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第七章
7-4 鬼女
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「チッ」
舌打ちした珪を見て永はやっぱり、と思った。菫を支援していたのは珪だったのだ。あんなに得意げに誤解だと言っていたのに。
「あの舞台の上に奉納するんですよね」
炎は下火になって燻っている。しかし菫はそれでも絹織物を手に足を一歩進めようとした。
それを制して康乃が立ちはだかる。
「申し訳ないけれど、雨辺のご先祖様は資実姫様の元にはいらっしゃいませんよ」
余裕を感じさせる笑みだった。本当に康乃に余裕があったかはわからない。けれど虚勢だとしてもそうした康乃の態度は菫を苛立たせた。
菫は歯軋りした後、恐ろしい形相で手を振り上げる。
「!!」
「──させぬ!」
その腕は康乃に届くことなく、墨砥に掴まれた。瞬時に康乃の前に走り出て菫を止めたのだ。その後ろで康乃は毅然と立って菫を睨んだ。
「御前、お下がりください」
「でも──」
墨砥が康乃に気を取られた瞬間を菫は見逃さなかった。
「邪魔よ」
菫は力任せに腕を振り上げ、その反動で墨砥を身体ごと吹っ飛ばした。それは常人の力ではなかった。
蕾生は菫の様子に驚いていた。今まで会っていたお淑やかな菫ではない。鬼女のような様相を目の当たりにし、蕾生は背負った白藍牙を意識し始めていた。
「父さん!」
高く舞い上がった墨砥は空中で身を翻して着地し、駆け寄った瑠深と合流する。
二人はすぐに臨戦態勢をとった。瑠深はジリジリと菫との距離をつめていく。墨砥はその後ろで瑠深に呼吸を合わせていた。おそらく二人がかりで菫を捕えるつもりだ。
だが、菫はそんな二人をつまらないものでも見るような目で見ていた。
「──ハッ!」
「──ッ!」
瑠深が手を組み掛け声を上げると、菫の体がビタッと周りの空気とともに固まった。その隙に墨砥が回り込んで後ろ手に捕える。
「あんた、目的は何!?うちを陥れるなんてどういう了見なの!?」
瑠深が詰問すると、菫は眉をへの字に曲げて泣くような声で言う。
「酷いわ……私は里に挨拶に来ただけなのに」
その弱々しい声とは真逆に、菫は捕らえられた腕をぐっと広げて墨砥を押し返した。
「ぬぅ!」
「どうして……あたしの緊縛が効いてないの!?」
瑠深は手を組み替えて術を強めた。しかし、菫の動きは止まらなかった。
「酷いわ、酷いわ……私はただお祝いして欲しいだけなのに」
亡霊のようにゆらりと立ちながら菫は今度は本当に涙を流す。
「お祝い?」
永が怪訝に聞き返すと、泣いていたはずがすぐにニヤリと笑って菫は高らかに宣言した。
「私の息子がうつろ神となって、里に降臨するお祝いを──!」
その言葉にその場の全員が凍りついた。
「な……」
「何ですって?」
墨砥も康乃も動揺して一瞬動きを鈍らせた。その隙に乗じて珪が右手を挙げるのを梢賢の目が捕らえていた。
「……」
「まずい!葵くん!」
危険を察知した梢賢は葵に駆け寄った。
「爆ぜろ、裁きの熱波」
===============================
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舌打ちした珪を見て永はやっぱり、と思った。菫を支援していたのは珪だったのだ。あんなに得意げに誤解だと言っていたのに。
「あの舞台の上に奉納するんですよね」
炎は下火になって燻っている。しかし菫はそれでも絹織物を手に足を一歩進めようとした。
それを制して康乃が立ちはだかる。
「申し訳ないけれど、雨辺のご先祖様は資実姫様の元にはいらっしゃいませんよ」
余裕を感じさせる笑みだった。本当に康乃に余裕があったかはわからない。けれど虚勢だとしてもそうした康乃の態度は菫を苛立たせた。
菫は歯軋りした後、恐ろしい形相で手を振り上げる。
「!!」
「──させぬ!」
その腕は康乃に届くことなく、墨砥に掴まれた。瞬時に康乃の前に走り出て菫を止めたのだ。その後ろで康乃は毅然と立って菫を睨んだ。
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「でも──」
墨砥が康乃に気を取られた瞬間を菫は見逃さなかった。
「邪魔よ」
菫は力任せに腕を振り上げ、その反動で墨砥を身体ごと吹っ飛ばした。それは常人の力ではなかった。
蕾生は菫の様子に驚いていた。今まで会っていたお淑やかな菫ではない。鬼女のような様相を目の当たりにし、蕾生は背負った白藍牙を意識し始めていた。
「父さん!」
高く舞い上がった墨砥は空中で身を翻して着地し、駆け寄った瑠深と合流する。
二人はすぐに臨戦態勢をとった。瑠深はジリジリと菫との距離をつめていく。墨砥はその後ろで瑠深に呼吸を合わせていた。おそらく二人がかりで菫を捕えるつもりだ。
だが、菫はそんな二人をつまらないものでも見るような目で見ていた。
「──ハッ!」
「──ッ!」
瑠深が手を組み掛け声を上げると、菫の体がビタッと周りの空気とともに固まった。その隙に墨砥が回り込んで後ろ手に捕える。
「あんた、目的は何!?うちを陥れるなんてどういう了見なの!?」
瑠深が詰問すると、菫は眉をへの字に曲げて泣くような声で言う。
「酷いわ……私は里に挨拶に来ただけなのに」
その弱々しい声とは真逆に、菫は捕らえられた腕をぐっと広げて墨砥を押し返した。
「ぬぅ!」
「どうして……あたしの緊縛が効いてないの!?」
瑠深は手を組み替えて術を強めた。しかし、菫の動きは止まらなかった。
「酷いわ、酷いわ……私はただお祝いして欲しいだけなのに」
亡霊のようにゆらりと立ちながら菫は今度は本当に涙を流す。
「お祝い?」
永が怪訝に聞き返すと、泣いていたはずがすぐにニヤリと笑って菫は高らかに宣言した。
「私の息子がうつろ神となって、里に降臨するお祝いを──!」
その言葉にその場の全員が凍りついた。
「な……」
「何ですって?」
墨砥も康乃も動揺して一瞬動きを鈍らせた。その隙に乗じて珪が右手を挙げるのを梢賢の目が捕らえていた。
「……」
「まずい!葵くん!」
危険を察知した梢賢は葵に駆け寄った。
「爆ぜろ、裁きの熱波」
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