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双子の兄ライ
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この世界に転生した双子は、偶然にも今世でも双子として生まれ落ちていた。
しかし互いはまだ、その事実を知らなかった。
同じ母の胎から生まれたものの、運命はふたりの身を引き裂いていた。
一人は教会へ、もう一人は森へと。
誰の意思かもわからぬままに、赤子たちは別々の手に拾われ、まったく異なる場所で育っていく。
兄であるライは、教会の白い天井を見上げてすくすくと育っていた。
黒髪に黒い瞳というその珍しい容姿は、村でも教会でもほとんど見られず、拾われた当時から「どこから来た子なのかはわからない」と噂をされていた。
しかし神父も孤児院の子どもたちも、そのようなことは決して気にはしなかった。
むしろ、そのようなライの身を強く支えた存在があった。
それは神父の実子である少年、クリスであった。
同じ年頃の二人は幼い頃よりともに育ち、すぐに打ち解け、祈りも、学びも、遊びも、何をするにも常に一緒であったのだ。
その関係は年月とともに深まり、ライは知らずのうちに、クリスの笑みを見つめるたびに胸の奥を密かに熱くさせていた。
陽の光に輝く金の髪は、流れるようにさらりと揺れ。その琥珀色の瞳は見るもの全てを魅了した。
しかしクリスもまた、常にライのそばに寄り添っていた。
「ライに変な虫でもついたら、困るからな」
「虫?どこ、どこについてるの?」
「ははっ、例え話だよ」
「そう、クリスは物知りなんだな」
「そうでもないさ。父さんのほうが、いろいろと知っている」
二人はやがて、青年へと成長を遂げていた。
クリスは父の後を継ぐべく学び、ライもまたそれにならってクリスと共に励んでいた。
落ち着きを帯びたその祈りの声に、ライはうっとりと目を細めていた。
「やっぱり、君の声は綺麗だな」
そのような言葉に、クリスはわずかに頬を染めて呟く。
「……そうか?ライの高い声も、俺はいいと思うけどな」
「そうかな、……声変わりしたのに全然変わらないなんて……。この間、孤児院の子と間違えられたんだぞ?」
「まあまあ、お前にも可愛げがあるってことだよ」
二人は互いに笑みを交わし、爽やかな一日をはじめようとしていた。
***
ある日のことであった。
人々はざわめきながら、教会へと押し寄せていた。
「勇者一行が、ここに来るんだって!」
その噂に、孤児院の子供たちも緊張を隠しきれぬ様子であった。
「クリス、本当に今日来るのかな。……勇者って、どんな人なんだろう」
そうライが尋ねると、クリスは隣で肩をすくめる。
「さあ、……。でも父さんが朝から慌ただしくしているから、多分本当なんだと思う。もしかしたら、俺の回復魔法を見てもらうのかもしれないし」
クリスは、成長と共に治癒魔法を取得していたのだ。
治癒魔法は、この国では聖職者の中でも限られた者しか扱えない特別な魔法であった。
幼い頃から聖気の流れが人とは異なると誰もが認め、神父も「いずれは大きな力になる」と期待をしていたのだ。
クリスのその力がついに勇者の目に触れるのだと思うと、ライの心はわずかに揺れてしまう。
友人が多くの人に認められる嬉しさと、言葉にならない不安が入り混じる。
やがて扉が開き、勇者一行が教会へと姿を現した。
陽の光を背負った勇者は、爽やかな笑みを湛えていた。
その後ろには、体格のいい剣士と、細身の高位魔術師が控えている。
「回復魔法の扱い手がいると聞いて、やって参りました」
勇者の言葉に神父は頷き、クリスを前へと促した。
クリスは緊張しながらも、いつものようにその魔法を発動させる。
勇者たちは確かな力を感じ取ったらしく、剣士は素直に感嘆の声を漏らし、魔術師は穏やかな笑みを浮かべた。
「素晴らしい。ぜひ、我らとともに!」
その瞬間、ライの胸はちくりと痛む。
幼い頃より長い間その時間を共にしてきたクリスが、旅立ってしまうのだ。
その事実は、思った以上にライの胸に衝撃を落としていた。思わず、息が苦しくなる。
「ありがたき幸せにございます」
クリスは静かに礼をして、勇者の手を取った。
勇者一行とクリスは、教会の外へと出た。今この瞬間から、出立するのだ。
ライは必死に笑顔をつくり、クリスを笑って見送ろうとした。
そのとき、勇者の目とライの目がぶつかる。
