キャロットケーキの季節に

秋乃みかづき

文字の大きさ
39 / 47

(39)心遣い

しおりを挟む
 東山と別れて電車に乗ると、礼央さんからメールが入っていた

「昨日電話で話したばっかりなのに、メールしてごめん 笑
何時まで仕事?」

返信を打つ

「今ちょうど終わって、電車に乗った所です。」

するとすぐに返信が来て

「良かった!
渡したいものがあるから、歩夢のマンションの前で待ってる。」

え?
礼央さんこっちに来てるんだ
渡したいものってなんだろう…

電車を降りて、駅を出る

急ぎ足でマンションへ向かうと、すでに礼央さんは待っていた

「礼央さん!」

ちょっと遠くから手を振る

すると礼央さんは、紙袋を掲げて、これこれって合図

なんだか分からないな…?

走っていくと

「お疲れ~!
急に来てごめん。
でも、これ渡したらすぐ帰るから。」



紙袋を受け取ると、中にはお弁当と栄養ドリンクが

「えー!
これ届けにわざわざ来てくれたんですか?」

「うん。
電話の感じだと、栄養取れてるのか心配になって 笑。
居ても立っても居られなくて、ここまで来ちゃった。
ちなみにこの弁当は、いつもの洋食屋の。
普段は弁当ってやってないんだけど、知り合いに限って頼めば作ってくれるんだよ。
ステーキ弁当にしたから、絶対美味いぞ。」

「…。
もう、嬉しすぎます。
洋食屋に行って、それからここまでって。
半日潰れちゃったんじゃないですか?」

「笑。
大丈夫。
今日は俺の店、最後のお客さんが14時だったんだ。
早く閉められたから、時間に余裕があって。
それに何より歩夢の顔が見たかったし。」

「礼央さん…。」

気持ちが嬉しくて、泣きそう

「あ、ちなみに。
そろそろ仕事終わるかなーって思って勘でこっちに向かってたら、ほんとに歩夢が帰ってきて。
すごい偶然なんだけど、俺ほんと全然待ってないから。
それは気にしないで。」

「そうなんですか?
なら、良ですけど…。
最近ずっと冷凍食品で済ませてたし、久しぶりに礼央さんに会えたしで、もう今は感動の嵐です。
はぁーほんと…。
嬉しい。」

そう言うと礼央さんは、僕の背中をさすって

「仕事大変だと思うけど、美味しいものちゃんと食べて、睡眠もなるべく取って。
体壊さないように。」

こういうの、本当心に沁みる…

「ね、礼央さん、上がってコーヒーでも飲んでいって下さい。」

でも礼央さんは

「いやいや。
最初に言ったけど、歩夢がこれ受け取ったら帰るつもりだったから。
早く家入って、ご飯食べて。
そして寝て?」

「でも…。」

「でもじゃない。
早く休まないとダメだよ。
ちょっとでも会えて嬉しかった。
ありがとな。
それと洋食屋に行ったら、足立さんが歩夢によろしく伝えてって言ってた。
じゃ、そういうことだからもう行くわ。
おやすみー。」

礼央さんは帰って行った

その背中を見て、僕は胸がキュッとなった



 僕と東山と大河内先輩と

3人でチームを組んでからは、これまでが嘘のように順調に作業が進んだ

基本的には大河内先輩がアイディアを出してくれたり、情報を教えてくれたり

そしてそれを僕と東山が話し合って、自分達の意見も織り交ぜながらまとめるという感じ

これなら勝負できそう

手応えを感じながら進める作業は楽しかった

「今日は仕事が早く終わったから、たまには一緒に作業して良い?」

夜7時
会議室にやってきた大河内先輩

「あ、お疲れ様です。
もちろんです、ぜひ一緒にやりましょう。」

僕が言うと東山も

「やりましょ!
3人一緒にいたら、新たなアイディアが出てきそう♩」

こうしてこの日は先輩も一緒に作業することに



盛り上がって議論していると、誰かのスマホが鳴った

大河内先輩の電話だ

「あ、ごめん。
家からだからちょっと外で話してくるね。
すぐ戻るから、そのまま続けててくれる?」

「はい、ゆっくり話してきて下さい。」

先輩はスマホを持って出て行った

すると数分で戻ってきて…

「あのさ、ごめん。
息子が熱出しちゃったみたくて。
中途半端で申し訳ないんだけど、今日はもう帰っていい?」

「息子さん具合悪いんですか?
もちろんです。
こっちのことは気にしないで、早く帰ってあげて下さい。」

僕が言うと、先輩はバッグを持って慌ただしく出ていった

すると呆然とした東山が

「大河内さんてさ…。」

「うん?」

「子供いたんだ。」

「あ、うん。
確か5、6歳の息子さん。
幼稚園行ってるって言ってたから。」

「ほー…。」

肩をガクッと落とす東山

「ね、東山どうしたの?」

「旦那は。」

「え?」

「大河内さんの旦那って、うちの会社の人?」

あー…もしかしてとは思ってたけど

そういう事か

「旦那さんは、大学時代に付き合ってた人みたいだよ。
職場結婚じゃないから、僕達の知らない人だね。」

ボールペンを出したり引っ込めたり

焦点の合わない目でカチャカチャ鳴らしながら

「…そうなんだ。」

消えそうな声で一言

東山、大河内先輩のこと気になってるんだ

そしたらこれも教えてあげたほうがいいよね

「旦那っていうか、元 旦那だけどね。」

カチャっ

ボールペンを押す手が止まって

「え、じゃあ今は1人ってこと?」

「うん。
再婚はしてないから、そういうこと。
シングルマザーで、息子さんが1人。
ただ自分のお母さんも一緒に住んでるみたいだから、仕事の時はお母さんにお願いしてるみたい。
今の電話もきっとお母さんからだと思う。」

