異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

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異世界と弓作り

五十五話 弓師、聖樹に問う

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「なんか、久しぶりだ……」

 善は急げというわけで、さっそく皆で聖樹の元へ。

 相変わらずてっぺんが見えないほどの大きな木。
 異世界にて最初に降り立った……もとい、聖樹から落っこちてきてミラウッドにお姫様抱っこされた場所。
 セローともここが出会いの場所だ。
 エルフにとっては神聖な場所だが、俺にとってはなんだか『始まりの場所』のように思える。

「聖樹に力をかえすって……どうやるんだ?」
「コーヤ。聖樹の枝を使ってはどうだろう?」
「! それはいいな」

 泉の精霊の元で聖樹の力を引き出した時には、何かあった時のために腰に差している聖樹の枝を使用した。

 今回もそれでいこう!

「変にイイ風が吹くんだよなぁ、ココ」
「聖樹の元には風のお方もよく集まりますもの」

 たしかに聖樹の枝では葉っぱが気持ちよさそうに揺らいでいる。
 セローとルナリアの相性はよろしくなさそうだが、本来彼らはいい関係性なのかもしれないな。

「むむ……」

 俺は瞼を閉じて、目の前にどっしりと構える聖樹に祈りを捧げる。

 自分のこれまでのこと。
 村での生活を経て感じたこと。
 いろんな想いを風に乗せるかのように織り交ぜて、感謝の気持ちと共に分け与えてくれた力を還したいのだと聖樹へ語りかける。





「──!」
「枝が……!」

 特に聖樹に変化は見られなかった。
だが、ふと手元を見ると聖樹の枝がぐんぐんと成長していく。

「なっ、なんだ!?」
「弓じゃね?」
「弓?」
「コーヤの中で、精霊との対話ってのが弓のイメージなんだろ」
「言われてみれば……」
「聖樹に宿る精霊は眠っておりますから、聖樹自身……あるいは大地の神からのメッセージかもしれませんわ!」

 聖樹本体、ではなく弓を使って聖樹に宿る精霊に語り掛けろということか?

「では、わたくしがお手伝いしますの」
「おお」

 ぐんぐんと伸びた枝は、言われてみればエルフたちの弓に使うにはちょうどいい大きさの太さと長さになった。
 あとは弦を掛ければ簡易的な弓に見えなくもないが……。

「そぉれっ」

 ルナリアが付近から持ってきた細長い茎を持つ植物を、まるで一緒に作った弦のようにねじりを掛けながら成長させる。

 麻弦のよう……とまではいかないが、細長い枝に掛けられたそれは十分立派な弦だ。

「はい、できましたの!」
「ありがとう、ルナリア」

 いびつながらも輝いて見える神聖な弓を手に、俺は初めてここで弦音を鳴らした時のように集中した。
 今度の相手は──聖樹の精霊だ。

「……ふぅ」

 ここはさながら弓道場。

 深い森に座す聖樹は、エルフでなくとも神聖なものとして目に映る。
 聖樹が弓道場における神棚とすれば、まずは神拝を行わねばならない。
 心の中で聖樹の精霊、あるいは森の精霊らに一礼する。

 そうして弓道場は自分の一部となった。
 自分と弓は、弓道場の一部となった。

 ゆっくりと瞼を開いて、目の前の大いなる存在を見上げる。

 弓道とは、心身弓の一体だ。

 そしてこの世界でもう一つ教わった。

 エルフたちにとっての弓術は、心身弓。そして『魔』との一体だ。

 セローの風の矢を引いた時の感覚を思い出す。
 目に映らないそれは、しかし確実に俺の右手に存在していた。

 もし俺にもその力が宿るなら……それが、聖樹の力ならば。

 在るべき場所に還す。
 そうして、呼び起こす。

 しん、としずまった己の心はまさに四位一体の状態。

 姿のない聖樹に宿るとされる精霊の姿を心に捉えながら、弦の音とともに願いを届けた。



 ─パシッ



 静かな弦の音が響く。
 俺も誰も、声を発せずにいる。

 すると聖樹の弓が光を帯びた。

「!」

 驚きながらもなにかのメッセージを伝えたいのだろうと思い、まるで弓の声を聞くかのように心を寄せると、文字通り声が聞こえた。



 ──忘れないで


 ──あなたの培ってきた錬気は


 ──この世界でも決して消えない



「俺の…………、錬気?」

 女性とも、男性とも取れる不思議な声が俺の脳内に直接響いた。

 錬気。
 それはあらゆる創作物に出てくる一種の設定だ。
 多くの作品では大気中の見えない力を己の力として取り込み、自分の中で循環させることを意味する。

 つまり、『気』だ。

 俺の培ってきた気は、この世界でも消えない……?



 ──さあ



 不思議な声は促す。
 何を?

 そう考えると同時に手元の弓が眼に入る。

 なんだか弓が「鳴らせ」と俺に告げている気がした。

「──」

 もう一度、心に従って弦を弾く。





「!」

 弦音に応えるかのように、聖樹を中心とし森中からあらゆる音が聞こえた。
 弾かれたように見上げれば、鳥が飛び立ち、木の葉は舞い、そして──

「……精霊!!」

 これまで森の中で見かけることのなかった精霊たちが、まるで聖樹に挨拶をしていくかのようにやってきて、そして去っていく。

「森のヤツらが目覚めたか」
「まぁまぁ、みなさんようやくお目覚めですわね」

 ルナリアは次々にやってくる精霊たちに手を振って挨拶を交わす。

 周りの状況に気を取られていると、ふと目の前が明るくなった。

「なんだ……?」

 徐々に輪郭を帯びてきた光は、美しい女性の姿となる。

 彼女は俺に微笑むと、すぐに消えてしまった。

「もしかして、……聖樹の?」

 ということは……ちゃんと聖樹の力、還せたんだよな?

「コーヤ」
「ミラウッド」
「ありがとう」

 そう言うとミラウッドは頭を下げた。

「ちょっ! やめてくれ……!」
「おかげで精霊様たちも目覚め、森も以前の状態へと戻った。感謝する」
「いやいや、そもそも俺が……」

 そう。状況からして、俺が聖樹本体に還るはずの力を誤って持ってしまったがために起きたこと。

「本当にそうだろうか?」
「え?」

 するとミラウッドは意味深な視線を俺の手元にある弓へと向けた。

「……?」
「視てみるといい」
「鑑定、ってことか? でも」

 あれは聖樹の力がもたらしたものだ。
 力を還した俺には、おそらく──でも。

「……やってみない理由にはならない、か」

 俺は目線と全神経を手元の弓へと向けた。


 【聖樹の弓:聖樹の力と森の精霊の力を借りて出来た弓】
 【魔力伝導効率:不明】


「……不明!? じゃなくて、視れた……」
「おそらくだが、神賜しんし魔法については元々のコーヤの資質によるものだと思う」
「俺の?」
「ああ。聖樹の力はあくまで祈りに反応するもの。普段コーヤが鑑定を使えていたのとは、別のものだと私は思う」
「そっか……。俺の、錬気」

 セローは前に言っていた。
 ウィンハックが弓作りをする際の集中力。
 一つの物に想いを寄せることを『魔法を使う時みたい』だと称した。

 なら、きっと俺は元の世界で知らず知らずその力を身に着けていて、魔法のことわりがあるこの世界でそれが具現化した。
 そういうことなんだろう。

「なんか……、あれだな」
「?」

 上手く言えないけど、自分の弓作りに対する想いはホンモノであったと。
 たとえ落ちこぼれだとしても、その事実は変わらないのだと。
 どこか、安心にも似た気持ちで心が満たされた。


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