食欲と快楽に流される僕が毎夜幼馴染くんによしよし甘やかされる

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お姉様がお兄様

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 今日も魔息日。大悪魔様が魔界を造ると決めた二日目で、怠惰のため何もしなかった日、らしい。要するに休日だ。

 幼馴染くんは魔具に関する学会発表で不在だ。

 今日こそは学園内の市場にたどりつくぞ!

 十分後、校庭に出た僕は無事市場のテントに到着していた。
 なかなかに人で賑わっている。

 一周してみようかな、とキョロキョロしていると、記憶に新しい顔を見つけた。

「セッソウさん!」
「新入り殿!」

 僕はセッソウさんの数珠まみれのムキムキ上腕二頭筋にぶら下がり、市場を見て回った。
 セッソウさんは「修行修行!」となんだか楽しそうに僕を上腕二頭筋で連れ回した。
 市場の数珠という数珠を買い占めていた。

「新入り殿のオムライスのおかげで多くの魔族が生徒会長から解放されたのだ。礼を申すぞ」
「え? そうなんだ。セッソウさんはなんで奴隷になってたんですか?」
「春画の売買で一財産儲けたのがバレたのであるな。少々値を釣り上げ過ぎたらしい」
「シュンガ?」
「煩悩は金になる! 金は煩悩になる!」

 首が見えなくなるほど数珠を巻きつけたセッソウさんの言うことは分からない部分もあるが、学園内の秩序を乱す商売をしたのだろう。
 料理部のパチモンドラッグと一緒だ。

 だとしたら生徒会、悪くない気がする……。
 でも昨日の能力で他人を這いつくばらせて奴隷? にするの、あれはやり過ぎだったと思うけれど。

「セッソウさんは生徒会についてどう思いますか?」
「生徒の悪行を暴き罰則を課す。如何にも生徒会らしいが、その罰が料理とは行き過ぎであろうな。謀反の時も近い」
「どうして生徒会はそこまでの罰を与えたんでしょうか……」
「料理はこの学園の魔族では到底理解不能で苦しみを与える。生徒会長は悪魔であるな」

 ……能力で支配されたことというより、料理を作ることがよっぽど苦痛だったみたい。

「新入り殿、腹は減っているか? 昨日のお礼に拙僧が奢るである」
「やったあ! タダ飯だあ!」

 意図せずだけど魔族を生徒会から解放したからその労働に対する対価か。
 だけど気分はタダ飯! わあい!

 購買は魔息日も空いているらしい。セッソウさんは丸パンを買ってくれた。
 「どこで食べましょうか」って振り返ったら、後ろに反生徒会の皆さんが並んでいた。
 サキュバスのお姉様方が、にっこりと笑んで手を振る。今日ファンサ有りの日なんだ! 貴重な女子のお手振り!

 僕は興奮して隣のセッソウさんを見上げた。セッソウさんも感激してるかな?

「女体……」

 手を合わせて、微動だにしなくなった。

 石像のように動くことのなくなったセッソウさんを置いて、僕たちは食堂に向かった。
 
 丸パン柔らかくてほんのり甘くて美味しい!

「新入り、生徒会から魔族を解放したんだって?」
「んん、結果として、はい、そうみたいで」
「良くやったな」

 撫でられ対策として用意していた不良くんの頭を差し出す。
 ソワソワしていた不良くんは先輩に撫でられ嬉しそうだ。

「お前をウチにスカウトして正解だったよ」
「ありがとうございます……?」
「後は鍵の場所がわかればいいな」
「へあ、はい……」
「でもその前に、ご褒美欲しいよな?」

 腹の足しになるもので、と答える前に、気づけばサキュバスのお姉様に背中から腕を回されていた。

 お花みたいな匂いがする! 背中側が柔らかい!
 脇腹をまさぐられてくすぐったい。
 後ろのお姉様に気を取られているうちに、目の前のお姉様は気づけば僕の頬を指先でなぞり、つついている。
 ぷるぷるの唇が近づいて、サラサラの髪の毛が頬をくすぐる。
 左の耳元でちゅっと可愛らしいリップ音がなる。
 耳が熱い。
 
 僕はとっさに右耳のピアスに触れた。

「僕に魅了は効かない……!」

 幼馴染くん特製魔具の自己暗示。
 そう念じた瞬間、お姉様方からボフッと煙が立った。

「な、何……!?」

 煙がおさまって現れたのは、胸下で切り揃えられたブロンドが麗しい中性的で喉仏のある、一人のお兄様だった。

「私の能力は『幻惑』。素敵な夢から覚めた気持ちはどうだい、新入りくん」

 目を何度もぱちくりした。何度ぱちくりしても、お兄様が一人だった。

「えー! すごいすごい! 柔らかい感触とか触ったのに! 絶対二人だったのにー!」
「……ふふん。そうとも。私は凄いのだ。凄いのに! この学園で『幻惑』を破ったのは君が二人目だよ。新入りくん、珍しいものをつけているね」

