ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬

文字の大きさ
4 / 14
第1章 ダンジョン開拓編

4、ネコミミの女の子は、ダンジョンの中を見て目を丸くした

しおりを挟む
 入口の外から聞こえた声は、澄んでいて、少しだけ警戒が混ざっていた。
 
「あれ……?
 ここ、ダンジョンだよね?
 なんで、こんなに明るいの?」

 扉の影に半身を寄せていた悠人は、思わず息を止めた。女の子の声。しかも言葉が通じている。ここが異世界だとしても、会話が成立するだけで救われる。

 「えっと、そこにいるのは……人、だよね?」

 悠人はなるべく穏やかな声を出した。驚かせたくないし、変に威圧したくもない。
 草の揺れが止まり、次に、ひょこっと顔が覗いた。

 小さめの顔に、大きな瞳。頭の上には、ふさっとしたネコミミが二つ。耳だけじゃない。腰の後ろには、もふもふの尻尾が一本、揺れている。尻尾は警戒しているのか、ぴんと張って、先だけが小さく動いていた。

 「……人、ネコの獣人だよ。たぶん、あなたは人でしょ?」

 少女は一歩だけ前に出て、入口の明るさを眩しそうに見上げた。

 「ねえ、こんなところで何してるの? ダンジョンの前で、ずっと明かりがついてるから、気になって……」

 「俺は佐々木悠人。昨日、ここに迷い込んだんだ。王都が見えたから歩いてたら、この入口を見つけて」

 悠人は自分の胸を指して名乗ったあと、相手の様子をうかがった。尻尾の先が、わずかにゆるむ。

 「迷い込んだ……って、旅人?」

 少女は首をかしげ、耳がぴくりと動いた。

 「私はミア。近くに住んでるの。ダンジョンは危ないって言われてるから、普段は近づかないんだけど……今日は、明るすぎて」

 「うん、そうだよな。普通は暗いし危ないよな。俺もよく知ってる」

 悠人は苦笑して、扉の内側を指差した。

 「俺のせいなんだ。中に入ったら、変なスキルが出てさ。照明を置けたんだ」

 ミアの尻尾が、ぴくん、と跳ねた。驚いたときの動きだと直感で分かる。

 「照明を……置けた!?」

 ミアはもう一度入口を見て、悠人を見る。

 「置けるって、持ってきたの? それとも、買ったの?」
 
 「買った……っていうより、出した、に近いかな。俺もよく分かってないんだけど」

 悠人は手のひらを見せて、慌てて付け加えた。

 「怪しいよな。だから、無理に入ってって言わない。入口だけでも見て、納得できなかったら帰っていい」

 ミアは少し考えるように黙った。尻尾が大きく左右に揺れ、耳が前を向く。怖い気持ちはあるが、好奇心が勝っているのが分かった。
 
 「入口のところだけなら……」

 ミアは一歩、また一歩と近づき、光の境目に立った。

 「本当に、明るい。ダンジョンって、もっと怖い場所なのに」

 「怖いの、俺も分かる。だから、ここから先はまだ行ってない。入口付近だけ」

 悠人はそう言って、ふと気づく。いまの場所は、昨日の夜の勢いで整えたままだ。椅子もテーブルもない。立ち話は落ち着かない。

 「ちょっと待って。ここ、座るところがなくてさ。すぐ用意する」

 悠人はウィンドウを呼び出し、ミアに見えない角度で指を動かした。【家具】から小さめのテーブルと椅子を二脚。ついでに簡易の仕切りを一つ。照明の明るさも少しだけ落として、眩しさを和らげる。

