救う毒

むみあじ

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7月 グロリオサ

第78話

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仕切り直すように軽く掌を合わせて乾いた音を鳴らす。


「そもそも、俺を風紀の候補に挙げるのでさえ反対されたんじゃないですか?」
「……まぁ…」
「それなら尚更委員長特権で俺を風紀に入れちゃったら諒先輩への不信感が募るだけです。そのせいで副委員長のが支持されちゃったら、風紀から追放されたくなかったら恋人になれ、なんて脅して諒先輩を無理矢理手篭めに…なんて事もあるかもですよ?」


この学園の生徒会長、風紀委員長という地位は今後の人生に良くも悪くも影響する地位だ。桜雅峰学園という国の、国家指導者と言えるのだから当たり前だろう。それほどに、この学園での生徒会長と風紀委員長という存在は大きい。

だからこそ、一度その地位から転落してしまえば、無能のレッテルを貼られてしまうのだ。

桜雅峰学園での会長、風紀委員長の交代は、会長なら生徒会副会長または風紀委員会が、風紀委員長なら風紀副委員長または生徒会が交代の提案をする。まぁ提案という名の圧力だ。提案がなされてから2週間程で辞職するか、大きな結果を残して生徒からの信用を取り戻せば元の席に戻れるらしい。大抵は前者だそうだ。

他にも役員全員を総辞職させる方法もあったりする。生徒の過半数から総辞職に賛成する著名を集めて生徒総会で不信任決議案を可決させれば良いらしい。過去成功した記録はない。というかやろうとした生徒もいないっぽい。そりゃね?過半数の著名とか絶対むりぽよ?


「ともかく、今は打つ手なし!警戒しつつ様子見が良いとこですよ」
「確証も無しに責め立てればこっちが危なくなるしなぁ…それが妥当か…」
「転校生で手一杯だというのに…とっとと証拠見っけてシメてやらァ…」
「タッツン元ヤンが出てる出てルゥ」



結局打つ手無し。状況確認ができたのと、裏で糸を引いてる奴がいるという確認ができたのは多分そこそこ、まぁまぁ、ほどほどにいい収穫だと思う。思いたい。

それでもやっぱり手詰まりな事には変わらず、思わずソファに項垂れながら瞼を閉じた。暗闇の中で思考を巡らせていると、ふと思い浮かんだ俺の友人の姿。

艶やかなのプラチナブロンドに空色の瞳の、人形かと見紛う程整った顔を持つ、王子様然とした友人。

彼とはお互いに助け合い支え合う関係で、親友と言っても過言ではなかったと思う。「困ったことがあればなんでも言ってほしい。絶対に君の助けになる事を誓うよ」なんて、微笑みを携えて宣った彼に笑顔で頷いたのはいつだったか。それ以来俺は彼をよく頼っていたし、彼も俺を頼ってくれて、中々に良好な関係だった。だったのだが…

中学に入る前に彼は故郷である海外にやりたい事があるから、と俺を置いて行ってしまった。俺はそれがすごく嫌で、けれど彼の『やりたい事』を応援したくて、でもやっぱり、唯一の友達と一緒にいたくて。拗ねまくった俺は彼が海外へと飛び立つ当日まで距離を置いていた。見兼ねたニィさんに空港まで引き摺られていなければ、多分俺と彼は拗れたままだったと今は思う。

目元を赤くした彼は酷く寂しそうに、辛そうに眉尻を下げて「また会いにくるから。その時は今度こそずっと一緒にいよう」と俺に誓った。“また”がいつになるかもわからない癖に、俺はそれを信じて頷いて、今尚それを信じ続けている。だって彼は、アルは嘘をつくような人じゃ無いから。

それ以来、連絡すらとっていないし、思い出そうとも思っていなかった。だって、どうしようもなく会いたくなる。




「………会いたいな……」



不意に出た呟きに驚きながら口を手で覆う。静まり返っていた風紀室内に俺の独り言は良く響いた。

「今、今俺、こ、声出て、えっ?うそ、待っ、待って、待って待って待って、は?や、うそ、声出てた、うそ、ま、え?」

顔に熱が集まる。驚いたような表情で俺を射抜いてくる視線、視線、視線。
グッと奥歯を噛み締めてから



「ッこっち見んな!!!!」



思わず吠えた。
隣にいた壱成先輩は耳を押さえながらもニヤニヤと俺を見つめている。は?何?キレそ~~~~


「マジでお前の羞恥ポイント何?最初もそうだったけどさぁ」
「耳まで真っ赤になっているな…」
「諒先輩はとにかく黙って!倉沢先輩は冷静に分析しないでください!」
「イヨくんの照れ顔ってレア!?レア!?!?」
「うるせぇ…」
「壱成先輩!撮んないで!馬鹿!千秋だけが救いじゃん!」
「ハッ、頸まで赤くなってンぞ」
「この裏切り者ーーーーーーーッ!!!!」



いやいやいや、そんな、そんな事ある?ついつい心の声が口からポロリしちゃうとか、そんな漫画みたいな事、ある?俺が?この俺が?

冷静さを欠きながら脳味噌を回そうとするが、羞恥で思考は真っ白に上塗りされていく。混乱が止まらないままに、ソファーから立ち上がりリュックを背負う。無理。この空間にいるの恥ずかしすぎて無理。


「帰る!!!!!!」
「は!?ちょ、待て待て待て、まだ終わってねぇって」
「やだ、もうやだ、帰るし。ちょ~~~~帰る。無理無理。恥ずかしすぎるし、俺もう疲れた。わかる?ついさっきまでゲロってたんよ?帰る。帰せや。またゲロってもいいんか?」
「イヨくん情緒ヤバ」
「ゲロられると掃除がだな…」
「ガキかよ」


もうほんと帰る


「いや、割とマジで今日はもう帰ります。時間も時間だし、あと本気で疲れた…眠くなってきたので、明日にしてください。明日に」
「疲れるのもわかるんだが、情緒が普通にやべーんだよ…」
「疲れてんだから情緒不安定にもなりますぅ」
「はいはい、んじゃ今日は解散だな。北条先輩は下っ端回収してけよ。俺と倉沢先輩はまだ仕事あっから、久道、依夜任せんぞ」
「俺、赤ちゃんだと思われてる?」
「下っ端回収おっけ~。残念ながら今のイヨくんは眠くてぐずってる赤ちゃんにしか見えないヨォ~おめめトロンってしてて可愛いネ」



誰が赤ちゃんだ、誰が。
欠伸を噛み殺しつつ千秋の手をグイグイと引く。面倒臭そうにこちらを見た千秋に帰ろうと笑いかければ、大きなため息を一つついて廊下へと歩き出した。


慌ただしい一日が終わる。夏の喧騒が、そこまで迫っていた。



──────────────────
「いいんちょ~。イヨくん、誰に会いたがってるかワカル?」
「…さぁな。俺も知らねーよ」
「なんか面白くネぇわ~」
「とっとと帰りてぇ…」

なんて会話があったとかなかったとか。
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