食欲と快楽に流される僕が毎夜幼馴染くんによしよし甘やかされる

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魔族解放オムライス

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 今日は魔息日。大悪魔様が魔界を創造すると決めた最初の日で、怠惰のため何もしなかった日、らしい。要するに休日だ。
 特Sクラスは今日も課外授業だそうで、幼馴染くんは僕が昼過ぎに起きた時には既にいなかった。

 今日は、幼馴染くんが帰ってくるまでに夕飯でも作ろうかな。

 幼馴染くんが融通してくれる米と塩、味噌が部屋に常備してある。
 やっぱり、塩おにぎりと味噌汁かなあ。学食には色んなメニューがあって、入学以来色々食べてきたわけだけど、食材も作り方も想像がつかない。
 オムライスとか言うやつ、お弁当があって昨日は食べなかったけど、美味しいのかな? 
 草トカゲの卵で赤に着色したご飯を包んだみたいだったけど……食べてみたいなあ。

 学園内の市場にでも行ってみよう。

 行ったことないけど、食べ物の匂いのする方へ向かえば着くだろう。





 十分後、焦げっぽい香ばしい香りに誘われてやって来たのは、調理実習室一だった。

 調理実習室が市場として開放されることってあるのかな? 

 でも美味しい匂いがするのは確かだ。
 迷うようにウロウロと扉の前をさまよう。

「お前新しい奴隷かぁ!?」

 ウロウロしていたら、扉が開いて物騒な魔族と言葉が飛び出してきた。

「奴隷になったら最後だ! 腹決めて地獄に堕ちなぁ!」

 そして、物騒な怒号とともに実習室に引き摺り込まれたのだった。

 実習室には、数十人の魔族がひしめき合っていた。
 身体の大きな彼らが狭い実習室で押し合いながら、何かを調理しているらしい。
 フライパンを覗くが、炭のようなものしか見えない。
 
「あの、ここは……何を作っているんですか?」
「見て分からないか? 分からないよなあ。オムライスだ」

 オムライス! 僕がちょうど作りたかった料理だ。
 ことりと、白い皿に映えた墨色の塊が置かれる。

「生徒会長の奴隷になった俺たちの解放条件は、指示された料理をつくることだ。だが、労働者以外で料理をする魔族なんてよっぽど器用か変わり者か軟弱者だけだ。俺たちは途方に暮れているのさ」

 この炭、シャクシャクの部分とジャリジャリの部分があって美味しい!

 僕は、ガタリと椅子を倒して立ち上がった。

「僕、オムライス作ります!」
「え? お前、完食? ええ?」

 米はどうやら、焦げるまでフライパンで炒めてあるらしかった。

「米は……炊きます!」

 僕の宣言に、どよめきが起こる。

「タキマス? タキ? 何だ? 焼かないのか?」

 棚から鍋を取り出し、目分量で米と水を入れ、火にかける。
 よくおにぎりを作るから、米の扱いは得意だ。

「その間に、葉っぱと茎を切って炒めます!」

 ここからは適当だ。僕はオムライスに入れる食材なんか分からないが、まな板の上にあるやつを多分入れるのだ。

「ウォーターリーフの葉と茎は切るのか! 言われてみれば食べる時って小さいよな」

 なんだか感心されているみたいだ。合っている気がしてきた。
 ウォーターリーフとやらを切る手が緊張で震える。指切ったらどうしよう。こわい。

「あの小さいナイフで切るんだ! すごいナイフ捌きだ。手慣れてやがる」

 全然手慣れていないが、なんだか褒められている。いける気がする。
 ものすごい時間をかけてウォーターリーフを切り、炒めながら米の調子を見る。
 
「あんなに弱い火で炒めてるぞ……まどろっこしくて俺なら我慢できねえ」

 魔族って基本的に我慢苦手だもんね。
 
 炊き上がった米をフライパンに移し、着色料となるらしい赤いとろみがかった液体を手に取る。
 これは何なんだろう? 一口だけ口にすると、酸味と旨みが広がる。なんだか分からないが美味しい!

 米が赤くなるくらい、混ぜながら適当に足していく。
 赤いご飯の完成だ!

「すげぇ……料理上手だ」
「だがまだ、卵包みが残ってる」

 僕は、草トカゲの卵をそっと掴んだ。薄い緑色で、薬草のような匂いがする。
 卵なんて、上部に小さな穴を開けて吸い上げたことしかない。
 どうやって卵の殻から出してご飯を包むと言うのだ?

