54 / 57
異世界と弓作り
五十四話 祈りと願い
しおりを挟む
長い話になる。
そう感じたのか、ミラウッドは場所を俺の自宅へと移すよう提案した。
そうしていつものテーブルを俺とミラウッド、人型のルナリアが囲み、セローは壁に背を預けながら話を聞く。
「……驚かないんだな?」
「薄々は、な」
「そうか」
「聖樹のお力は、私たちの理解を超えているだろうからな」
もっと驚いた表情を見ることになるかと身構えていたが、意外にミラウッドは冷静だ。
「俺の世界はけっこう、便利というか……魔法が無い分、技術が発達していてな」
俺は三人にいろんなことを話した。
スマホや電話、テレビなんかの技術があり、人々は容易に連絡や情報を得ることができる世界ということ。
俺はそこで弓師として生活していたが、早気のことがあり落ちこぼれであったということ。
じいさんのこと、家族のこと。
弓に対する想いや自分に対する失望、悔しさなんかを話した。
「スゲー世界だな、そりゃ」
「まぁまぁ。世界は広いと言いますけれど、異世界はわたくしたちの想像すら及ばないものですのねぇ」
「なるほど……だから、一番に弓へと興味を持ったのか」
「そうそう。他にもっと剣とか、反応する部分もあっただろうにな」
ミラウッドはなにやら腑に落ちた様子で言った。
「非礼を詫びよう。ルナリア様と契約した際にコーヤの事情も知らず、余計なことを言ったな」
それはミラウッドが言った、『今なら、ルナリア様の力をお借りして弓を作ることが出来るかもしれない』という一言。
異世界の弓と自分の作ってきた弓は根本的に違い、俺にエルフたちの弓を作ることは不可能だと思っていた矢先のことだった。
だからあの時の俺は、反射的に大声で無理だと叫んでしまった。
「いやいや。知らなかったんだから無理もない。それにもし、俺がじいさんだったら……」
「だが、コーヤはコーヤ。自分の矜持を持つ、一人の弓師だ」
「そうですわ! コーヤさまにはコーヤさまにしかない良さがありますの!」
「まーオレに音を届けることができたんだから、その胸に秘めた想いってのはホンモノだろーな。祈りや願い。そして心を一つに寄せるのは、魔法の基本だ」
「みんな……」
職人として欠点があるのは間違いない。
けど、弓が弦を掛け和合を成すように、たとえ俺が技術や射術に優れていたとしても、弓に掛ける想いや引き手のことを考えて作りたいという矜持。
それが欠けていても、きっといい弓を作るには至らなかっただろう。
そういう意味でも、じいさんとウィンハックは本当に素晴らしい弓師だ。
「だからさ、正直ウィンハックの工房を見学している時は不思議な気分なんだ。エルフたちの役に立てるなら進んで手伝いたいって気持ちと、自分にエルフ達が命を預けるような弓を作れるわけがないって自分を卑下する気持ちと……両方なんだ」
「つまりそれが、コーヤの良さだろう」
「え?」
「そのとおりですわ、エルフのお方。ミラウッドさん。コーヤさまは、本気でエルフのお方たちのことを想うからこそ、そういった考えが浮かぶのですわ」
「聖樹が力を与えるのも、なんか分かるな。自分を信仰するエルフの助けになるって、確信してたんだろ」
「そう、なのかな?」
聖樹の力……、そういえば。
「話は変わるんだけどさ。聖樹について一つ、心当たりがあるんだ」
「心当たり?」
俺は聖樹が『色んな世界に根を張る』とも言われていることを知り、思い当たった一つの仮説をミラウッドに伝える。
「俺とじいさんがよく素材を採りに行った……元はばあさんの山なんだが。そこに、山の神がいるって言い伝えがあってさ。毎回入山する時には祈りを捧げてたんだよね。でも、じいさんが亡くなって一人で山に入ったら、見たこともない木が生えていて……それで、触れたらこっちに飛ばされた。……その直前に、どこか遠くに行きたいと願ったからだと思うんだが」
「それは興味深いな」
「祈りというのは、魔力の素にもなりますから。もしかすると聖樹の一枝であったその木は、おじいさまの祈りが失われたことによって擬態する力を失ったのかもしれませんわ」
「! 擬態、か」
それなら見たことがない木が突然生えていたのも納得だ。
「おまけに残された力が聖樹本体に還らずにコーヤに託された……ってとこか?」
「それなら辻褄が合うな」
「なら、もしかして……」
「コーヤの世界の枝が消失したことにより、コーヤと弓師殿の祈りを魔力へと変換する機能が失われた。その影響で精霊様たちが眠りについたのであれば……コーヤの力を還せば、精霊たちが目覚める可能性はある」
「ま、やってみりゃイイだろ。減るもんじゃねぇし」
精霊が眠りについた森は、色々と危険が多い。
もし俺に宿るらしい聖樹の力が役に立つなら……。
「そうだな、やってみよう」
神賜魔法の鑑定。なんだか遠くにいるセローにまで届いたらしい変な魔力。
聖樹の枝に宿った力を拡散させた力。
この世界で一人過ごすことになっていたら強力なカードとなっていたであろう不思議な力。
今は一人じゃない。
それが無くなったとしても、きっと大丈夫だ。
