キャロットケーキの季節に

秋乃みかづき

文字の大きさ
32 / 47

(32)一枚の写真

しおりを挟む
 「これは捨てる。こっちはキープ。」

たくさんの服飾品や家具を、どんどん振り分けていく僕達

「大物は大体済んだから、今度はこっちをやるか…。」

礼央さんが指さしたのは、アルバムや本の棚

手前の一冊を取り出すと

「ほら、これがばあちゃんだよ。」

家族旅行の写真だった

「ほんとだ~!
エレガントで、なんだか外国のおばあさんみたい。
それとこの両端にいるのが、礼央さんのお父さんとお母さんですよね?
やっぱりご両親も美形だなぁ…。」

僕が夢中で眺めていると

「はい、終わり。
やるよー。」

アルバムを取り上げられた 笑

写真は礼央さんが残しておきたいものをピックアップして、残りは思い切って処分

全ての確認が終わった

かと思いきや

「う~ん…おかしいな。」

首をかしげながら、礼央さんは再びページをめくり始めた

「確認終わったんじゃないんですか?
もう一回選別します?」

僕が聞く

「いや、あの。
あるはずの写真が見当たらないんだよ。
ばあちゃんが亡くなる数ヶ月に、2人で撮った写真があって。
ばあちゃんはそれ気に入ってくれて、ずっと部屋に飾ってあったんだけど。
写真立てが無いから、もしかしてアルバムに入れたのかと思って…。
なんで無いんだろ。
俺は捨ててないし、ばあちゃんもずっと持ってたはずなのに。」

「本当にちゃんと見ました?」

「見た見た。
2回確認したけど無い。
どこかに入り込んでるのかな?
仕方ないから、一旦諦めて次いこう。
次は本と写真集だ。」

こちらもすごい量

イギリス庭園の歴史、英国で暮らそう、ヨーロッパの貴婦人…

「へえ~。
これ全部イギリスに関する本ですね。
おばあさん、ほんとに好きだったんですね。」

✂️Leo's garden 
(レオ ズ ガーデン)
が、いかにおばあさんの影響を受けて作られたか

それがよく分かった

このお店は、礼央さんからおあばあさんへのラブレターなんだな…



 棚からどんどん取り出していくと

「あ、それ。」

礼央さんは突然作業する手を止めた

ものすごく分厚い写真集

「これですか?」

手渡すと

「そう。
これさ~…。」

懐かしそうな、ふにゃっとした表情に変わる

「これ、ばあちゃんの1番のお気に入りでさ。
俺が小学生の時、よく膝に乗せてもらって一緒に見たんだ。
ヨーロッパの植物や建築物がたっくさん載ってて。
あとはこの店のコンセプトである、イングリッシュガーデンも。
俺が、この本ちょうだいって言っても、気入ってるからダメーって。
結局死ぬまでくれなかった 笑。」

懐かしい~
と、はしゃぎながらパラパラ見ていく礼央さん

パラ…パラ…パ

その時
本の中心に、1枚の写真が挟んであるのが見えた

「…あ!
こんな所に。
これだよ、さっき探してた写真。
でもなぜここに?」

抜いた写真には、桜の木の下にいるおばあさんと、そこに寄り添う礼央さんの姿

「ほんとだ。
礼央さんの言うとおり、これはおばあさんが大事にしてたの分かる。
すごく良い写真ですね。」

すると、僕はあることに気がついた

写真の裏面に何か文字が見えたのだ

「あ、ねえ礼央さん。
これ裏面に何か書いてあるかも…。」

ひっくり返してみると



「自分らしく 生きなさい」



年配の人が書いたような、少し震えたような文字

おばあさんが書いたってことかな…?

「礼央さん、これどういう意味…」

横をみると、礼央さんの頬には一粒の涙が流れていた

え…?

