キャロットケーキの季節に

秋乃みかづき

文字の大きさ
38 / 47

(38)土曜日

しおりを挟む
 「お疲れさまー。体、大丈夫?」

そう心配して電話をくれたのは礼央さん

このところ、東山と毎日残業しているので、全く会えていない

「礼央さんの声聞いたら、元気出てきました。
でも正直かなりしんどくて、頭パンクしそうです…。」

シャワーを終えて、部屋着に着替えながら話す

「笑。
そっかそっか。
俺も自分の店立ち上げる直前は、あれもこれもーってヤバかった。
内容は違うけど、その気持ちはすごい分かる。
睡眠はちゃんと取れてるの?」

「まぁ…。
今もそうですけど、だいたい11時過ぎに帰ってきて。
そこから簡単にご飯食べて、シャワー浴びて。
ベッドに入るのは12時近いですね。」

「で、起きるのは5時とかでしょ?」

「そうですね。
でも5時間寝てればなんとか。
それより、この土日も会えなくてすみません…。
もう休日もやらないと間に合わなくて。」

「いいよ、大丈夫。
応援してるから、頑張れ。
俺もそろそろ旅行の準備もあるし。
あ、そういえば。
先日、香利奈さんから電話あったよ。
式の日のヘアセット、予約入れておいた。」

「かり姉(かりねえ)、電話したんですね。
ありがとうございます。
僕も、食事会の時に付き合ってる人を紹介するって言いました。
もちろん礼央さんとは明かしていないですけど…
とにかく、当日は姉をお願いします。」

「うん。
こちらこそ、宜しく。
じゃあ歩夢そろそろ寝ないと。
俺も寝る。
おやすみ~。」

「おやすみなさい。」

部屋の電気を消して、疲れ切った体をベッドに沈めた

あーもうだめ
意識が遠のく…





 目覚ましの音で朝を迎えた

予定通り、8時起床

今日は土曜日なので会社は休み

こんなにゆっくり寝れたの、久しぶりだな

ケトルのお湯を沸かしつつ、顔を洗って

東山にメール

このあとは10時にコーヒーショップで東山と落ち合い、簡単に朝ごはんを食べたら会社へ

会議室に閉じこもって夕方まで頑張る予定

支度を終えると僕は電車に乗った



 「美味しい~。」

僕と東山の前には、コーヒーとベーグル

窓側の席で、道ゆく人を眺めながら朝ごはん

「飲み屋とかじゃなく、小井川と休日に会うのって初めてだよな。」

「言われてみればそうだね。
なんか変な感じ。
新鮮っていうか。」

東山はベーグルを頬張る僕をじっと見て

「お前って、ベーグルが似合うな。」

ボソっと一言

「ちょ 笑。
何それ。
意味分からないし、朝から笑わせないでよ。」

「やーあのー。
いつも言ってるけど、その可愛い顔にベーグルが合ってるっていうか。
ほら、俺なんかはどんぶり飯って感じだろ?」

もうだめ

笑いが止まらない

東山のこういうところ、好き 笑

「たまには外でご飯食べるのも、気晴らしになるね。
このあとすごい頑張れそう。」

「だな。」

僕達は会話を弾ませて、なんやかんや1時間も滞在していた



 会社に着くと、会議室に入る前に給湯室へ

お茶を入れてから取り掛かろう

マグカップを手にお湯を沸かしていると

「あれっ。
小井川君?」

大河内先輩が現れた

「先輩?
今日は土曜日なのにどうして…?
この前の件、まだ解決してないんですか?」

「ううん。
あれはとっくに終わったんだけど。
今月は有休を多く取っちゃって、休日にやらないと間に合わないの。
そっちも?」

「はい。
もう追い込みですね。
やるからには完璧に仕上げたいので。
って、この前はアドバイスありがとうございました。
先輩のおかげで方向性が見えて、どんどん進んでます。」