「こんなハードな業界に勤めながら、息子さん1人で育てるのか。
どんな事情があるか分からねえけど、その元旦那ってのは何してんだよ。
許せねぇ。」

「いや、ほんと、どういう理由で離婚したのか分からないんだから、興奮しないで。」

「別に興奮なんかしてねぇよ。
ただ…。
この前貸してくれた自作の資料。
あれ、ただでさえすげーって思ったのに。
こんな事情抱えながら、その合間に作ったものだったんだな。」

「うん…。
そうだね。
だから余計に、このコンテスト。
勝ちたいよね。」

「おう。」

僕達は再びパソコンに向かった

その後は会話を交わすことは無く

これまでに無いくらいに集中して取り組んだ

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バズる間取り

福澤ゆき
BL
元人気子役&アイドルだった伊織は成長すると「劣化した」と叩かれて人気が急落し、世間から忘れられかけていた。ある日、「事故物件に住む」というネットTVの企画の仕事が舞い込んでくる。仕事を選べない伊織は事故物件に住むことになるが、配信中に本当に怪奇現象が起こったことにより、一気にバズり、再び注目を浴びることに。 自称視える隣人イケメン大学生狗飼に「これ以上住まない方がいい」と忠告を受けるが、伊織は芸能界生き残りをかけて、この企画を続行する。やがて怪異はエスカレートしていき…… すでに完結済みの話のため一気に投稿させていただきますmm

漫画みたいな恋がしたい!

mahiro
BL
僕の名前は杉本葵。少女漫画が大好きでクラスの女の子たちと一緒にその話をしたり、可愛い小物やメイク、洋服の話をするのが大好きな男の子だよ。 そんな僕の夢は少女漫画の主人公みたいな素敵な恋をすること! そんな僕が高校の入学式を迎えたときに漫画に出てくるような男の子が登場して…。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

泣き虫少年とおこりんぼう君

春密まつり
BL
「オレ、お前のことキライ……に、なりたい」 陸上部で活躍する陸と、放送部からグラウンドを眺める真広は、小さい頃から一緒にいる。 いつからか真広は陸に対して幼馴染以上の感情を抱くようになっていた。 叶うはずのない恋を諦めなければいけないというのに傍には居たいので突き放すことができないままだ。 今日も放課後の放送室で二人話をしていたが、女の子が真広に会いに訪れて不穏な空気になってしまう。 諦めたくても諦められない、意地っ張りの恋の行方は――。 ▼過去に発行した同人誌の増補版です。  全17話を11月末までにはすべてUP予定です。

不器用に惹かれる

タッター
BL
月影暖季は人見知りだ。そのせいで高校に入って二年続けて友達作りに失敗した。 といってもまだ二年生になって一ヶ月しか経っていないが、悲観が止まらない。 それは一年まともに誰とも喋らなかったせいで人見知りが悪化したから。また、一年の時に起こったある出来事がダメ押しとなって見事にこじらせたから。 怖い。それでも友達が欲しい……。 どうするどうすると焦っていれば、なぜか苦手な男が声をかけてくるようになった。 文武両道にいつも微笑みを浮かべていて、物腰も声色も優しい見た目も爽やかイケメンな王子様みたいな男、夜宮。クラスは別だ。 一年生の頃、同じクラスだった時にはほとんど喋らず、あの日以降は一言も喋ったことがなかったのにどうして急に二年になってお昼を誘ってくるようになったのか。 それだけじゃない。月影君月影君と月影攻撃が止まない。 にこにことした笑顔になんとか愛想笑いを返し続けるも、どこか夜宮の様子がおかしいことに気づいていく。 そうして夜宮を知れば知るほどーー

きっと世界は美しい

木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちがはじめての恋に四苦八苦する話です。 ** 本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。 それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。 大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

専属バフ師は相棒一人しか強化できません

BL
異世界転生した零理(レイリ)の転生特典は仲間にバフをかけられるというもの。 でもその対象は一人だけ!? 特に需要もないので地元の村で大人しく農業補佐をしていたら幼馴染みの無口無表情な相方(唯一の同年代)が上京する!? 一緒に来て欲しいとお願いされて渋々パーティを組むことに! すると相方強すぎない? え、バフが強いの? いや相方以外にはかけられんが!? 最強バフと魔法剣士がおくるBL異世界譚、始まります!

処理中です...