転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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エピローグ

8-4 藍の存在

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「お兄様、どうですか?」
 
「……うん。キクレー因子は落ち着いているようだ。星弥せいやの状態と比べても変わらないように思える」
 
 集中してあおいの様子を探っていた皓矢こうやは、一旦手を離してから鈴心すずねの問いに答えた。
 
 すると康乃やすのが首を傾げて自身が耳慣れない言葉を反芻する。
 
「キクレー因子?」
 
「私の祖父が名付けたDNAで、ぬえ由来のものです。こちらでは単に鵺の妖気と呼ばれているものに相当します」
 
「まあ、そうなんですか。それがどなたのと変わらないって?」
 
「私の妹です。彼と同じくキクレー因子を保有していますが、はるかくんや蕾生らいおくんのものと違って普段は因子が眠っている状態です。彼──葵くんの状態もそれに似ています」
 
 皓矢は躊躇なく説明した。
 星弥のことはぼかす事もできたのにそうしなかったのは、こうなった原因が少なからず銀騎しらきにもあることを皓矢が償いたいと思っているからだ。
 
「そうですか……では未だに目覚めないのは、精神的な?」
 
「かもしれません。聞けば母親が目の前で石化したとか。それが原因で鵺化したようですから、彼が心の整理をつけるまでは……」
 
「そう……時間が解決してくれるとよいのですけど」
 
 康乃は沈んだ面持ちで俯いた。
 そこに鈴心が気になっていたことを聞く。
 
「あの、葵くんはどうなるんですか?」
 
「もちろん目覚めるまではここで看病しますよ。その後は藤生ふじきで暮らしてもらえたらと思っているけれど、彼の気持ちを尊重します」
 
「そうですか」
 
 鈴心が安心していると、今度は永が康乃に話しかける。
 
「あの、康乃さんはあの時あいちゃんと話しましたよね?」
 
「ああ、あの子……」
 
 鵺化した葵を元に戻して消えていった少女の姿を康乃は思い出していた。
 
「僕らは彼女は葵くんの双子の姉だと思っていましたが、本当はイマジナリーフレンドだったのでは?」
 
「……かもしれないわね」
 
「なんだ、それ?」
 
 蕾生が聞くと、永は手短に説明した。
 
「小さい子が、理由はそれぞれなんだけど、自分だけに見える友達を妄想して、あたかも本当に存在しているように振る舞うことだよ」
 
「それは、他人にも見えるもんなのか?」
 
「いや、普通は自分にしか見えない」
 
「じゃあなんで藍は俺達にも見えたんだ?」
 
 蕾生の疑問に皓矢が自身の見解を述べた。
 
「もしかすると彼の中のキクレー因子が作用したのかもしれない。眞瀬木ませきけいによってその潜在能力を高められていたんだろうからね」
 
「キクレー因子はそんなこともできるんですか?」
 
 鈴心が驚いて聞くと、皓矢は眉を顰めて首を捻る。
 
「さあ……僕も初めて聞く症例だよ」
 
 すると康乃もまた自身の見解を述べた。
 
「私の想像なんだけれど、葵くんは本当に双子だったのかも。けれど片方は生まれる前に消滅してしまった。でもその魂は常に側にいたのかもしれない」
 
「そのお考えの方が合理的ではあります。雨辺うべすみれ氏がいない今では確かめる術はありませんが」
 
 軽く頷きながら言う皓矢の後に続いて、鈴心が寂しそうに結んだ。
 
「菫さんは藍ちゃんのことは常に無視していました。彼女が実は存在しないことを知っていたんですね」
 
「そうだね……」
 
 永もしんみりと頷く。蕾生は鵺に変化していたけれど、あの場で藍が頑張ったことはちゃんと覚えていた。
 
 藍は確かに存在したのだ。真相はどうあれ蕾生達は覚えているし、何より葵の心の中に必ずいるだろう。







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