ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬

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第1章 ダンジョン開拓編

7、ミアは帰った……はずだった

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翌朝。
 目を開けると、ダンジョンの天井に並ぶ灯りが、夜よりやわらかい色で部屋を満たしていた。外の朝日とは違うのに、「朝だ」と自然に思える。そんなことが、少し不思議で、少し嬉しい。

 悠人は布団を持ち上げて起き上がった。木の床は冷たくない。壁から漂う木の匂いも、もう当たり前になりつつある。畑の方からは、魔力循環装置が静かに動いている気配がする。昨日よりもずっと“暮らし”に近い。
 そのとき、入口の方から小さな足音がした。

 「おはよう、悠人……」

 扉が少しだけ開き、ミアが顔を出した。いつもの元気な雰囲気とは違う。瞼は少し重そうで、声もまだ寝ぼけている。何より目を引いたのは、髪だ。あちこち跳ねて、明らかに寝癖がついている。ネコミミも片方が微妙に曲がっていて、尻尾は完全に垂れていた。先だけが、かすかにぴくぴく動く。

 悠人は一瞬、言葉を失った。笑ってはいけない。けれど、口元が勝手に緩む。

 「……その、寝癖すごいな」

 ミアは固まった。頭の上の耳がぴくんと跳ね、尻尾の先がびくっと反応する。

 「え?」

 ミアは両手で髪を押さえたが、鏡はない。押さえたところでどうにもならないのに、必死だ。

 「……あ、やっぱり?」

 間を置いて、少しだけ目を逸らし、言い訳のように付け足す。

 「昨日、あったかかったから……」

 「理由になってないけど、まあ、そういうことにしておこう」

 悠人は笑いをこらえながら言った。

 「とりあえず朝ごはん、作るか」

 ミアは即答した。

 「うん!作ろう!」

 切り替えが早すぎて、悠人は笑い朝から笑顔だ。ミアは自分の髪をもう一度押さえ、耳をぴんと立て直そうとしたが、うまくいかない。結局、少し照れたように小さく咳払いをして、悠人の横に並んだ。

 「畑、見に行こう。昨日より育ってるかもしれない」

 「うん。ちょっと気になってたんだ」

 二人で畑の前にしゃがみ込む。プランターの土はしっとりと落ち着き、魔力循環装置の石が淡く脈打っていた。芽は確かに伸びている。葉の色も昨日より濃い。ほんの一晩で変化が分かるのが面白い。

 ミアは嬉しそうに葉を撫でた。寝癖のままなのに、表情はすっかり目覚めている。尻尾はまだ少し垂れているが、さっきほどではない。

 「また大きくなってる。ほんとに早いね」

 「装置の効果、ちゃんと出てるんだな」

 悠人が言うと、ミアは土の際を覗き込み、小さな実を見つけた。

 「これ、抜けそう。朝ごはん分、収穫しよ?」

 「朝から収穫って、いいな。手伝うよ」

 「うん、ありがと。力で引っ張らないでね。土を先にゆるめると、するっと抜ける」

 ミアが手本を見せる。根元の周りを指でほぐし、そっと持ち上げる。実が傷つかずに抜ける。悠人も同じようにやってみると、今度はうまくいった。

 「おお、きれいに取れた」

 「でしょ? 朝から気分いいよね」

 少量の収穫物が手のひらに増えていく。量は多くないけれど、色があるだけで心が軽い。飴だけに頼っていた頃が遠く感じる。

 畑から戻る途中、悠人はキッチンの前で足を止めた。昨日作った簡易キッチンは便利だったが、朝は作業が重なる。切る場所、置く場所、しまう場所。少しだけ足りない。

 「朝は、台所が混むな」

 悠人が呟くと、ミアが首をかしげる。

 「混むって、私しかいないよ?」

 「動線のことだよ。ちょっと広げたほうがいい。」

 悠人はウィンドウを開き、【家具】から調理台を追加する。食器棚と収納棚も設置し、さらに【水回り】から保存庫――簡易の冷蔵と乾物棚が一体になったような箱を選んだ。確定を押すと、キッチンの横にきれいに収まる。
 ミアは目を丸くした。寝癖が少し揺れる。

