【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

50.天才っスね

俺とシアユンさんが望楼ぼうろうに到着とうちゃくするや、最終城壁上に人獣じんじゅうたちが姿を現あらわし、戦闘が開始された。

今夜も、戦闘は激しい。

望楼ぼうろうには既すでに長弓ながゆみを手にしたメイファンと、付つき添そいでミンユーが来てくれていた。メイファンの笑顔は強張こわばってて、少し緊張しているように見えた。俺とシアユンさんに深々とお辞儀じぎしてくれた。

北側城壁の上では、篝火かがりびに照らされた緑髪みどりがみのイーリンさんが舞まうような美しい剣技で闘っている。反対側の南側城壁に目を移すと、今夜もチンピラの皆みなさんが人獣じんじゅうに向かって投石とうせきしている。

やがて、シーシが何人かの男の人を従したがえて到着とうちゃくした。鍋付きサーチライト型篝火かがりびは分解ぶんかいされて、いくつかのパーツの形で運び込まれていく。

「ごめんごめん。組み立て易やすさにこだわっていじってたら、窓を塞ふさいでたから日没に気が付かなくて」

と、シーシは苦笑いしながら頭をかいた。それだけ集中して作業してくれてたってことだろう。むしろ、ありがたい。

男の人たちは黙々もくもくと、だけど素早すばやく鍋付きサーチライト型篝火かがりびを組み立てていく。

メイファンとミンユーが、シーシに深々とお辞儀した。

「ニシシ。いいよいいよ。ボクは堅苦かたくるしいのは苦手だから」

と、シーシが照れ笑いしながら２人に手を振ふって見せた。

そうか。シーシは司空府しくうふのお役人で、メイファンとミンユーは平民へいみんってことか。風呂場では女子が皆みんなでキャッキャしてるから気が付かなかった。

城でトップ４に入る村長むらおさの娘とはいえ、お役人様とは身分が違うってことか。メイファンもミンユーも、恐縮きょうしゅくした態度たいどを崩くずさない。

昼間に木陰こかげで車座くるまざになって話してたとき、侍女のツイファさんにそこまでの態度はとってなかったんだけど……。

あ。ツルペタ姉さんシーシ。かなり、偉えらいのか。

そうだよな。司空しくうのミンリンさんが、あれだけ信頼してるんだから、それなりのポジションに就ついてておかしくない。篝火かがりびを組み立ててる男の人たちも部下っぽいし。……ちょっと、気を付けよう。

とか思ってると、シーシが人差ひとさし指ゆびで自分とメイファンとミンユーを、代かわる代がわる指差ゆびさしながら笑った。

「ニシシ。純潔じゅんけつの乙女おとめ同士としては対等対等。仲間、仲間！ 男を知らない仲間！」

ピクッと、組み立ててる男の人たちの手が止まった。

――お、男を知らない、って、そんな、女子が自ら口にする言葉では……。

チビっ子でツルペタなシーシが、急に女に見えて、思考が止まる。男の人たちも無表情だけど、なにか頭に浮かんでますよね？ 絶対、なにか浮かんでますよね？

こういう無防備な不意打ちに、男性は戸惑ってしまうものなんスすよ、ツルペタ姉さん……。

メイファンはシーシと打うち解とけたように笑い合ってる。見るとシアユンさんが顔を真まっ赤かにしてる。……自分も、ですもんね。

ミンユーは肩をプルプル震わせて、顔を背そむけてる。あー、なにか分からないけどツボに入るとき、ありますよね。

篝火かがりびを組み立てる手は、すぐに動き出して、あっと言う間に組み上がった。まるで工兵こうへいのような手際てぎわの良さ。

……持ち運びしやすいのは、きっと、役に立つ。

シーシは男の人たちに、一旦いったん、帰って休むように伝え、分厚ぶあつそうな革かわの手袋てぶくろをつけた。

「首を振ふれるようにしてみたんだけど、まだ、取とっ手てが熱くなり過ぎるのが解決してなくて」

と、シーシが鍋付きサーチライト型篝火かがりびから伸びてる棒を握って、首を動かした。

――な、鍋なべの部分だけが動く、だと？

篝火かがりびで薪まきを燃もやす鉄籠てつかごの部分は動かず、それを覆おおう、鍋を組み合わせた歪いびつな球体きゅうたい部分だけが、グルングルン動く。

角度に制約せいやくはあるだろうけど、これなら薪まきと炎の状態を気にせず、光の方向だけを制御せいぎょできる。

――マジすか。ツルペタ姉ねえさん、天才っスね。

「それじゃ、点火てんかしていい？」

俺は期待しかない目をして、力強く頷うなずいた。

視線を第２城壁の方に向ける。自分の思い付きが形になる。その時を待った。

……あれ？ 点かない？

不具合ふぐあいかな？ 試作しさくだもんなと思って、シーシを見ると手袋を取ろうと引っ張ってる。

「手袋が邪魔じゃまで、ランタンの火が取れなかった……」

分厚い革の手袋はゴワゴワらしく、なかなか抜けない。メイファンとミンユーがシーシの身体からだを押さえ、俺が手袋を引っ張って、ようやく抜けた。

「ついさっきまでテストしてたから、手袋が汗を吸ってたみたい。ニシシ」

と、照れ笑いしたシーシが、ランタンから火を取り出して、篝火かがりびの薪まきに点火てんかする。

これ、俺が点つければ良かったんじゃと思わなくもないけど、やっぱり製作者せいさくしゃ自身じしんに起動きどうしてもらうのがいいよな、こういうのは。

薪まきが燃え上がり、火勢かせいが強くなると――。

「見えた！ 第２城壁が見えてる！」

手袋をつけ直したシーシが、ゆっくりと篝火かがりびの首を下げると、第２城壁の根元ねもとが照らされた。ボンヤリとした円形の光の中を、チラホラと人獣じんじゅうが通り過ぎて行くのも分かる。

北側城壁に目を落すと、剣士の皆さんに動揺どうようは見られない。テストが闘いの邪魔じゃまになってる様子はない。良かった。

「ニシシ。どう？ どう？ よく出来てるでしょ？」

メイファンはシーシを熱い視線で見詰みつめて、何度も何度も首を上下に振ふっている。ミンユーは驚おどろいた表情のまま、円型の光から目が離せない様子だ。シアユンさんも目を見開いて、照らし出された第２城壁を見詰めている。

初めて目にするテクノロジー体験、と言っていいんだと思う。

「素晴らしいです！ シーシに頼たのんで良かった！」

という、俺の言葉に、シーシは満面まんめんの笑みを浮かべる。

俺の思い付きを、ひとつ形にしてくれた。次は――。