呆然としながら口元を抑え、その後も涙が溢れる

「れ、礼央さん…?」

僕がどうして良いのか分からずにいると、
礼央さんは嗚咽に近いような声を漏らして、その場にしゃがみ込んだ

今はどんな言葉をかけてもダメだ

落ち着いて礼央さんから話してくれるまで、ただ隣にいること

今やるべき事はそれなんだと直感して、僕は腰を下ろした



 どれくらいの時間が経っただろう

膝を抱えて顔を埋める礼央さんは、少しずつ呼吸が落ち着いてきたように見えた

すると

「歩夢。」

礼央さんが口を開いた

「礼央さん…!
落ち着きました?
話せるようになって、良かった…。」

やっと顔を上げ、僕の顔を見てくれた

そして鼻をすすりながら

「取り乱してごめん。
動揺して、頭真っ白になっちゃった。」

「いや、僕は大丈夫ですよ。
僕も母親を亡くしてるんで、思い出の物を目にした時の気持ちはよく分かります。
やっぱり何年経っても、辛いものは辛いですよね…。」

ふーっと息を吐き出す

「横にいてくれてありがとう。
歩夢が一緒だったから、落ち着くことができた。」

そう言うと、僕の手を握った

僕はその手をぎゅっと握り返す

大丈夫だよ
と念を送るように

「…歩夢。
さっきの、写真の言葉だけど。」

礼央さん、説明しようとしてくれてる…

「あの、言わなくて良いです。
誰にだって、胸にしまっておきたい事ってありますから。
僕も聞かないですし、気にしないで下さい。」

「違う。
聞いて欲しいんだ。
それに、ずっと言ったほうがいい、言わなきゃって思ってた。
話、長くなるかもしれないけど…。
聞いてくれる?」

苦しみや困惑の表情は消え去って、いつもの優しい笑顔に戻っていた

僕に聞いて欲しいんだ

それが伝わったので、僕は一言

「うん。」

と頷いた






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

泣き虫少年とおこりんぼう君

春密まつり
BL
「オレ、お前のことキライ……に、なりたい」 陸上部で活躍する陸と、放送部からグラウンドを眺める真広は、小さい頃から一緒にいる。 いつからか真広は陸に対して幼馴染以上の感情を抱くようになっていた。 叶うはずのない恋を諦めなければいけないというのに傍には居たいので突き放すことができないままだ。 今日も放課後の放送室で二人話をしていたが、女の子が真広に会いに訪れて不穏な空気になってしまう。 諦めたくても諦められない、意地っ張りの恋の行方は――。 ▼過去に発行した同人誌の増補版です。  全17話を11月末までにはすべてUP予定です。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

漫画みたいな恋がしたい!

mahiro
BL
僕の名前は杉本葵。少女漫画が大好きでクラスの女の子たちと一緒にその話をしたり、可愛い小物やメイク、洋服の話をするのが大好きな男の子だよ。 そんな僕の夢は少女漫画の主人公みたいな素敵な恋をすること! そんな僕が高校の入学式を迎えたときに漫画に出てくるような男の子が登場して…。

不器用に惹かれる

タッター
BL
月影暖季は人見知りだ。そのせいで高校に入って二年続けて友達作りに失敗した。 といってもまだ二年生になって一ヶ月しか経っていないが、悲観が止まらない。 それは一年まともに誰とも喋らなかったせいで人見知りが悪化したから。また、一年の時に起こったある出来事がダメ押しとなって見事にこじらせたから。 怖い。それでも友達が欲しい……。 どうするどうすると焦っていれば、なぜか苦手な男が声をかけてくるようになった。 文武両道にいつも微笑みを浮かべていて、物腰も声色も優しい見た目も爽やかイケメンな王子様みたいな男、夜宮。クラスは別だ。 一年生の頃、同じクラスだった時にはほとんど喋らず、あの日以降は一言も喋ったことがなかったのにどうして急に二年になってお昼を誘ってくるようになったのか。 それだけじゃない。月影君月影君と月影攻撃が止まない。 にこにことした笑顔になんとか愛想笑いを返し続けるも、どこか夜宮の様子がおかしいことに気づいていく。 そうして夜宮を知れば知るほどーー

【完結】君とカラフル〜推しとクラスメイトになったと思ったらスキンシップ過多でドキドキします〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートなど、本当にありがとうございます! ひとつひとつが心から嬉しいです( ; ; ) ✩友人たちからドライと言われる攻め(でも受けにはべったり) × 顔がコンプレックスで前髪で隠す受け✩ スカウトをきっかけに、KEYという芸名でモデルをしている高校生の望月希色。華やかな仕事だが実は顔がコンプレックス。学校では前髪で顔を隠し、仕事のこともバレることなく過ごしている。 そんな希色の癒しはコーヒーショップに行くこと。そこで働く男性店員に憧れを抱き、密かに推している。 高二になった春。新しい教室に行くと、隣の席になんと推し店員がやってきた。客だとは明かせないまま彼と友達になり――

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

握るのはおにぎりだけじゃない

箱月 透
BL
完結済みです。 芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。 彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。 少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。 もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。

処理中です...