 「え、増えた……。これ、毎日使えるやつだよね?」

 「そう。食べ物を無駄にしなくて済む」

 「いいね。好きだよこういうの」

 朝食の準備を始める。ミアが野菜を洗い、悠人が切る。火をつけると、湯気が立ち上がり、匂いが部屋に広がった。ダンジョンの空気に「朝ごはんの匂い」が混ざるのが、少しだけ感動的だった。

 ミアがふっと笑う。

 「朝ごはんの匂い好き」

 「分かるわかる!この匂いがあると、ちゃんと朝だって思える」

 「うん。ここやっぱり変だけど……落ち着く」

 簡単な料理が出来上がり、テーブルに並べる。椅子に座り、湯気の立つ器を前にすると、ここがダンジョンであることを一瞬忘れそうになる。

 悠人がひと口食べると、野菜の甘みが広がった。ミアも頷き、尻尾が少しだけ持ち上がる。

 「ちゃんと朝ごはんだね」

 「うん。ちゃんと朝ごはんだ」

 食べ終えると、ミアは器を両手で包み、ふうっと息を吐いた。

 「お腹が温かくなると、安心するね。外で食べるのと違う」


 二人で後片付けをする。悠人が蛇口で鍋をすすぎ、ミアが布で拭く。水音が静かに響き、湿った湯気が少しだけ残っていた。
 それから、ミアが何気なく言った。

 「今日は一回、家に帰る」

 悠人は手を止め、ミアを見る。

 「うん、分かった」

 言葉はそれだけなのに、少しだけ静かな間が落ちた。ミアは尻尾を小さく揺らし、入口の方へ歩く。
 入口付近まで来たところで、悠人はふと思い出して尋ねた。

 「そういや、ミアの家ってどこなの?」

 ミアは外を指差した。

 「あそこだよ」

 指の先には、草原の中にぽつんとある小さな家が見えた。ダンジョンの入口から普通に見える距離だ。悠人は目を見開いて、間を置かずに言った。

 「……え、ちかっ!!」

 ミアは少し照れたように尻尾を小さく振る。

 「歩いてすぐだよ。近い方が楽でしょ」

 「それ、ほぼ隣だろ。お隣さんじゃん!」

 「うん。だから、また来やすい」

 ミアはくるりと踵を返し、入口の光の向こうへ出た。

 「じゃあ、行ってくる」

 悠人は頷く。

 「気をつけて」

 ミアは振り返って、少しだけ笑った。

 「すぐ戻ると思う」

 ミアが去ると、ダンジョンは急に広くなった気がした。さっきまでの声が消え、足音も消える。悠人は思わず呟く。
 
 「……広いな」

 その静けさは、長くは続かなかった。日が高いうちに、また足音がする。扉が開き、ミアが戻ってきた。今度は髪も整っていて、耳もきちんと立っている。尻尾も落ち着いているが、揺れ方には決意がある。

 「やっぱり、ここに住むことにした」

 ミアはまっすぐ言った。
 悠人は驚きつつも、言葉を選ぶ。

 「……いいのか?」

 ミアは頷く。

 「うん。ここが落ち着く。家もすぐそこだし、お母さんもいいよって言ってくれたし」

 荷物は最低限だった。小さな袋を抱えて、ミアはダンジョン内を見回す。

 「寝る場所、どこにしようかな」

 悠人は一瞬考えて、ウィンドウを開いた。並ぶ【家具】の項目。個室、収納、ベッド。指先が自然にそこへ伸びる。

 「よし、じゃあ、ミアの部屋、作るか!」

 ミアは一瞬固まり、次の瞬間、満面の笑みを浮かべ、「うん」と頷いた。

定住者:2人/観光客:0人
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