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第七章
7-3 乱入
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祭の厳かな雰囲気を割って入ってきたのは黒い礼服に身を包んだ雨辺菫だった。
白い肌はいつにも増していっそう白く、口元の紅だけがくっきりと鮮やかに見える。
その手に引いているのは息子の葵。白いシャツ黒い半ズボンを着て一言も発さず、その瞳は虚ろで何も映していないようだった。
「御前、剛太様!!」
一番に動いたのは眞瀬木墨砥だった。真っ直ぐに舞台を目指して進んでくる菫から二人を守ろうと、その進路を避けるように脇へと素早く連れていく。
驚き慌てる梢賢も永達もその行動に従った。
「す、菫さん!?」
「バカな、どうやって入った?」
狼狽する梢賢と墨砥に向けて菫はクスクスと笑いながら言う。
「あら?村人の皆さんにお願いしたら入れてくれましたよ?うふふ……」
葵と繋がれていない方の手を口元にあてて笑う様は妖艶で、その中指には黒い石造りの環がはめられている。
「……」
葵の表情には生気がなく、菫に歩かされているようだった。
「ハル様、葵くんの様子が変です!」
「ああ……心ここにあらずって感じだ」
「藍ちゃんがいない……」
鈴心は辺りを見回して藍の姿がどこにも見えないことに不安を募らせた。葵が異常な姿で現れたのに、葵を常に守っていた藍がいない。
「永、あの指にしてるの、例の家宝だ」
「あれが、サイシンの輪?」
菫の手元を確認した蕾生が指したことで永は初めて犀芯の輪を目にした。黒光りしている石の環は禍々しい雰囲気を醸している。
「どないなっとんねん……」
「梢賢……ッ!」
菫の後方から、優杞が息を切らせてよろめきながら走って来た。ぼろぼろに汚れた姿を見て、梢賢も夫の楠俊もギョッとする。
「姉ちゃん!?」
「優杞!」
妻の異変を認めた楠俊は舞台の横から飛び降りて、迂回して優杞の側に駆け寄った。
「はぁ、はぁ……あなた、ごめんなさい」
夫に支えられながら這々の体でいる優杞に楠俊は厳しい声で聞いた。
「何があった?」
「突然あの女が寺にやって来て、藤生の方向へ向かおうとするもんだから、里の男達が止めようとしたの。そしたら、あっという間に全員吹っ飛ばされて……」
「ウソやろ……」
まだ目の前の光景が信じられない梢賢を睨みつけて優杞は叫ぶ。
「梢賢、あんたあの女知ってるね!?」
「う……」
「いいか、梢賢!これはあんたの責任だ。死ぬ気で止めな!あの女はもう人間じゃない!」
「あ……う……」
姉弟のやり取りも全く意に介さず、菫はゆっくりと舞台に近づいていった。
すぐに康乃が動く。墨砥はそれを止めようとしたが、その腕は振り払われた。
康乃は菫の歩みを遮るように舞台の前に立った。
「貴女、雨辺の方ね?」
「その通りです。初めまして、藤生の御当主様。私は菫、この子は息子の葵と申します」
「……」
菫は仰々しく笑って一礼する。葵はその場で微動だにしなかった。
それを受けて康乃も微かに笑って威厳を込めた声音で言う。
「今日は里では一番大切な行事ですのよ。日を改めてくださる?」
「あら、一番大切な日だからこそ参りましたの。私達もこれを奉納させて頂きたいと思いまして」
菫はハンドバッグから手製の絹織物を取り出した。その乳白色の輝きは、先ほど皆で炊き上げたものと遜色ない。
思いもよらなかった物を見て、康乃は厳しい視線を投げて言った。
「何故、貴女がお持ちなのかしら?」
「眞瀬木の方に頂きましたの。ずうっと私達を支援してくださっている──ね」
含み笑いながら菫はチラと珪の方を見た。それを聞いた墨砥が目に見えて狼狽する。
