救う毒

むみあじ

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8月 樒

第88話*

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暫く学園での出来事を秀にぃさんに聞かせていると、3度軽快なノックが鳴る。びくり、と肩を跳ねさせているうちに、秀にぃさんは部屋の扉を開けに行ってしまった。いよいよ腹を括らねばならぬ。武士かよ。


「始めているかと思ったが、待っていたのか?」
「あぁ、依夜がニルスを待ちたいと」
「…蕩けてしまっていた方が依夜からしてみればいいと思っていたんだが…見当違いだったか?」


そう尋ねられ首を傾げる。どうしてトロトロになっていた方が俺的に良いのだ?


「蕩けていれば、ニルスが入ってきた事にも気がつかないだろう?」


は、と声が漏れる。



「そうじゃん!!!!!」



馬鹿でかい声で同意を示しつつ、顔から熱がぶわりと溢れる。そうじゃん!俺がとろとろになって前後不覚みたいな状態だったらぶっ飛んじゃって恥ずかしさとかないじゃん!
1人心の中で叫び声を上げていると、くつくつと喉で笑ったニィさんがベッドへと腰掛けた。ぎしり、とスプリングが軋み、その音にハッとする。そうだ、今から、俺は、


「依夜、八剣に体を預けなさい。この間のおさらいだ」


ニィさんの言葉と同時に、もう一度スプリングが軋む。俺の背後に回った秀にぃさんが、俺の体を後ろから抱きしめた。秀にぃさんの香りは、タバコと香水が入り混じった、大人の香り。甘いのに渋くて、でもそれが不快感を与えず、寧ろ不思議と癖になってしまう、魅惑的な香り。その香りにくらりときてしまうのは、仕方がない事だと思わない?


「足を広げて。そう、良い子だ」
「あぁ、もう反応しているな?ここからだとよく見える」


太腿に手を添えられ、秀にぃさんの甘い声で導かれるように足をM字に広げる。脳味噌を侵食していく低い声と言葉が、じんわりと腹の奥に響いた。はぁ、と体にこもった熱を放出させるように息を吐けば、じっと見つめていたエメラルドグリーンと目が合う。ふ、と柔らかな笑みを浮かべてから、俺の下半身に目をやって、楽しそうに言葉を連ねた。


「下着の上から少し摩ってみたらどうだ?」
「あぁ。手でするには少し硬さが足りなさそうだしな」


前方と背後でどんどん話が進んでいく。俺の意思は関係ないと言わんばかりの進みようだが、彼らは俺の意見を聞いているつもりなのだ。だって、無言は肯定だから。

背後から伸ばされた骨張った手が、膨らみ、布を押し上げはじめたそれに触れる。声が出そうになるのを我慢しながら、上下、前後左右に擦られている愚息を見つめた。丁度、根元にあたる部分から先っちょの部分までを、触れるか触れないかという絶妙な加減で擦られる。触れられているような、触れられていないような、触覚だけでは認識できない不可思議な感覚に、脳味噌がジリジリと焦がされていく。もっと、しっかり触ってほしい。そんな欲望が顔を覗かせ、俺は無意識に腰を浮かせていた。


「依夜、しっかり体を預けなさい」
「そんなに触られたいのか?堪え性がないな、依夜。この前もそうだったし、我慢の練習もした方が良さそうだ」
「やっ、やだ!我慢の練習やだ!我慢できるもん、できる!我慢ちゃんとするから!やんなくていい!我慢の練習、やだよぉ…」


恥も外聞もなく2人に希う。今でさえ無意識に腰を浮かせてしまうほどなのに、我慢の練習と称して絶頂を禁止させられでもしたら…そんなもどかしい状態がずっと続いてしまえば、俺は理性と知性と人間性を捨て、淫らで浅ましい姿を晒してしまうだろう。そんな情けない姿、見せたくない。2人に引かれたくない、嫌われたくない、可愛いって思われたい

その一心で必死に訴えかければ、秀にぃさんはニィさんへ目配せをした後、俺の体を強く抱き込んだ。脇の下から腹部へと通っていた腕が、今度は俺の両腕を巻き込みながら腹部に回る。この状態では肘から下しか手は動かせず、まるで拘束具で拘束されているようだ。秀にぃさんは力が強いから、俺がどれだけ暴れたところでびくともしないだろうし、無理矢理抑え込まれてしまうのだろう。そんな想像をしたところで、こくりと喉が鳴った。


