時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは

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129.証拠

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侍女さんがお茶を出し退室すると、会頭は鞄から書類の束を取り出し、意気揚々とテーブルに置いた。

「今回我が商会を通し伯爵様と契約を交わした者との契約内容の一覧表、そしてオリタ伯爵様の契約書控にございます。お納めください」

そう言い会頭は胸を張った。それに対し無表情のアレックスは何も言わず、契約内容一覧を取り目を通し、テーブルの上の書類箱からヤコブさんに貰った書類を取り出した。そして会頭から貰った契約一覧と見比べ…

「おかしいな…」
「なっ何か問題でも?」

一瞬怯んだ会頭だが自信があるのか強気な態度をとる。するとアレックスはヤコブさんの書類を会頭に見せ

「インク職人のヤコブが今回契約した者達に聞き取りをし、契約内容を其方と同じく一覧にしてくれた。見比べると納税の率やワルダン商会の手数料の割合が違う。これについて説明してくれるか⁈」
「!」

一瞬青い顔した会頭だがすぐに自信作の契約書控をアレックスの前に置き

「それは職人たちが内容を勘違いしヤコブに伝えたのでしょう。サインされている契約書の内容が正しいのです」

そう言いヤコブさんと契約書を指さし語義を強め威圧的な態度を取った。それに対しレベル4のアレックスは

「春香。契約書をみて思う所は無いか?」

そう言い私に契約書控を渡した。

『やっぱりヘルマンさんが事前調査した通りだ』

そう思いながら会頭の前にヤコブさんとの契約書を置いて

「この領主のサインが違います」
「はぁ?」

自信ありげに高圧的な態度を取っていた会頭は契約書控を凝視し固まる。そして不備がないと判断し冷やかに

「奥様は私に意地悪をしたいのですか? 平民相手にこの様に揶揄われるのはご趣味が悪い。よく見て下さいまし!サインは春香様がなさったものです」
「だから違います」

すると舌打ちをして何が違うのか説明を求めて来た。想定どおりに事が進み思わず笑いそうになる。でもまだ笑うには早くぐっと笑いを飲み込んだ。この後の事を思い、アレックスに視線を送ると頷いてくれた。これは私がネタばらしていいって事ね!

「この領主のサインは私がしたものではありません」
「何度も申し上げますが、今冗談をいう状況ではありませんよ奥様。我々が読めないこの異界の字は確かに春香様がご署名されたものでございます!」

興奮する会頭をみて深呼吸し

「署名も違うし私がサインした時の税率や商会の手数料も何もかも違う。こんな契約は無効です」

“バン!”

会頭は真っ赤な顔をして怒りを露わにする。そしてアレックスに詰め寄り

「失礼承知で言わせていただきます。伯爵様が奥様を信頼され契約のサインをお任せになられましたが、この様に契約の意味もサインも分からないのであれば契約は出来ません。酷いではありませんか!」

するとアレックスのレベルが6になり地を這うような低い声で

「其方は我妻が無知無能だと言いたいのか⁈」
「そのような事は…しかし正式な書類にいちゃもんを付けられては…」

泣く子も気絶するアレックスの覇気にトーンダウンする会頭。そろそろ証人も来る頃だから真実を教えてあげよう。座り直しまずはお茶で喉を潤して

「会頭。まずサインですがこれは私の自筆ではありませんし、この名は私の旧姓で今は…えっと…アレックスの妻なんで【ハルカ・オリダ】です」

そう。重婚を認められた私にはレイシャルに3つの戸籍名前がある。
名前は【ハルカ・レイシャル、ハルカ・シュナイダー、ハルカ・オリダ】だ。
しかしこの契約書には【織田春香】と書いてある。それも漢字で。やっぱりあの時書いたものを真似て書いたようだ。

