ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬

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第1章 ダンジョン開拓編

8、ミアの部屋を作ったら、尻尾が止まらなくなった

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「よし、じゃあ、ミアの部屋、作るか」

 悠人がそう言った瞬間、ミアは一瞬固まった。次の瞬間、満面の笑みを浮かべ、本人の気持ちを隠しきれていなかった。

 「ほんとに……私の部屋!?」

 ミアは確認するみたいに聞いた。目はまっすぐで、遠慮の色が薄い。そのぶん、素直だ。おそらくこの子は本当に素直なところが取り柄なのだろう。
 悠人は頷く。

 「住むって言っただろ。だったら、ちゃんとした場所がいる」

 「……うれしい」

 ミアはそう言って、はっきり笑った。尻尾が小さく揺れる。嬉しいときのミアは、隠そうとしても隠せないらしい。

 悠人はウィンドウを開いたまま、ダンジョン内を見回した。部屋を作るなら場所が必要だ。入口に近いと落ち着かない。けれど奥すぎると暗くて怖いし、畑やキッチンに行くのも面倒になる。

 「どこがいい?」

 悠人が聞くと、ミアはすぐに歩き出した。

 「入口のすぐ横は嫌。落ち着かないから」

 「そうだよな、分かるよ」

 「でも、暗いところも怖いし嫌かな。ここの明るいのが好き」

「それも分かる」

 ミアは言いながら、畑の方向に視線をやった。畑はミアにとって、安心の象徴になっているらしい。魔力装置の淡い光と、緑の匂い。そこに“育つもの”があるだけで、怖さが薄れる。

 悠人はその視線を追い、場所の候補を絞った。畑とキッチンから少し離れていて、でも声をかければ届く距離。人通りが少しだけ減る位置。そこなら、ミアが一人になっても不安になりすぎない。

 「ここはどう?」

 悠人が指差すと、ミアは一歩踏み込み、耳を動かし、周囲の音を確かめた。

 「うん。静かすぎないしいいね!」

 「よし。じゃあ、ここだ」

 悠人はウィンドウの項目を指で選ぶ。【個室】をタップし、サイズは小さめ。必要なのは広さよりも、安心と使いやすさだ。確定すると、床と壁が静かに形を変えた。木目の壁がせり出し、天井ができ、最後に扉が現れる。扉には取っ手があり、ちゃんと閉められる。

 ミアはその扉を見て、少しだけ息を呑んだ。

 「……扉がある」

 当たり前のことを言ったのに、声がやけに真剣だった。

 「そりゃあるよ。閉めたらちゃんと区切られるのが扉だからな」

 悠人が言うと、ミアはゆっくり頷き、扉を押して中へ入った。

 一歩。二歩。三歩。

 ミアは部屋の中央で止まり、じっと立ったまま周囲を見回した。尻尾の動きがぴたりと止まり、耳もまったく動かない。まるで音を聞くみたいに、空間を感じている。

 「……静か」

 ミアが呟いた。
 確かに静かだった。風の音や魔力装置から発する微かな外の音がほとんど反響せず、灯りも柔らかい。木の匂いは同じなのに、ここだけ少しだけ“守られている”感じがする。悠人はその反応を見て、部屋を作ってよかったと思った。

 「ベッドも置いてみようか」

 悠人が言うと、ミアは目を輝かせた。

 「置いて!ちゃんと寝たい」

 言い方が真っ直ぐで、少し笑ってしまう。
 悠人は【ベッド】を選び、柔らかすぎないものにした。設置すると、木のフレームと布団が現れる。ミアはすぐに近づき、そっと腰掛ける。沈み込みがちょうどいいのか、肩が少し落ちた。

 「……これ、好きぃ~」

 ミアの尻尾がふわっと揺れた。

 「ちゃんと寝られそう」

 「次は収納だな」

 悠人が言うと、ミアは持ってきた小さな袋をぎゅっと抱えた。

 「これ、ここに置いていい?」

 「もちろん、住むんだから。ミアのやりたいようにやれば良いよ」

 その言葉に、ミアの尻尾がまた揺れた。
 収納棚を設置すると、壁際にぴったり収まった。ミアは袋を開き、中身をそっと並べる。布のハンカチみたいなもの、小さな紐、簡単な櫛。どれも多くはない。けれど棚に置かれた瞬間、荷物は“仮の持ち物”ではなく、“生活の一部”になった。

 ミアは棚を見て、小さく息を吐いた。

 「……これで住んでる感じがする」

 「だな」

 悠人も頷いた。部屋はただの空間じゃない。物が置かれて初めて“暮らし”になる。
 照明も調整した。白すぎる灯りは落ち着かない。暖色寄りにして、明るさも少しだけ落とす。ミアはその変化をすぐに感じ取ったみたいに、耳をぴくりと動かした。