「さっきよりも反応しているな、依夜。何を想像したんだ?」
「ぁ、え、うそ…あ、ぅ…」
「答えられない?それなら、俺が当ててみよう」


甘く低い声が鼓膜をくすぐりながら、耳輪へと柔らかいものが当たる。声と共に柔らかいそれは動き、撫で擦り、時折熱を放つ。見えなくともわかる。きっとこれは、秀にぃさんの唇なのだろう。擦れる度に背中からうなじにかけてゾクゾクとした痺れが迫り上がる。先程よりも反応し布を押し上げているそれが、秀にぃさんの武骨な指で柔く触られるのと相まって、さらに痺れは激しく重々しくなっていき、俺の口からは意味のない音しか出てこなくなってしまう。
返答が出来ない俺を、微かに笑う声が聞こえる。もちろん嘲りなどではなく、単純に、愛でるような笑い声。それにほんの少し羞恥が抜けるのも束の間で、秀にぃさんは構わず言葉を囁いた。



「そうだな…俺に絶頂へと促されて、みっともなく達し、なおも搾り取るように動き続ける手から逃がれようと暴れるものの、力付くで抑えつけられて無理矢理絶頂へと押し上げられる妄想、と言ったところか?」
「ひっ、い、ぁ…ぅ、」
「あぁそれとも、さっきのように触れるか触れないかの距離で擦られて、じわじわと絶頂へと押し上げられるのに、達する寸前で手を離され放置され、収まった頃にまた擦られて…それを何度も何度も繰り返して、達したいと暴れるのを抑えつけられる妄想か?」
「ぁ、…う…」



ぶるり、と体が震える。それは怯えや恐怖によるものではなく、秀にぃさんに思考を見透かされていた事への羞恥と、もしかしたら、と言う快感への期待だった。甘く重い痺れがさらに募っていく。無理だと、嫌だと乞うても与えられ続ける恐怖も、もっとと、触ってと乞うても与えられることのない焦燥も、味わいたい、味わい尽くしたい。


「ふふ、期待してるのか?涎が垂れてきている。可愛らしいな、依夜は」
「ん、んあ、はぁ…」
「おい八剣。あまり焦らしてやるな」
「はぁ…お前は本当にせっかちだな…」
「貴様がねちっこいだけだ」


いつのまにか口の端から唾液が垂れてしまったようで、秀にぃさんに指摘される。舌を器用に動かして舐め取れば、いい子だ、と褒めるように口付けをこめかみに落とされる。褒められた、嬉しい、もっとしてほしい、という感情で頭が埋め尽くされる。


「依夜、いいか?今からするのはテストだ。我慢の練習が必要かどうかを見極める、簡単なテスト」
「てすと…」
「そう、テスト。大丈夫、何も頭を働かせるものではない。ただ我慢すればいいだけだ」
「が、まん…」
「30分だな」
「…いくらなんでもそれは長いだろう…せめて10分じゃないか?」
「……徐々に長くしていくか。次やる時は30分だ」
「はぁ…全く…あぁ、放っておいてすまない、依夜。聞いていただろう?10分の間、射精を我慢するテストだ。簡単だろう?依夜は我慢が出来るものな」
「我慢が出来たらご褒美もやろう。テスト終わりのご褒美は、依夜も好きだろう」


ぐるぐると回る感情に浮かれていると、秀にぃさんが俺を現実に引き戻した。囁かれていく言葉たちを咀嚼して、馴染むように単語を呟く。てすと、がまん、ごほうび、てすと、がまん、ごほうび。
10分、耐えるだけ。耐えるだけでいい。そうすればご褒美がもらえる。もしかしたら、もっと褒めてもらえるかもしれないし、たくさん撫でてもらえるかもしれない。そんな子供っぽい思考で、俺は首を縦に振った。



「本来のおさらいからは脱線してしまうが…必要な事だ。しっかり出来るだろう?依夜」
「ぁっ、はぃ…」
「射精すればわかるとは思うが、見えなくなっては困るからな。念の為シャツの裾は持っていてくれ」



