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おまけ 2人のその後
マッサージは受けません
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あまりに接触の多い接客をするようならすぐに出て行こうと思ったが、イケメンさんは意外にも店内に入るとすぐに肩を抱いていた手を離した。
それからすぐに新商品だというハンドクリームの説明を始めた。
なるほど、これが商売上手のやり口か。伊達に看板イケメンをやっているわけじゃないんだなあ、などと、感心する。
しかし、やはりハンドクリームを買おうとは思えないし、適当に相槌を打ちながら、話が途切れたらそこで店を出ようと考えていた。
「はあ」とか「へえ」とか言っていると、不意にイケメンさんの声が止まった。
顔を上げると、何だか不思議そうな顔をしているイケメンさんと目が合った。
何だろう、と思い首を傾げる。
「今日は、あまり話を聞かれないんですね……いえ、申し訳ありません。以前に来店されたときはとても熱心に聞いておられたので。おせっかいを焼いてしまったようです」
申し訳なさそうに謝られて、私ははっとした。
どうやらイケメンさんは、私が前来た時によほど熱心に商品を見ていたから、本当に覚えてくれていたらしい。
そういえばあの時は、彼に喜んでほしくていちいち店員さんを呼んでクリームの違いとかを聞いていて、そのうちにいちいち呼ばれるのが面倒だと思ったのか、ずっと隣で説明してくれていた、ような。
その後に彼と修羅場が起こったことの方が印象に強くて、忘れてしまっていた。
イケメンさんには私のことがよほどのハンドクリーム好きか、ともすればクリームに携わる仕事をしている人に見えていたに違いない。
イケメンさんは厚意でしてくれていたことなのに、商売上手だの強引な接客だのと思ってしまって申し訳ない。
イケメンさんは眉を八の字にして、申し訳なさそうに口元を笑みの形に保っている。
「あ、あの、すみません。話をちゃんと聞いてなくって……その、前にクリームを買ったとき、ええと、ハンドマッサージ付きのプレゼントのつもりだったんですけど、喜んでもらえなくって」
むしろ怒って、と心の中で付け足しておく。
「だから、私、やっぱり喜んでもらいたいし、(怒られたくないし……更に言えばデッドエンドに直行は嫌だし)もう、クリームもマッサージも必要ないんです、ごめんなさい」
イケメンさんのご厚意に、真剣に応えたくって、ちゃんと話した。
イケメンさんは、黙って、時折頷いてくれていて、こんなところまでイケメンなんだなあと感心した。
「そうだったんですね……でも、喜んでもらえなかった、というのは何故でしょうか。うちでは、自信を持って商品を売っておりますし、ハンドマッサージもきちんとしているつもりです」
そう言ったイケメンさんの言葉はどこまでも真面目で、真摯な響きを持って私の耳に聞こえた。
それに、私もちゃんとした返事をしたいと思う。
思うが、だからといって、何と言えるだろう。
「彼が焼きもちやきでイケメンさんにハンドマッサージをされたと知って烈火の如く怒りました、危うく命の危機でした」とでも言うのだろうか。
いや、そんなこと、誰がどんな神経で言えるのか。
「いえ、あの、本当に、そちらには何の非もないんです……」
言えない。私には言えなかった。
「もう一度、マッサージ、受けてみますか?」
イケメンさんの思考回路は、どこでどうなったのだろう、私のマッサージが下手だっということに繋がった、ということだろうか。
するりと手をとられ、反射的に手を引いた。
確かに、ハンドマッサージを受けたときはくすぐったいばかりで、笑いを堪えるのに必死でハンドマッサージのコツなんか言われたかどうかすらも覚えていないけれども。
こればっかりは頂けない。
彼の怒りスイッチとデッドエンドへの導火線に火をつけるようなものだ。
「ご、ごめんなさい、それは大丈夫、です」
申し訳なく思いながらも、謝罪を述べて、ちらりとイケメンさんを見やる。