何故旧姓がここに書いてあるか…
それは会頭が初めて会った時に、漆黒のインクの試し書きを勧められ、その時に何を書こうか悩んでいたら会頭が

『これからサインをする事もあるでしょから、お名前をお書きになったは⁈』

と名前を書くことを勧められ、名前を書くと会頭はその紙をさりげなく持ち帰った。実はこれも想定内。ヘルマンさん調べでは初めて契約する人に会頭はインクを試す名目で必ず名前サインを試し書きさせ、その紙は必ず持ち帰っている。サインをした人はまさか偽造されるとは思っておらず、その紙の事など気にもしていない。そしてサインを得た会頭は商会に有利な条件で契約書を作り直し、抱えの画師に名前サインを模写させていた。

実はこの情報の出所はバーミリオン侯爵で、画師の身元も情報提供されて事前に接触し監視済みだ。バーミリオン侯爵は領地の商会がワルダン商会に騙された事に怒り、ワルダン商会とイーダン子爵を調べ上げ潰す計画を立てていた。そこへイーダン子爵が領地と爵位を返還し、アレックスがその地を治める事になり裁きをアレックスに任せた。アレックス曰く

『陛下もイーダン産のインクの価格が高く王家と高位貴族の手にしか渡らないのを疑問に思いイーダン領を調べさせていたそうだ。自ら手を下そうしていたバーミリオン侯爵は陛下がワルダン商会の不正を把握し俺に裁きを任せた事で、侯爵は情報を俺に渡し任せてくれたんだ。それに…』

複雑な顔をしたアレックスはバーミリオン侯爵が私に情があるらしく、私に害を及ぼす恐れのあるものを全て排除したいそうだ。それを聞きちょっと複雑…

『そう言えは…黒髪女性の誘拐事件の時は、仲介した商会を潰したんだった』

今回の契約書偽造後直ぐにサインを模造する画師の身元ははアレックスが押えてある。その画師を今ヘルマンさんが連行しもうすぐ着くはずだ。

まだ契約書は正しいと主張する会頭に対しアレックスのレベルMaxだ。妻である私でもMaxは怖いのに、会頭は弁解するのに必死で怖さを感じていないようだ。

“コンコン”

アレックスが返事をすると破顔したヘルマンさんと騎士に首根っこを掴まれた男性が入って来た。すると会頭の押し黙り静かになった。レベルMaxだったアレックスはレベル1になり、足を組みかえ静かに

「この契約書のサインが偽造である事を証明してくれる者が来てくれた。同席させてもいいだろうか⁈」
「この契約書は本物です。証言者など必要ない」

聞きとれない位小さな声で会頭が応えると、連れて来られた画師は声を荒げ

「だからゼイン商会を騙さない方がいいと言ったんだ。あのバーミリオン侯爵の息のかかった商会を騙してただで済むはずがない」
「黙れ!私はお前など知らん!」

会頭がそう叫ぶと画師は力の抜けた声で

「お前はゼイン商会に手を出した時点で破滅しているんだよ」

画師がそう言うと会頭は項垂れた。そして画師はアレックスに向って

「領主様のご慈悲に感謝し全てお話します。ですからお約束は守っていただきたい」
「あぁ…騎士の誇りにかけ其方の家族は守ろう」

すると画師はポケットから鍵を取り出しヘルマンさんに渡した。それを受け取ったヘルマンさんは別の騎士が運んできた鍵付きの木箱を受取り、テーブルに置いて開錠した。
何が入っているのか気になり覗き込むと書類が大量に入っていた。そしてそれを見た会頭が

「何故これがここにあるんだ!終わったら焼却する約束だっただろう!」
「もしもの時にこれが俺の命綱になるのに燃やす訳ないだろう!」

そう木箱の中には契約書の原本に、サインの見本の紙が入っている。そして画師がヘルマンさんに何か言い、ヘルマンさんは木箱の底から紙の束が引っ張り出した。会頭はそれを見た瞬間に立上りヘルマンさんに襲い掛かる。