ニィさんにシャツの裾を引っ張られ、下着と腹部が曝け出される。言う通りに裾を持っていると、ニィさんの指が腹部に触れた。臍を撫でるように掠めていった指に肩が跳ねる。恨めしげにニィさんを見つめれば、獲物を定めた肉食動物のようにスッと目を細めて、口の端を吊り上げた。




「それじゃあ始めよう。あぁそうだ。勿論だが、射精してしまったらお仕置きもある。我慢の練習とは別で、な」



開始の合図と共に、秀にぃさんの掌が俺の愚息を包み込む。布に擦れる感覚と、自分のものではない体温、質感に翻弄されつつ、目の前の人物が言い放った言葉を何度も脳内で繰り返す。お仕置き…お仕置き…?お仕置き!?


「えっ、あ♡ッやぁっ、はぅっ…おッ、しおき、なんてッ!きいて、なひぃッ♡」


シャツの裾をキツく握り締めながら、的確に責められていくそれを見つめる。先程のフェザータッチはなんだったのかと言いたくなるほどの容赦ない上下運動に、喉の奥から引き攣った声が漏れる。身を突き刺すような鋭い快感を与え続けられる脳は、ほんの少し前までに注がれていた焦ったさを燃料に、一気に燃え上がって、行き場のない熱が体内で暴れ始めた。その熱と快楽に抗えない自分の体は、もっととねだるように、媚びるように、貪るように動き始める。手の動きに合わせてへこへこと揺れ始めてしまった腰は、手の動きだけよりも快感を得ている。それが嫌で、無理で、でも気持ちよくて、ぐちゃぐちゃに攪拌されてきた脳味噌の回路が欠陥を引き起こし、無意識に脚を閉じようと信号を発した。業火のような快感を、どうにかして逃がしたかったのだ。



「脚を閉じるのは許さない。射精したかどうか、わからないと困るだろう?」



さも当たり前のように語られる内容を、上手く飲み込めない。閉じようとしていた脚は、数秒前よりも広がっている。それもそうだ。脚を閉じようとした瞬間に、ニィさんが股の間に割って入り、俺の足を抑えつけたのだから。逃がせなかった快感がビリビリと脳みそに伝わっていき、パチパチと、シャボン玉のように弾け始めた。



「ッ、ふ、う゛ッ、…っ♡う゛う゛ぅ…っ、フーッ…ぅ゛っ♡」



深く息を吐いて、腹に力を入れる。外に出たいとのたうち回る熱を閉じ込めるために。


「こら、歯を食いしばってはダメだ。ニルス、空いている指で撫でてやってくれ」
「勿論。ほら依夜、口を開けろ。食いしばり癖がついて困るのはお前だ」


力を入れる事すら許されない。咄嗟に唇を引き結んでどうにか抵抗しようとするも、何度も唇を優しくなぞられ口付けを与えられる。ダメだ、キスは、キスはダメ。必死に逃げようとするが、ニィさんはそれを許してくれない。ニィさんの指が、俺の指を掠めた。耳輪をなぞり、耳裏を摩って、耳の穴へと指を抜き差しする。それだけで、俺の口元は緩み、口内への侵入を許してしまう。お互いの舌と舌を口内で絡める深いキスをする度に、2人はこぞって俺の耳に触れる。最初はくすぐったいだけだった。それなのに、いつのまにか快感を拾うようになって、今ではそれがこの口付けの秘密の合図になっていたのだ。教え込まされた体は思考力を失って、無意識に唇を開けてしまう。


「ん、ふぅ、んっ…♡はふ、んんぅッ…♡」


歯列をなぞり口蓋を這う熱い舌が、容赦なく快感を与える。舌を絡め取って側面や裏を撫でる動きがいやらしくて、ゾクゾクと鈍い痺れが這う。
指はなおも耳を弄んでいて、侵入してきた肉厚な舌と共に俺を蹂躙する。脳みそが、とろりと甘く蕩けてきた。足先でシーツを蹴りながら腰を浮かせ、与えられる快感に媚びるようにへこへこと情けなく腰を振る。



気持ちいい、もっと欲しい、耐えなきゃ、気持ちいい、もっと、だめ、だめ、イきたい、イッちゃだめ、気持ちいい、耐えなきゃ、我慢、だめ、気持ちいい、イきたい。



思考が宙ぶらりんになっている。
暴力的なまでの快楽は未だ終わらない。
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