わずかな間ではあったが、その目はライの姿を確実に捉えていたのであった。
「君は……」
勇者の声が、ライを呼び止めた。
その黒い髪、黒い瞳をまっすぐ見つめながら、勇者は静かに問いかけた。
「その容姿……、君は“魔王の子”について何か知っているか?」
「……魔王の、子?」
聞き慣れないその言葉にライは驚き、しばし口を閉じてしまう。
クリスもまた静かに二人を見つめ、勇者の言葉の続きを待っていた。
「君のように黒い髪、黒い瞳を持つと言われている、ある男のことだ。数十年前、その赤子は森に捨てられていたらしい」
しかしライは、うつむいて首を振った。
「俺も、捨て子なので。……その、この教会の前で拾われたとしか……」
勇者はその言葉に、わずかに目を輝かせていた。
「ならば、なおさら手がかりになるかもしれない。……よかったら、君も一緒に来てくれないか?」
そのような言葉に、ライは息を呑んだ。
クリスは血の気を失ったように青ざめ、そっとライの服の袖を握った。
「勇者様、……友人は、何も関係ありません。危険な旅に、ライを巻き込まないでください」
しかしライは、小さく首を振った。
「クリス。俺は、大丈夫だよ」
ライは強い意志を持って、勇者へと向き直る。
その胸は、クリスと共に旅に出ることができるという期待で高鳴っていたのだ。
たとえ険しい道のりでも、クリスと一緒なら乗り越えられるような気がしていた。
「何か役に立つのなら……。俺も、一緒に行きます」
勇者はライに向けて微笑むと、静かに告げた。
「”魔王の子”のその情報は、限られた者しか知らない秘密でもあるんだ。剣士と魔術師には、伏せてある。疑いをかけられないためにも、君はあくまで“回復役の補佐”として同行することにしよう」
「わかりました。……ありがとうございます」
その説明を受けながら、クリスは唇を噛み、静かにライだけを見つめていた。
その瞳には、言葉にできない焦りと痛みが宿っていたのである。
***
しばしの別れというその時、神父はクリスとライの身を抱き寄せていた。
「どうか無事に、帰ってきておくれ。二人とも、私の大切な子供なのだから」
その温かい声に思わず胸は熱くなり、ライは涙をこらえていた。
クリスもまた、深く頷いて父に別れを告げていた。
馬車の揺れの中、勇者はこれまでの状況を説明した。
「魔王の封印が、解かれつつある。その裏では“魔王の子”が動いているという噂があるんだ。私は勇者の家系として、その気配をいち早く察知した。だからこそ、仲間を集めて旅に出ることにしたんだ」
「仲間は、これで全員ということなのですね?」
「そうだ。私やあの二人は戦うことには慣れているが、回復だけはどうにも苦手で……。やっと君の噂を耳にしたんだ、よかったよ」
そのような言葉に、クリスは頭を下げていた。
ライは二人の姿を見つめながら、足を引っ張ってはいけないと気を引き締めていた。
そして勇者は、クリスとライに向けて後の二人を紹介した。
大柄な剣士は、人のいい笑みを浮かべて力強く握手をした。
「俺は、こいつの幼馴染でさ。最初は一人で行くっていうもんだから、慌てて追いかけてきたんだ。よろしく頼むよ」
すらりと背の高い魔術師は、穏やかに微笑んだ。
「私は、王命により途中で参加した。戦いも護衛も、任せてほしい」
クリスは表面上は落ち着いていたものの、隣に控えるライの袖を少しだけ掴んだままでいた。
***
その夜、二人が寝床に入ったときであった。
「……ライ」
薄暗い部屋で、クリスはぽつりと呟いた。
「お前まで来る必要なんて、どこにもなかった」
ライは、すぐさま言葉を返していた。
「そんなことないよ。俺だって、少しは役に立つ」
「巻き込まれるだけかもしれないのに……。なんで来たんだよ」
その声は問いは責めるようでいて、しかしその声はかすかに震えていた。
ライは静かに手を伸ばし、クリスのその手に触れた。
その震えを止めるかのように、わずかに力をこめていた。
「俺、離れたくなかった。クリスがいない明日なんて、考えられなかったんだ」
クリスは息を呑んでうつむき、そして耐えきれないかのようにライの身を強く抱き寄せた。
「馬鹿だ……。お前は、本当に……」
震える腕が、ライの背に回されていた。
抱きしめる力は、今にも泣けてしまいそうなほどに切なくもあった。
「ライ。どこへ行っても……どんなことがあっても……。俺が、お前を守るから」
その声は甘く苦しく、ライの胸の奥へと深く刻みつけられることとなる。
だがその絆は、まだ知らぬ真実によって大きく揺さぶられることとなる。
