異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

文字の大きさ
14 / 57
弓師とエルフ

十四話 引き手の望む弓

しおりを挟む

「──っ無理だ!!」

「!」
『……』

 自分でも驚くほどの大声が森に響いた。


 ルナリアが、寝ている間に森の変化がなかったか周辺を見てくるというので俺とミラウッド、セローはハズパラの木々の前で一休みしていた。

 そこで俺は心地の良い風に誘われて草の上に寝そべり、日本と異世界の違いを存分に感じていた。

 スマホの無い不安と意外な充実感。
 未だ遭遇していないが、確実に身近にある危険。魔物のこと。
 エルフたちと精霊たちの関係性。
 森の息づかいのような、生物や植物の音。

 そして、弓のこと。

 やはり職人エルフの元で感じた、同じだけど違うもの。
 先ほどミラウッドに弓を返した際にも改めて思った。

 その時だ。

 職人エルフの言葉を思い出したのは。


 ──もし君が森の精霊様から力を借りることができれば、その聖樹の枝から弓を造り出せるかもしれないね


 森の精霊であるルナリアと出会ったために、それをミラウッドにそのまま伝えた。
 俺は何の意図もなく、こう言われたのだと。
 そうすればもちろんミラウッドはこう言うさ。

『今なら、ルナリア様の力をお借りして弓を作ることが出来るかもしれないな』

 そして俺の口からは、一秒も考える間もなく否定の言葉が放たれた。
 自分でも驚きだ。
 自分から話題にあげたというのに、意味が分からない。

「コーヤ……」
「あ、……ごめん。俺……」

 ミラウッドは知らない。
 俺が転移前、別の場所で竹を集めていたのは弓作りの材料集めだということを。
 俺が弓師だということを。

 だから彼の言葉は、俺の弓師としての矜持きょうじを軽んじたわけではない。

 でも、考えるより先に体が反応した。

 俺の思う『弓』と彼らの思う『弓』は似て異なるもの。

 日本では弓矢を用いた狩猟は違法であるとか、そういう部分で引っかかるのもたしかにある。
 でもここは異世界だ。
 決まりは異なるし、魔物がいる世界で日本の常識が通じるとは思わない。

 ただ、それ以上に……。
 先師であるじいさんの言葉が聞こえてくる。


 ──本当は引き手を見て、弓を作りたい


 自分の弓はあくまで心身と弓の一体化。
 精神修行と、的に矢をてるという技巧。
 それらの修練を目的とした弓。

 でも、エルフやこの世界の人々は、生きるために弓を引く。
 逆に言えば、命を奪うことにもなる。
 それが悪いことだとは、異世界人の俺にはとても言えない。

 ただ別のものなんだ。
 彼らの弓と、俺の作る弓は……別ものなんだ。

 引き手の望む弓。
 生きるための覚悟が違う彼らを活かし、また彼らが活かす弓を──ただでさえ落ちこぼれの俺が作れるわけがない。

『どーした?』
「……いや。ごめん、ミラウッド。ちょっと、弓を作るってのに現実味がなくて……びっくりしちゃって」
「コーヤは精霊の加護が満ちた、争いのない場所から来たのかもしれないな」

 ミラウッドは納得したのか、あるいは話題に触れないようにしてくれたのか。
 そう結論付けてこの話を終えてくれた。

「しかし、精霊様が眠りについている……か。まさか、そのようなことが起こり得るとは」

 さらに話題まで変えてくれる。
 本当に誠実な人だな。
 いきなり拒絶の言葉をはいたのが、心苦しい。

『精霊がバラバラに眠りにつくことはあるが、こうも一斉にってのは……たしかに珍しいかもな』
『──お待たせしました、お待たせしましたわー!』
「ルナリア、おかえり」

 見回りを終えたルナリアが帰ってきた。
 さきほどは地面をぴょんぴょんと移動していたが、今はセローと同じく宙に浮いている。

「異常はなかった?」
『そうですね、そうですわね。これといっては見当たりませんでしたの』
「それはよかった」
『ええ、ええ! しかし油断はできませんからね。エルフのお方……えーっと、ミラウッドさん? エルフの方々には、森を見回っていただいた方がいいと思いますよ。ええ、思います』
「かしこまりました、ルナリア様。村に戻りましたら、そのように手配いたします」

 ひとまず俺たちは村へと戻り、森の異常についてルナリアから得た情報を、村の長老たちに伝えることにした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...