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第1章 ダンジョン開拓編
11、泊まれる場所を作ったら、夜が長くなった
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カフェの最後の客が帰ったのは、いつもより少し遅い時間だった。入口の方で「また来るよ」と手を振る声が遠ざかり、足音が石の通路に吸い込まれていく。残ったのは果実の甘い香りと、片付けのために動く小さな物音だけだ。
若い冒険者がテーブルを拭きながら、軽く息を吐いた。
「いやあ……いきなりたくさんのお客さんが来てくれましたね!」
「うん。来るのはありがたいけど、帰るの
が少し大変そうだったな」
悠人がカウンター越しに答えると、ミアが椅子の背に腕を回して頷いた。尻尾はだらりと下がっていて、疲れているのが分かる。
「王都まで戻るの、暗くて怖いよね。しかもちょっと遠いし」
ミアがそう言うと、若い冒険者も同意するようにうなずいた。
「さっきの人たちも、名残惜しそうにしてました。泊まれたら助かるのに、って顔してましたよ」
悠人は片付けたカップを重ねながら、さっきまでの光景を思い出す。飲み終えた客が何度も振り返り、王都の灯りの方を見てから、仕方なく帰っていく背中。カフェはできたし、畑もできた。なのに、夜になると人が散ってしまい、少し心細さが残ってしまった。
「……じゃあ、ちゃんと作るか。泊まれる場所があった方がいいだろう」
言うと、ミアの耳がぴくりと動いた。
「いいね。寝る場所があれば、夜もゆっくりできるよ」
若い冒険者が目を丸くする。
「作るって……まさか、今からですか!?」
悠人は「そうだ」とうなずき、【施設】の項目を開いた。指先で【宿泊】を選び、さらに【ゲスト棟(小規模)】へ。
豪華にする必要はない。とにかく清潔で、安全で、眠れることが最優先だ。将来、増やしたくなったら増やせるように、無理のない形にする。
確定を押すと、ダンジョンの一角が静かに組み替わった。石の壁が少しだけ奥へ引き、木の骨組みが現れ、板のタイルがはめ込まれていく。夜の静けさの中で、建物が「音もなく」出来上がっていくのが逆に不思議だった。気づけば、木造の小さな宿泊棟がそこに立っている。
若い冒険者が、思わず声を落とした。
「……すごい、本当に建つんですね」
「俺もほんとに不思議に思うんだよな。とりあえず確認してみよう。宿は中身が大事だから」
悠人はミアと一緒に入口へ向かい、扉を開けた。
最初に現れたのは、玄関に近い小さなホー
ルだった。靴棚が並び、壁際に簡素な受付カウンターがある。灯りは眩しすぎず、足元が見える程度に整っている。
悠人が指をさす。
「ここが入口で、靴はここに置いてもらう。受付は……とりあえず名前を書いてもらう形でいいかな」
ミアが床を軽く踏んで確かめる。
「すごい、滑らないね。走っても転びにくそう」
「走る子が来たら困るけどな」
悠人が笑うと、ミアも小さく笑った。
ホールの先には廊下が伸びていた。木の床で、足音が硬く反響しない。壁には控えめな照明が一定間隔で付いている。
「ここが廊下で音が響きにくいようにしてある」
悠人が説明すると、若い冒険者が耳を澄ませる。
「ほんとだ。歩いても声を出してもあまりうるさくならないですね」
廊下の左右に扉が並ぶ。悠人は一つ開けて見せた。
中は標準の個室。シンプルなベッドに、小
机、荷物置きと収納箱もある。窓のような採光部があり、閉塞感が薄い。
ミアが部屋に入って、ぐるりと見回す。
「ちゃんと寝られそう。変な匂いもしない」
「清潔は一番大事だからな。何せここは“泊まる場所”だからな」
若い冒険者はベッドの端をそっと押して確かめた。
「しっかりしてますね。これなら、いつでも安心して眠れますね」
次に悠人は、少し広めの部屋へ案内した。ベッドが二つ置ける間取りで、荷物置きも広い。
「ここは二人用だな。友達同士とか、荷物が多い旅人向けの部屋になってる」
若い冒険者が感心したように言う。
「家族でも来られますね」
「親子で泊まれたら、安心だよね」
廊下の途中には共有スペースがあった。小さな談話室だ。テーブルと長椅子があり、匂いの強い食べ物意外なら、飲み物や軽食を持ち込めるようにしてある。灯りは柔らかく、夜に落ち着いて話せそうだ。
ミアが椅子に座ってみる。
「ここ、静かなら夜でも話せるね。」
悠人はうなずく。
「部屋の中だけだと息が詰まる人もいる。ここで少し休めればいい」