 ぱっ、ぱっ、と軽い音もなく、家具が現れた。
 ミアの目が丸くなる。尻尾がふわっと広がり、耳がぴんと立った。

 「えっ……今、何したの?」

 ミアはテーブルの端に手を伸ばし、指先で確かめる。

 「触れる……本物だよね?」

 「本物だよ。俺も毎回びっくりする」

 悠人は照れくさく笑って、椅子を引いた。

 「どうぞ。ここなら落ち着いて話せる」

 ミアは一瞬だけ周囲を見回してから、椅子に腰を下ろした。背筋はまっすぐだが、尻尾が椅子の背で小さく揺れている。緊張と興味が混ざっているのが伝わる。

 「ねえ、ささ……じゃなくて、悠人。ここ、本当にダンジョンの中?」

 ミアは声をひそめるでもなく、普通の声量で聞いた。

 「だって、匂いが違う。石の匂いじゃなくて……木の匂いがする」

 「昨日、床と壁を変えたんだ。冷たいと寝られないからさ」

 悠人は言いながら、少しだけ誇らしい気持ちになる。生き残りというより、暮らしを作っている感覚だ。

 「それに、水も出る」

 「水?」

 ミアの耳がぴくりと動いた。
 悠人は立ち上がり、水場へ案内した。蛇口をひねると、冷たい水が流れ出す。
 ミアはその音に、また目を丸くした。

 「え、待って。ダンジョンの中でこんな感じで水の音って、聞いたことない」

 ミアは慎重に手を伸ばし、指先で水に触れる。

 「冷たい……でも、きれい」

 「飲めると思う。俺は飲んだ」

 悠人がそう言うと、ミアは少しだけ唇を尖らせた。

 「先に飲んだって言われると安心するけど、ちょっと怖いなあ」

 そう言いながらも、ミアは両手で水を受け、少し口に含んだ。

 「……うん。変な味しない。これ、外の井戸よりおいしいかも」

 悠人は思わず笑う。

 「味の評価するんだ」

 「するよ。だって、水って大事だもん」

 ミアは当然みたいに言って、尻尾をふわっと揺らした。さっきより柔らかい動きだ。
 次に悠人は、トイレの個室を示した。

 「それで、これ。……ちょっと説明しづらいけど」

 ミアは扉を見て首を傾げる。

 「部屋? なんの部屋?」

 悠人は言葉を探し、咳払いをした。

 「えっと、用を足す場所。俺の世界だと、こういうのが普通でさ」

 ミアは一拍置いてから、目をぱちぱちさせた。

 「えっ。そんなの家の中に作るの? 外じゃなくて?」

 驚きと興味が混ざって、尻尾がひゅんと揺れる。

 「作れるなら、中に作った方が楽だろ?」

悠人が軽く言うと、ミアは吹き出しそうになって口元を押さえた。

 「変な人。……でも、ちょっと分かる。雨の日とか、面倒だし」

 案内を終えてテーブルに戻ると、ミアは落ち着いた目で周囲を見回した。

 「ここ、怖くないね。おかしいくらいに怖くない」

 ミアは椅子の背に尻尾を巻きつけながら言った。

 「ねえ、悠人。あなた、ダンジョンの奥に行くつもり?」

 「今は行かない。入口だけで手一杯。でも、いつかは行くかもな」

 悠人は正直に答える。格好つける必要はない。

 「それに、まだ食べ物もないし。だから畑も作った」

 「畑まで?」

 ミアは目を輝かせ、思わず立ち上がりかけた。

 「見たい。……入口の近くだよね?」

 「うん、こっち」

 悠人は畑へ案内した。木枠の中の土はしっとりしていて、中央には小さな装置が淡く光っている。
 ミアは土に指を差し入れ、すぐに引っ込めた。

 「温かい。なんで?」

 悠人は装置を指した。

 「魔力循環装置。植物の成長が早くなるらしい。俺も今日置いたばかりでさ」

 「便利すぎる……」

 ミアは呟いて、尻尾がふわふわと左右に揺れる。嬉しいときの動きに見えた。

 「ダンジョンで畑なんて、聞いたことないよ。しかも、こんなに明るくて、水まであって……」

 悠人は照れくさく頭をかいた。

 「俺も、こんなことになるとは思わなかった。昨日は正直、夜を越えられるか不安だったし」

 ミアは少しだけ表情をやわらげた。

 「そうだよね。ここ、王都の近くでも、夜は危ないよ。獣も出るし、変な人もいるし」

 言い終えたあと、ミアは慌てて付け足す。

 「悠人が変って意味じゃないよ。そうじゃなくて、外は危ないってこと」

 「分かってる。心配してくれてるんだろ?」

 悠人が言うと、ミアの耳が少しだけ後ろに倒れ、尻尾が照れたみたいに揺れた。
 テーブルに戻り、悠人は水をコップの代わりに小さなカップで出した。スキルで呼び出したものだ。ミアは両手で持ち、ちびちび飲む。

 「ねえ、悠人。ここ、あなた一人で使うの?」

 ミアが尋ねる。

 「今はそうだな。誰も知らないし」

 悠人は言ってから、続ける。

 「でも、別に独りが好きってわけでもない。話し相手がいるだけで助かる。今日、君が来てくれたのも」

 ミアは視線を落とし、尻尾の先で椅子の脚を軽く叩いた。

 「……じゃあ、また来てもいい?」

 上目づかいで聞いてくる声は、警戒より好奇心の方が大きい。
 悠人はすぐに頷いた。

 「もちろん。入口だけでもいいし、様子見でもいい。無理はしなくていい」
 少し考えてから、悠人は付け足す。

 「ただ、来るなら、合図してほしい。俺が驚くから」

 ミアはくすっと笑った。

 「それ、私の台詞だよ。ダンジョンが明るい方が、びっくりだもん」

 尻尾が嬉しそうに揺れる。
 外はいつの間にか夕方の色になっていた。ミアは入口を見て、名残惜しそうに耳を動かす。

 「今日は帰るね。うち、心配するから」

 そして、少しだけ声を小さくする。

 「でも……ここ、変だけど、好きかも。だから、また来る」

 「じゃあ待ってる」

 悠人が言うと、ミアは入口の光の境目で立ち止まった。振り返り、にっと笑う。

 「じゃあ、次はもっと驚かせて。悠人のホームセンター、まだいっぱいあるんでしょ?」

定住者:1人/観光客:1人
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

処理中です...