婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空

文字の大きさ
14 / 21

第14話 色々と間違えた男

しおりを挟む
~ブリックス視点~


 パイプなんて別に吸うことは無いと思っていた。それに頼らなければならないほど、ストレスが溜まることなんて無いとタカをくくっていた。

「ちっ……」

 家で仕事をしていても気が滅入るから、喫茶店に来てやれば気分転換になって仕事も捗るかと思ったけど、そんなことは無かった。周りは呑気にコーヒーを飲んでお喋りをする連中ばかりで、苛立ってしまう。

 俺は今までも家の仕事をして来た。けど、正直な所、父上の補佐的な役割が多かった。けど、父上は俺に当主の座を譲ると、早々に隠居生活に入ってしまった。まるで、家から逃げるように……

 優秀な部下たちは残ってくれているが、どことなく俺のことをバカにしているような空気を感じる。

 そして、アメリアは……頭がお花畑の女だから、何も手伝いやしない。あいつの家の業務もこちらで担う形になっているから、負担が大きい。あいつの父であるバラノン伯爵も手伝ってくれてはいるが……俺が両家の業務を取り仕切ると見栄を切ったから、大きく頼ることは出来ない。何なら、バラノン伯爵夫妻も隠居しようとしているくらいだ。両家の業務提携によって得られる利益を頼りに……ちくしょう、結婚相手とはいえ、所詮は他人。その親の面倒まで見なければならないとは……結婚って、こんなに面倒だっけ? 仕事も、何もかも……

「よっ、ブリックス」

「あ?……って、スコットか」

 メガネをかけたその男は、ヒューズ公爵家の長男、スコットだった。俺の友人である。

「どうした? さっきから難しそうな顔で唸ってさ」

「仕事だよ、仕事」

「へぇ、やっと仕事の苦労が分かって来たか。ぶっちゃけ、今までは親の手伝いをする程度だったんだろ?」

「うるせえよ」

「ていうか、お前さ。ユリナに婚約破棄を言い渡して、代わりに妹のアメリアと結婚するって本当か?」

「それがどうした?」

「いや、だとしたら……ラッキーだなって」

「ラッキーだと? 何が?」

 俺は苛立ってギロリとスコットを睨む。

「だって、お前。あんな良い女を逃すなんて、バカな男だねぇ」

「あんな良い女って……誰のことだ?」

「ユリナに決まっているだろうが」

「ユリナが良い女? あの地味で仕事しか能のない女が? ハッ、笑わせるな」

「お前さ……自分の狭い視野だけで、物事を判断しているだろ?」

「あぁ?」

「確かに、ユリナは仕事ばかりで、あまりオシャレもしていないし、地味な女かもしれない」

「その通りだよ」

「でも、仕事ばかりなのは、無能な両親と妹をを養うためであって。しかも、オシャレしてないで、あのきれいさはすごいだろ」

「は、はぁ?」

「それに、あの一歩引く謙虚な感じが良い。男をちゃんと立ててくれるって言うかさ」

「いやいや、ただ自分が冴えないからビビって身を引いているだけだろ。それに引き換え、アメリアの方が華やかで隣に居て誇らしいぞ」

「そうか……でも俺だったら、あんなアホ女をとなりに置くなんて、死んでもごめんだ」

「ア、アホ女だとぉ~?」

「違うのか?」

 スコットはメガネ越しに静かな眼差しを向けて来た。悔しいが、俺は反論できない。現に、あのアホ女は、俺が仕事でこんなに苦労している間も、のうのうと家でお茶とお菓子でもたしなんでいるだろうから。

「何かお前は随分とユリナを低く評価しているみたいだけど、貴族の社交界ではみんな彼女のことを高く評価しているし、何なら自分の妻にしたいと思っている奴は大勢いるぞ。それが、お前みたいな男と一緒になるなんて、不幸だなと思っていたけど……」

「おい、ふざけるな!」

 俺は立ち上がって声を荒げ、スコットの胸倉を掴んだ。

「ていうか、ユリナはどうしているんだ?」

「あぁ? あの女なんて、とっくに家を追放されたよ」

「……マジか。もっと早く、俺が気付いてやれば良かった。せっかくの素晴らしい才能と美貌が……実にもったいない」

「おい、あの女の話なんてどうでも良いんだよ。それよりも、この俺さまを侮辱したことを謝れ」

「まあ、確かに挑発的な口調になったのは悪かったよ。けど、お前はそれで良いのか?」

「あぁん?」

「俺、お前が仕事で大変そうって噂で聞いたから、サポートしてやろうと思っていたんだよ」

「えっ?」

「けど、やっぱりやめた。お前は昔から、すぐカッとなりやすい。直情的な奴だから。そんな奴はビジネスパーソンとして信用できない」

「ま、待ってくれ、スコット。俺が悪かったから、な?」

 ポンと奴の肩に手を置くけど、サッと払いのけられた。

「もし、お前がちゃんとユリナの良さに気付いて、尊重して、結婚していたら、全然違う未来だったかもよ?」

 スコットはくるっと背中を向けた。

「じゃあな。もうお前と関わることは無いだろう」

 そう言い残して、店から出て行った。

 その場に残された俺は、呆然と立ち尽くす。周りの視線がチクチクと突き刺さるけど……何も文句を言う気力が起きなかった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~

たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。 彼女には人に言えない過去があった。 淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。 実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。 彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。 やがて絶望し命を自ら断つ彼女。 しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。 そして出会う盲目の皇子アレリッド。 心を通わせ二人は恋に落ちていく。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

召喚聖女が来たのでお前は用済みだと追放されましたが、今更帰って来いと言われても無理ですから

神崎 ルナ
恋愛
 アイリーンは聖女のお役目を10年以上してきた。    だが、今回とても強い力を持った聖女を異世界から召喚できた、ということでアイリーンは婚約破棄され、さらに冤罪を着せられ、国外追放されてしまう。  その後、異世界から召喚された聖女は能力は高いがさぼり癖がひどく、これならばアイリーンの方が何倍もマシ、と迎えが来るが既にアイリーンは新しい生活を手に入れていた。  

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

処理中です...