 カリカリ、と魔石の埋まった耳朶を細く尖った爪で引っ掛かれる。
 煌びやかな爪はそのままだったんだ。

 ピアスを観察する顔が近い。やっぱりお花みたいな匂いする。唇ぷるぷる。

「ぉ、お兄様、顔近いです……!」
「お兄様?」

 サラサラでキラキラの髪が首をくすぐる。
 合わせた目も太陽に透けた宝石みたいに眩しい。
 目がチカチカする。美貌の暴力!

「綺麗……」
「新入りくん、私を綺麗とお思いかい?」
「は、はい!」
「ふぅん、私は一族の中では醜い落ちこぼれだけどね」
「お綺麗です!」

 どんな一族で育ったらそうなるのかわからない。こわい。

「ふぅん……そうか。綺麗か」
 
 呟いたお兄様は、僕の前髪を撫でるようにかきあげて、額に静かに唇を落とした。

 宗教画……? 
 
 芸術的な美の結晶にかたまる僕をよそに、反生徒会の皆様は食堂を後にした。
 セッソウさんの気持ちが今なら分かる。僕は圧倒的な美を前に、暫くその場から動けなかった。















 私の一族は代々『幻惑』の能力でのし上がり、男から精と金を搾取してきた女系一族だ。
 家系図を見ても男なぞ「男一」「男ニ」としか書かれていない。名もない種馬。
 
 そんな家で八番目に産まれた唯一の男が私だった。
 目に見える家族の落胆。蔑視。穢らわしいものを視る目。
 『幻惑』の能力は、一族では本人をより魅力的に魅せたり環境を操作するために使われるが、私は女性の姿をとるためにその能力を使ってきた。
 家でも外でも、一日中。一年中。
 幼いうちはよく魔力切れを起こして床に伏せったものだが、女性の姿をとっていない私の面倒を見るものはいなかった。
 
 姉妹は全員第一高等魔界学園に入学したが、私は受験すらさせてもらえぬまま悪い噂の多い第五高等魔界学園に押し込まれた。
 学園卒業後は縁を切ると言われている。願ったり叶ったりだが。

 あの家の中で、私は男に産まれた時点で醜い落ちこぼれとして宿命づけられたのだ。
 
 なのに。

 新入りくんは『幻惑』を破って男体の姿の私を綺麗だと言った!
 あまつさえ、「お兄様」と。
 家族にさえ家族らしい呼ばれ方などされたこともないのに!

 ああ、「お兄様」は可愛い弟に何をしてあげようか?
















 そして、夜。

「うえ~ん同室の幼馴染くん~~」
「よしよし」

 僕は同室の幼馴染くんに泣きついていた。
 
「お姉様がお兄様でセッソウさんみたいにかたまって動けなくなっちゃったあ」
「可哀想に」

 事の顛末を、幼馴染くんはうんうんと聞いてくれた。

 特に泣くようなことでもないのだが、とにかく僕は幼馴染くんに甘えずにはいられないし、幼馴染くんは僕を甘やかさずにはいられないのだ。

 今日は『回復』無しで幼馴染くんに四肢をぐるぐる絡めつける。蛇にでもなったみたいで、僕たちは僕たちの体をどう動かせば解けるのかもうわからない。

 一つの塊に還るみたいに僕たちは隙間なくぴったりとからだを密着させた。

「僕の幼馴染くんにオトモダチがたくさんできて嬉しいよ」
「幼馴染くんもオトモダチできた?」
「交友関係と人脈は順調に広げているかな」
「難しい言葉! 頭良いんだ!」
「僕たちは、村の外の世界でも適応して生きていかれるね」
「もっとたくさんオトモダチつくってさあ、いつかオトモダチと僕らを天秤にかけて、僕らを選んで、村に帰ろうよ」
「何年か前に災害で村ごと流されたって聞いたけれど……そうだね。もし祠が残ってたらそこでセックスでもしようか」
「供物の子どもがまだ生きてるよーって、神さまに見せてあげるの?」
「そうだよ、賢いね。神さまに教えてあげようね」

 くすくす、くすくすと秘密の夢想語りに耽りながら、僕たちは闇の中に呑み込まれていく。

 暗いと境目がなくなって、本当に一つの個体みたい。

 おやすみ、幼馴染くん。同じ夢を。
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