キャロットケーキの季節に

秋乃みかづき

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(31)ばあちゃんの

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 「来週の日曜、店休みにするんだけど。
もし予定空いてたら、ちょっとこっちの手伝いに来てもらう事できる?
お礼するから。」

礼央さんからメール

「彼女から?」

ビールを飲みながら聞いてきたのは、東山

「まぁ、そうかな。
うん。」

今日は年末のミュージカルチケットのお礼に、東山と飲み屋へ来ていた

「この前のミュージカル、ほんっとに良かったよ。
遅くなっちゃったけど、ありがとう。
ほら、もっと注文して。」

そう言うと東山が

「いや~もう流石にお腹いっぱい。
こちらこそ、たらふく食べさせてくれてありがとな!
満足満足。」

お腹をポンポン叩く

「あのさ、小井川。
ついでにもう一個お願いがあるんだけど。」

「うん?何?」

「この前の全体集会で、社長が言ってたプロジェクトあるじゃん。」

「あー。
なんか、コンテスト形式に案を募って、優秀者にそのプロジェクト任せるってやつ?」

「ほう、ほう。」

熱々のライスコロッケを頬張りながら頷く東山

「あれさ、俺とお前で挑戦してみない?」

「え?
だってあれ、僕達の専門分野じゃないよね。
それに締め切りって確か4月?
あと2ヶ月しかないじゃん…。」

「あのさ、そんな弱気でどうすんの!
いいじゃん。
社長だって、専門に関わらずどんどん挑戦して欲しいって言ってたし。
俺達もあと数年で30だし、ここらでちょっと何か成果出しとかないと。
小井川はエリート部署だからそこまで考えてないかもしれないけど。
でもさ、久しぶりに何かに燃えたくない?
なんとなく仕事して、帰る。
この繰り返し、俺はそろそろ飽きた。」

まぁ、確かにいいことかも

さっちゃんも就活に打ち込んでるし、礼央さんも自分の店を持って…

みんな頑張ってるもんなぁ

「よし。
その話、乗った。」

「え、ほんとに?!
やったー!!
小井川の頭脳と、俺の体力があれば絶対にできる!
んじゃ、今日からはただの同期じゃなくてチームメイトな。
なんか興奮したらやっぱりお腹空いてきた。
唐揚げ、追加で頼んでもいい?」

「笑。
もちろんいいよ。
僕も食べたい 笑。」

よーし
明日から、新たな目標に向かって頑張らないと



「じゃあまた明日~。」

「おう、ご馳走様でした!」

プロジェクトの戦略を話し合いつつ、食事も終わったので東山と解散する

えっとさっきの礼央さんのメール…

酔ってて返信を打つのがしんどい

まだそんなに遅くないから、電話しちゃえ

人の邪魔にならないよう、道の端っこでスマホを取り出す

「…あ、もしもし?
礼央さんすみません、返事、メールじゃなくて電話にしちゃいました。」

「お疲れさま。
電話でも全然大丈夫。
こっちこそ、突然意味の分からないメールしてごめん 笑。」

「日曜に手伝いって、何の…?」

「店なんだけど。
ここ、もとは俺のばあちゃん家って言ったじゃん?
で、ばあちゃんの遺品がまだ奥の部屋にたくさんあってさ。
亡くなってからしばらくは、辛くていじれなかったんだけど。
でもそろそろ片付けようと思って。
捨てるもの、残すもの。
ちょっと歩夢に一緒に見てもらえたらなーって。
すごい個人的なお願いになっちゃうんだけど、どうかな。
来てくれる?」

「そういう事だったんですね。
喜んで行きます。」

「ほんと?
ありがとう。
俺は店に9時頃には居るから、歩夢は都合の良い時いつでも来て。
せっかくの休みに悪いな。」

おばあさんの遺品かぁ
そんな大切なもの、僕に一緒に見て欲しいなんて
なんか、感動する

「いえいえ。
分かりました。
じゃ、日曜に伺います。
おやすなさい。」

電話を切り、フラフラした足取りで家へと向かった





 日曜日

「おはようございます。
来ましたー。」

店内に入ると、誰もいない

あれ?
9時には来てるって…

すると店の奥から、マスクを付けた礼央さんが

「ありがとう!
ちょっと早起きして、埃っぽい所を先に掃除してた。
ごめん、マスク外して手洗ってくるわ。
少し待ってて。」

結構手が汚れてる
辛くていじれなかったって言ってたから、しばらくそのままにしてたんだな…
うちも母親の時にそうだった
クローゼットやドレッサー、亡くなった後も何年も動かせなかったんだよね…

「お待たせ。
じゃあさ、奥の倉庫代わりの部屋なんだけど、早速見てくれる?」

「あ、はい。」

礼央さんの後について奥へ向かう

ここは入ったことないな
おばあさんの遺品が置いてある部屋だったんだ

「お邪魔しまーす。」

足を踏み入れると…

「!
えー何これ!
おばあちゃんの遺品っていうから、座布団とか着物とか、そういうのかと思ってたら。
すごい洋風ですね。
素敵なものがいっぱい。」

「笑。
そうそう。
あとで写真見せるけど、うちのばあちゃん、イギリスの貴婦人に憧れてて。
インテリアや洋服、アクセサリーなんかも、全部洋風だったの。」

そう言いながら、壁にかかった大きな帽子を取り

「ほら、これとか。
いかにもイギリス庭園でかぶってそうな帽子でしょ?笑」

つばが大きく、紫の花があしらってある

そしてその後ろにも、まだまだ帽子がいっぱい

「えぇぇ。
すごい…。
黒のストライプでしょ、緑のレース、ピンクのリボン…。
ものすごい数ですね。
ていうか、どれもこれも素敵すぎて、捨てるのがもったいない。」

「そうなるでしょ?
ばあちゃん思い出して辛いっていうのもあったんだけど、これいいな~って思う物が多すぎて。
なかなか処分に踏み切れなくてさ。
だから、歩夢に手伝ってほしかったの 笑。」

「なるほど…。
ていうか、この
✂️Leo's garden 
(レオ ズ ガーデン)
がイギリス風なのって、もしかしておばあちゃんの影響だったんですか?」

「そう。
影響っていうか、ばあちゃんの存在を残したくて…って感じかな。
店内に飾ってある絵や小物は、実は全部ばあちゃんの。
店の庭がイングリッシュガーデン風なのも、そういう事。
でもそのうちに、俺自身がこういうテイストにどんどんハマっていって。
今では自分が好きだからやってるって感じ。」

へぇ~

そうだったんだ

男の人で、こういうデザインのお店って洒落てるなぁって思っていたけど

おばあさんの影響かぁ

「でも、これ天国のおばあさん喜んでますね。
大好きなイギリスをイメージしたお店を、孫が作って。
しかもおばあさんの家をリノベーションしてできた店だし。
礼央さんて、おばあちゃん子だったんですか?」

「うん。
ばあちゃん子っていう軽いものじゃなくて、ばあちゃんだけが俺を理解してくれた。
今の俺があるのは、ばあちゃんの愛情があったから。
そういう人。」

あ…
礼央さん、ちょっと目が潤んでいた気がする
本当に本当に
大切な家族だったんだな…

「さーて!
雑談は終わり。
すごい数だから、始めないと。
まずは絵からいこう。
12点あるから、俺の家に飾るのに、1点か2点だけ選んで。
あとは思い切って処分!」

悲しみを悟られないようにするためか、大きな声を出して背中を向けた礼央さん

大丈夫かな…


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