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初評定
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今日は今川館に主だった重臣たちを集め、評定の真っ最中。
その主の座に座り、重臣たちからの報告を受けているのが今川義元。つまり自分だというのが、ちょっと信じられない。
近い位置には葛山・岡部・庵原・鵜殿といった以前からの今川家ブレーンが並ぶ。後ろには吉良・瀬名といった親戚達が続き、14になる弟・今川氏豊もそのなかに混じり緊張した面持ちで座っている。
もし義元にも何か遭った時には、今度は氏豊が当主の番。なので早くから政の場に慣れてもらおうという兄の愛だ。
さらに菅沼・安倍・天野・伊丹・山田・奥平・井伊・朝比奈・久野・飯尾・関口・蒲原・朝比奈・由比・荻・富士・粟生・三浦・松井・新野・興津・一宮・斎藤・松下・大原などなど。錚々たる顔ぶれかつ一族で何人も出席してるとあって、顔と名前を覚えるだけで超大変。初めてクラスを受け持つことになった新米教師にでもなった気分だ。
でも任されたのはクラスではなく駿府・遠江の領地。
クラス単位でこの場にいる面々の背後には、それだけ大勢の人の人生が懸っている。決して疎かにはできない。
「―これが今の、今川家周辺の状況にございます」
「うむ」
受けた報告をまとめると、東は支援してくれた北条なので安心。援けてくれたお礼に馬を贈るといった件も、それはようございますと一同からの賛同を得ている。これからも良好な関係を維持したい。
南は駿河湾なので敵はいない。ただ、北と西がちょっと不味い。
北の甲斐武田とは何度も戰と停戦を繰り返してる関係。しかも西で松平が勢力を伸ばしてきた分の穴を、兄・氏輝が北で取り戻そうと戰を仕掛けた。そのため武田とは現在交戦状態。
しかも甲斐の国主・武田信虎は非常に好戦的な性格。なので今年も稲に手のかからなくなる夏になれば、まず戰となるのは間違いない。
ちなみに信虎の子・太郎も、今年の―天文5年(1536年)―3月に元服。室町幕府第12代将軍・足利義晴から晴の偏諱を賜り、名を晴信と改めている。
つまり義元と同じ年に元服し、同じように将軍様から偏諱を頂戴している。大永元年(1521年)の生まれだそうなので歳はこっちの方が3つほど上。だが、先に元服してるうえやることも被ってて、ちょっと対抗心を抱いてしまう。ま、相手は史実でいう武田信玄なる男なんだけど。
西は松平家が勢力を伸ばし、ブイブイ言わせている。
その当主の名は松平清孝。永正8年(1511年)の生まれだそうなので、今年で25。人間五十年と謳われちゃう時代なので、今が一番脂の乗っている働き盛り。
だから義元より24で亡くなった氏輝兄上の方が歳が近い。が、氏輝兄上死亡の遠因となった相手とも言えるので、今川家からすれば眼の上のたんこぶ。うるさく邪魔でしょうがない。
その遠因というのはコイツが暴れたせいで氏輝兄上は三河に勢力が伸ばせず、甲斐への侵攻に政策をシフト。その為に北条と結び歌会なんかで小田原に赴いてたら、変な病気貰ってポックリ逝っちゃったのだ。
報告がひとしきり終わり皆が待つ姿勢になると、離れて上座の隅に控えていた雪斎が口を開いた。雪斎は軍師ポジなので、その位置に座ってもらっている。
「報告は以上のようにございます。太守様から皆に、申し渡すことはございますか?」
「うむ、では儂から皆に、申し渡すことがある!」
語気強く声を張ると、居並ぶ者達が一斉に頭をさげる。しばし待ち、その緊張の空気が張りつめた所で、語気を和らげ話し出した。
「まず、家督を継いで早々に花倉の乱が起きたは、儂の不徳じゃ。皆には済まぬと思うと共に、深く感謝しておる…」
すると岡部親綱が声をあげてくれた。
「なんの、滅相もない!太守様は急に家督を継がれる事となられた。ですからそれも致し方なきこと。誰も太守様を恨んでなどおりませぬ!」
この騒乱で武功一番となった親綱が義元を支える発言をしたことで、ほかの家臣たちも納得し目顔で頷き合う。
「そうか。ではそなたたちの忠義に感謝し、儂は終生この恩を忘れぬ」
主である義元から感謝の言葉を告げられ、また一段。ザッと家臣たちの頭がさがる。主従は御恩と奉公。その奉公に褒美を頂いたばかりか、今もこうして深く感謝を述べてくれる。その思いが、心憎いまでに家臣たちの心に沁み渡ったのだ。
(((これは話の分かるお方。このお方ならばついていける…!)))
