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第1章
5、畑の芽は、ちゃんと育っていた
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翌日。
木の床の上で目を覚ました悠人は、まず、空気の違いに気づいた。昨日までの静けさに、かすかな気配が混ざっている。誰かが近くにいるときの、あの感じだ。布団を持ち上げて起き上がると、入口の方から小さな足音が聞こえた。
「おはよう、悠人!」
明るい声と一緒に、ネコミミの少女が顔を出した。ミアだ。尻尾が楽しそうに左右へ大きく揺れていて、迷いなく部屋の中に入ってくる。
「朝から元気だな」
悠人が笑うと、ミアは胸を張った。
「だって、ここに来ると面白いんだもん。昨日の光、今日もちゃんとついてるし」
ミアは言いながら部屋を見回し、すぐに視線を畑へ向けた。
「それより、畑!畑! 昨日の畑、どうなった?」
「俺も気になってた。行こう」
二人で畑の前にしゃがみ込む。プランターの土はしっとりと落ち着き、魔力循環装置の石が淡く脈打っていた。芽は確かに伸び、葉の色も濃くなっている。
「ほら、やっぱり大きくなってる!」
ミアは嬉しそうに葉を撫でた。尻尾がふわふわ揺れる。
「普通の畑なら、こんなに早く変わらないよ。これ、すごいね」
「効果、ほんとにあるみたいだな。置いた俺がいちばん驚いてる」
ミアは土の際をのぞき込み、小さな実を見つけた。
「ねえ、これ、抜けそう。食べられる分だけ、収穫しよ?」
「もう? 早くないか?」
「早いから、いいんだよ。手伝ってあげる」
ミアは土をほぐして根を傷つけないように抜き、悠人にも動きを見せた。
「力で引っ張らないで。先に土をゆるめると、するっと抜けるよ」
「こう?」
「うん、上手。ほら、きれいに取れた」
小さな収穫物が手のひらに増えていく。量は多くないが、色があるだけで心が軽くなる。
「これが今日のごはんになるって思うと、急に現実味が出るな」
ミアは当然みたいに頷いた。
「せっかく畑があるんだもん。食べよう。どうやって食べるの?」
悠人は水場を見て、次に壁際の空きスペースを見た。食べるなら、作る場所が要る。
「簡単な台所を作ってみる。切って、火を通すくらいならできるはずだ」
ミアの耳がぴくりと立つ。
「台所まで? ここ、ほんとに何でも出るんだね」
悠人はウィンドウを開き、調理台と簡易コンロ、鍋、小さなフライパン、包丁とまな板を選ぶ。設置を確定すると、畑の近くにコンパクトなキッチンが現れた。木の調理台に道具が揃い、コンロの火口が小さく光る。
「……ほんとに台所だ」
ミアは調理台に指を置き、驚きながらも楽しそうに笑った。
「じゃあ、私も手伝う。切るの、好き」
「助かる。薄く切ってくれる?」
「任せて。包丁、これでいい?」
悠人は野菜を洗い、ミアは手際よく切る。鍋に入れて火を通すと、湯気と一緒に匂いが立ち上がった。ダンジョンの空気に、はっきりと「ごはんの匂い」が混ざる。
「火、安定してるね。煙も少ない」
「道具が良いんだろうな」
ミアは木のスプーンで味を確かめ、頷いた。
「うん。これなら、あったかくておいしい」
出来上がった簡単な料理を、昨日作ったテーブルへ運ぶ。椅子に座り、湯気の立つ器を前にすると、ここがダンジョンであることを一瞬忘れそうになる。
悠人がひと口食べると、野菜の甘みが広がった。ミアも同じように頷き、尻尾をやわらかく揺らす。
「ちゃんとごはんだね」
「うん。……ちゃんとごはんだ」
外の世界がどうであれ、今この瞬間だけは、二人の目の前に温かい湯気がある。それだけで十分だった。
食べ終えると、ミアは器を両手で包み、ふうっと息を吐いた。
「お腹が温かくなると、安心するね。外で食べるのと違う」
「屋根と椅子のありがたみ、異世界で学ぶとは思わなかった」
悠人がそう言うと、ミアはくすっと笑う。
「悠人、変なところで前向きだよね。でも、そういうの、嫌いじゃない」
二人で後片付けをする。悠人が蛇口で鍋をすすぎ、ミアが布で拭く。水音が静かに響き、湿った湯気が少しだけ残っていた。
「ねえ、畑、明日も伸びるかな」
ミアが畑の方を見て言う。
「装置がこのままなら、伸びると思う。次は、もう少し種類を増やしたいな」
「じゃあ、私も見たい。育つの、楽しい」
尻尾が小さく揺れ、耳が前を向く。遊びに来たはずなのに、いつの間にかこの場所を自分の居場所みたいに眺めている。
悠人はその視線に気づき、胸の奥が少しだけ軽くなる。昨日まで一人だった空間に、会話と笑い声が混ざっている。それだけで、ダンジョンの冷たさが薄れていく気がした。
「また来てくれて、助かったよ」
悠人が言うと、ミアは少し照れたみたいに目をそらし、それでも明るく頷いた。
「うん。だって、ここは面白いもん。次は何が増えるの?」
