食欲と快楽に流される僕が毎夜幼馴染くんによしよし甘やかされる

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おにぎりと名前

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 今日のAランチは魔ンドラゴラの姿煮、Bランチは魔ンドラゴラサンド、Cランチは魔ンドラゴラカレー、スペシャルランチは魔ンドラゴラのフルコースだ。

 そのメニュー確認した瞬間、僕は興奮のあまり持参したおにぎりの入った袋を振り回した。
 魔ンドラゴラは僕の大好物だ。刺激的で、故郷を思い出す味がする。

 おにぎりは夜に回そう。

 今日は『聞き耳』を立てるまでもなく魔ンドラゴラの姿煮、Aランチを選ぶ。知ってる料理だから迷う必要もない。

 魔ンドラゴラはその全貌を見ながら食べるのが一番美味しいのだ。

 僕は意気揚々とAランチとおにぎりを持って食堂の隅に座った。
 魔ンドラゴラのスパイシーな香りが辺り一面に漂ってたまらない。

 くったりと煮込まれた魔ンドラゴラは柔らかく、スプーンで簡単に掬うことができた。
 一口口にするだけで、パチパチと目の前に火花が散るような辛味。
 熱と痛みと辛味、それを上回る旨味が口腔を支配する。
 鼻に抜けるスパイスの香りは複雑かつ爽やかで後を引く。
 僕は夢中で魔ンドラゴラを腹の中におさめた。
 
「おい、貴様」

 最後の一口を迎え入れた時、聞き覚えのある声がした。
 
「むぐ、お前、生徒会役員!」
「うむ。一昨日ぶりだな」

 人の名前を奪おうとしておいて、何でもなかったように話しかけてきた!

「握り飯を持っているのであろう? 我によこせ」
「対価は?」
「菓子をくれてやろう。ほれ」

 生徒会役員が制服のマントを広げると、内ポケットに菓子が入っているらしい膨らみが見えた。
 
 甘味! 贅沢品!

 僕は生徒会役員の腹にタックルをかますように飛び込み(この大男ビクともしない)胸ポケットまで手を伸ばした。

 と、届かない。

 背伸びをしても届かない。でかすぎる。

「僕の甘味ぃ……」

 めそめそしていると、片腕で抱き上げられた。
 視線が高くなり、胸ポケットの中から菓子を取り出す。
 
 生焼けのクッキーだ! 小麦の味が美味しい!

 気づけば生徒会役員は僕が座っていた椅子に着席しておにぎりを頬張っている。

「やはりなかなか……。悪くない……」

 ぼそぼそと頭上から聞こえてくる声は気にせず、ポケットに手を突っ込む。
 まだあるかな?

「ん、貴様。まさぐるな。足りなかったのか。美味かったか」
「お菓子美味しい! お菓子最高!」
「ふむ……。やはり貴様、愛いなあ」
「ウイ?」
「もっと菓子をやろう」
「やったあ!」

 「ウイ」は甘味がもらえるらしい。
 
「特別に生徒会室に招いてやろう。大人しくしておれ」
「はあい」

 ……生徒会室?

 生徒会役員のマントにすっぽりと包まれ、視界が閉ざされる。
 一瞬の浮遊感。マントの隙間から見えたキラキラ半透明の魔力の残滓。
 次の瞬間には生徒会室の前に立っていた。空間転移だ。 
 マントから顔を出す。

 僕、『聞き耳』に目をつけられて反生徒会に鍵見つけ要員としてスカウトされたんだよな。
 『聞き耳』全然関係ないけど、生徒会役員が鍵をどこから出すのか見とこ。

 生徒会役員は生徒会室前に設置してあるポストを開き、鍵を取り出した。
 その鍵で生徒会室を開く。
 生徒会室に入る。内鍵を閉めた。

 鍵、いつもあのポストに入れてるの?
 ガバガバ過ぎない?
 反生徒会の皆さんはあれに気付かなかったの?

 僕の驚きと呆れは、しかし生徒会室のテーブルに鎮座するお菓子で吹き飛ぶ。

「こ、これ……」
「食べていいぞ」
 
 「わあい!」と甘味に飛びつく。

 天板にデロデロに広がって一塊になっているクッキー? ところどころ砂糖が固まってて美味しい!
 
 手を油でベトベトにしながら完食した。

「美味かったか?」
「美味しい!」
「では、対価を貰おうか」
「えっ……」

 確かに僕はお菓子の対価を確認していなかった。目先の欲求に捉われてしまっていたのだ!
 でも後出しはズルい。

「貴様の名を我によこせ」
「えぇ……うーん……」

 対価は払うべきだ。
 焼いて時間もそう経っていないみたいでほんのりあたたかかったし。
 あたたかい甘味は貴重。贅沢品。

 でもこの間の魔息日で能力を使われた時頭痛かったし手足痺れたし嫌かも。
 思案しながら右耳のピアスを触る。いざとなったら幼馴染くんの魔具で逃げればいいけど……。

「分かりました。でもすぐ返してくれますか?」
「良いのか?」
「対価は払うべきなので……」
「そうか。ふむ。無理に組み敷いてやろうと思っていたが手間が省けたな」

 なんか物騒なこと言ってる!

