転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第七章

7-6 小さなケモノ

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すみれさん!?」
 
「──!!」
 
 梢賢しょうけんの腕の中で、あおいはその光景を見ていた。瞳が衝撃に揺れる。
 
「石化の術!?どうしてお前がそれを!?」
 
「呪力の低い僕にはできるはずがない、とお思いですか?お父さん?」
 
 動揺する墨砥ぼくとけいは笑いかけた。それは侮蔑の笑いだった。次いで瑠深るみも震えながら言う。
 
「でたらめよ。その術は遺体や遺骨を永久保存するための秘術。生者にかけるなんてできるはずない!」
 
「やれやれ。瑠深、伝統ばかり教わっていては進歩できないぞ。僕のように既存のものをアップグレードしていかないと時代に置いていかれる」
 
「そんな……それでも、兄さんの実力でできるとは──」
 
 その言葉に顔を顰めた後、ニヤリと笑って珪は得意げに説明を始めた。
 
「可愛い妹のために種明かしをしてあげよう。菫には何年も石化促進の術をかけていた。もうあの体は石になる寸前だったんだ。そういう状態にもっていけば、僕程度の呪力でも実行できるという訳だ」
 
「なんて……卑劣!」
 
 そこまで聞いたはるかはそう罵らずにはいられなかった。蕾生らいおも怒りを堪えながら拳を強く握りしめる。
 
「お前は……何と言うことを……」
 
 墨砥は現実に打ちのめされて肩を落としていた。珪の策謀に愕然としている。
 
「珪兄ちゃん!菫さんはどうなったんだ!?戻してくれよ、早く!」
 
 おそらくあの紫色の石が菫だろうと思った梢賢が叫ぶと、珪は溜息をついていた。
 
「瑠深の話を聞いていなかったのか、梢賢。石化の術は遺体を保存するためのものだ」
 
「え……」
 
雨辺うべすみれは、死んだんだよ」
 
「──」
 
 その冷たい目には、地に落ちた石ころなどとうに映っていない。梢賢は言葉を失った。
 
「なんてこと……」
 
「そんな……ぬえの、鵺の呪いは……こんなにも人を破滅させるのか──」
 
 鈴心すずねも永も、あまりに残酷な結末に打ちひしがれた。その横で、蕾生は己から怒りの感情が湧き上がっていくのを感じていた。
 
「ウソだ……菫さんが死んだなんて、ウソだ……」
 
 首を振ってうわごとのように呟く梢賢に、珪は更に追い討ちをかける。
 
「嘘じゃない。菫は永久に石になったんだよ。お前のその楓石かえでいしのようにね」
 
「──!」
 梢賢は胸元に手を置いて衝撃に耐えるように肩を震わせていた。
 
「何ですって……」
 それを聞いていた鈴心も同じように震える。
 
「まさか、楓サンを石に変えたのは──」
 
 永は橙子とうこから聞いた話を思い出していた。
 確か楓は呪いに詳しい人の治療を受けたと言っていた。あの時も眞瀬木のことだろうとは思っていたが、こういう意味もあったのかと思い至る。
 
「おかあ、さん……?」
 
 おぼつかないままだった葵がとうとう口を開いた。梢賢の腕から逃れて地面に転がる紫色の石に近づく。
 
「葵くん!?だめだ!」
 
「お母さん……?」
 
 震える手でその石を取り瞳を揺らすその姿に、珪はまたニヤリと笑った。
 
「まずい!」
 永が危険を叫ぶ。
 
 鵺化の条件。
 対象者が身的あるいは精神的に大きなストレスを抱えた時──
 
「お母さん!お母さん!お母さんッ!!」

 鵺が顕現する。

 
 
「葵く──」
 梢賢の声は届かなかった。
 
 蕾生は自らの経験を元に、これから何が起こるのかを知っていた。白藍牙はくらんがを握ってその時に備える。

「葵くん!?」
 
 葵の身体が青く発光した。続いてどこからか黒雲が現れその身体を包んでいく。
 
「黒雲……!」
 
 永はまたも己の無力さを嘆いた。

 
 
「さあ、うつろ神の降臨だ」
 
 珪は邪悪な笑みを浮かべながら、その呪いを迎えるために両手を広げた。






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