その問いに、悠人は笑いながらキッチンの光を見上げた。
定住者:1人/観光客:1人
木の床の上で目を覚ました悠人は、まず、空気の違いに気づいた。昨日までの静けさに、かすかな気配が混ざっている。誰かが近くにいるときの、あの感じだ。布団を持ち上げて起き上がると、入口の方から小さな足音が聞こえた。
「おはよう、悠人!」
明るい声と一緒に、ネコミミの少女が顔を出した。ミアだ。尻尾が楽しそうに左右へ大きく揺れていて、迷いなく部屋の中に入ってくる。
「朝から元気だな」
悠人が笑うと、ミアは胸を張った。
「だって、ここに来ると面白いんだもん。昨日の光、今日もちゃんとついてるし」
ミアは言いながら部屋を見回し、すぐに視線を畑へ向けた。
「それより、畑!畑! 昨日の畑、どうなった?」
「俺も気になってた。行こう」
二人で畑の前にしゃがみ込む。プランターの土はしっとりと落ち着き、魔力循環装置の石が淡く脈打っていた。芽は確かに伸び、葉の色も濃くなっている。
「ほら、やっぱり大きくなってる!」
ミアは嬉しそうに葉を撫でた。尻尾がふわふわ揺れる。
「普通の畑なら、こんなに早く変わらないよ。これ、すごいね」
「効果、ほんとにあるみたいだな。置いた俺がいちばん驚いてる」
ミアは土の際をのぞき込み、小さな実を見つけた。
「ねえ、これ、抜けそう。食べられる分だけ、収穫しよ?」
「もう? 早くないか?」
「早いから、いいんだよ。手伝ってあげる」
ミアは土をほぐして根を傷つけないように抜き、悠人にも動きを見せた。
「力で引っ張らないで。先に土をゆるめると、するっと抜けるよ」
「こう?」
「うん、上手。ほら、きれいに取れた」
小さな収穫物が手のひらに増えていく。量は多くないが、色があるだけで心が軽くなる。
「これが今日のごはんになるって思うと、急に現実味が出るな」
ミアは当然みたいに頷いた。
「せっかく畑があるんだもん。食べよう。どうやって食べるの?」
悠人は水場を見て、次に壁際の空きスペースを見た。食べるなら、作る場所が要る。
「簡単な台所を作ってみる。切って、火を通すくらいならできるはずだ」
ミアの耳がぴくりと立つ。
「台所まで? ここ、ほんとに何でも出るんだね」
悠人はウィンドウを開き、調理台と簡易コンロ、鍋、小さなフライパン、包丁とまな板を選ぶ。設置を確定すると、畑の近くにコンパクトなキッチンが現れた。木の調理台に道具が揃い、コンロの火口が小さく光る。
「……ほんとに台所だ」
ミアは調理台に指を置き、驚きながらも楽しそうに笑った。
「じゃあ、私も手伝う。切るの、好き」
「助かる。薄く切ってくれる?」
「任せて。包丁、これでいい?」
悠人は野菜を洗い、ミアは手際よく切る。鍋に入れて火を通すと、湯気と一緒に匂いが立ち上がった。ダンジョンの空気に、はっきりと「ごはんの匂い」が混ざる。
「火、安定してるね。煙も少ない」
「道具が良いんだろうな」
ミアは木のスプーンで味を確かめ、頷いた。
「うん。これなら、あったかくておいしい」
出来上がった簡単な料理を、昨日作ったテーブルへ運ぶ。椅子に座り、湯気の立つ器を前にすると、ここがダンジョンであることを一瞬忘れそうになる。
悠人がひと口食べると、野菜の甘みが広がった。ミアも同じように頷き、尻尾をやわらかく揺らす。
「ちゃんとごはんだね」
「うん。……ちゃんとごはんだ」
外の世界がどうであれ、今この瞬間だけは、二人の目の前に温かい湯気がある。それだけで十分だった。
食べ終えると、ミアは器を両手で包み、ふうっと息を吐いた。
「お腹が温かくなると、安心するね。外で食べるのと違う」
「屋根と椅子のありがたみ、異世界で学ぶとは思わなかった」
悠人がそう言うと、ミアはくすっと笑う。
「悠人、変なところで前向きだよね。でも、そういうの、嫌いじゃない」
二人で後片付けをする。悠人が蛇口で鍋をすすぎ、ミアが布で拭く。水音が静かに響き、湿った湯気が少しだけ残っていた。
「ねえ、畑、明日も伸びるかな」
ミアが畑の方を見て言う。
「装置がこのままなら、伸びると思う。次は、もう少し種類を増やしたいな」
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悠人はその視線に気づき、胸の奥が少しだけ軽くなる。昨日まで一人だった空間に、会話と笑い声が混ざっている。それだけで、ダンジョンの冷たさが薄れていく気がした。
「また来てくれて、助かったよ」
悠人が言うと、ミアは少し照れたみたいに目をそらし、それでも明るく頷いた。
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定住者:1人/観光客:1人
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