「それは良かった~。
今日もさ、また少し見に行っても良い?
若者2人が頑張ってると思うと、気になっちゃって 笑。」

「ご迷惑でなかったら、こちらはありがたいです。
この前と同じ第二会議室にいるので。
ぜひ遊びにきて下さい 笑。」

その時、東山も給湯室に入ってきた

「あ、この前の。
えっと…大河内先輩!
コーヒーとチョコバー、美味しかったです。
遅くなりましたが、ごちそうさまでした。」

「笑。
いえいえ。
元気いっぱい東山君 笑。
今日も頑張ってね。
じゃ、またね。」

先輩は部屋を出て行った

「あの大河内さんて人、どうしたの?
俺たちと同じで、仕事が溜まってんの?」

「うん、そんな感じみたい。
有休たくさん取ったから、それ取り戻すって。」

「ふ~ん。
大変だな。」

「僕達もね。
さ、やらないと。
お茶入れて会議室に戻るよ。」

東山を引っ張って、給湯室を出た



 お昼ご飯のコンビニおにぎりをかじりながら、書類と睨めっこ

「まだ2時か~。
時間経つの遅せ~。」

東山がそろそろ飽きてきた

「時間経つの遅いって、ここに来たの12時近いんだから。
まだ2時間ちょっとだよ?」

「うーん…。
どうも集中力が…。」

パソコンを打つ手が止まる

「でもさ、飽きたっていうか、また少し分からなくなってきちゃったね。
ここ、大河内さんに聞いてみる?」

「そだなー。
この前も教えてもらったら突破口が見えたしな。」

「じゃあ行ってみようか。
様子見て、忙しそうじゃなかったら声かけてみよう。」

通路に出て、大河内先輩の部署へと向かった

「あ、いた。
他の人は誰もいないみたい。」

僕が言うとその声に反応して、先輩がこっちを向いた

「あー!
今ね、そっち行こうと思ってたの。
なんかずっと1人でいたらストレス溜まってきちゃって。
見てほしいところでもあった?」

俺と東山は部屋に入って資料を渡す

「そうなんです。
お忙しいところすみません。
ここが分からなくなっちゃって…。」

「ほうほうほう。」

サッと目を通すと、デスクの引き出しから、クリップでまとまった膨大な書類を取り出しす

「これ、貸してあげる。」

「え?
なんですかこれは…。」

「これねー、私がここ2年で自分でまとめた資料。」

すると横から東山が顔を覗かせて

「えぇぇ!
これ、元からあるやつじゃなくて、自分で作ったんですか?!」

「笑。
そんなに驚かなくても。
そうだよー。
こういう業界は日々変わっていくから。
自分でアンテナ張ってないと置いていかれる。
今渡したものは、あなた達が書いてる分野だから。
参考になるはず。
読むのに少し時間はかかると思うけど。
でも読み終わったら、その後は自分たちの資料、スラスラ作れると思うよ。」

「でも…。
大河内先輩が2年もかけて作ったもの、僕達が簡単に使えません 汗。
お気持ちはありがたいですけど…。」

その時、東山が閃いた

「あのさ、思いついた!
これ、俺と小井川だけじゃなくて、大河内さんの名前も入れて。
3人の発表にすればいいんじゃね?」

「あ、それ良いー!
ていうか、そうするべきだよね。
東山、ナイスアイディア。
先輩、どうですか?
それだと僕達も助かるんですけど。」

「え、う~ん…。
でも私、こうしてアドバイスするくらいで、夜一緒に残ってとかはできないよ?
なんか逆に申し訳ない。」

「違いますよ!
大河内先輩の知識があるからこそ、できることなんです。
そもそもこの前のアドバイスがなかったら、僕達あの時点で終わってました 笑。
なのでお願いします!」

僕の横で、東山もうんうんと大きく頷く

「…。
それでも良いなら、じゃあ 笑。
今日から宜しくね。」

やったー!

