
「そうか。今の1本も貴重な1本だったのか。すまない」
と、俺が頭を下げるとメイファンは「ううん」と、首を振った。
「シーシ。矢の増産って頼める?」
「いいよ。何本いる?」
「少なくとも10万本」
最初の晩に概算した、剣士が一晩に斬っている人獣の数だ。全部を弓矢で倒す訳じゃないにしろ、ひとつの目安になる数字だ。メイファンとミンユーは目を丸くしてるけど、すまない。それも、現実なんだ……。
「うーん。10万ってなると、スイランと相談かなぁ」
「そうだよな。でも、すぐじゃない。少人数から始めることにしてるから、差し当たっては1,000本あれば、なんとかなるんじゃないかな?」
「分かった。明日までに5,000本用意する」
ツルペタ姉さん、男前が過ぎます。巨乳姉妹の目が点になってますよ。
「ありがとう。でも、色々準備してたら、最初に必要になるのは早くて明後日だと思う。だから、篝火の改良を優先してくれていい」
「分かった!」
分かってないな……、これ。やっちゃう目をしてるよ。倒れられると困るんだけどなぁ。でも、信じて任せよう。
と、円形の光の中でメイファンが倒した人獣に、ほかの人獣が群がってる。あまり見たくなかったけど、共食いだ……。
想像は出来てた。毎晩、剣士が斬る10万の人獣の死体が、どこに行くのか。共食いされてないなら、とっくに積み上がった死体を足場に、最終城壁を乗り越えられてるはず。
獣だかバケモノだか分からないけど、人型をしてるものが共食いしてる画は、見てて気分が悪い。
うん。でも、収穫の多い一日だった。
ツルペタ姉さんが天才過ぎたお蔭で、大きく前に進んだ。
メイファンの長弓も見事だった。
色んな才能を組み合わせて、掛け合わせて、みんなで闘える体制は、きっと整えられるって自信になった。シーシではないけど、ウキウキのワクワクになってる俺もいる。
――あとは。
俺は、北側城壁で果てしない戦闘を続ける剣士たちに、視線を向けた。
――あとは、今晩もしのいでほしい。頑張れ! 必ず、みんなで援けに行くから!
しかし、暑い。シアユンさんを除く全員が汗だくだ。設置場所は考えないといけないなぁ。
望楼に充満する、女子の汗特有の優しい匂いに、少しクラッときた。
と、シーシが顔に滴り落ちる汗を拭いながら、軽い調子で言った。
「剣士団の篝火に屋根を付けるのは、明日中には出来る予定だから」
「え? 明日?」
「うん。明日の晩には間に合わせるよ」
「スゴイな。仕事が速い」
「ニシッ。もっと褒めて」
という、シーシの顔を流れる汗は止まらない。俺の顔にも汗が浮かび始めてる。……篝火って屋内で使うもんじゃないよね。
「司空府の皆さん、ちゃんと休み取れてる?」
「取れてる取れてる! でも、休んでられないんだよね、みんな。楽しくて」
と、シーシはニヤッとして第2城壁の根元を照らす、円形の光に目線を移した。
「楽しんでくれるのは、いいけど……」
「ボクら普段は家を建てたり、宮殿建てたり、水路作ったりしてて、もちろん、それはそれで楽しいんだけど、今回のは剣士団の闘いに、直接役立つものでしょ? そんなの作るの初めてだし、なんなら王国史上でも初めてかもしれない。みんな、ウキウキのワクワクで、ちょっと寝ただけで飛び起きて、すぐ手を動かしてんだから!」
「そうか……」
「それに人獣に最終城壁を壊されちゃってから、篝火に屋根付けても意味ないでしょ?」
「うん。それはその通りだ」
「だから、マレビト様も、もっとムチャ言ってね! ボクらムチャ言われた方が燃えるんだから!」
「よし。一旦、汗を拭こう」
「そうだね」
シアユンさんから渡された手拭いで、ゴシゴシ顔を拭く。メイファンとミンユーも汗ばんでたみたいで、顔に手拭いをあててる。
涼しい顔をしてるのは、シアユンさんだけ。あなた、氷の女王の眷属とかですか……?
