救う毒

むみあじ

文字の大きさ
81 / 131
7月 グロリオサ

第79話

しおりを挟む
千秋にタラタラと話しかけながら寮へと戻れば、丁度飯時のようで、人で溢れかえっている食堂が視界に広がった。それを華麗にスルーして、千秋の手を軽く引きながらエレベーターホールへと向かう。


「今日の晩御飯はカップ麺ね。もうマジで疲れちゃった」
「……」
「演技については部屋で説明するから、ね?」


言外に絶対逃さんぞと笑顔で伝えれば、目を細めながら眉間に皺を寄せた。獣に威嚇されているようで、ふふ、と笑い声を漏らせば嫌そうに俺から目を逸らす。だから、嫌そうな顔を見るのも好きって言ったでしょ?からかって遊ぼうと思っていたが、タイミングよくエレベーターが来てしまう。開かれていく扉の向こうへと一歩足を踏み出して、小さくおいでと千秋に囁く。さらに顔を顰めた千秋は威嚇する獣そのもので、ぐるると空耳が聞こえてくる。ほんと、狼みたいだなぁ。そんなことをぼんやりと考えながら、エレベーターに乗り込む千秋の揺れる青髪を見つめた。




鍵を開けて真っ暗な部屋の電気をつける。ただいまぁ~おかえりぃ~なんて一人で呟きながら、靴を適当に放り出した。千秋もそれに倣い靴を脱ぎ、俺の分まで脇に並べる。心の中でニヤつきながらそれを眺めて、視線をこちらへ向けた千秋に笑いかけた。


「おかえりなさい、千秋」
「、…」


瞳を僅かに揺らした千秋が、意味もなく口を開け、また閉じた。なんとも言えない表情をする千秋にくすくすと笑いを漏らしながらリビングへと辿り着く。すぐさまリュックを下ろし、棚からカップ麺を二人分取り出してお湯を注ぎ込んでから、ウィッグを外して洗面所へと向かった。

洗顔を終えてリビングに出れば、丁度千秋がカップ麺に液体スープの素を入れていたので、隣に並んで俺もスープの素を入れる。千秋は優しいけど、こういうのはやってくれないのだ。甘えんなアホって一蹴されて終わり。散々な目にあった今日くらいやってくれたっていーじゃん!なんて目で見てみたが、スッとさりげなく逸らされてしまう。え~ん!千秋のケチ!


「テメェ、その面晒して良いのかよ?」
「ん、」


口に入れていたものを喉奥に無理矢理追い立てて飲み込む。喉を通っていく麺の感触が残って、若干の不快感を覚えながらも気にせず口を開いた。


「諒先輩にも壱成先輩にも見られちゃった。あーあ、千秋だけだったのに」


唇を尖らせながら、目の前で頬杖をついている千秋の顔を伺うように覗き見る。千秋の表情はいつものムッとした表情だ。眉間に皺を寄せ不機嫌そうにこちらを見ている。


「千秋と俺だけの秘密だったのにね。俺は少し残念なんだけど、千秋はどう?」
「…んなもん、どうでも良いに決まってンだろ」


瞳がすぐに逸らされる。心なしかいつもよりも不機嫌な千秋に気が付かれないように目を細めながら、食べかけのラーメンに手をつける。


持っていた箸を置いて残ったスープを飲むために器に口をつける。醤油のしょっぱすぎるくらいの濃い味がとっても体に悪そうでサイコーに美味しい。ぷはぁ~なんて息を吐いてから口元をティッシュで拭い、空になったカップ麺を回収する。千秋はとうの昔に食べ終えているので、千秋の分も回収し、ゴミ箱へ入れた。



「千秋的にはむしろ残念だもんね?まぁ、千秋の秘密を俺も握ってるから、まだまだ離れられないだろうけど」



下着やパジャマを片手で抱えながら洗面所へと向かう道すがら、千秋に向けてそう囁けば、眉間の皺がさらに深く刻まれる。それがとっても面白くってクスクス笑いながら風呂場へ駆け足で向かった。




