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第七章
7-5 破滅
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潜もった珪の声が聞こえた。梢賢は葵に覆い被さって身を伏せる。しかし、二人に危害は加えられず、すぐ側で菫の悲鳴が響いた。
「キャアアアア!」
「菫さん!?」
驚いて顔を上げると、菫は立膝をついていた。その身体から焦げた匂いがする。
「灰砥様!?何をなさるんです?」
菫は珪に向けてそう呼びかける。梢賢も永もその名がここで出たことに驚いていた。
珪は眼鏡を整え直してゆっくりと菫に近づいてくる。
「困った人だ。いつになったらわかってくれるのか……。僕は珪ですよ、灰砥伯父さんの代わりだって言ったでしょう?」
しかし菫は恐怖に怯えながら地面に手をついた。
「灰砥様、申し訳ありません!気に障ったのなら謝ります。ですが、息子の葵はここまで来ましてよ」
もう何処を見ているのかわからない瞳をして菫が言うと、珪はにっこり笑って言った。
「ええ、よくやりましたね。メシア様もお喜びになるでしょう」
「ああ、灰砥様……」
その言葉に菫が恍惚の表情を見せると、珪は顔を顰めて短く呪文を発する。
「──熱波!」
「アアアァァァッ!」
珪の呪文とともに、菫がまた悲鳴を上げる。炎など見えないのに菫の身体は焦げていった。電磁波で熱せられた肉塊のようだった。おぞましい匂いが場を埋めていく。
「僕は珪だと言っただろう。学習しない女だ。だから寄生虫は嫌なんだ」
「申し訳……申し訳ありません……」
吐き捨てる珪の言葉に、菫は地面に伏してブルブルと震えながら謝り続けた。
「珪兄ちゃん!もうやめてくれ!酷すぎる!!」
梢賢が叫んで懇願すると、珪は冷たく言い放った。
「梢賢、この女の末路はお前にも責がある。お前が甘やかすから図に乗ったんだ」
「それは──そうかもしれんけど……」
二の句が告げない梢賢に変わって蕾生も永も、鈴心でさえも口々に抗議した。
「ふざけるな!梢賢はその人を正気に戻そうとしてた!」
「そうです、その為に僕らは呼ばれたんだ!」
「梢賢は一生懸命やりました!」
三人の姿を憐れむように見てから、珪は溜息をつき静かに言う。
「鵺人の方は黙っててくれませんか。いよいよ最後の詰めなのでね」
「え?」
聞き返した永を無視して、珪は菫に向き直った。
「菫」
「──」
弱々しく顔を上げる菫に向けて、珪は穏やかな笑みを与える。
「今までご苦労だったね」
「は──?」
「僕はね、お前のような人間が一番嫌いなんだ。働きもせず他人の力で生かされているくせに、自分は特別だから当然だと思い上がる。──虫唾が走るよ」
「あ、あの……?」
何を言われているのか、もはや菫には理解できていなかった。それを満足げに眺めて珪はもう一度右手を挙げる。
「さあ、己の罪を清算するといい。せめて最期に息子の役に立つことでね」
非情な呪文が紡がれた。
「我が視線は獣を貫く。地に堕ちろ、冷たき屍の輝石」
「ヒアアァアァッ!葵……あおい、アオイ、アオ──」
絹を裂くような悲鳴をあげて菫の身体は発光していく。最愛の息子の名を呼びながら、その存在は消えていった。
地面には拳大の紫色の石が転がった。次いで犀芯の輪だけが地に落ちる。菫の姿はどこにもなかった。
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「キャアアアア!」
「菫さん!?」
驚いて顔を上げると、菫は立膝をついていた。その身体から焦げた匂いがする。
「灰砥様!?何をなさるんです?」
菫は珪に向けてそう呼びかける。梢賢も永もその名がここで出たことに驚いていた。
珪は眼鏡を整え直してゆっくりと菫に近づいてくる。
「困った人だ。いつになったらわかってくれるのか……。僕は珪ですよ、灰砥伯父さんの代わりだって言ったでしょう?」
しかし菫は恐怖に怯えながら地面に手をついた。
「灰砥様、申し訳ありません!気に障ったのなら謝ります。ですが、息子の葵はここまで来ましてよ」
もう何処を見ているのかわからない瞳をして菫が言うと、珪はにっこり笑って言った。
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「ああ、灰砥様……」
その言葉に菫が恍惚の表情を見せると、珪は顔を顰めて短く呪文を発する。
「──熱波!」
「アアアァァァッ!」
珪の呪文とともに、菫がまた悲鳴を上げる。炎など見えないのに菫の身体は焦げていった。電磁波で熱せられた肉塊のようだった。おぞましい匂いが場を埋めていく。
「僕は珪だと言っただろう。学習しない女だ。だから寄生虫は嫌なんだ」
「申し訳……申し訳ありません……」
吐き捨てる珪の言葉に、菫は地面に伏してブルブルと震えながら謝り続けた。
「珪兄ちゃん!もうやめてくれ!酷すぎる!!」
梢賢が叫んで懇願すると、珪は冷たく言い放った。
「梢賢、この女の末路はお前にも責がある。お前が甘やかすから図に乗ったんだ」
「それは──そうかもしれんけど……」
二の句が告げない梢賢に変わって蕾生も永も、鈴心でさえも口々に抗議した。
「ふざけるな!梢賢はその人を正気に戻そうとしてた!」
「そうです、その為に僕らは呼ばれたんだ!」
「梢賢は一生懸命やりました!」
三人の姿を憐れむように見てから、珪は溜息をつき静かに言う。
「鵺人の方は黙っててくれませんか。いよいよ最後の詰めなのでね」
「え?」
聞き返した永を無視して、珪は菫に向き直った。
「菫」
「──」
弱々しく顔を上げる菫に向けて、珪は穏やかな笑みを与える。
「今までご苦労だったね」
「は──?」
「僕はね、お前のような人間が一番嫌いなんだ。働きもせず他人の力で生かされているくせに、自分は特別だから当然だと思い上がる。──虫唾が走るよ」
「あ、あの……?」
何を言われているのか、もはや菫には理解できていなかった。それを満足げに眺めて珪はもう一度右手を挙げる。
「さあ、己の罪を清算するといい。せめて最期に息子の役に立つことでね」
非情な呪文が紡がれた。
「我が視線は獣を貫く。地に堕ちろ、冷たき屍の輝石」
「ヒアアァアァッ!葵……あおい、アオイ、アオ──」
絹を裂くような悲鳴をあげて菫の身体は発光していく。最愛の息子の名を呼びながら、その存在は消えていった。
地面には拳大の紫色の石が転がった。次いで犀芯の輪だけが地に落ちる。菫の姿はどこにもなかった。
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