「我の目を見よ」

 顔を上げる。まだ能力にはかかってないみたいだ。自分の意思で動いた。
 
「身体を委ねよ。もっと近く」

 革のソファを軋ませ、生徒会役員に近付く。膝がぶつかる。太ももがくっつく。
 制服のサラリとした生地が肌に気持ちいい。

「もっと。近くに」

 腰を両手で抱き上げられる。
 両手で腹を一周して余るほど大きな手。
 太ももの上に乗せられる。
 大きな体に頭を預ける。あたたかい。

 生徒会役員のごつごつしたかたい指が唇をむにりと押す。
 むにむにと唇を挟まれ、割開かれる。
 僕は大人しく口を開けて、人差し指を口腔に含む。

 甘じょっぱい。美味しい。小麦の匂いがする。

「貴様の名を我に寄越せ」
「クモツ……」

 口から勝手に名前が出ていた。
 でも、前みたいに頭痛とかはない。
 前はもっと嫌な声だったのに、今は耳に心地良い。

「名を言えたな。良い子だ」

 褒められて頭を撫でられて、頭の中に靄がかかったようにぼんやりする。
 ご褒美みたいに舌を撫でられる。気持ちいい。

「クモツ」
「んん、ぅ」

 耳に息を吹き込みながら名を呼ばれると、くすぐったい熱がビリビリと広がる。

「反抗的な目も良かったが、従順なのも愛いな」
「ふあぁ、ん、や、それっ」

 制服を開いて潜り込んだ指先が胸の間、心臓の辺りを辿ると、ビクビクと腹が勝手に痙攣した。

「なんかヘン、そこっ、やぁ」
「……」

 くるくると円を描き、胸の真ん中を手のひらで押し込むように撫で上げられると、バクバクと心臓の音が大きくなった。  
 心臓を直接握られるみたいな、変な感覚だ。
 いやいやと首を降り、頭を押し付ける。

「ふむ……。クモツ、名を貴様に返そう」
「あっ……」

 ストン、と頭に自我が戻る。靄が晴れる。

 僕は慌てて胸の中にある生徒会役員の手を引き抜き、制服の前を合わせた。

「や、やり過ぎですよ……!」
「約束通りすぐ返してやったであろう?」

 悪びれもしない。
 しかし何か、生徒会役員の指の甘じょっぱさは誰かに似ていたような……。

「新入り、また握り飯を持って来い。菓子をくれてやろう」

















 新入りの帰った後の生徒会室には二人の魔族の影があった。

「ふむ。犬よ。反生徒会の動きは少々鈍いな」
「……」
「あの新入りはなかなかに良い」
「……」
「我はもっと遊びたい。犬。貴様は我の犬であろう」
「はい」
「引き続き反生徒会の……我が弟のことを宜しく頼もう」
「御心のままに。生徒会長」
 

 犬が消え、一人になった生徒会長は降り注ぐ陽光に艶やかな白髪を晒し独りごつ。

「クモツ……上手く魂の存在を掴めぬ名であった。あやつ、既に誰かの所有だな。気に入らん」


















 そして、夜。

「幼馴染くん、今日、大丈夫にしてもいい?」
「もちろん良いよ。よしよし。大丈夫だからね」

 幼馴染くんは、あやすように僕を抱きしめ、頭を撫でながら、二人の服を取り去った。

 僕らは肌をぴったりと合わせて絡まり合って、皮膚を癒着させる。

 僕の耳は『聞き耳』を立て、幼馴染くんの身体の奥に潜り込む。
 幼馴染くんの心臓の中、深く深く潜れば全ての音が消えて、僕たちは魂の単位で触れ合うのだ。
 
 感情の気配を撫でる。
 精神に飲まれる。愛撫され、窒息する。
 魂と抱き合って、癒着させ、境界をぐずぐずに溶かしてしまう。

 幼馴染くんの中に還るのは、気持ちいい。
 幼馴染くんは僕で、僕は幼馴染くんで、そんなことをわざわざ認識しなくていいくらい、僕らは僕になる。
 永遠と錯覚するほど長い時間、僕は幼馴染くんの中を揺蕩った。

 僕らの意識が浮上した時、僕らはあまりに息が乱れていて、必死に呼吸をこなした。
 ふにゃふにゃのゴムみたいな四肢で抱き合って、とろりとベッドの上で弛緩する。

「僕の幼馴染くん。いちばん気持ちよかったね。大好き」

 ふにゃりと柔い唇で笑む幼馴染くんの薔薇色の頬に口付ける。僕の天使。

「ずっと僕のでいてね」
「もちろん。僕の幼馴染くんもずうっと僕の所有だよ」
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