手をついて頭を下げる家臣たちの、義元に対する忠誠度はあがった。
「なれど、これだけは申さねばならぬ…。花倉の乱がそうであったように、一族で相争っても何も残らぬ。侘しく、虚しいだけのこと。それ故、儂はその方たちに一族に対し兵をあげることを禁ずるッ!」
家臣たちは頭をさげたまま、その命の意図が如何なるものかと考えを巡らせた。
「…もし、一族同士で納得のいかぬ事あらば、遠慮のう儂に申せ。話し合いの場を設けての、決して悪いようには致さぬ。これは玄広恵探を含め、先に亡くなられた兄達の御霊にかけて誓おう。みな、面を上げよ」
その声に家臣たちが顔をあげると、義元は目を瞑り合掌していた。
「いま申したこと、しかと心に留めおけよ。そして、いま一度この乱で亡くなった者達の為に、その冥福を祈ろうではないか…」
この花も実もある計らいに、その場には静かな感動が渦を巻いた。
親しきを失くした者は鼻を啜りあげ、感受性の高い者は感極まって涙を浮かべている。義元の弟・氏富などは、兄の言に感動し顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
こうして、今川義元は家臣たちのハートをがっちりキャッチしたのだった。
その主の座に座り、重臣たちからの報告を受けているのが今川義元。つまり自分だというのが、ちょっと信じられない。
近い位置には葛山・岡部・庵原・鵜殿といった以前からの今川家ブレーンが並ぶ。後ろには吉良・瀬名といった親戚達が続き、14になる弟・今川氏豊もそのなかに混じり緊張した面持ちで座っている。
もし義元にも何か遭った時には、今度は氏豊が当主の番。なので早くから政の場に慣れてもらおうという兄の愛だ。
さらに菅沼・安倍・天野・伊丹・山田・奥平・井伊・朝比奈・久野・飯尾・関口・蒲原・朝比奈・由比・荻・富士・粟生・三浦・松井・新野・興津・一宮・斎藤・松下・大原などなど。錚々たる顔ぶれかつ一族で何人も出席してるとあって、顔と名前を覚えるだけで超大変。初めてクラスを受け持つことになった新米教師にでもなった気分だ。
でも任されたのはクラスではなく駿府・遠江の領地。
クラス単位でこの場にいる面々の背後には、それだけ大勢の人の人生が懸っている。決して疎かにはできない。
「―これが今の、今川家周辺の状況にございます」
「うむ」
受けた報告をまとめると、東は支援してくれた北条なので安心。援けてくれたお礼に馬を贈るといった件も、それはようございますと一同からの賛同を得ている。これからも良好な関係を維持したい。
南は駿河湾なので敵はいない。ただ、北と西がちょっと不味い。
北の甲斐武田とは何度も戰と停戦を繰り返してる関係。しかも西で松平が勢力を伸ばしてきた分の穴を、兄・氏輝が北で取り戻そうと戰を仕掛けた。そのため武田とは現在交戦状態。
しかも甲斐の国主・武田信虎は非常に好戦的な性格。なので今年も稲に手のかからなくなる夏になれば、まず戰となるのは間違いない。
ちなみに信虎の子・太郎も、今年の―天文5年(1536年)―3月に元服。室町幕府第12代将軍・足利義晴から晴の偏諱を賜り、名を晴信と改めている。
つまり義元と同じ年に元服し、同じように将軍様から偏諱を頂戴している。大永元年(1521年)の生まれだそうなので歳はこっちの方が3つほど上。だが、先に元服してるうえやることも被ってて、ちょっと対抗心を抱いてしまう。ま、相手は史実でいう武田信玄なる男なんだけど。
