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第1章 ダンジョン開拓編
9、畑はレベルアップするらしい
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翌日、悠人とミアは畑の前で立ち尽くした。
「……これは、一日じゃ終わらない量だね」
ミアが落ち着いた声で言う。尻尾は静かに揺れているが、昨日までの“畑”とは景色が違った。葉の重なり方が密で、土の上には実が転がりそうなほど増えている。
悠人は苦笑して頬をかいた。
「うん。嬉しいけど、正直予想外だな。嬉しい誤算だ。」
二人は籠を用意して収穫を始めた。ミアは手際よく、傷みやすいものと丈夫なものを分けながら取っていく。悠人は運び役に回り、保存庫とテーブルの上を何度も往復した。
「これ、丁寧に取らないとすぐ傷むよ」
ミアが実を指で支えながら言う。
「分かった。じゃあ俺は運ぶ。置き場をまた作った方がいいな」
十分もしないうちに籠はいっぱいになった。置いたそばから次の籠が埋まり、保存庫は早くも半分が埋まる。
悠人は息を吐いた。
「これはちょっと追いつかないな」
ミアは籠を見下ろし、はっきり言った。
「二人じゃ足りないよ。これ、たぶん増え続けてる感じだし」
そのとき、入口の方から遠慮がちな声がした。
「す、すみません……」
二人が振り向くと、軽装の若い冒険者が立っていた。剣は腰にあるが抜く様子はなく、視線が落ち着かない。畑と二人を交互に見て、困った顔をしている。
ミアが先に声をかけた。
「大丈夫? 迷っただけなら、休んでいっていいよ」
冒険者は慌てて頭を下げた。
「はい……ダンジョンに入ったんですけど、明るくて、道が分からなくなって……。それで、畑があって……」
悠人は水を出して差し出した。
「ここ、危ない場所じゃない。落ち着いて飲んで」
冒険者は水を受け取り、ひと口飲んでから、ようやく息を整えた。
「ありがとうございます。俺、帰り道を探してて……」
「あとで案内するよ。今ちょっと人手が足りなくてな」
悠人が畑を指すと、冒険者の目が丸くなった。
「これ、全部収穫するんですか?」
ミアが即答する。
「うん。放っておいたら傷むからね」
悠人は言葉を続けた。
「よかったら手伝ってほしい。力仕事なんだが」
冒険者は迷うより早く頷いた。
「任せてください。こういうのは得意です!」
三人体制になった途端、作業が回り始めた。冒険者は勢いがあり、籠を運ぶスピードも速い。ミアは選別と指示を出し、悠人は置き場を整えながら全体を見た。
冒険者が籠を持ち上げながら言う。
「それにしても……ダンジョンですよね?」
ミアは笑って返した。
「そうだけど、今は畑だよ。私も最初ビックリしたんだよ」
しばらくすると、魔力循環装置の光が少し変わった。淡い脈が早くなり、土の表面に細い光の線が走る。悠人は手を止めて足元を見た。昨日までの畑の境界の線が、ぼんやりと溶けるように消えていく。
ミアが先に気づいて、声を落とした。
「……地面、広がってる。ねえ、見て!」
悠人が踏みしめると、土の感触が続いている。確かに、畑の端が遠のいていた。驚いている間に、視界の端にウィンドウが勝手に開いた。
【農地スキル:レベルアップ】
畑 → 農園
・区画拡張
・果樹エリア解放
・収穫量補正:上昇
・品質安定補正:付与
悠人は思わず声に出した。
「……農園!?」
ミアが横から覗き込み、表示を目で追う。
「区画が増えて、果樹が出るって書いてある。だから、こんなに実ってるんだね」
冒険者も近づいてきて、表示と畑を見比べた。
「レベルアップ……畑が?……なんで?」
悠人は肩をすくめた。
「俺も今初めて見た。しかも勝手に出てきた……」
その直後、畑の一角が“畑じゃない区画”に変わった。低い木が並び、枝には丸い果実がいくつも実っている。色も形も、今までの野菜とはまるで違う。香りが強く、近づくだけで甘さが分かる。
ミアは木の前で立ち止まり、果実をそっと持ち上げた。
「これ、すごく甘い匂いがする。食べてもいい?」
「毒じゃなさそうだし、少しなら」
悠人が言うと、ミアは小さくかじって目を丸くした。
「……おいしい。びっくりするくらい甘い!」
冒険者が呆然と呟く。
「畑の次は、果物まで……。これ、王都の店なら高いですよ」
悠人は果実の山と、埋まり始めた保存庫を見た。
「高いとか安いとかの前に、まず量が多すぎるな」
冒険者が籠を置きながら言う。
「売れば、かなりの値になりますよ。旅の資金にも――」
悠人は首を振った。
「売るのは、今じゃない。さすがにこっちが回らなくなる」
ミアが果実を見つめて言う。
「でも、このままだと傷むよね。どうするの?」
悠人は少し考え、口にした。
「食べきれないなら、形を変えるのはどうだろう」
ミアが首を傾げる。
「形?」
「果物、そのままじゃなくて。絞って、冷やして、飲める形にするのは」
ミアの尻尾が弾むように揺れた。
「ジュース、ってこと?」
「そう!果物のカフェみたいな感じだ」
冒険者は半信半疑だったが、周りを見渡してゆっくり頷いた。
「この場所なら……ありですね。ダンジョンで飲み物を出すなんて、初めて聞きました」
「俺も初めてやる」
悠人は苦笑した。
「でも、試す価値はある。今日のうちに、試しに作ってみよう」
ミアはすぐに頷く。
「うん。味を確かめたいし、いろんな果物があるなら、組み合わせもできそう」
「そこまで一気にやると混乱するから、まずは単品からな」
「分かった。まずは甘いやつから」
冒険者が控えめに言った。
「完成したら、飲んでみたいです」
悠人は頷いた。
「じゃあ、最初の客は決まりだな。……店も必要になりそうだ」
収穫は続いた。農園に広がった区画は、作業がしやすいように自然と道ができ、籠を置けるスペースも増えた。増えた分だけ取れる量も増える。三人は無言で手を動かし、山を作っていった。
夕方が近づくころ、冒険者はようやく息を整えて言った。
「出口……あとで、本当に案内してもらえますか?」
「もちろん。迷わせたままにはしない」
悠人が答えると、冒険者は安心した顔をした。
「俺もまだ手伝って良いですか?」
ミアが笑って返した。
「うん、もちろん!」
悠人は収穫物の山を見て、軽く頭をかいた。
「だが、今日中に、試作品は作る。店も作る。
……今日は忙しくなるな」
ミアは尻尾を揺らしながら、果実を一つ掲げた。
「忙しいけど、楽しそう。ねえ、悠人、まずはこれを絞ってみようよ」
悠人は頷いた。
「よし。やってみよう」
ダンジョンにカフェ。開店まで長くないな。
定住者:2人/観光客:1人
「……これは、一日じゃ終わらない量だね」
ミアが落ち着いた声で言う。尻尾は静かに揺れているが、昨日までの“畑”とは景色が違った。葉の重なり方が密で、土の上には実が転がりそうなほど増えている。
悠人は苦笑して頬をかいた。
「うん。嬉しいけど、正直予想外だな。嬉しい誤算だ。」
二人は籠を用意して収穫を始めた。ミアは手際よく、傷みやすいものと丈夫なものを分けながら取っていく。悠人は運び役に回り、保存庫とテーブルの上を何度も往復した。
「これ、丁寧に取らないとすぐ傷むよ」
ミアが実を指で支えながら言う。
「分かった。じゃあ俺は運ぶ。置き場をまた作った方がいいな」
十分もしないうちに籠はいっぱいになった。置いたそばから次の籠が埋まり、保存庫は早くも半分が埋まる。
悠人は息を吐いた。
「これはちょっと追いつかないな」
ミアは籠を見下ろし、はっきり言った。
「二人じゃ足りないよ。これ、たぶん増え続けてる感じだし」
そのとき、入口の方から遠慮がちな声がした。
「す、すみません……」
二人が振り向くと、軽装の若い冒険者が立っていた。剣は腰にあるが抜く様子はなく、視線が落ち着かない。畑と二人を交互に見て、困った顔をしている。
ミアが先に声をかけた。
「大丈夫? 迷っただけなら、休んでいっていいよ」
冒険者は慌てて頭を下げた。
「はい……ダンジョンに入ったんですけど、明るくて、道が分からなくなって……。それで、畑があって……」
悠人は水を出して差し出した。
「ここ、危ない場所じゃない。落ち着いて飲んで」
冒険者は水を受け取り、ひと口飲んでから、ようやく息を整えた。
「ありがとうございます。俺、帰り道を探してて……」
「あとで案内するよ。今ちょっと人手が足りなくてな」
悠人が畑を指すと、冒険者の目が丸くなった。
「これ、全部収穫するんですか?」
ミアが即答する。
「うん。放っておいたら傷むからね」
悠人は言葉を続けた。
「よかったら手伝ってほしい。力仕事なんだが」
冒険者は迷うより早く頷いた。
「任せてください。こういうのは得意です!」
三人体制になった途端、作業が回り始めた。冒険者は勢いがあり、籠を運ぶスピードも速い。ミアは選別と指示を出し、悠人は置き場を整えながら全体を見た。
冒険者が籠を持ち上げながら言う。
「それにしても……ダンジョンですよね?」
ミアは笑って返した。
「そうだけど、今は畑だよ。私も最初ビックリしたんだよ」
しばらくすると、魔力循環装置の光が少し変わった。淡い脈が早くなり、土の表面に細い光の線が走る。悠人は手を止めて足元を見た。昨日までの畑の境界の線が、ぼんやりと溶けるように消えていく。
ミアが先に気づいて、声を落とした。
「……地面、広がってる。ねえ、見て!」
悠人が踏みしめると、土の感触が続いている。確かに、畑の端が遠のいていた。驚いている間に、視界の端にウィンドウが勝手に開いた。
【農地スキル:レベルアップ】
畑 → 農園
・区画拡張
・果樹エリア解放
・収穫量補正:上昇
・品質安定補正:付与
悠人は思わず声に出した。
「……農園!?」
ミアが横から覗き込み、表示を目で追う。
「区画が増えて、果樹が出るって書いてある。だから、こんなに実ってるんだね」
冒険者も近づいてきて、表示と畑を見比べた。
「レベルアップ……畑が?……なんで?」
悠人は肩をすくめた。
「俺も今初めて見た。しかも勝手に出てきた……」
その直後、畑の一角が“畑じゃない区画”に変わった。低い木が並び、枝には丸い果実がいくつも実っている。色も形も、今までの野菜とはまるで違う。香りが強く、近づくだけで甘さが分かる。
ミアは木の前で立ち止まり、果実をそっと持ち上げた。
「これ、すごく甘い匂いがする。食べてもいい?」
「毒じゃなさそうだし、少しなら」
悠人が言うと、ミアは小さくかじって目を丸くした。
「……おいしい。びっくりするくらい甘い!」
冒険者が呆然と呟く。
「畑の次は、果物まで……。これ、王都の店なら高いですよ」
悠人は果実の山と、埋まり始めた保存庫を見た。
「高いとか安いとかの前に、まず量が多すぎるな」
冒険者が籠を置きながら言う。
「売れば、かなりの値になりますよ。旅の資金にも――」
悠人は首を振った。
「売るのは、今じゃない。さすがにこっちが回らなくなる」
ミアが果実を見つめて言う。
「でも、このままだと傷むよね。どうするの?」
悠人は少し考え、口にした。
「食べきれないなら、形を変えるのはどうだろう」
ミアが首を傾げる。
「形?」
「果物、そのままじゃなくて。絞って、冷やして、飲める形にするのは」
ミアの尻尾が弾むように揺れた。
「ジュース、ってこと?」
「そう!果物のカフェみたいな感じだ」
冒険者は半信半疑だったが、周りを見渡してゆっくり頷いた。
「この場所なら……ありですね。ダンジョンで飲み物を出すなんて、初めて聞きました」
「俺も初めてやる」
悠人は苦笑した。
「でも、試す価値はある。今日のうちに、試しに作ってみよう」
ミアはすぐに頷く。
「うん。味を確かめたいし、いろんな果物があるなら、組み合わせもできそう」
「そこまで一気にやると混乱するから、まずは単品からな」
「分かった。まずは甘いやつから」
冒険者が控えめに言った。
「完成したら、飲んでみたいです」
悠人は頷いた。
「じゃあ、最初の客は決まりだな。……店も必要になりそうだ」
収穫は続いた。農園に広がった区画は、作業がしやすいように自然と道ができ、籠を置けるスペースも増えた。増えた分だけ取れる量も増える。三人は無言で手を動かし、山を作っていった。
夕方が近づくころ、冒険者はようやく息を整えて言った。
「出口……あとで、本当に案内してもらえますか?」
「もちろん。迷わせたままにはしない」
悠人が答えると、冒険者は安心した顔をした。
「俺もまだ手伝って良いですか?」
ミアが笑って返した。
「うん、もちろん!」
悠人は収穫物の山を見て、軽く頭をかいた。
「だが、今日中に、試作品は作る。店も作る。
……今日は忙しくなるな」
ミアは尻尾を揺らしながら、果実を一つ掲げた。
「忙しいけど、楽しそう。ねえ、悠人、まずはこれを絞ってみようよ」
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