黒い髪と黒い瞳を持つもう一人の双子の存在は、静かに運命を手招いていた。
しかし互いはまだ、その事実を知らなかった。
同じ母の胎から生まれたものの、運命はふたりの身を引き裂いていた。
一人は教会へ、もう一人は森へと。
誰の意思かもわからぬままに、赤子たちは別々の手に拾われ、まったく異なる場所で育っていく。
兄であるライは、教会の白い天井を見上げてすくすくと育っていた。
黒髪に黒い瞳というその珍しい容姿は、村でも教会でもほとんど見られず、拾われた当時から「どこから来た子なのかはわからない」と噂をされていた。
しかし神父も孤児院の子どもたちも、そのようなことは決して気にはしなかった。
むしろ、そのようなライの身を強く支えた存在があった。
それは神父の実子である少年、クリスであった。
同じ年頃の二人は幼い頃よりともに育ち、すぐに打ち解け、祈りも、学びも、遊びも、何をするにも常に一緒であったのだ。
その関係は年月とともに深まり、ライは知らずのうちに、クリスの笑みを見つめるたびに胸の奥を密かに熱くさせていた。
陽の光に輝く金の髪は、流れるようにさらりと揺れ。その琥珀色の瞳は見るもの全てを魅了した。
しかしクリスもまた、常にライのそばに寄り添っていた。
「ライに変な虫でもついたら、困るからな」
「虫?どこ、どこについてるの?」
「ははっ、例え話だよ」
「そう、クリスは物知りなんだな」
「そうでもないさ。父さんのほうが、いろいろと知っている」
二人はやがて、青年へと成長を遂げていた。
クリスは父の後を継ぐべく学び、ライもまたそれにならってクリスと共に励んでいた。
落ち着きを帯びたその祈りの声に、ライはうっとりと目を細めていた。
「やっぱり、君の声は綺麗だな」
そのような言葉に、クリスはわずかに頬を染めて呟く。
「……そうか?ライの高い声も、俺はいいと思うけどな」
「そうかな、……声変わりしたのに全然変わらないなんて……。この間、孤児院の子と間違えられたんだぞ?」
「まあまあ、お前にも可愛げがあるってことだよ」
二人は互いに笑みを交わし、爽やかな一日をはじめようとしていた。
***
ある日のことであった。
人々はざわめきながら、教会へと押し寄せていた。
「勇者一行が、ここに来るんだって!」
その噂に、孤児院の子供たちも緊張を隠しきれぬ様子であった。
「クリス、本当に今日来るのかな。……勇者って、どんな人なんだろう」
そうライが尋ねると、クリスは隣で肩をすくめる。
「さあ、……。でも父さんが朝から慌ただしくしているから、多分本当なんだと思う。もしかしたら、俺の回復魔法を見てもらうのかもしれないし」
クリスは、成長と共に治癒魔法を取得していたのだ。
治癒魔法は、この国では聖職者の中でも限られた者しか扱えない特別な魔法であった。
幼い頃から聖気の流れが人とは異なると誰もが認め、神父も「いずれは大きな力になる」と期待をしていたのだ。
クリスのその力がついに勇者の目に触れるのだと思うと、ライの心はわずかに揺れてしまう。
友人が多くの人に認められる嬉しさと、言葉にならない不安が入り混じる。
やがて扉が開き、勇者一行が教会へと姿を現した。
陽の光を背負った勇者は、爽やかな笑みを湛えていた。
その後ろには、体格のいい剣士と、細身の高位魔術師が控えている。
「回復魔法の扱い手がいると聞いて、やって参りました」
勇者の言葉に神父は頷き、クリスを前へと促した。
クリスは緊張しながらも、いつものようにその魔法を発動させる。
勇者たちは確かな力を感じ取ったらしく、剣士は素直に感嘆の声を漏らし、魔術師は穏やかな笑みを浮かべた。
「素晴らしい。ぜひ、我らとともに!」
その瞬間、ライの胸はちくりと痛む。
幼い頃より長い間その時間を共にしてきたクリスが、旅立ってしまうのだ。
その事実は、思った以上にライの胸に衝撃を落としていた。思わず、息が苦しくなる。
「ありがたき幸せにございます」
クリスは静かに礼をして、勇者の手を取った。
勇者一行とクリスは、教会の外へと出た。今この瞬間から、出立するのだ。
ライは必死に笑顔をつくり、クリスを笑って見送ろうとした。
そのとき、勇者の目とライの目がぶつかる。
わずかな間ではあったが、その目はライの姿を確実に捉えていたのであった。
「君は……」
勇者の声が、ライを呼び止めた。
その黒い髪、黒い瞳をまっすぐ見つめながら、勇者は静かに問いかけた。
「その容姿……、君は“魔王の子”について何か知っているか?」
