ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬

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第1章

4、ネコミミの女の子は、ダンジョンの中を見て目を丸くした

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 入口の外から聞こえた声は、澄んでいて、少しだけ警戒が混ざっていた。
 
「あれ……?
 ここ、ダンジョンだよね?
 なんで、こんなに明るいの?」

 扉の影に半身を寄せていた悠人は、思わず息を止めた。女の子の声。しかも言葉が通じている。ここが異世界だとしても、会話が成立するだけで救われる。

 「えっと、そこにいるのは……人、だよね?」

 悠人はなるべく穏やかな声を出した。驚かせたくないし、変に威圧したくもない。
 草の揺れが止まり、次に、ひょこっと顔が覗いた。

 小さめの顔に、大きな瞳。頭の上には、ふさっとしたネコミミが二つ。耳だけじゃない。腰の後ろには、もふもふの尻尾が一本、揺れている。尻尾は警戒しているのか、ぴんと張って、先だけが小さく動いていた。

 「……人だよ。たぶん、あなたも人でしょ?」

 少女は一歩だけ前に出て、入口の明るさを眩しそうに見上げた。

 「ねえ、こんなところで何してるの? ダンジョンの前で、ずっと明かりがついてるから、気になって……」

 「俺は佐々木悠人。昨日、ここに迷い込んだんだ。王都が見えたから歩いてたら、この入口を見つけて」

 悠人は自分の胸を指して名乗ったあと、相手の様子をうかがった。尻尾の先が、わずかにゆるむ。

 「迷い込んだ……って、旅人?」

 少女は首をかしげ、耳がぴくりと動いた。

 「私はミア。近くに住んでるの。ダンジョンは危ないって言われてるから、普段は近づかないんだけど……今日は、明るすぎて」

 「うん、そうだよな。普通は暗いよな」

 悠人は苦笑して、扉の内側を指差した。

 「俺のせい。中に入ったら、変なスキルが出てさ。照明を置けたんだ」

 ミアの尻尾が、ぴくん、と跳ねた。驚いたときの動きだと直感で分かる。

 「照明を……置けた?」

 ミアはもう一度入口を見て、悠人を見る。

 「置けるって、持ってきたの? それとも、買ったの?」
 
 「買った……っていうより、出した、に近い。俺もよく分かってないんだけど」

 悠人は手のひらを見せて、慌てて付け加えた。

 「怪しいよな。だから、無理に入ってって言わない。入口だけでも見て、納得できなかったら帰っていい」

 ミアは少し考えるように黙った。尻尾が左右に揺れ、耳が前を向く。好奇心が勝っているのが分かった。
 
 「入口のところだけなら……」

 ミアは一歩、また一歩と近づき、光の境目に立った。

 「本当に、明るい。ダンジョンって、もっと怖い場所なのに」

 「怖いの、俺も分かる。だから、ここから先はまだ行ってない。入口付近だけ」

 悠人はそう言って、ふと気づく。いまの場所は、昨日の夜の勢いで整えたままだ。椅子もテーブルもない。立ち話は落ち着かない。

 「ちょっと待って。ここ、座るところがなくてさ。すぐ用意する」

 悠人はウィンドウを呼び出し、ミアに見えない角度で指を動かした。【家具】から小さめのテーブルと椅子を二脚。ついでに簡易の仕切りを一つ。照明の明るさも少しだけ落として、眩しさを和らげる。