「そうおっしゃらずに」
イケメンさんはにこりと微笑んで、再び手をとろうとする、私はさっと体を翻してそれを避ける。
イケメンさんは微笑んだまま、また手を伸ばす。
私はまたかわす。
なんだかよく分からない、小学生がやりそうな不毛な遊び(?)が始まった。
手を伸ばすばかりのイケメンさんと違い、私は身体を捻ったり、足を出したり、引いたり、割と全力でやっていたのですぐに疲れた。
肩で息をしている私に対して、イケメンさんは涼やかな顔をしている。
「折角、お客様はあんなに熱心に選ばれていたではありませんか……それで喜んでもらえないなんて、納得いきません。今度こそ、上手く行くようにお手伝いしたいと思うのです……この気持ちは、ご迷惑ですか?」
そう言われると、困る。
私だって、確かに彼に喜んでもらいたいという一心だった。
だからこそ、イケメンさんの気持ちは嬉しい。
「マッサージのコツをお教えしたいのです。実践した方が、分かりやすいと思います」
嬉しいが、これは死活問題でもある。
私は、意を決した。
「気にしてもらえるのは嬉しいですし、有難いです。コツも、実践した方が良いっていうのも分かります……でも、ハンドマッサージを受けるのは、色んな事情がありまして、遠慮します。良かったら、コツだけ教えてください」
そこまで言い切って、メモ帳とか持ってたかな、と思う。
イケメンさんは、ほんの少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐにぱっと花が咲くように綺麗な笑みを浮かべた。
「分かりました。では、コツを書いてお渡ししますので、少々お待ちください」
そう言うと、ぱっと離れて、店の奥に入っていった。
私は、ほっと溜息をついて、ハンドクリームを眺め始めた。
以前に、彼のために買ったクリームも、売ってあって、少し切ないような気持ちになった。
やっぱり私、彼に喜んでほしくて買ったんだよなあ。
今日、引き出しに眠っているハンドクリームも久しぶりに出して、彼にマッサージしてあげよう。
このまま使われないんじゃ、こんなに店員さんに大事に想われて売られている商品も、可哀想だ。
それからすぐに新商品だというハンドクリームの説明を始めた。
なるほど、これが商売上手のやり口か。伊達に看板イケメンをやっているわけじゃないんだなあ、などと、感心する。
しかし、やはりハンドクリームを買おうとは思えないし、適当に相槌を打ちながら、話が途切れたらそこで店を出ようと考えていた。
「はあ」とか「へえ」とか言っていると、不意にイケメンさんの声が止まった。
顔を上げると、何だか不思議そうな顔をしているイケメンさんと目が合った。
何だろう、と思い首を傾げる。
「今日は、あまり話を聞かれないんですね……いえ、申し訳ありません。以前に来店されたときはとても熱心に聞いておられたので。おせっかいを焼いてしまったようです」
申し訳なさそうに謝られて、私ははっとした。
どうやらイケメンさんは、私が前来た時によほど熱心に商品を見ていたから、本当に覚えてくれていたらしい。
そういえばあの時は、彼に喜んでほしくていちいち店員さんを呼んでクリームの違いとかを聞いていて、そのうちにいちいち呼ばれるのが面倒だと思ったのか、ずっと隣で説明してくれていた、ような。
その後に彼と修羅場が起こったことの方が印象に強くて、忘れてしまっていた。
イケメンさんには私のことがよほどのハンドクリーム好きか、ともすればクリームに携わる仕事をしている人に見えていたに違いない。
イケメンさんは厚意でしてくれていたことなのに、商売上手だの強引な接客だのと思ってしまって申し訳ない。
イケメンさんは眉を八の字にして、申し訳なさそうに口元を笑みの形に保っている。
「あ、あの、すみません。話をちゃんと聞いてなくって……その、前にクリームを買ったとき、ええと、ハンドマッサージ付きのプレゼントのつもりだったんですけど、喜んでもらえなくって」
むしろ怒って、と心の中で付け足しておく。
