ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬

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第1章 ダンジョン開拓編

2、スキル〈ホームセンター〉が、想像以上に本気だった

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 灯ったばかりの白い光が、石の通路をまんべんなく照らしていた。さっきまで闇だった場所が、いまは「ただの部屋の手前」みたいに見える。光があれば落ち着く。人間って単純だな、と悠人は自分で笑いそうになる。

 外を振り返ると、草原はもう日の色を失いかけていた。風が強くなり、背中に冷たさが貼りつく。遠くの王都はかろうじてまだ見えるが、当然だが距離は縮まらない。今日のところは、無理をしないのが正解だ。

 「よし。今夜はここでキャンプ、いや、勝手に宿泊をしよう」

 妙に元気な宣言をしてから、悠人はもう一度、半透明のウィンドウを見つめた。そこには先ほどと同じようにカテゴリが並んでいる。ホームセンター。異世界に来て最初に手に入れた力がそれって、どんなガチャだよ。だが、悪くはない。むしろ最高だ。

 入口から数メートル、慎重に歩く。足音は石に返ってくるが、怖いほど反響しない。天井は高すぎず、圧迫感もない。壁も床も、崩れそうなひびは見当たらなかった。

 「オッケー。少なくとも入口付近は安全っぽいな」

 スキル画面の端に小さく表示された文言を指でなぞる。

《現在の改装可能範囲:入口付近のみ》
 
 「つまり、今の俺の城はこの範囲ってことだな。狭いけど、ゼロよりかは百倍いい」

 そう言って、悠人はカテゴリを順番に開き始めた。【工具】にはドライバーやノコギリ、レンチが並ぶ。【資材】には木材、金具、床材、壁材。【家具】にはベッド、テーブル、椅子、棚。さらに【水回り】や【衛生】まである。戦うための剣も魔法の杖もない。代わりに生活が詰まっている。


 「これ、冒険者向きじゃない。完全に生活者向きだ。つまり俺向きだな」

 テンションが上がり、足取りも軽くなる。とはいえ、まずは優先順位だ。寒さと疲れに耐えられる環境。次に、落ち着ける場所。つまり床と壁、それにベッド。

 悠人は【資材】を開き、床材の一覧を眺めた。木目調、石板、カーペット、畳っぽいものまである。値段の代わりのゲージは、それぞれ違う長さで表示されていた。
 
「うーん、最初は無難に木でいこう。簡単そうだし」

 指で木目調の床材を選び、設置モードにする。床に半透明の枠が現れ、改装可能範囲の内側だけが淡く光った。枠を広げると、入口付近の石床がすっぽり収まるサイズになる。確認ボタンを押す。

 ぱっと、空気が変わった気がした。
 石の冷たさが消え、足裏に柔らかい反発が返ってくる。木の匂いがふわりと立ち上がった。目に見える変化以上に、「ここは自分の場所だ」という感覚が一気に強くなる。

 「うわ、これはいい! これだけで全然違うな」

 次に壁だ。全部は少し大変そうなので、まずは入口正面の一面だけをパネルで覆う。白っぽい木の壁材を選び、同じように枠を合わせて設置する。すると石の壁が、まるで内装工事を終えたみたいに整った面に置き換わった。
 光が反射して、室内がさらに明るく見える。影が薄いく怖さがまた一段減った。

 「この時点で、洞窟じゃなくてもはやワンルームだな」

 悠人は満足して息をつき、【家具】を開いた。ずらりと並んだベッドのアイコンに、思わず笑みがこぼれる。安い簡易ベッドから、ふかふかの高級ベッドまである。ここは最初だから、シンプルなシングルで十分だ。

 「ベッドって偉大だよな。俺の人生、今日それを再確認することになるとは」

 設置。木の床の上に、ベッドが出現する。フレームは素朴だが、マットレスはちゃんとしている。枕までついている。悠人は遠慮なく腰を下ろし、弾む感触を確かめた。

 「……はあ。最高……」

 つい、だらしない声が出る。身体の疲れが、じわっとほどけるのが分かった。外は夜になりつつある。なのに、ここは明るく、静かで、暖かい気がする。いや、実際の温度はまだ冷たいかもしれない。でも、風が遮られるだけで体感の温度は全然違う。