次のテストに移るために、メイファンに望楼の手すりの前に立ってもらう。
「あの光の中を通る、人獣を弓で狙える?」
「んーっ」
と、メイファンが目を凝らした。シーシも興味津々で見詰めている。
「いけるんじゃないかな? ……だけど、人獣って、どこ狙えばいいの? 急所的な?」
その場にいた全員が、うーんと、考え込んだ。
あの強靭な体躯で暴れまわる人獣の急所……。剣で斬るならともかく、矢で射抜いて倒すなら……。
「眉間……」
と、ミンユーが望楼の外に、強い視線を向けながら呟いた。
そうだな。心臓とか、矢が刺さったくらいじゃ元気に暴れてそうだし。
「分かった、眉間ね? やってみていい?」
俺が頷くと、メイファンは長弓を構えて矢をつがえた。弦を引き絞り、狙いを定める。円形の光の中を、一体の人獣が素早い動きで通り過ぎようとした瞬間、放たれた矢が眉間を貫き、どうと倒れた。
「お見事!」
と、俺が褒めるより早くシーシが手を叩いて喜んだ。
「すごいな、メイファンは」
俺が遅れて褒めると、メイファンは照れ臭そうに目線を下げた。
「そう……?」
「うん、すごい。メイファンのお陰で、今晩、剣士が命懸けで相手にする人獣が一体、減った。この距離で、一発で命中させられるのは、本当にすごいと思う」
へへっと、照れ笑いを浮かべたメイファンが、頬を赤くした。そんなメイファンを、ミンユーがジッと見詰めている。
「もう1回、見せてもらえる?」
「いいけど……」
と、メイファンは躊躇うような素振りを見せた。
すると、ミンユーが俺の方を向いて口を開いた。
「矢がない」
「ん……?」
「私たちは、獲物を射た矢を回収して使う。最終城壁の外までは拾いに行けない。使った分だけ矢が無くなると、私たちは困ってしまう」
「そうか。今の1本も貴重な1本だったのか。すまない」
と、俺が頭を下げるとメイファンは「ううん」と、首を振った。
「シーシ。矢の増産って頼める?」
「いいよ。何本いる?」
「少なくとも10万本」
最初の晩に概算した、剣士が一晩に斬っている人獣の数だ。全部を弓矢で倒す訳じゃないにしろ、ひとつの目安になる数字だ。メイファンとミンユーは目を丸くしてるけど、すまない。それも、現実なんだ……。
「うーん。10万ってなると、スイランと相談かなぁ」
「そうだよな。でも、すぐじゃない。少人数から始めることにしてるから、差し当たっては1,000本あれば、なんとかなるんじゃないかな?」
「分かった。明日までに5,000本用意する」
ツルペタ姉さん、男前が過ぎます。巨乳姉妹の目が点になってますよ。
「ありがとう。でも、色々準備してたら、最初に必要になるのは早くて明後日だと思う。だから、篝火の改良を優先してくれていい」
「分かった!」
分かってないな……、これ。やっちゃう目をしてるよ。倒れられると困るんだけどなぁ。でも、信じて任せよう。
と、円形の光の中でメイファンが倒した人獣に、ほかの人獣が群がってる。あまり見たくなかったけど、共食いだ……。
想像は出来てた。毎晩、剣士が斬る10万の人獣の死体が、どこに行くのか。共食いされてないなら、とっくに積み上がった死体を足場に、最終城壁を乗り越えられてるはず。
獣だかバケモノだか分からないけど、人型をしてるものが共食いしてる画は、見てて気分が悪い。
うん。でも、収穫の多い一日だった。
ツルペタ姉さんが天才過ぎたお蔭で、大きく前に進んだ。
メイファンの長弓も見事だった。
色んな才能を組み合わせて、掛け合わせて、みんなで闘える体制は、きっと整えられるって自信になった。シーシではないけど、ウキウキのワクワクになってる俺もいる。
――あとは。
俺は、北側城壁で果てしない戦闘を続ける剣士たちに、視線を向けた。
――あとは、今晩もしのいでほしい。頑張れ! 必ず、みんなで援けに行くから!
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