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第七章
7-2 陽炎
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「──」
鈴心は瑠深の舞に魅了されていた。蕾生も眠気など忘れて視線が舞台に釘付けになる。
「すげえな……」
「なんて、美しい……」
感動しきりの二人に対して、永は氷のように冷静であろうとしていた。
瑠深の舞の後ろで小太鼓を叩く珪から視線を外さない。
梢賢が忙しいと言っていたのはこういうことか、と思った。確かに演奏中でしかもこれだけの衆人の前では何も出来ないと思われた。
舞が静かに終わる。拍手などは起きなかった。これは神への捧げ物であり、見せ物ではないからだ。
ただ鈴心と蕾生はあまりの美しさに拍手することさえも忘れていただけだったが。
瑠深が舞台を降りると代わりに横に控えていた八雲が舞台へ上がり、壇木で組まれたお焚き上げの台座を舞台の中央に出す。墨砥と珪もそれを手伝った。その間に柊達と楠俊も舞台に上がって行く。
柊達がまた祝詞を唱え始めて、八雲が壇木に火を放った。
「康乃様、お願いします」
「はい」
瑠深の声かけでまず康乃が舞台に上がる。
お焚き上げ台の前まで進み、手持ちの絹織物を炎の中に投げ入れてから祈った。火は少し強くなり、白い煙が空高く舞い上がっていく。
一連の儀式を終えた康乃はゆったりと舞台から降りて、村人達に深々と一礼して言った。
「では、皆さんもよろしくお願いします」
その言葉に従って、村人達は続々と列を作って順番に舞台へ上がり、それぞれの絹織物を火に焚べていく。
炎は勢いを増して、パチパチと火の粉を爆ぜながら陽炎を作っていった。
炎の周りがユラユラと揺らめいて、どこか異世界にでも通じてしまうような、空との境界を曖昧にしていく。
最後に墨砥が同じように儀式を終えると、康乃は永の方を向いて言った。
「では最後に、賓客の周防様、お願いします」
「あ、はい」
永は静かに立ち舞台へと進む。壇上のお焚き上げ台は既に近づくだけで強い熱気を放っていた。村人達がそうしていたように、永も自作の絹織物を焚べて手を合わせた。
脇で控える珪との距離はほんのわずか。祈り終わった永が珪に視線を移すと、珪は薄ら笑いを浮かべていた。
勢いを更に増して行く炎に煽られたその表情は不気味な凄みがあり、永に緊張を与える。
しかし、特に何をするでもなく、永も珪も一瞬視線を合わせただけで二人の距離は離れていく。緊張が解けずに身体を強張らせたまま、永は舞台を降りた。
「では、最後の祝詞を捧げます」
柊達が良く通る声で祝詞を読んでいく。八雲と楠俊がまた火を焚べて炎は最大に大きくなった。
一心に読み上げる柊達の声とともに、織物が爆ぜて灰になる。その残り香が天へと還っていった。
「無事に燃えてくな……」
「そうですね……」
蕾生も鈴心も燃えていく炎を眺めながら少し呆然としていた。
永は一人頭をフル回転させて周囲を注視していた。珪は舞台から降りて八雲、瑠深とともにその脇に控えている。
おかしい、何もしないなんて。だったらさっきの笑みはなんだったんだ?
静かに立ち続ける珪の姿を睨みながら永がそう考えた時、村人達の列を割って入ってくる婦人の姿があった。
「ご機嫌よう、麓紫村の皆さん」
===============================
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鈴心は瑠深の舞に魅了されていた。蕾生も眠気など忘れて視線が舞台に釘付けになる。
「すげえな……」
「なんて、美しい……」
感動しきりの二人に対して、永は氷のように冷静であろうとしていた。
瑠深の舞の後ろで小太鼓を叩く珪から視線を外さない。
梢賢が忙しいと言っていたのはこういうことか、と思った。確かに演奏中でしかもこれだけの衆人の前では何も出来ないと思われた。
舞が静かに終わる。拍手などは起きなかった。これは神への捧げ物であり、見せ物ではないからだ。
ただ鈴心と蕾生はあまりの美しさに拍手することさえも忘れていただけだったが。
瑠深が舞台を降りると代わりに横に控えていた八雲が舞台へ上がり、壇木で組まれたお焚き上げの台座を舞台の中央に出す。墨砥と珪もそれを手伝った。その間に柊達と楠俊も舞台に上がって行く。
柊達がまた祝詞を唱え始めて、八雲が壇木に火を放った。
「康乃様、お願いします」
「はい」
瑠深の声かけでまず康乃が舞台に上がる。
お焚き上げ台の前まで進み、手持ちの絹織物を炎の中に投げ入れてから祈った。火は少し強くなり、白い煙が空高く舞い上がっていく。
一連の儀式を終えた康乃はゆったりと舞台から降りて、村人達に深々と一礼して言った。
「では、皆さんもよろしくお願いします」
その言葉に従って、村人達は続々と列を作って順番に舞台へ上がり、それぞれの絹織物を火に焚べていく。
炎は勢いを増して、パチパチと火の粉を爆ぜながら陽炎を作っていった。
炎の周りがユラユラと揺らめいて、どこか異世界にでも通じてしまうような、空との境界を曖昧にしていく。
最後に墨砥が同じように儀式を終えると、康乃は永の方を向いて言った。
「では最後に、賓客の周防様、お願いします」
「あ、はい」
永は静かに立ち舞台へと進む。壇上のお焚き上げ台は既に近づくだけで強い熱気を放っていた。村人達がそうしていたように、永も自作の絹織物を焚べて手を合わせた。
脇で控える珪との距離はほんのわずか。祈り終わった永が珪に視線を移すと、珪は薄ら笑いを浮かべていた。
勢いを更に増して行く炎に煽られたその表情は不気味な凄みがあり、永に緊張を与える。
しかし、特に何をするでもなく、永も珪も一瞬視線を合わせただけで二人の距離は離れていく。緊張が解けずに身体を強張らせたまま、永は舞台を降りた。
「では、最後の祝詞を捧げます」
柊達が良く通る声で祝詞を読んでいく。八雲と楠俊がまた火を焚べて炎は最大に大きくなった。
一心に読み上げる柊達の声とともに、織物が爆ぜて灰になる。その残り香が天へと還っていった。
「無事に燃えてくな……」
「そうですね……」
蕾生も鈴心も燃えていく炎を眺めながら少し呆然としていた。
永は一人頭をフル回転させて周囲を注視していた。珪は舞台から降りて八雲、瑠深とともにその脇に控えている。
おかしい、何もしないなんて。だったらさっきの笑みはなんだったんだ?
静かに立ち続ける珪の姿を睨みながら永がそう考えた時、村人達の列を割って入ってくる婦人の姿があった。
「ご機嫌よう、麓紫村の皆さん」
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