救う毒

むみあじ

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7月 グロリオサ

第70話

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腕を引っ張っている邪魔なソレをひと睨みして威嚇してからまた歩みを進める。


「ま、待って!久道くん、どこ行くの!?怪我してるのに!手当てしないと…!」
「黙れ。テメェには関係ねェだろ」
「そう、かもしれないけど…!見ちゃったんだもん、ほっとけないよ…!」


眉を下げながら縋る様にこちらを見つめるソレに舌打ちをつきながら力任せに腕を振り払う。どうしてわざわざ面倒毎に首を突っ込もうとするのか理解できない。どう考えても俺に関わったところで碌な事にならないのに、どいつもこいつもそうやって。



「手当てなんざいらねェし、今から俺は風紀に行くンだよ。とっとと帰れ」
「いらないわけないよ!久道くん風紀に行くのは手当ての後でも遅くないと思うんだ…だから、先に手当てをさせて欲しいんだ、お願い」



尚も俺を追ってくるソレに舌打ちをしながら向き直る。




「何で俺が、テメェの我儘に付き合わなきゃいけねェんだよ」




そう吐き捨てて足早にその場を去った。
最近は我儘に付き合わされてばかりだ。アイツの我儘でさえ辟易していると言うのに、更に我儘に付き合ったら過労死するに決まっている。


アイツは俺が押しに弱いと思ってるようだが、そんな事あるわけがない。俺は今迄だって嫌なもんは全部振り払ってきた。例え力づくだろうと、絶対に相手を許容することはなかった。

それでも俺がアイツの我儘を聞いてやるのは、俺がどんなふうに断った所で、最終的にはアイツの望み通りに動かされてしまうからだ。断った所で無駄になり、むしろ力づくで抗えば抗うほどアイツは俺の意識に深く入り込んでくる。

それなら最初っから抵抗せず、許容しているように見せた方が良い。そうすればアイツもそれで満足する。だからわざわざ聞いてやってるんだ。




後ろから絶えず聞こえる声を振り切るように足をすすめる。ようやく見えてきた風紀室の前へ半ば走るように向かい、引き戸を思い切り開けた。

閑散とした風紀室内を見回せば、ずっと探していた茶色の瞳と視線が絡み合う。一歩踏み出そうとした所でソイツは勢いよく立ち上がった。


「千秋!」


茶色の髪をふわふわと揺らしながらそばに駆け寄ってくるソイツは、一見すれば体に怪我もなく顔色もそこまで悪くない。とはいえ、熱を出したあの時のように無理しているかもわからないだろうと考えながら、見上げてくるそいつを観察した。

眼鏡越しに見える瞳は心配の色を浮かばせている。俺の体のことよりも自分の体のことを考えればいいのに、意味がわからない。


「千秋、ほっぺ殴られた?」


眉を下げながらこちらを見つめていたそいつは、そっと頬に手を伸ばす。それを甘んじて受け入れれば、触れているのか疑ってしまうほど優しく何度も何度も頬を撫でる。


ふと、茶色の瞳が翳った。前に、一度だけ見た事がある。


怪我をしたら絶対に手当てをさせて欲しいと乞い縋ってきたあの時と同じ瞳だ。たかが擦り傷程度で手当てをしたと思えば次からも手当てをさせて欲しいと、俺が死んでしまうかもしれないからと、縋り付いてきた時と同じ瞳。

何故こんな顔をしているのか、思い当たる理由が一つだけある。餌にされたコイツが、もし、もしも、柄にもなく自分のせいだと考えていたら。



「おい」



はっとした顔をして見つめてくる依夜の瞳は、未だ影が差している。茶色の外郭に覆われたその奥、隠された紫もきっと、黒く濁っているんだろう。



「自惚れてンなよ」



冷たく言い放てば瞳を大きくさせてこちらを絶えず見上げている。依夜はいつだって自惚れてるが、こういう自惚れ方は気持ち悪くて胸の辺りがゾワゾワすんだよ。



「テメェの為じゃねェ」



慰めてなんてやらねぇし、第一俺にはそんなもんのやり方なんざわかんねぇんだよ。
離れていきそうになった手を咄嗟に握って、変に気負う必要はないと伝える為の行動だと、口の中で呟きながら自分の左頬に押しつけた。


「俺は俺が暴れたかったから、勝手に暴れただけだ」



俺が思考し、俺が選んだ。
蛆虫共を痛めつけたのも、必死になって探したのも、護衛役をやったのも、我儘を許容するのも、看病したのも、分け与えられたプリンを食ったのも、相互監視を受け入れたのも、腕を引かせるのを許したのも、髪を拭く手を振り払わなかったのも、シャツのボタンを締めてやったのも、俺が思考して、俺が俺の意思を尊重して、選んだ事。


依夜といる事を選んだのも、俺自身の選択によるもの。


例えその選択が俺の意思ではなく、コイツの意思を尊重する形になったとしても、結局決断を下しているのは俺自身。




「だから、テメェのせいだって自惚れンなよ」




全部、俺のモンだ。
テメェはテメェの中身を俺に差し出さねェくせに、俺のモン奪ってンなよ。


それだけ言って伏せていた目を開ければ蕩けるくらい甘ったるい笑みを浮かべているソイツが目に入った。先程の影は完全に消え去り、今はただただ愛おしいものを、それこそコイツが飼ってるっていう犬の写真を見る時のような目をしている。

頬に触れていた片手が両手に増えた。ひたすら撫で回す手つきは完全に俺の事を犬かなんかだと思っている。思わず眉間に皺が寄るが、それすらも愛しいと言いたげな甘い瞳で見つめられるだけだ。


俺は犬じゃねェし、犬扱いなんざゴメンだ。


蒸し返すように湧いて出た苛立ちの理由は、当たり前のようにわからなかった。
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