最後に、水回りを確認する。洗面台と簡易シャワー室。男女で分けた入口があり、動線は分かりやすい。
悠人が言う。
「ここが洗面でこっちがシャワー室。泥はここでしっかり落とせる」
ミアはシャワー室の扉を見て、首を傾げた。
「前に悠人が作ってくれてた、湯船?はないんだね」
「そうだなあ、でも、まずは最低限だ。急に作りすぎても、管理が追いつかなくなってしまう」
悠人がそう答えると、ミアは納得したように頷いた。ただ、尻尾の先が少しだけ揺れている。何かを考えている合図だ。
確認を終えて外へ戻ると、若い冒険者はまだ半分信じられない顔をしていた。
「これ、今日から使えるんですか?」
「ちゃんと使える。試しに、泊まりたい人がいたら案内していいよ」
悠人が言うと、若い冒険者は嬉しそうに「はい」と答えた。
その夜、さっそく数組が本当に泊まった。カフェの常連になりつつある旅人が「助かる」と笑い、王都へ戻る予定だった人が「一晩だけ」と部屋を取った。
廊下には控えめな足音が流れ、談話室では小さな声の会話が交わされる。ダンジョンの中に、“宿”の気配が生まれたのが分かった。
ミアが外の通路で、悠人に言った。
「夜も人がいると何か嬉しいね」
「うん。ここまで来ると、帰らせるのが惜しくなるな」
悠人はそう答え、眠る人たちの邪魔にならないように灯りを少し落とした。
翌朝、宿泊棟の入口付近で、旅人が肩を回していた。別の者は足を伸ばし、ふくらはぎを揉んでいる。眠れたはずなのに、表情が少し硬い。
「寝られたけど、体が少し固いな」
「シャワーは助かるんだが、疲れが抜けきらないな」
悠人はその声を聞き、ふとシャワー室の方を見る。確かに、泥は落とせる。汗も流せる。だが旅の疲れは、流すだけでは取れないことがある。
ミアが小さく言った。
「寝る場所はできたけど、休む場所はまだだね」
悠人はうなずき、穏やかな声でまとめる。
「そうだな。宿としては、もう一段必要か……」
若い冒険者が首を傾げる。
「もう一段……ですか」
悠人は短く答えた。
「疲れを取る設備を増やす。湯に浸かれる場所があれば、旅人はだいぶ助かる」
ミアは人差し指を立ててひらめいたように言う。
「それなら湯船だ!あったら、みんな喜ぶと思うよ!」
悠人は【施設】を開いた。次に選ぶべきものは、もう決まっている。派手さはいらない。まずは、しっかり休める場所を。
「よし、次は少し派手に温泉を作ろう」
ミアはまっすぐ頷いた。
「うん。みんなが休める場所にね!」
定住者:2人
観光客:14人
若い冒険者がテーブルを拭きながら、軽く息を吐いた。
「いやあ……いきなりたくさんのお客さんが来てくれましたね!」
「うん。来るのはありがたいけど、帰るの
が少し大変そうだったな」
悠人がカウンター越しに答えると、ミアが椅子の背に腕を回して頷いた。尻尾はだらりと下がっていて、疲れているのが分かる。
「王都まで戻るの、暗くて怖いよね。しかもちょっと遠いし」
ミアがそう言うと、若い冒険者も同意するようにうなずいた。
「さっきの人たちも、名残惜しそうにしてました。泊まれたら助かるのに、って顔してましたよ」
悠人は片付けたカップを重ねながら、さっきまでの光景を思い出す。飲み終えた客が何度も振り返り、王都の灯りの方を見てから、仕方なく帰っていく背中。カフェはできたし、畑もできた。なのに、夜になると人が散ってしまい、少し心細さが残ってしまった。
「……じゃあ、ちゃんと作るか。泊まれる場所があった方がいいだろう」
言うと、ミアの耳がぴくりと動いた。
「いいね。寝る場所があれば、夜もゆっくりできるよ」
若い冒険者が目を丸くする。
「作るって……まさか、今からですか!?」
悠人は「そうだ」とうなずき、【施設】の項目を開いた。指先で【宿泊】を選び、さらに【ゲスト棟(小規模)】へ。
豪華にする必要はない。とにかく清潔で、安全で、眠れることが最優先だ。将来、増やしたくなったら増やせるように、無理のない形にする。
確定を押すと、ダンジョンの一角が静かに組み替わった。石の壁が少しだけ奥へ引き、木の骨組みが現れ、板のタイルがはめ込まれていく。夜の静けさの中で、建物が「音もなく」出来上がっていくのが逆に不思議だった。気づけば、木造の小さな宿泊棟がそこに立っている。
若い冒険者が、思わず声を落とした。
「……すごい、本当に建つんですね」
「俺もほんとに不思議に思うんだよな。とりあえず確認してみよう。宿は中身が大事だから」
悠人はミアと一緒に入口へ向かい、扉を開けた。
最初に現れたのは、玄関に近い小さなホー