 ぱっ、ぱっ、と軽い音もなく、家具が現れた。
 ミアの目が丸くなる。尻尾がふわっと広がり、耳がぴんと立った。

 「えっ……今、何したの?」

 ミアはテーブルの端に手を伸ばし、指先で確かめる。

 「触れる……本物だよね?」

 「本物。俺も毎回びっくりする」

 悠人は照れくさく笑って、椅子を引いた。

 「どうぞ。ここなら落ち着いて話せる」

 ミアは一瞬だけ周囲を見回してから、椅子に腰を下ろした。背筋はまっすぐだが、尻尾が椅子の背で小さく揺れている。緊張と興味が混ざっているのが伝わる。

 「ねえ、悠と……じゃなくて、悠人。ここ、本当にダンジョンの中?」

 ミアは声をひそめるでもなく、普通の声量で聞いた。

 「だって、匂いが違う。石の匂いじゃなくて……木の匂いがする」

 「昨日、床と壁を変えたんだ。冷たいと寝られないからさ」

 悠人は言いながら、少しだけ誇らしい気持ちになる。生き残りというより、暮らしを作っている感覚だ。

 「それに、水も出る」

 「水?」

 ミアの耳がぴくりと動いた。
 悠人は立ち上がり、水場へ案内した。蛇口をひねると、冷たい水が流れ出す。
 ミアはその音に、また目を丸くした。

 「え、待って。ダンジョンの中で水の音って、聞いたことない」

 ミアは慎重に手を伸ばし、指先で水に触れる。

 「冷たい……でも、きれい」

 「飲めると思う。俺は飲んだ」

 悠人がそう言うと、ミアは少しだけ唇を尖らせた。

 「先に飲んだって言われると安心するけど、ちょっとずるい」

 そう言いながらも、ミアは両手で水を受け、少し口に含んだ。

 「……うん。変な味しない。これ、外の井戸よりおいしいかも」

 悠人は思わず笑う。

 「味の評価、するんだ」

 「するよ。だって、水って大事だもん」

 ミアは当然みたいに言って、尻尾をふわっと揺らした。さっきより柔らかい動きだ。
 次に悠人は、トイレの個室を示した。

 「それで、これ。……ちょっと説明しづらいけど」

 ミアは扉を見て首を傾げる。

 「部屋? なんの部屋?」

 悠人は言葉を探し、咳払いをした。

 「えっと、用を足す場所。俺の世界だと、こういうのが普通でさ」

 ミアは一拍置いてから、目をぱちぱちさせた。

 「えっ。そんなの、家の中に作るの? 外じゃなくて?」

 驚きと興味が混ざって、尻尾がひゅんと揺れる。

 「作れるなら、作った方が楽だろ?」

悠人が軽く言うと、ミアは吹き出しそうになって口元を押さえた。

 「変な人。……でも、ちょっと分かる。雨の日とか、面倒だし」

 案内を終えてテーブルに戻ると、ミアは落ち着いた目で周囲を見回した。

 「ここ、怖くない。おかしいくらいに怖くない」

 ミアは椅子の背に尻尾を巻きつけながら言った。

 「ねえ、悠人。あなた、ダンジョンの奥に行くつもり?」

 「今は行かない。入口だけで手一杯」

 悠人は正直に答える。格好つける必要はない。

 「それに、食べ物もないし。だから畑も作った」

 「畑まで?」

 ミアは目を輝かせ、思わず立ち上がりかけた。

 「見たい。……入口の近くだよね?」

 「うん、こっち」

 悠人は畑へ案内した。木枠の中の土はしっとりしていて、中央には小さな装置が淡く光っている。
 ミアは土に指を差し入れ、すぐに引っ込めた。

 「温かい。なんで?」

 悠人は装置を指した。

 「魔力循環装置。植物の成長が早くなるらしい。俺も今日置いたばかりでさ」

 「便利すぎる……」

 ミアは呟いて、尻尾がふわふわと左右に揺れる。嬉しいときの動きに見えた。

 「ダンジョンで畑なんて、聞いたことないよ。しかも、こんなに明るくて、水まであって……」

 悠人は照れくさく頭をかいた。

 「俺も、こんなことになるとは思わなかった。昨日は正直、夜を越えられるか不安だったし」

 ミアは少しだけ表情をやわらげた。

 「そうだよね。ここ、王都の近くでも、夜は危ないよ。獣も出るし、変な人もいるし」

 言い終えたあと、ミアは慌てて付け足す。

 「悠人が変って意味じゃないよ。そうじゃなくて、外は危ないってこと」

 「分かってる。心配してくれてるんだろ?」

 悠人が言うと、ミアの耳が少しだけ後ろに倒れ、尻尾が照れたみたいに揺れた。
 テーブルに戻り、悠人は水をコップの代わりに小さなカップで出した。スキルで呼び出したものだ。ミアは両手で持ち、ちびちび飲む。

 「ねえ、悠人。ここ、あなた一人で使うの?」

 ミアが尋ねる。

 「今はそうだな。誰も知らないし」

 悠人は言ってから、続ける。

 「でも、別に独りが好きってわけでもない。話し相手がいるだけで助かる。今日、君が来てくれたのも」

 ミアは視線を落とし、尻尾の先で椅子の脚を軽く叩いた。

 「……じゃあ、また来てもいい?」

 上目づかいで聞いてくる声は、警戒より好奇心の方が大きい。
 悠人はすぐに頷いた。

 「もちろん。入口だけでもいいし、様子見でもいい。無理はしなくていい」
 少し考えてから、悠人は付け足す。

 「ただ、来るなら、合図して。俺が驚くから」

 ミアはくすっと笑った。

 「それ、私の台詞だよ。ダンジョンが明るい方が、びっくりだもん」

 尻尾が嬉しそうに揺れる。
 外はいつの間にか夕方の色になっていた。ミアは入口を見て、名残惜しそうに耳を動かす。

 「今日は帰るね。うち、心配するから」

 そして、少しだけ声を小さくする。

 「でも……ここ、変だけど、好きかも。だから、また来る」

 「待ってる」

 悠人が言うと、ミアは入口の光の境目で立ち止まった。振り返り、にっと笑う。

 「じゃあ、次はもっと驚かせて。悠人のホームセンター、まだいっぱいあるんでしょ?」

定住者:1人/観光客:1人
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