僕と東山は思わずハイタッチ

大河内さんがメンバーに入ってくれるなんて、すごく心強い

やる気出てきたぞ

「じゃ、今日はとりあえずこの資料いただいていきます。
ありがとうございました。」

頭を下げて、部屋を出た

会議室に戻ると東山が

「小井川ー。
大河内さんて、優しいだけじゃなくてすげーかっけぇな!
業務とは別に自分でこんな資料まで作って。
なかなかできねぇよ。
なんか一気に大河内さんのファンになったわ。」

大河内先輩の話をする東山、目がキラッキラしてる 笑


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

漫画みたいな恋がしたい!

mahiro
BL
僕の名前は杉本葵。少女漫画が大好きでクラスの女の子たちと一緒にその話をしたり、可愛い小物やメイク、洋服の話をするのが大好きな男の子だよ。 そんな僕の夢は少女漫画の主人公みたいな素敵な恋をすること! そんな僕が高校の入学式を迎えたときに漫画に出てくるような男の子が登場して…。

泣き虫少年とおこりんぼう君

春密まつり
BL
「オレ、お前のことキライ……に、なりたい」 陸上部で活躍する陸と、放送部からグラウンドを眺める真広は、小さい頃から一緒にいる。 いつからか真広は陸に対して幼馴染以上の感情を抱くようになっていた。 叶うはずのない恋を諦めなければいけないというのに傍には居たいので突き放すことができないままだ。 今日も放課後の放送室で二人話をしていたが、女の子が真広に会いに訪れて不穏な空気になってしまう。 諦めたくても諦められない、意地っ張りの恋の行方は――。 ▼過去に発行した同人誌の増補版です。  全17話を11月末までにはすべてUP予定です。

不器用に惹かれる

タッター
BL
月影暖季は人見知りだ。そのせいで高校に入って二年続けて友達作りに失敗した。 といってもまだ二年生になって一ヶ月しか経っていないが、悲観が止まらない。 それは一年まともに誰とも喋らなかったせいで人見知りが悪化したから。また、一年の時に起こったある出来事がダメ押しとなって見事にこじらせたから。 怖い。それでも友達が欲しい……。 どうするどうすると焦っていれば、なぜか苦手な男が声をかけてくるようになった。 文武両道にいつも微笑みを浮かべていて、物腰も声色も優しい見た目も爽やかイケメンな王子様みたいな男、夜宮。クラスは別だ。 一年生の頃、同じクラスだった時にはほとんど喋らず、あの日以降は一言も喋ったことがなかったのにどうして急に二年になってお昼を誘ってくるようになったのか。 それだけじゃない。月影君月影君と月影攻撃が止まない。 にこにことした笑顔になんとか愛想笑いを返し続けるも、どこか夜宮の様子がおかしいことに気づいていく。 そうして夜宮を知れば知るほどーー

【完結】君とカラフル〜推しとクラスメイトになったと思ったらスキンシップ過多でドキドキします〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートなど、本当にありがとうございます! ひとつひとつが心から嬉しいです( ; ; ) ✩友人たちからドライと言われる攻め(でも受けにはべったり) × 顔がコンプレックスで前髪で隠す受け✩ スカウトをきっかけに、KEYという芸名でモデルをしている高校生の望月希色。華やかな仕事だが実は顔がコンプレックス。学校では前髪で顔を隠し、仕事のこともバレることなく過ごしている。 そんな希色の癒しはコーヒーショップに行くこと。そこで働く男性店員に憧れを抱き、密かに推している。 高二になった春。新しい教室に行くと、隣の席になんと推し店員がやってきた。客だとは明かせないまま彼と友達になり――

オレに触らないでくれ

mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。 見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。 宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。 高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。 『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

きっと世界は美しい

木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちがはじめての恋に四苦八苦する話です。 ** 本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。 それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。 大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

処理中です...