≒今川義元 風雲繁盛記≒

空志戸レミ

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甲駿婚姻同盟成立

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月日の巡るのは早いもので、もう天文6年(1537年)2月。

というわけで甲斐の武田家から正室がやってきた。正室は武田信虎の長女で、この義元と同い年。共に18歳で結婚だ。

「まぁ…、なんと不思議な。駿府のお酒はこんなに透き通っているのですね」
「面白かろう、清酒といってな。帰りの者にはたんと土産に持たせてやる。甲斐の義父殿も喜んで下さろう」

清酒なんてのは濁り酒をろ過すればいいだけなので、もう酒が在る段階ならそこに辿り着くのはそう難しくもない。

そしてついでのことに、北条とも矛を収めて仲良くしてよ。塩ならいくらでも売るし商売でも優遇するからさって、武田と北条の停戦も仲介している。

試しに言ってみただけだったんだけど、なんか上手くいった。

出来たらいいな~とは思ったけど、ヨシモーも雪斎もそう上手くいくとは思ってなかったし。でも交渉材料が良かったのか単に機嫌が良かったのか。慶事なればってってことで停戦をOKしてくれた。

それについて、先代時に甲斐に侵入し暴れてた福島を花倉の乱で義元派が倒したのも関係しているのでしょうと、雪斎は言っていた。

ま、結婚で義理の弟になる晴信も継室として三条家の娘を迎えてる。武田家では慶事続きって事で、気が大きくなっていたのかもしれない


そんなわけで婚姻と共に商いもスタート。

支払いは甲州金や良質な木材で支払ってもらい、タダ同然でたっぷり生産した塩をがっつり買って貰う。その実、ライフラインを握って武田をコントロールする所存。

その尖兵として、塩分過剰な塩漬け魚を樽で大量に贈りつけた。祝いの品だ。遠慮なく食べてもらい、まずは濃い味の虜になってもらおう。

いずれは味覚が麻痺して常習化し、高血圧になってしまうという恐ろしい計画よ。

また、かように塩に拘るのには、もうひとつ理由がある。

かの有名な織田弾正忠家躍進の礎となった城は、勝幡城という。ではその城がなんなのかというと、本来の意味は塩畑の城という意味。勝も幟も、語呂合わせという訳だ。塩畑の城を勝幡城としたり、信長の義父である斉藤道三のいた稲葉山城を岐阜城と改めたり、織田弾正忠家のネーミングセンスはなかなかにダジャレ。

ともかく弾正忠家も米や塩を堺に売り、その金で堺に集まってきた貴重品を買い、それをまた地元で売るというサイクルで儲けている。

だから今川家がやろうとしていることと競合するのは、当然のこと。しかしながら、現当主自らの号令で駿府・遠江が生産交易を行なえば、これに尾張一国で太刀打ちできるわけもない。

つまり今川が交易で儲ければ儲けるほど、戦わずとも織田家に経済ダメージを与えられるのだ。これぞ、戦わずして勝つというもの。

「この海苔というものも、香りが良くとても美味しゅうございます」
「うむ、米との相性は抜群であるからの。その品も堺でよく売れておるぞ」

特産品の焼き海苔も、甲斐からきた新婦に大好評。

「ほれ…、こうしての。まず海苔に飯を敷くであろう。それから貝の煮つけなど載せて巻けば、手巻き寿司の完成よ。これは好みで手ずから作るのが趣向。食べてみるがよい」
「まぁ…。美味しい。それも義元さまに作って頂いたと思うと、ひときわ美味に感じまする」

(うむうむ、会うまでどんな娘か不安だったけど、好印象で安心した。これは新婚生活が楽しみでおじゃる)

「…来る途中に拝見いたしました。町はとても栄えていて、かように素晴しい物をたくさん作っておられるのですね。わたくしも、義元さまのお力になりたいと存じます。なにか出来ることはありましょうや?」
「ふむ、駿府での生活に慣れたら色々見て周っての。やりたいと思った事をゆっくり探せばよかろう」

「いいえ、わたくしは今すぐ義元さまのお役に立ちとう存じます」
「ほう。されば、木材が不足しておる故、すこし余分に送って欲しいと義父殿に頼んでもらえるかの?」

「はい!ではすぐにも文をしたためまする」
「ホホホ、これは頼もしい。頼りになる正室を得て、この義元まことに心強く思うぞ」

「こちらこそ、かように歓迎していただき、まことにありがとう存じまする」

ああ、笑顔が眩しい。そして18歳で結婚というのも、すごくいい。まぁこの時代だと普通なんだけど、吸収した何者かのせいか心が踊っている。

宴に出ている家臣たちも、みな喜んでくれている。なにせ氏輝兄上も彦五郎兄上も結婚してなかったから、今川家今代の男では初の婚姻。氏輝兄上が嫁さん貰わないから、彦五郎兄上も遠慮して結婚できなかったんだろうし。

あ、それでふたりとも小田原の歌会に参加してたのかな。嫁さん探しで。ともあれ、兄上たちの分も幸せな結婚生活を送るので、どうかやっかまないで見守っていてくださりませ。
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