熱い雨を頭から浴びる。雫が体を伝い落ちていく感覚を覚えながらも、脳みそに焼き付いた光景を思い出し、そっと指先を下半身に這わせる。保健室での戯れは、熱に浮かされていたせいもあってか、溶けてしまいそうなほどの快感だった。自分のものではない、大きな掌に握り込まれた己の愚息。その光景すら淫らで、俺は何度生唾を飲み込んだだろう。思い出すだけで熱い息が漏れ出てしまった。反応しつつある性器に呆れつつも、頭を振って思考を切り替えるために、シャワーの温度を少し上げた。


髪の毛をタオルで乱雑に拭きながら、くぁと一つ欠伸を零す。あれほど乱れたせいか、流石に体力も限界が近いらしく、どっと疲労と睡魔が襲いくる。ぐぬぬ、と呻きながら、千秋に髪の毛乾かしてもらえないかな…なんて邪な考えを抱き、ドライヤー片手に洗面所を後にした。


「おう、おかえ、り…あー、依夜、だもんな。そうだよな…」
「うわっ、イヨくん瞳紫色なの?ヤベェ、ちょ~~エロい…てかおめめとろんとろんじゃん!カワイ~~俺と2人っきりだったら絶対ェ食ってたワ!」


リビングに戻れば人が増えているではないか。分かっていたことではあったが、予想より随分早かった。驚きつつも2人に近づいて、にっこり笑顔を向けて見せる。


「どう?俺の瞳。アメジストみたいで綺麗でしょ?」


身を乗り出して琥珀とカラメル、糖度の高い二つの瞳を交互に見つめる。美味しそうだな、と呑気な感想を抱きながら2人からの賛辞を待つ。


「…おー、だな」
「マジでイヨくんの瞳スゲェ綺麗。俺こんな綺麗な瞳って初めて見たかもだワ…」


諒先輩の反応が薄い。すぐに目を逸らされてしまったし、もっとニカッと笑ってくれると思ったが、表情もイマイチだ。
ぐぐっとさらに詰め寄って、無理矢理瞳を合わせる。



「目、逸らさないで」



琥珀が一瞬、ギラリと輝きゆらめいた。俺の瞳をしっかりと射抜いているのを感じながら、意識して瞳を細める。諒先輩からの賛辞は未だ来ず、代わりに息を呑む気配だけがする。焦ったく思いながらも、ゆっくりと瞬きを繰り返せば、は、と小さく息を吐き、ほんの少し、引き結んでいた唇を開き、



「ぅおあ!?」
「っぶね~……」


体を思い切り離された。いつの間にか肩に置かれた手によってだと気がついてムッと唇を突き出す。


「諒先輩全然褒めてくんねーし」
「いや、お前…お前なぁ!」
「いいんちょ~の忍耐力スゲェ~~~ワ。俺ならがぶっといっちゃうナァ~~~」


壱成先輩は何の話してんの?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

あの夏の日を忘れない ~風紀委員長×過去あり総長~

猫村やなぎ
BL
椎名由は、似てるという言葉が嫌いだった。 髪を金にして、ピアスを付けて。精一杯の虚勢を張る。 そんな彼は双子の兄の通う桜楠学園に編入する。 「なぁ由、お前の怖いものはなんなんだ?」 全寮制の学園で頑張り屋の主人公が救われるまでの話。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】僕らの関係─好きな人がいるのに、学園の問題児に目をつけられて─

亜依流.@.@
BL
【あらすじ】 全寮制の男子校私立掟聖学園には、学力向上を目的とした特殊なペア制度が存在した。 ───────────────── 2年の入谷優介は、生徒会長であり学園のカリスマ、3年・中篠翔へ密かに思いを寄せていた。 翔とペアになる事を夢見る優介は、ある事件をきっかけに、同じく3年の超絶問題児、本郷司とペアを組む事になってしまう。傲慢な司に振り回される優介に手を差し伸べたのは、初恋の相手である翔だった。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

処理中です...