「……魔王の、子?」
聞き慣れないその言葉にライは驚き、しばし口を閉じてしまう。
クリスもまた静かに二人を見つめ、勇者の言葉の続きを待っていた。
「君のように黒い髪、黒い瞳を持つと言われている、ある男のことだ。数十年前、その赤子は森に捨てられていたらしい」
しかしライは、うつむいて首を振った。
「俺も、捨て子なので。……その、この教会の前で拾われたとしか……」
勇者はその言葉に、わずかに目を輝かせていた。
「ならば、なおさら手がかりになるかもしれない。……よかったら、君も一緒に来てくれないか?」
そのような言葉に、ライは息を呑んだ。
クリスは血の気を失ったように青ざめ、そっとライの服の袖を握った。
「勇者様、……友人は、何も関係ありません。危険な旅に、ライを巻き込まないでください」
しかしライは、小さく首を振った。
「クリス。俺は、大丈夫だよ」
ライは強い意志を持って、勇者へと向き直る。
その胸は、クリスと共に旅に出ることができるという期待で高鳴っていたのだ。
たとえ険しい道のりでも、クリスと一緒なら乗り越えられるような気がしていた。
「何か役に立つのなら……。俺も、一緒に行きます」
勇者はライに向けて微笑むと、静かに告げた。
「”魔王の子”のその情報は、限られた者しか知らない秘密でもあるんだ。剣士と魔術師には、伏せてある。疑いをかけられないためにも、君はあくまで“回復役の補佐”として同行することにしよう」
「わかりました。……ありがとうございます」
その説明を受けながら、クリスは唇を噛み、静かにライだけを見つめていた。
その瞳には、言葉にできない焦りと痛みが宿っていたのである。
***
しばしの別れというその時、神父はクリスとライの身を抱き寄せていた。
「どうか無事に、帰ってきておくれ。二人とも、私の大切な子供なのだから」
その温かい声に思わず胸は熱くなり、ライは涙をこらえていた。
クリスもまた、深く頷いて父に別れを告げていた。
馬車の揺れの中、勇者はこれまでの状況を説明した。
「魔王の封印が、解かれつつある。その裏では“魔王の子”が動いているという噂があるんだ。私は勇者の家系として、その気配をいち早く察知した。だからこそ、仲間を集めて旅に出ることにしたんだ」
「仲間は、これで全員ということなのですね?」
「そうだ。私やあの二人は戦うことには慣れているが、回復だけはどうにも苦手で……。やっと君の噂を耳にしたんだ、よかったよ」
そのような言葉に、クリスは頭を下げていた。
ライは二人の姿を見つめながら、足を引っ張ってはいけないと気を引き締めていた。
そして勇者は、クリスとライに向けて後の二人を紹介した。
大柄な剣士は、人のいい笑みを浮かべて力強く握手をした。
「俺は、こいつの幼馴染でさ。最初は一人で行くっていうもんだから、慌てて追いかけてきたんだ。よろしく頼むよ」
すらりと背の高い魔術師は、穏やかに微笑んだ。
「私は、王命により途中で参加した。戦いも護衛も、任せてほしい」
クリスは表面上は落ち着いていたものの、隣に控えるライの袖を少しだけ掴んだままでいた。
***
その夜、二人が寝床に入ったときであった。
「……ライ」
薄暗い部屋で、クリスはぽつりと呟いた。
「お前まで来る必要なんて、どこにもなかった」
ライは、すぐさま言葉を返していた。
「そんなことないよ。俺だって、少しは役に立つ」
「巻き込まれるだけかもしれないのに……。なんで来たんだよ」
その声は問いは責めるようでいて、しかしその声はかすかに震えていた。
ライは静かに手を伸ばし、クリスのその手に触れた。
その震えを止めるかのように、わずかに力をこめていた。
「俺、離れたくなかった。クリスがいない明日なんて、考えられなかったんだ」
クリスは息を呑んでうつむき、そして耐えきれないかのようにライの身を強く抱き寄せた。
「馬鹿だ……。お前は、本当に……」
震える腕が、ライの背に回されていた。
抱きしめる力は、今にも泣けてしまいそうなほどに切なくもあった。
「ライ。どこへ行っても……どんなことがあっても……。俺が、お前を守るから」
その声は甘く苦しく、ライの胸の奥へと深く刻みつけられることとなる。
だがその絆は、まだ知らぬ真実によって大きく揺さぶられることとなる。
黒い髪と黒い瞳を持つもう一人の双子の存在は、静かに運命を手招いていた。
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