「だから、私、やっぱり喜んでもらいたいし、(怒られたくないし……更に言えばデッドエンドに直行は嫌だし)もう、クリームもマッサージも必要ないんです、ごめんなさい」
イケメンさんのご厚意に、真剣に応えたくって、ちゃんと話した。
イケメンさんは、黙って、時折頷いてくれていて、こんなところまでイケメンなんだなあと感心した。
「そうだったんですね……でも、喜んでもらえなかった、というのは何故でしょうか。うちでは、自信を持って商品を売っておりますし、ハンドマッサージもきちんとしているつもりです」
そう言ったイケメンさんの言葉はどこまでも真面目で、真摯な響きを持って私の耳に聞こえた。
それに、私もちゃんとした返事をしたいと思う。
思うが、だからといって、何と言えるだろう。
「彼が焼きもちやきでイケメンさんにハンドマッサージをされたと知って烈火の如く怒りました、危うく命の危機でした」とでも言うのだろうか。
いや、そんなこと、誰がどんな神経で言えるのか。
「いえ、あの、本当に、そちらには何の非もないんです……」
言えない。私には言えなかった。
「もう一度、マッサージ、受けてみますか?」
イケメンさんの思考回路は、どこでどうなったのだろう、私のマッサージが下手だっということに繋がった、ということだろうか。
するりと手をとられ、反射的に手を引いた。
確かに、ハンドマッサージを受けたときはくすぐったいばかりで、笑いを堪えるのに必死でハンドマッサージのコツなんか言われたかどうかすらも覚えていないけれども。
こればっかりは頂けない。
彼の怒りスイッチとデッドエンドへの導火線に火をつけるようなものだ。
「ご、ごめんなさい、それは大丈夫、です」
申し訳なく思いながらも、謝罪を述べて、ちらりとイケメンさんを見やる。
「そうおっしゃらずに」
イケメンさんはにこりと微笑んで、再び手をとろうとする、私はさっと体を翻してそれを避ける。
イケメンさんは微笑んだまま、また手を伸ばす。
私はまたかわす。
なんだかよく分からない、小学生がやりそうな不毛な遊び(?)が始まった。
手を伸ばすばかりのイケメンさんと違い、私は身体を捻ったり、足を出したり、引いたり、割と全力でやっていたのですぐに疲れた。
肩で息をしている私に対して、イケメンさんは涼やかな顔をしている。
「折角、お客様はあんなに熱心に選ばれていたではありませんか……それで喜んでもらえないなんて、納得いきません。今度こそ、上手く行くようにお手伝いしたいと思うのです……この気持ちは、ご迷惑ですか?」
そう言われると、困る。
私だって、確かに彼に喜んでもらいたいという一心だった。
だからこそ、イケメンさんの気持ちは嬉しい。
「マッサージのコツをお教えしたいのです。実践した方が、分かりやすいと思います」
嬉しいが、これは死活問題でもある。
私は、意を決した。
「気にしてもらえるのは嬉しいですし、有難いです。コツも、実践した方が良いっていうのも分かります……でも、ハンドマッサージを受けるのは、色んな事情がありまして、遠慮します。良かったら、コツだけ教えてください」
そこまで言い切って、メモ帳とか持ってたかな、と思う。
イケメンさんは、ほんの少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐにぱっと花が咲くように綺麗な笑みを浮かべた。
「分かりました。では、コツを書いてお渡ししますので、少々お待ちください」
そう言うと、ぱっと離れて、店の奥に入っていった。
私は、ほっと溜息をついて、ハンドクリームを眺め始めた。
以前に、彼のために買ったクリームも、売ってあって、少し切ないような気持ちになった。
やっぱり私、彼に喜んでほしくて買ったんだよなあ。
今日、引き出しに眠っているハンドクリームも久しぶりに出して、彼にマッサージしてあげよう。
このまま使われないんじゃ、こんなに店員さんに大事に想われて売られている商品も、可哀想だ。
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