「!」

アレックスは咄嗟に会頭を取り押さえ、会頭は苦しそうにうめき声を上げる。こんな時に不謹慎なのは重々分かっているが、悪党を取り押さえた夫を間近で見て惚れ直す。すると部屋の外から子爵家の騎士が来て会頭をロープで縛りあげた。そして立ち上がったアレックスに思わず抱き付いてしまう。すると驚いた顔をしたアレックスは微笑み抱きしめてくれる。そして背を撫で落ち着かせてくれ、ソファーに座らせてくれ隣に座った。
するとヘルマンさんが例の紙の束をアレックスの前に置いた。どうやらそれはワルダン商会の会頭からの指示書だった。手紙に目を通すと酷いものばかりで思わず眉間に皺がよる。険しい顔をした私の眉間にアレックスが口付ける。やはりアレックスのレベルには程遠いが皺が寄っていたようだ。眉間を指でなでているとアレックスが画師に

「指示書には読んだ後は燃やすように指示されていたのに、何故契約書の原本やサインの見本を残しておいたんだ⁈」
「私利私欲にまみれた会頭だ。何か有ったら私に責任を押し付けるでしょう。だから証拠切り札を残しておいたのです」
「…」

画師の木箱は証拠の宝で契約者のサインの見本の紙から、今まで契約をした契約書の原本まであった。

『っという事は…』

アレックスに許可を得て木箱を漁ると

「あった!」

今回の契約書(原本)が数十枚出て来た。内容を確認すると税率も手数料も正しい。その書類の領主のサインには【ハルカ・オリタ】と今の名前が書いてある。そして契約書と一緒に試し書きした紙に懐かしい名前【織田春香】ある。アレックス達からしたらこの角ばった不思議な文字漢字は日本での私を表す。改めて漢字を見ていたら里心が芽を出し寂しくなってきた。

「春香…我慢するな。寂しい時は頼れ」
「うん。日本を思い出して寂しくなっちゃった」

そう言い笑うとまだ皆が居るのに優しい口付けをくれた。その口付けが優しくて心が満たされて行く。落ちつた所で突然画師が

「奥様の故郷の文字は素晴らしい。始めは難しく似せるのが大変で何枚も紙を無駄にしました。しかし慣れてくると、この複雑なこの角ばった文字が美しく感じ、今はこの文字に魅了されております。私の様な犯罪者が望む事は出来なのは重々承知していますが、叶うなら罪を償った後に奥様の故郷の文字を習いたい」

画師に漢字を褒められ嬉しくなり気分が少し浮上する。こうして会頭と画師を投獄する事になり、ヘルマンさんと騎士が自警団へ連行する。
部屋を退室するヘルマンさんが

「この件が落ち着いたら俺は数日は休むぞ」

そう言い疲れた顔をしてヘルマンさんは屋敷を後にした。
そしてやっと落ち着くとお昼を過ぎていて私のお腹が盛大に鳴った。アレックスと遅めのランチを食べながらこれからの事を話す。目の前のアレックスはすっかり領主様で頼もしくてドキドキしてくる。
するとアレックスは立ち上がり私の元に来て

「続けて愛し合って体は大丈夫だろうか?」
「!」

全身の毛穴から汗が吹き出すと、艶かしい表情で返事待ちするアレックス。返事に困っていたら執事が遠慮がちに声をかけてきて

「シド様が予定を早め後少しでお戻りになられます」
「…分かった。部屋で妻を休ませるから、シド殿が戻られたら声をかけてくれ」

こうして子爵様が戻られるまで部屋で休む事になった。アレックスに抱っこされ部屋まで移動している。まだ返事してなくて焦っていると、アレックスは額に口付けて

「残念だが愛し合うのは無理みたいだ。シド殿とは私が話すから春香はゆっくり休むといい」
「うん。ありがとう」

こうして子爵様が戻ってくるまで部屋で糖度の高いアレックスを相手をし、HP切れで夜まで深い眠りについた。
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