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第四章
4-6 RPG②雨都橙子
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収集がつかなくなった所で、呆れ顔の橙子が静かにやってきた。真夏だと言うのにこの婦人は涼しい顔で着物を着こなしている。
「何をしているんです」
「橙子しゃん!」
女神現る、のような目で柊達は助けを求めていた。
永はやっと現れた真打に向き直り、軽く頭を下げる。
「あ、どうもー」
「ごめんなさいね、うちの人が頑なで」
「では、奥様から伺っても?」
「いいえ。私からお話することはありません」
取り付く島もない橙子の態度に、永はがっかりしている態度を素直に表した。
「えー。お願いしますよー、困ってるんですぅ」
「ハ、ハル様?」
戸惑っているのは鈴心だけではなく、橙子も眉を顰めて言った。
「貴方、最初に話した時とは随分印象が違うわね」
「そうですか?すいません、編み物してたら疲れちゃって、あんまり頭が働いてなくて」
「ああ、祭の……。慣れない方には重労働のようね」
実感が込められていないような橙子の言葉尻を見逃さなかった永は、祭の情報を探ることに舵を切った。
「そう言えば、雨都では誰が編むんですか?」
「うちは編みませんよ。当たり前でしょう、この里の者ではないのだから」
「ええ!そうなんですか!でも雨都のご先祖様も資実姫様のお弟子さんになってるんでしょ?」
永は少し気安く、世間話をするような雰囲気で聞いてみた。それで橙子の態度が軟化することはなかったが、一応話は続けてくれた。
「いいえ。うちの先祖は元々の宗派でお弔いします。里の信仰とは一切関係ありません」
「あ、そうなんですか。割り切ってるんですねえ」
「そんなことより、先程のお話だけど」
「はい?」
きょとんと首を傾げた永に、橙子は厳しい表情で言った。そんな顔をしても通じないと言いたげに。
「よもや、当時を知る人がいないか探したりなさらないわよね?」
「えっ!?」
当然どさくさに紛れて村を散策するつもりだった永は先を制されてギクリと肩を震わせた。
「墨砥様に言われたことをお忘れなく。藤生、眞瀬木、雨都以外の里人には一切話しかけないように」
「はあい……」
これ見よがしに肩を落とした永に、橙子は袂から鍵を取り出した。蔵の鍵だ。
「では、これを」
「いいんですか?」
「そういう約束でしょう。読めるものは少ないけど、ご自由にどうぞ。その代わりうちの人を尋問しないように」
「わかりましたぁ!」
鍵を受け取ってにこやかに笑った永に、橙子は少し毒気を抜かれたような顔で困惑していた。
「ほんとによくわからない子ね」
「よし、行こう、リン」
「御意」
そうして元気よく立ち上がった永は、鈴心を伴って再び蔵へと向かうのであった。
===============================
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「何をしているんです」
「橙子しゃん!」
女神現る、のような目で柊達は助けを求めていた。
永はやっと現れた真打に向き直り、軽く頭を下げる。
「あ、どうもー」
「ごめんなさいね、うちの人が頑なで」
「では、奥様から伺っても?」
「いいえ。私からお話することはありません」
取り付く島もない橙子の態度に、永はがっかりしている態度を素直に表した。
「えー。お願いしますよー、困ってるんですぅ」
「ハ、ハル様?」
戸惑っているのは鈴心だけではなく、橙子も眉を顰めて言った。
「貴方、最初に話した時とは随分印象が違うわね」
「そうですか?すいません、編み物してたら疲れちゃって、あんまり頭が働いてなくて」
「ああ、祭の……。慣れない方には重労働のようね」
実感が込められていないような橙子の言葉尻を見逃さなかった永は、祭の情報を探ることに舵を切った。
「そう言えば、雨都では誰が編むんですか?」
「うちは編みませんよ。当たり前でしょう、この里の者ではないのだから」
「ええ!そうなんですか!でも雨都のご先祖様も資実姫様のお弟子さんになってるんでしょ?」
永は少し気安く、世間話をするような雰囲気で聞いてみた。それで橙子の態度が軟化することはなかったが、一応話は続けてくれた。
「いいえ。うちの先祖は元々の宗派でお弔いします。里の信仰とは一切関係ありません」
「あ、そうなんですか。割り切ってるんですねえ」
「そんなことより、先程のお話だけど」
「はい?」
きょとんと首を傾げた永に、橙子は厳しい表情で言った。そんな顔をしても通じないと言いたげに。
「よもや、当時を知る人がいないか探したりなさらないわよね?」
「えっ!?」
当然どさくさに紛れて村を散策するつもりだった永は先を制されてギクリと肩を震わせた。
「墨砥様に言われたことをお忘れなく。藤生、眞瀬木、雨都以外の里人には一切話しかけないように」
「はあい……」
これ見よがしに肩を落とした永に、橙子は袂から鍵を取り出した。蔵の鍵だ。
「では、これを」
「いいんですか?」
「そういう約束でしょう。読めるものは少ないけど、ご自由にどうぞ。その代わりうちの人を尋問しないように」
「わかりましたぁ!」
鍵を受け取ってにこやかに笑った永に、橙子は少し毒気を抜かれたような顔で困惑していた。
「ほんとによくわからない子ね」
「よし、行こう、リン」
「御意」
そうして元気よく立ち上がった永は、鈴心を伴って再び蔵へと向かうのであった。
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