 悠人は立ち上がり、部屋の端へ歩いた。すると音が変わった。石に響いていた足音が、木の床では少し柔らかくなる。匂いも変わった。湿った土と石の匂いが薄まり、木の匂いが前に出る。

 「ダンジョンって、改装したらこんなに『普通』になるのか。いや、そもそも異世界って時点で普通じゃないけどな」

 思わずツッコミを入れ、また笑う。人は理解できない状況におかれると、おかしくなるとはこの事だな。

 気分が軽くなってきたところで、悠人はふと外の様子が気になった。安全確認はしておきたい。入口から出て、草原を見回す。


星が見え、空が広い。遠くで動物の鳴き声がする。草むらがざわりと揺れて、見えない何かが動いたような気がした。途端に背中がひやっとする。

 「うん、外はやっぱり怖いな。今日は室内コースで決まり!」

 即断即決で中へ戻る。ダンジョンの光が迎えてくれた瞬間、心臓の鼓動が落ち着くのが分かる。人間の順応は速い。さっきまで「未知で危険」だった場所が、今は「帰ってきた」みたいに感じる。
 ただ、問題もある。悠人の腹が鳴った。派手に。

 「はい来た。最大の敵、空腹さん」

 バッグからペットボトルと飴を取り出す。飴を口に入れると、甘さが広がって少しだけ落ち着く。しかし、これで夜を越えて明日も動くのは無理だ。

 悠人はウィンドウの【水回り】を開き、さらに【農業】を開いた。蛇口、タンク、シンク。小さな畑、プランター、種。いろいろある。いろいろありすぎる。だけど、今夜はもう時間がない。

 「明日はまず水だな。飲める水が確保できれば、だいぶ違う。それから食べ物……畑か、何か」

 口に出すと、明日の行動が少し現実味を帯びる。パニックにならず、やることを並べる。それだけで、怖さが薄れる。
 ベッドに腰を下ろし、悠人は天井のライトを見上げた。明るさが一定で眩しくない。もしかして自動調整がついているのかもしれない。ホームセンター、侮れない。

 「異世界転移って、もっと『勇者として戦え!』みたいなやつじゃないのかよ。俺、いきなり内装業者なんだけど」

 笑いながらも、胸の奥に小さな不安は残る。ここはどこか、元の世界に戻れるのか、王都に行けば何か分かるのか、そもそも言葉は通じるのか。

 だけど、考えすぎても仕方ない。今、手元にあるのはこのスキルと、この場所だ。なら、まずは生き残る。そして快適にする。悠人の好奇心が、恐怖を追い越していく。
 
 「よし。明日は『水』と『食』。それができたら、次は風呂だな。だって俺、頑張ったし」

 自分で自分を褒めてから、悠人は靴を脱いでベッドに上がった。布団をかぶると、外の冷たさが遠のく。ライトが少しだけ暗くなった。やっぱり自動調整だ。気が利きすぎる。

 「いいぞ、ホームセンター。お前、今日から相棒な」

 そんなことを言いながら、目を閉じる。意識が沈んでいく直前、ウィンドウの端に小さな表示が見えた気がした。改装可能範囲、条件、拡張、新スキル、まだ読めない細かい文字。

 「……明日、ちゃんと読んでみよう。楽しみだ」

 眠る前に、悠人はもう一度【資材】を開き、入口側に簡易の木扉と内鍵を設置した。ガチガチの要塞じゃないが、気持ちの問題だ。扉がカチッと閉まった音を聞いた瞬間、肩の力が抜ける。

 「完璧! 俺の初日、百点。異世界でもちゃんと暮らせそうだ」

 外の風の音は遠く、ここには木の匂いと柔らかな光だけが残っていた。
 最後は明るい気持ちのまま、悠人は眠りに落ちた。

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