西は松平家が勢力を伸ばし、ブイブイ言わせている。
その当主の名は松平清孝。永正8年(1511年)の生まれだそうなので、今年で25。人間五十年と謳われちゃう時代なので、今が一番脂の乗っている働き盛り。
だから義元より24で亡くなった氏輝兄上の方が歳が近い。が、氏輝兄上死亡の遠因となった相手とも言えるので、今川家からすれば眼の上のたんこぶ。うるさく邪魔でしょうがない。
その遠因というのはコイツが暴れたせいで氏輝兄上は三河に勢力が伸ばせず、甲斐への侵攻に政策をシフト。その為に北条と結び歌会なんかで小田原に赴いてたら、変な病気貰ってポックリ逝っちゃったのだ。
報告がひとしきり終わり皆が待つ姿勢になると、離れて上座の隅に控えていた雪斎が口を開いた。雪斎は軍師ポジなので、その位置に座ってもらっている。
「報告は以上のようにございます。太守様から皆に、申し渡すことはございますか?」
「うむ、では儂から皆に、申し渡すことがある!」
語気強く声を張ると、居並ぶ者達が一斉に頭をさげる。しばし待ち、その緊張の空気が張りつめた所で、語気を和らげ話し出した。
「まず、家督を継いで早々に花倉の乱が起きたは、儂の不徳じゃ。皆には済まぬと思うと共に、深く感謝しておる…」
すると岡部親綱が声をあげてくれた。
「なんの、滅相もない!太守様は急に家督を継がれる事となられた。ですからそれも致し方なきこと。誰も太守様を恨んでなどおりませぬ!」
この騒乱で武功一番となった親綱が義元を支える発言をしたことで、ほかの家臣たちも納得し目顔で頷き合う。
「そうか。ではそなたたちの忠義に感謝し、儂は終生この恩を忘れぬ」
主である義元から感謝の言葉を告げられ、また一段。ザッと家臣たちの頭がさがる。主従は御恩と奉公。その奉公に褒美を頂いたばかりか、今もこうして深く感謝を述べてくれる。その思いが、心憎いまでに家臣たちの心に沁み渡ったのだ。
(((これは話の分かるお方。このお方ならばついていける…!)))
手をついて頭を下げる家臣たちの、義元に対する忠誠度はあがった。
「なれど、これだけは申さねばならぬ…。花倉の乱がそうであったように、一族で相争っても何も残らぬ。侘しく、虚しいだけのこと。それ故、儂はその方たちに一族に対し兵をあげることを禁ずるッ!」
家臣たちは頭をさげたまま、その命の意図が如何なるものかと考えを巡らせた。
「…もし、一族同士で納得のいかぬ事あらば、遠慮のう儂に申せ。話し合いの場を設けての、決して悪いようには致さぬ。これは玄広恵探を含め、先に亡くなられた兄達の御霊にかけて誓おう。みな、面を上げよ」
その声に家臣たちが顔をあげると、義元は目を瞑り合掌していた。
「いま申したこと、しかと心に留めおけよ。そして、いま一度この乱で亡くなった者達の為に、その冥福を祈ろうではないか…」
この花も実もある計らいに、その場には静かな感動が渦を巻いた。
親しきを失くした者は鼻を啜りあげ、感受性の高い者は感極まって涙を浮かべている。義元の弟・氏富などは、兄の言に感動し顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
こうして、今川義元は家臣たちのハートをがっちりキャッチしたのだった。
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