そう感じたのか、ミラウッドは場所を俺の自宅へと移すよう提案した。
そうしていつものテーブルを俺とミラウッド、人型のルナリアが囲み、セローは壁に背を預けながら話を聞く。
「……驚かないんだな?」
「薄々は、な」
「そうか」
「聖樹のお力は、私たちの理解を超えているだろうからな」
もっと驚いた表情を見ることになるかと身構えていたが、意外にミラウッドは冷静だ。
「俺の世界はけっこう、便利というか……魔法が無い分、技術が発達していてな」
俺は三人にいろんなことを話した。
スマホや電話、テレビなんかの技術があり、人々は容易に連絡や情報を得ることができる世界ということ。
俺はそこで弓師として生活していたが、早気のことがあり落ちこぼれであったということ。
じいさんのこと、家族のこと。
弓に対する想いや自分に対する失望、悔しさなんかを話した。
「スゲー世界だな、そりゃ」
「まぁまぁ。世界は広いと言いますけれど、異世界はわたくしたちの想像すら及ばないものですのねぇ」
「なるほど……だから、一番に弓へと興味を持ったのか」
「そうそう。他にもっと剣とか、反応する部分もあっただろうにな」
ミラウッドはなにやら腑に落ちた様子で言った。
「非礼を詫びよう。ルナリア様と契約した際にコーヤの事情も知らず、余計なことを言ったな」
それはミラウッドが言った、『今なら、ルナリア様の力をお借りして弓を作ることが出来るかもしれない』という一言。
異世界の弓と自分の作ってきた弓は根本的に違い、俺にエルフたちの弓を作ることは不可能だと思っていた矢先のことだった。
だからあの時の俺は、反射的に大声で無理だと叫んでしまった。
「いやいや。知らなかったんだから無理もない。それにもし、俺がじいさんだったら……」
「だが、コーヤはコーヤ。自分の矜持を持つ、一人の弓師だ」
「そうですわ! コーヤさまにはコーヤさまにしかない良さがありますの!」
「まーオレに音を届けることができたんだから、その胸に秘めた想いってのはホンモノだろーな。祈りや願い。そして心を一つに寄せるのは、魔法の基本だ」
「みんな……」
職人として欠点があるのは間違いない。
けど、弓が弦を掛け和合を成すように、たとえ俺が技術や射術に優れていたとしても、弓に掛ける想いや引き手のことを考えて作りたいという矜持。
それが欠けていても、きっといい弓を作るには至らなかっただろう。
そういう意味でも、じいさんとウィンハックは本当に素晴らしい弓師だ。
「だからさ、正直ウィンハックの工房を見学している時は不思議な気分なんだ。エルフたちの役に立てるなら進んで手伝いたいって気持ちと、自分にエルフ達が命を預けるような弓を作れるわけがないって自分を卑下する気持ちと……両方なんだ」
「つまりそれが、コーヤの良さだろう」
「え?」
「そのとおりですわ、エルフのお方。ミラウッドさん。コーヤさまは、本気でエルフのお方たちのことを想うからこそ、そういった考えが浮かぶのですわ」
「聖樹が力を与えるのも、なんか分かるな。自分を信仰するエルフの助けになるって、確信してたんだろ」
「そう、なのかな?」
聖樹の力……、そういえば。
「話は変わるんだけどさ。聖樹について一つ、心当たりがあるんだ」
「心当たり?」
俺は聖樹が『色んな世界に根を張る』とも言われていることを知り、思い当たった一つの仮説をミラウッドに伝える。
「俺とじいさんがよく素材を採りに行った……元はばあさんの山なんだが。そこに、山の神がいるって言い伝えがあってさ。毎回入山する時には祈りを捧げてたんだよね。でも、じいさんが亡くなって一人で山に入ったら、見たこともない木が生えていて……それで、触れたらこっちに飛ばされた。……その直前に、どこか遠くに行きたいと願ったからだと思うんだが」
「それは興味深いな」
「祈りというのは、魔力の素にもなりますから。もしかすると聖樹の一枝であったその木は、おじいさまの祈りが失われたことによって擬態する力を失ったのかもしれませんわ」
「! 擬態、か」
それなら見たことがない木が突然生えていたのも納得だ。
「おまけに残された力が聖樹本体に還らずにコーヤに託された……ってとこか?」
「それなら辻褄が合うな」
「なら、もしかして……」
「コーヤの世界の枝が消失したことにより、コーヤと弓師殿の祈りを魔力へと変換する機能が失われた。その影響で精霊様たちが眠りについたのであれば……コーヤの力を還せば、精霊たちが目覚める可能性はある」
「ま、やってみりゃイイだろ。減るもんじゃねぇし」
精霊が眠りについた森は、色々と危険が多い。
もし俺に宿るらしい聖樹の力が役に立つなら……。
「そうだな、やってみよう」
神賜魔法の鑑定。なんだか遠くにいるセローにまで届いたらしい変な魔力。
聖樹の枝に宿った力を拡散させた力。
この世界で一人過ごすことになっていたら強力なカードとなっていたであろう不思議な力。
今は一人じゃない。
それが無くなったとしても、きっと大丈夫だ。
0
あなたにおすすめの小説
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる