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第1章 ダンジョン開拓編
10、ダンジョン果物そのまま飲み場
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収穫の山を前に、悠人は腕を組んだ。保存庫はすでに詰まりはじめ、果実の香りが部屋に残っている。ミアは籠の縁に手を置き、楽しそうに尻尾を揺らしていた。さっきまで手伝ってくれていた迷子の若い冒険者は、ベンチに腰を下ろしたまま、まだ帰る気配がない。
「まずは、試してみるか」
悠人が言うと、ミアは即座に頷いた。
「うん。味を見ないと始まらないよ」
悠人は簡易圧搾器を作業台に置いた。ハンドルを回すと中の板がゆっくり降りてくる仕組みで、見た目はごついが使い方は単純だ。ミアは果実を種類ごとに分け、香りを確かめながら並べていく。いつも思うが、本当にこのスキルは便利だ。
「これ、甘い!こっちは酸っぱい」
「最初は単品でいこう。混ぜると失敗したとき原因が分からない」
「分かった。じゃあ、甘いやつからやろう」
ミアが赤い果実を洗って切り、悠人が圧搾器に入れた。ハンドルを回すと果肉がつぶれ、透明に近い赤い液体が下の器に落ちていく。甘い匂いが一気に強くなった。
迷子の冒険者が身を乗り出す。
「それ、飲み物になるんですか?」
「なると思う、初めてだからわからないが、たぶんな」
悠人が短く答えると、ミアが笑った。
「たぶんじゃなくて、なるよ。ほら見てて」
ミアは器を両手で持ち、まず自分で少し口に含んだ。目が丸くなり、尻尾がぴんと立つ。
「うわ!普通においしい。すごい」
「よし、ミアがそう言うなら成立だな」
悠人も味を確かめ、頷いた。甘さが強く、あと味が軽い。水で薄めなくてもいけそうだが、冷やした方が絶対にいい。
「次、黄色いの!」
ミアが催促するように言い、悠人は別の果実を圧搾した。今度は香りが強く、少しだけ酸味があり、ミアが飲む。
「この味さっぱりしてて好き」
「じゃあとりあえず二種類か。今日はそれで十分だ」
迷子の冒険者がぽつりと言った。
「外で飲んだら、絶対喜ばれますよ。王都なら金取れます」
悠人は首を振った。
「売るのは後だ。今は、余らせないことを考える」
「じゃあ、出すだけでもいいじゃないですか」
「……確かに」
悠人は作業台から顔を上げ、ミアを見た。
「飲める場所を作る。客が来たら出す。どうだ?つまりカフェだ」
ミアは尻尾を大きく振った。
「いいと思う。楽しいやつだ」
さっそく畑の横に、簡易のカウンターとベンチを設置した。木の板が組み上がり、置いた器が転がらないよう縁が付いている。ミアはベンチに座って試しに尻尾を動かし、問題ないことを確認して満足そうに頷いた。
「で、名前いるよな」
悠人が言うと、ミアは間髪入れずに言った。
「決めた!」
「はやっ。何にした?」
ミアは胸を張り、真顔で告げた。
「『ダンジョン果実そのまま飲み場』」
悠人は一秒黙った。
「……ん、長いな」
「分かりやすいでしょ? 果物をそのまま飲む場所だよ」
「言いたいことは分かるが、もう少し短くできないか」
「うーん。じゃあ、『おいしいやつ置いてあるところ』」
「もっと雑になったな」
ミアはむっとした顔をするが、尻尾は楽しそうに揺れている。
「じゃあ、最初のやつでいい。看板に書けばみんな読むからね」
「読む前に帰る客もいるぞ」
「帰らないように、おいしいの作る!」
結局、ミアが勝手に決めた名前でいくことになった。悠人は看板を一枚出し、文字を入れた。改めて見ると、確かに長い。だが妙にまっすぐで、ミアらしさが出ている。
ジュースを冷やすため、悠人は簡易冷却箱も追加した。中に氷のような冷気が溜まる仕組みで、入れた瓶がすぐ冷える。ミアは保存容器にジュースを移し、注ぎ口のある瓶を並べた。
「よし。これで、いつでも出せる」
悠人が言うと、ミアはカウンターの向こう側に立ち、店員のふりをする。
「いらっしゃいませ。ダンジョン果実そのまま飲み場へようこそ」
「発音がすでに大変そうだな」
「こんなのすぐに慣れるよ」
笑っているうちに、入口の方で足音が増えた。畑から漂う甘い匂いに引かれたのだろう。最初は二人組の旅人が、次に荷物を背負った商人風の男が、さらに数人が連なって入ってくる。ダンジョンの中に人が増えると、空気がにわかに賑やかになる。
「ここ、明るいな。ほんとにダンジョンか?」
「匂い、果物だぞ」
「おい、看板があるぞ。飲み物?」
ミアがすっと姿勢を正し、にこっと笑った。
「ジュースあるよ。甘いのと、すっぱめの。どっちがいい?」
旅人が目を丸くする。
「え、ここで買えるの?」
「買うっていうより、飲んでって。今はお試しだから」
悠人が横から補足し、瓶に注いだ。透明な赤い液体が器に落ちると、周囲の視線が集まる。
一口飲んだ旅人の顔が緩む。
「うまい!!」
別の客がすぐ言った。
「もう一杯くれ!」
ミアは頑張って店員の仕事をこなす。
「はい!いっぱいあるよ」
匂いはさらに広がり、人が途切れなくなった。入口で立ち止まって覗き込む者、畑を見て驚く者、ジュースを飲んでベンチに座り込む者。悠人は裏で圧搾と補充を繰り返し、ミアは表で注いで声をかける。迷子の冒険者は、いつの間にかカウンターの横で空いた器を片付ける役になっていた。
「すまん、助かる」
悠人が言うと、冒険者は照れたように頭をかいた。
「こういうの、嫌いじゃないです。居心地いいし」
夕方になっても、客はすぐには帰らなかった。ジュースを飲み終えた後も、ベンチで休んだり、畑を眺めたりしている。話し声が小さな波のように続き、ダンジョンが「通り道」ではなく「滞在場所」になりつつあるのが分かる。
迷子の冒険者が言った。
「数日なら、手伝いますよ。旅の予定、ちょっとずらせるんで」
悠人は手を止め、相手の顔を見る。
「定住する気は?」
「今のところはないです。さすがに。数日だけです」
「それでいい。助かる」
ミアもにこにこして頷いた。
「じゃあ、明日もジュース出せるね」
客が増えるほど、別の問題も目に入ってきた。ベンチに座っていた旅人が、自然な口調で聞いてくる。
「ここ、泊まれるのか?」
悠人は一瞬言葉に詰まった。今あるゲストルームは数が少ない。すでに試しに使っている客もいる。今日の人数を見れば、明日以降は確実に足りない。
「今日は……なんとかなる」
悠人はそう答えるのが精一杯だった。
ミアが小声で悠人に寄ってくる。
「ねえ、寝る場所、足りなくない?」
「足りないな。今はギリギリだ」
若い冒険者も、困ったように言う。
「俺、今日は帰りますけど、明日も来たくて。朝から手伝うなら、寝る場所があった方が楽です」
「分かった。そこは考える」
片付けの時間になり、客が少しずつ出口へ向かう。それでも何人かは名残惜しそうに振り返り、「明日も来る」「朝も飲めるか」と口々に言った。ミアは笑って手を振り、悠人は内心で計算する。畑の収穫、ジュースの仕込み、客の対応。人手も場所も、すぐ限界に達する。
最後の客が出た後、ダンジョンの中はようやく落ち着いた。カウンターの上には空の器が並び、保存容器は半分ほど減っている。十分な成果だが、このまま続けるなら、整えるべきものが多い。
悠人は腰を伸ばし、ウィンドウを開いた。【施設】の項目が目に入る。個室、複数部屋、共用廊下。選べるものは多い。
「……このままだと、寝る場所が足りないな」
悠人が言うと、ミアは真面目な顔で頷いた。
「うん。来た人が安心して休める場所、ちゃんと作った方がいい。せっかく来てくれたのに、帰れって言うのは変だもん」
「変だな。ここ、ダンジョンなのに」
ミアは尻尾をゆっくり揺らし、少しだけ笑った。
「だから、面白いんだよ」
悠人は項目を見つめたまま言った。
「次は、ゲスト用の宿だ。ホテルみたいなやつを作る」
ミアの目が輝く。
「いいね。名前も考えとく」
「それは、俺も考える」
定住者:2人/観光客:14人
「まずは、試してみるか」
悠人が言うと、ミアは即座に頷いた。
「うん。味を見ないと始まらないよ」
悠人は簡易圧搾器を作業台に置いた。ハンドルを回すと中の板がゆっくり降りてくる仕組みで、見た目はごついが使い方は単純だ。ミアは果実を種類ごとに分け、香りを確かめながら並べていく。いつも思うが、本当にこのスキルは便利だ。
「これ、甘い!こっちは酸っぱい」
「最初は単品でいこう。混ぜると失敗したとき原因が分からない」
「分かった。じゃあ、甘いやつからやろう」
ミアが赤い果実を洗って切り、悠人が圧搾器に入れた。ハンドルを回すと果肉がつぶれ、透明に近い赤い液体が下の器に落ちていく。甘い匂いが一気に強くなった。
迷子の冒険者が身を乗り出す。
「それ、飲み物になるんですか?」
「なると思う、初めてだからわからないが、たぶんな」
悠人が短く答えると、ミアが笑った。
「たぶんじゃなくて、なるよ。ほら見てて」
ミアは器を両手で持ち、まず自分で少し口に含んだ。目が丸くなり、尻尾がぴんと立つ。
「うわ!普通においしい。すごい」
「よし、ミアがそう言うなら成立だな」
悠人も味を確かめ、頷いた。甘さが強く、あと味が軽い。水で薄めなくてもいけそうだが、冷やした方が絶対にいい。
「次、黄色いの!」
ミアが催促するように言い、悠人は別の果実を圧搾した。今度は香りが強く、少しだけ酸味があり、ミアが飲む。
「この味さっぱりしてて好き」
「じゃあとりあえず二種類か。今日はそれで十分だ」
迷子の冒険者がぽつりと言った。
「外で飲んだら、絶対喜ばれますよ。王都なら金取れます」
悠人は首を振った。
「売るのは後だ。今は、余らせないことを考える」
「じゃあ、出すだけでもいいじゃないですか」
「……確かに」
悠人は作業台から顔を上げ、ミアを見た。
「飲める場所を作る。客が来たら出す。どうだ?つまりカフェだ」
ミアは尻尾を大きく振った。
「いいと思う。楽しいやつだ」
さっそく畑の横に、簡易のカウンターとベンチを設置した。木の板が組み上がり、置いた器が転がらないよう縁が付いている。ミアはベンチに座って試しに尻尾を動かし、問題ないことを確認して満足そうに頷いた。
「で、名前いるよな」
悠人が言うと、ミアは間髪入れずに言った。
「決めた!」
「はやっ。何にした?」
ミアは胸を張り、真顔で告げた。
「『ダンジョン果実そのまま飲み場』」
悠人は一秒黙った。
「……ん、長いな」
「分かりやすいでしょ? 果物をそのまま飲む場所だよ」
「言いたいことは分かるが、もう少し短くできないか」
「うーん。じゃあ、『おいしいやつ置いてあるところ』」
「もっと雑になったな」
ミアはむっとした顔をするが、尻尾は楽しそうに揺れている。
「じゃあ、最初のやつでいい。看板に書けばみんな読むからね」
「読む前に帰る客もいるぞ」
「帰らないように、おいしいの作る!」
結局、ミアが勝手に決めた名前でいくことになった。悠人は看板を一枚出し、文字を入れた。改めて見ると、確かに長い。だが妙にまっすぐで、ミアらしさが出ている。
ジュースを冷やすため、悠人は簡易冷却箱も追加した。中に氷のような冷気が溜まる仕組みで、入れた瓶がすぐ冷える。ミアは保存容器にジュースを移し、注ぎ口のある瓶を並べた。
「よし。これで、いつでも出せる」
悠人が言うと、ミアはカウンターの向こう側に立ち、店員のふりをする。
「いらっしゃいませ。ダンジョン果実そのまま飲み場へようこそ」
「発音がすでに大変そうだな」
「こんなのすぐに慣れるよ」
笑っているうちに、入口の方で足音が増えた。畑から漂う甘い匂いに引かれたのだろう。最初は二人組の旅人が、次に荷物を背負った商人風の男が、さらに数人が連なって入ってくる。ダンジョンの中に人が増えると、空気がにわかに賑やかになる。
「ここ、明るいな。ほんとにダンジョンか?」
「匂い、果物だぞ」
「おい、看板があるぞ。飲み物?」
ミアがすっと姿勢を正し、にこっと笑った。
「ジュースあるよ。甘いのと、すっぱめの。どっちがいい?」
旅人が目を丸くする。
「え、ここで買えるの?」
「買うっていうより、飲んでって。今はお試しだから」
悠人が横から補足し、瓶に注いだ。透明な赤い液体が器に落ちると、周囲の視線が集まる。
一口飲んだ旅人の顔が緩む。
「うまい!!」
別の客がすぐ言った。
「もう一杯くれ!」
ミアは頑張って店員の仕事をこなす。
「はい!いっぱいあるよ」
匂いはさらに広がり、人が途切れなくなった。入口で立ち止まって覗き込む者、畑を見て驚く者、ジュースを飲んでベンチに座り込む者。悠人は裏で圧搾と補充を繰り返し、ミアは表で注いで声をかける。迷子の冒険者は、いつの間にかカウンターの横で空いた器を片付ける役になっていた。
「すまん、助かる」
悠人が言うと、冒険者は照れたように頭をかいた。
「こういうの、嫌いじゃないです。居心地いいし」
夕方になっても、客はすぐには帰らなかった。ジュースを飲み終えた後も、ベンチで休んだり、畑を眺めたりしている。話し声が小さな波のように続き、ダンジョンが「通り道」ではなく「滞在場所」になりつつあるのが分かる。
迷子の冒険者が言った。
「数日なら、手伝いますよ。旅の予定、ちょっとずらせるんで」
悠人は手を止め、相手の顔を見る。
「定住する気は?」
「今のところはないです。さすがに。数日だけです」
「それでいい。助かる」
ミアもにこにこして頷いた。
「じゃあ、明日もジュース出せるね」
客が増えるほど、別の問題も目に入ってきた。ベンチに座っていた旅人が、自然な口調で聞いてくる。
「ここ、泊まれるのか?」
悠人は一瞬言葉に詰まった。今あるゲストルームは数が少ない。すでに試しに使っている客もいる。今日の人数を見れば、明日以降は確実に足りない。
「今日は……なんとかなる」
悠人はそう答えるのが精一杯だった。
ミアが小声で悠人に寄ってくる。
「ねえ、寝る場所、足りなくない?」
「足りないな。今はギリギリだ」
若い冒険者も、困ったように言う。
「俺、今日は帰りますけど、明日も来たくて。朝から手伝うなら、寝る場所があった方が楽です」
「分かった。そこは考える」
片付けの時間になり、客が少しずつ出口へ向かう。それでも何人かは名残惜しそうに振り返り、「明日も来る」「朝も飲めるか」と口々に言った。ミアは笑って手を振り、悠人は内心で計算する。畑の収穫、ジュースの仕込み、客の対応。人手も場所も、すぐ限界に達する。
最後の客が出た後、ダンジョンの中はようやく落ち着いた。カウンターの上には空の器が並び、保存容器は半分ほど減っている。十分な成果だが、このまま続けるなら、整えるべきものが多い。
悠人は腰を伸ばし、ウィンドウを開いた。【施設】の項目が目に入る。個室、複数部屋、共用廊下。選べるものは多い。
「……このままだと、寝る場所が足りないな」
悠人が言うと、ミアは真面目な顔で頷いた。
「うん。来た人が安心して休める場所、ちゃんと作った方がいい。せっかく来てくれたのに、帰れって言うのは変だもん」
「変だな。ここ、ダンジョンなのに」
ミアは尻尾をゆっくり揺らし、少しだけ笑った。
「だから、面白いんだよ」
悠人は項目を見つめたまま言った。
「次は、ゲスト用の宿だ。ホテルみたいなやつを作る」
ミアの目が輝く。
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