「な、……んだと?」
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白い肌はいつにも増していっそう白く、口元の紅だけがくっきりと鮮やかに見える。
その手に引いているのは息子の葵。白いシャツ黒い半ズボンを着て一言も発さず、その瞳は虚ろで何も映していないようだった。
「御前、剛太様!!」
一番に動いたのは眞瀬木墨砥だった。真っ直ぐに舞台を目指して進んでくる菫から二人を守ろうと、その進路を避けるように脇へと素早く連れていく。
驚き慌てる梢賢も永達もその行動に従った。
「す、菫さん!?」
「バカな、どうやって入った?」
狼狽する梢賢と墨砥に向けて菫はクスクスと笑いながら言う。
「あら?村人の皆さんにお願いしたら入れてくれましたよ?うふふ……」
葵と繋がれていない方の手を口元にあてて笑う様は妖艶で、その中指には黒い石造りの環がはめられている。
「……」
葵の表情には生気がなく、菫に歩かされているようだった。
「ハル様、葵くんの様子が変です!」
「ああ……心ここにあらずって感じだ」
「藍ちゃんがいない……」
鈴心は辺りを見回して藍の姿がどこにも見えないことに不安を募らせた。葵が異常な姿で現れたのに、葵を常に守っていた藍がいない。
「永、あの指にしてるの、例の家宝だ」
「あれが、サイシンの輪?」
菫の手元を確認した蕾生が指したことで永は初めて犀芯の輪を目にした。黒光りしている石の環は禍々しい雰囲気を醸している。
「どないなっとんねん……」
「梢賢……ッ!」
菫の後方から、優杞が息を切らせてよろめきながら走って来た。ぼろぼろに汚れた姿を見て、梢賢も夫の楠俊もギョッとする。
「姉ちゃん!?」
「優杞!」
妻の異変を認めた楠俊は舞台の横から飛び降りて、迂回して優杞の側に駆け寄った。
「はぁ、はぁ……あなた、ごめんなさい」
夫に支えられながら這々の体でいる優杞に楠俊は厳しい声で聞いた。
「何があった?」
「突然あの女が寺にやって来て、藤生の方向へ向かおうとするもんだから、里の男達が止めようとしたの。そしたら、あっという間に全員吹っ飛ばされて……」
「ウソやろ……」
まだ目の前の光景が信じられない梢賢を睨みつけて優杞は叫ぶ。
「梢賢、あんたあの女知ってるね!?」
「う……」
「いいか、梢賢!これはあんたの責任だ。死ぬ気で止めな!あの女はもう人間じゃない!」
「あ……う……」
姉弟のやり取りも全く意に介さず、菫はゆっくりと舞台に近づいていった。
すぐに康乃が動く。墨砥はそれを止めようとしたが、その腕は振り払われた。
康乃は菫の歩みを遮るように舞台の前に立った。
「貴女、雨辺の方ね?」
「その通りです。初めまして、藤生の御当主様。私は菫、この子は息子の葵と申します」
「……」
菫は仰々しく笑って一礼する。葵はその場で微動だにしなかった。
それを受けて康乃も微かに笑って威厳を込めた声音で言う。
「今日は里では一番大切な行事ですのよ。日を改めてくださる?」
「あら、一番大切な日だからこそ参りましたの。私達もこれを奉納させて頂きたいと思いまして」
菫はハンドバッグから手製の絹織物を取り出した。その乳白色の輝きは、先ほど皆で炊き上げたものと遜色ない。
思いもよらなかった物を見て、康乃は厳しい視線を投げて言った。
「何故、貴女がお持ちなのかしら?」
「眞瀬木の方に頂きましたの。ずうっと私達を支援してくださっている──ね」
含み笑いながら菫はチラと珪の方を見た。それを聞いた墨砥が目に見えて狼狽する。
「な、……んだと?」
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