 「この灯り、あったかい」

 「明るすぎると目が疲れるからな」

 「うん。夜も昼も朝も落ち着いて眠れそう」

 「ずっと寝る気かよ」

 ここまでで十分だと思ったが、悠人はふとミアの尻尾に視線を落とした。ミアは嬉しいとき、尻尾がよく動く。けれど、今は部屋の中で座るとき、尻尾が少し邪魔そうに揺れている。ベッドはいいが、問題は椅子だ。これからミアが部屋で座って過ごすなら、ストレスのかからない椅子は必要になる。

 悠人は【椅子】の項目で指を止めた。普通の椅子を出しても、尻尾が背もたれに当たる。無理に曲げさせたくない。ミアにとって尻尾は体の一部だ。邪魔扱いはしたくなかった。

 「……獣人向け、とかあるかな」

 悠人が小さく呟くと、ウィンドウの中にそれらしいカテゴリがあった。【種族対応】。ここまで来るとさすがに引いてしまう。まるでゲームみたいに便利すぎる。

 悠人は迷わず選び、背もたれの中央が緩やかに開いた椅子を指定した。設置すると、木製の可愛らしい椅子が現れる。背もたれには、尻尾が自然に流れるためのゆるいくぼみがあり、座面も少し広い。
 ミアは目を丸くした。

 「なにそれ。椅子?」

 「ミア用の椅子だよ。座ってみて」

 悠人が促すと、ミアは慎重に椅子の前に立ち、ゆっくり座った。

 その瞬間、ミアの尻尾がすっと背もたれのくぼみに収まった。どこにも当たらず、無理に曲げなくていい。ミアは一度、身体を揺らして確かめるみたいに座り直した。それから、また座り直す。もう一回。尻尾がふわふわ揺れて、止まらない。

 「……これ、すごく楽」

 ミアは驚いた顔のまま言った。

 「尻尾がどこにも当たらないし、変な力入れなくていい」

 「よかった。普通の椅子だと窮屈だろ」

 「うん。そうなの、すごく、ね。……でもこれは好き」

 ミアはそう言い切った。まるで椅子そのものが嬉しいみたいに。
 悠人は笑って肩をすくめた。

 「尻尾、止まってないぞ」

 「止まらないよ。だって、嬉しいもん」

 ミアは素直に言った。照れも隠しもない。嬉しいときは嬉しいと言う。それがミアらしさだ。そういうミアは正直かわいくて好きだ。

 しばらくミアは椅子に座ったまま、部屋を見回した。ベッド、棚、灯り、扉。全部が“自分のため”にある。そう思えるだけで、部屋の空気が変わる。
 悠人が言った。

 「必要なもの、あったら言ってくれよ」

 ミアはぱちぱちと瞬きをして、少し驚いた顔になる。

 「……言っていいの?」

 「ああ、住むんだから」

 悠人が当たり前みたいに言うと、ミアは嬉しそうに頷いた。

 「じゃあ、言うね、いっぱい言う」

 「ほどほどにな」

 「考えとく!」

 ミアは短く返して、笑った。尻尾がまた揺れる。

 夕方前、部屋の照明を少し落としてみる。ミアは椅子に座り、背もたれに身を預けた。尻尾はくぼみに沿って落ち着いている。初めて見る、部屋でくつろぐミアの姿だった。

 「ここ、私の部屋だね」

 ミアがぽつりと言う。

 「そうだ。ミアの部屋だ」

 悠人が答えると、ミアは扉の方を見て、小さく頷いた。
 しばらく静かな時間が流れた。誰にも邪魔されない。守られた空間。ミアの尻尾がゆっくり揺れ、耳が時々動く。その様子を見ていると、悠人の胸の奥も少しだけ軽くなる。

 ふと悠人は思い出した。畑だ。今日の育ち具合を見ておきたい。

 「一応、畑も見ておくか」

 悠人が言うと、ミアはすぐに立ち上がった。

 「うん。今日の様子、気になってた」

 二人で畑へ向かう。畑に近づくと、緑の密度が増しているのが分かった。葉が重なり、茎が太い。昨日の朝よりも明らかに育っている。魔力装置はいつもより安定した光を放っていて、土はしっとり温かい。

 ミアがしゃがみ込み、葉を一枚持ち上げて確認する。耳が前を向き、尻尾が小さく揺れた。

 「これ……明日、かなり取れるよ」

 ミアの声は確信に近い。
 悠人は少し驚いた。

 「そんなに?」

 ミアは頷く。

 「うん。今日の伸び方、普通じゃない。装置、すごい」

 悠人は畑全体を見回し、自然と笑ってしまう。

 「じゃあ、明日は忙しくなるな」

 ミアも少し楽しそうに言った。

 「朝から収穫だね。一人じゃ足りないかも」

 「手伝ってくれるか?」

 悠人が聞くと、ミアは即答した。

 「もちろん」

 ミアは尻尾をゆっくり揺らしながら、畑を見つめた。

 「ねえ、悠人。この感じだとさ……明日、大量収穫になりそうだね」

 悠人は短く答える。

 「……だな」

 二人で畑を見たまま、しばらく黙った。緑が揺れ、装置の光が脈打ち不思議なオーラを畑から感じた気もした。明日は何が起こる?少しだけ楽しみになる。そんな沈黙だった。

定住者:2人/観光客:0人
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