 ここにきて僕は狼狽えてしまった。卵を片手に持ち、オロオロと周りを見渡す。
 しかし誰も分からないらしい。サッと目を逸らされてしまう。

「拙僧に任されよ」

 そこへ、落ち着いた凛とした声が響いた。
 ばっと振り向くと、うねる艶やかな黒髪を腰まで伸ばした美丈夫が、数珠を巻いた左手を天高く突き上げていた。数珠に黄色い粘り気のあるものがべとりと付着している。
 よくみれば、エプロン中が黄色くべとべとしている。

「この一週間、卵をひたすらに割ってきた。なかなかに良い修行であった。拙僧に任されよ」

 とにかく任されて欲しいらしい。僕は草トカゲの卵を渡した。

「ふん!」

 ボウルの中に卵を叩きつける。かなり加減をして優しくしているらしかった。隆々の筋肉は物足りなさ気にひくひくと痙攣している。

「おおお!」
「卵が割れたぞ!」
「ボウルの中で割るとは賢い!」

 賞賛の嵐だ。僕もこれには思わず感嘆の溜息を吐いた。
 あとは、卵の殻をボウルから取り除く。これもまた「そんなちまちました作業できん!」「修行でもできん!」と褒められた。

 いよいよ卵を焼く。とりあえずフライパンに卵を全部入れる。弱火で火を通し、ご飯を乗せる。
 皆、固唾を飲んで見守っている。
 いざ卵で包もうとしたが……卵の大半がぼろぼろと崩れてしまった。脆い。やわい。
 それでも何とか皿に盛り付け、包めはしなかったものの何となくそれっぽいものが出来上がった。

「凄いぞ新入り!」
「天才だ!」
「期待のホープ!」
「俺たちを解放してくれー!」

 何だこれ、何だこれ。僕……幼馴染くん以外に褒められたの初めてだ。ソワソワする。

「お主のような新参者に斯様に救われるとは……拙僧、感激いたした」
「セッソウさん……あなたの卵割りのお陰です」

 僕たちは卵でぬとぬとの手でかたい握手を交わした。

「喧しいぞ! これは何の騒ぎだ!」

 キーン、と大きな声が耳をつんざく。
 『聞き耳』を立てていたわけでもないのに頭がクラリとして、膝をついていた。動けない。

「む? これは……完成したのか。一週間前の消し炭とはえらい違いではないか」

 大きな足が、数歩で僕のこと目の前まで距離を詰める。僕は頭痛に耐えながら大きなピカピカの革靴を見つめていた。金持ちの靴だ。

 カチャカチャと静かな食器の音さえ頭に響く。何か変だ。拳をぎゅうと握る

「これを作ったのは誰だ?」
「彼である」
 
 隣で膝をついているセッソウさんが僕を指し示す。
 あれ、皆膝ついてるのか。皆も頭痛い?

「顔を上げろ」

 この声嫌だ、と思うのに、顔が勝手に持ち上がる。
 のろのろと顔を上げると、昨日の生徒会役員がいた。

「貴様。昨日の握り飯ではないか」

 次に生徒会役員が声をあげた途端、フッと頭痛が消えた。身体も強張りが取れて、自由に動けそうだ。

「握り飯は……なかなか悪くなかった。この卵包みもだ」
「え? あ、はい。どうも」

 キョトンとしてしまう。何かの能力を使っていたのだろうか。声がキーになっているのなら、僕と相性が悪い。

「しかし、貴様は我の奴隷ではなかったはずだが……自ら志願を? 結構な志だ。名を渡せ」
「僕のなまえ……?」
「新入り殿! 名を渡してはいかん!」
「黙れ奴隷。伏せろ」

 低い呻き声がして、セッソウさんが頭をゴンと床に打ちつけた。
 言霊遣い?
 また頭痛がしてきた。手足が痺れる。

「貴様のことは気に入ったのだ。悪いようにはせん。早う名を渡せ」

 言霊遣いなら相性激悪だよ~助けて幼馴染くん~。
 なんて思いながら右耳に埋め込まれた魔石に触れる。幼馴染くんが昨日対サキュバス用に作ってくれた魔具だ。思わぬところで役に立った。

「僕、お前の言うこと聞かない!」

 言霊には言霊を。
 
 自己暗示みたいな感じだけど。

 頭痛がとれる。手足が軽くなった。
 僕はすっくと立ち上がり「聞かないからなー!」と叫んで走り去った。この魔具、充電式だから一度使ったら暫く使えないのだ。









 そして、夜。

「うえ~ん同室の幼馴染くん~~」
「よしよし」

 僕は同室の幼馴染くんに泣きついていた。
 
「オムライスちょっと失敗したし生徒会役員の声がうるさかったあ」
「可哀想に」

 事の顛末を、幼馴染くんはうんうんと聞いてくれた。

「でもオムライスはすごく美味しかったよ。油を引けば多分卵もくっ付かないと思う」
「油? 何それ」
「今度見せてあげようね」
「幼馴染くんは物知りだなあ」  

 今日の幼馴染くんはいつもより落ち着いている。
 右耳にピアス付けたのが気に入ってるのかな。お揃いだし。

 頭と耳に『回復』をかけてもらう。
 今日はいつもみたいに甘やかすだけの、心地いいやつ。
 もっと、と頭を胸にすり寄せる。
 右耳のピアスを何度もなぞられ、揉み込まれる。
 くすぐったくて、クスクス笑い声が唇の隙から洩れた。

「魔石に魔力を貯めておこうね」

 れ、と耳たぶごと唇に食まれ、ちゅうと吸い上げられる。

「んん、くすぐったい。そんな貯め方だったの?」
「どうとでもできるんだけれどね」
「んはは、好きなようにしていいよ」
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