ルだった。靴棚が並び、壁際に簡素な受付カウンターがある。灯りは眩しすぎず、足元が見える程度に整っている。
悠人が指をさす。
「ここが入口で、靴はここに置いてもらう。受付は……とりあえず名前を書いてもらう形でいいかな」
ミアが床を軽く踏んで確かめる。
「すごい、滑らないね。走っても転びにくそう」
「走る子が来たら困るけどな」
悠人が笑うと、ミアも小さく笑った。
ホールの先には廊下が伸びていた。木の床で、足音が硬く反響しない。壁には控えめな照明が一定間隔で付いている。
「ここが廊下で音が響きにくいようにしてある」
悠人が説明すると、若い冒険者が耳を澄ませる。
「ほんとだ。歩いても声を出してもあまりうるさくならないですね」
廊下の左右に扉が並ぶ。悠人は一つ開けて見せた。
中は標準の個室。シンプルなベッドに、小
机、荷物置きと収納箱もある。窓のような採光部があり、閉塞感が薄い。
ミアが部屋に入って、ぐるりと見回す。
「ちゃんと寝られそう。変な匂いもしない」
「清潔は一番大事だからな。何せここは“泊まる場所”だからな」
若い冒険者はベッドの端をそっと押して確かめた。
「しっかりしてますね。これなら、いつでも安心して眠れますね」
次に悠人は、少し広めの部屋へ案内した。ベッドが二つ置ける間取りで、荷物置きも広い。
「ここは二人用だな。友達同士とか、荷物が多い旅人向けの部屋になってる」
若い冒険者が感心したように言う。
「家族でも来られますね」
「親子で泊まれたら、安心だよね」
廊下の途中には共有スペースがあった。小さな談話室だ。テーブルと長椅子があり、匂いの強い食べ物意外なら、飲み物や軽食を持ち込めるようにしてある。灯りは柔らかく、夜に落ち着いて話せそうだ。
ミアが椅子に座ってみる。
「ここ、静かなら夜でも話せるね。」
悠人はうなずく。
「部屋の中だけだと息が詰まる人もいる。ここで少し休めればいい」
最後に、水回りを確認する。洗面台と簡易シャワー室。男女で分けた入口があり、動線は分かりやすい。
悠人が言う。
「ここが洗面でこっちがシャワー室。泥はここでしっかり落とせる」
ミアはシャワー室の扉を見て、首を傾げた。
「前に悠人が作ってくれてた、湯船?はないんだね」
「そうだなあ、でも、まずは最低限だ。急に作りすぎても、管理が追いつかなくなってしまう」
悠人がそう答えると、ミアは納得したように頷いた。ただ、尻尾の先が少しだけ揺れている。何かを考えている合図だ。
確認を終えて外へ戻ると、若い冒険者はまだ半分信じられない顔をしていた。
「これ、今日から使えるんですか?」
「ちゃんと使える。試しに、泊まりたい人がいたら案内していいよ」
悠人が言うと、若い冒険者は嬉しそうに「はい」と答えた。
その夜、さっそく数組が本当に泊まった。カフェの常連になりつつある旅人が「助かる」と笑い、王都へ戻る予定だった人が「一晩だけ」と部屋を取った。
廊下には控えめな足音が流れ、談話室では小さな声の会話が交わされる。ダンジョンの中に、“宿”の気配が生まれたのが分かった。
ミアが外の通路で、悠人に言った。
「夜も人がいると何か嬉しいね」
「うん。ここまで来ると、帰らせるのが惜しくなるな」
悠人はそう答え、眠る人たちの邪魔にならないように灯りを少し落とした。
翌朝、宿泊棟の入口付近で、旅人が肩を回していた。別の者は足を伸ばし、ふくらはぎを揉んでいる。眠れたはずなのに、表情が少し硬い。
「寝られたけど、体が少し固いな」
「シャワーは助かるんだが、疲れが抜けきらないな」
悠人はその声を聞き、ふとシャワー室の方を見る。確かに、泥は落とせる。汗も流せる。だが旅の疲れは、流すだけでは取れないことがある。
ミアが小さく言った。
「寝る場所はできたけど、休む場所はまだだね」
悠人はうなずき、穏やかな声でまとめる。
「そうだな。宿としては、もう一段必要か……」
若い冒険者が首を傾げる。
「もう一段……ですか」
悠人は短く答えた。
「疲れを取る設備を増やす。湯に浸かれる場所があれば、旅人はだいぶ助かる」
ミアは人差し指を立ててひらめいたように言う。
「それなら湯船だ!あったら、みんな喜ぶと思うよ!」
悠人は【施設】を開いた。次に選ぶべきものは、もう決まっている。派手さはいらない。まずは、しっかり休める場所を。
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観光客:14人
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