157 / 174
エピローグ
8-4 藍の存在
しおりを挟む
「お兄様、どうですか?」
「……うん。キクレー因子は落ち着いているようだ。星弥の状態と比べても変わらないように思える」
集中して葵の様子を探っていた皓矢は、一旦手を離してから鈴心の問いに答えた。
すると康乃が首を傾げて自身が耳慣れない言葉を反芻する。
「キクレー因子?」
「私の祖父が名付けたDNAで、鵺由来のものです。こちらでは単に鵺の妖気と呼ばれているものに相当します」
「まあ、そうなんですか。それがどなたのと変わらないって?」
「私の妹です。彼と同じくキクレー因子を保有していますが、永くんや蕾生くんのものと違って普段は因子が眠っている状態です。彼──葵くんの状態もそれに似ています」
皓矢は躊躇なく説明した。
星弥のことはぼかす事もできたのにそうしなかったのは、こうなった原因が少なからず銀騎にもあることを皓矢が償いたいと思っているからだ。
「そうですか……では未だに目覚めないのは、精神的な?」
「かもしれません。聞けば母親が目の前で石化したとか。それが原因で鵺化したようですから、彼が心の整理をつけるまでは……」
「そう……時間が解決してくれるとよいのですけど」
康乃は沈んだ面持ちで俯いた。
そこに鈴心が気になっていたことを聞く。
「あの、葵くんはどうなるんですか?」
「もちろん目覚めるまではここで看病しますよ。その後は藤生で暮らしてもらえたらと思っているけれど、彼の気持ちを尊重します」
「そうですか」
鈴心が安心していると、今度は永が康乃に話しかける。
「あの、康乃さんはあの時藍ちゃんと話しましたよね?」
「ああ、あの子……」
鵺化した葵を元に戻して消えていった少女の姿を康乃は思い出していた。
「僕らは彼女は葵くんの双子の姉だと思っていましたが、本当はイマジナリーフレンドだったのでは?」
「……かもしれないわね」
「なんだ、それ?」
蕾生が聞くと、永は手短に説明した。
「小さい子が、理由はそれぞれなんだけど、自分だけに見える友達を妄想して、あたかも本当に存在しているように振る舞うことだよ」
「それは、他人にも見えるもんなのか?」
「いや、普通は自分にしか見えない」
「じゃあなんで藍は俺達にも見えたんだ?」
蕾生の疑問に皓矢が自身の見解を述べた。
「もしかすると彼の中のキクレー因子が作用したのかもしれない。眞瀬木珪によってその潜在能力を高められていたんだろうからね」
「キクレー因子はそんなこともできるんですか?」
鈴心が驚いて聞くと、皓矢は眉を顰めて首を捻る。
「さあ……僕も初めて聞く症例だよ」
すると康乃もまた自身の見解を述べた。
「私の想像なんだけれど、葵くんは本当に双子だったのかも。けれど片方は生まれる前に消滅してしまった。でもその魂は常に側にいたのかもしれない」
「そのお考えの方が合理的ではあります。雨辺菫氏がいない今では確かめる術はありませんが」
軽く頷きながら言う皓矢の後に続いて、鈴心が寂しそうに結んだ。
「菫さんは藍ちゃんのことは常に無視していました。彼女が実は存在しないことを知っていたんですね」
「そうだね……」
永もしんみりと頷く。蕾生は鵺に変化していたけれど、あの場で藍が頑張ったことはちゃんと覚えていた。
藍は確かに存在したのだ。真相はどうあれ蕾生達は覚えているし、何より葵の心の中に必ずいるだろう。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
「……うん。キクレー因子は落ち着いているようだ。星弥の状態と比べても変わらないように思える」
集中して葵の様子を探っていた皓矢は、一旦手を離してから鈴心の問いに答えた。
すると康乃が首を傾げて自身が耳慣れない言葉を反芻する。
「キクレー因子?」
「私の祖父が名付けたDNAで、鵺由来のものです。こちらでは単に鵺の妖気と呼ばれているものに相当します」
「まあ、そうなんですか。それがどなたのと変わらないって?」
「私の妹です。彼と同じくキクレー因子を保有していますが、永くんや蕾生くんのものと違って普段は因子が眠っている状態です。彼──葵くんの状態もそれに似ています」
皓矢は躊躇なく説明した。
星弥のことはぼかす事もできたのにそうしなかったのは、こうなった原因が少なからず銀騎にもあることを皓矢が償いたいと思っているからだ。
「そうですか……では未だに目覚めないのは、精神的な?」
「かもしれません。聞けば母親が目の前で石化したとか。それが原因で鵺化したようですから、彼が心の整理をつけるまでは……」
「そう……時間が解決してくれるとよいのですけど」
康乃は沈んだ面持ちで俯いた。
そこに鈴心が気になっていたことを聞く。
「あの、葵くんはどうなるんですか?」
「もちろん目覚めるまではここで看病しますよ。その後は藤生で暮らしてもらえたらと思っているけれど、彼の気持ちを尊重します」
「そうですか」
鈴心が安心していると、今度は永が康乃に話しかける。
「あの、康乃さんはあの時藍ちゃんと話しましたよね?」
「ああ、あの子……」
鵺化した葵を元に戻して消えていった少女の姿を康乃は思い出していた。
「僕らは彼女は葵くんの双子の姉だと思っていましたが、本当はイマジナリーフレンドだったのでは?」
「……かもしれないわね」
「なんだ、それ?」
蕾生が聞くと、永は手短に説明した。
「小さい子が、理由はそれぞれなんだけど、自分だけに見える友達を妄想して、あたかも本当に存在しているように振る舞うことだよ」
「それは、他人にも見えるもんなのか?」
「いや、普通は自分にしか見えない」
「じゃあなんで藍は俺達にも見えたんだ?」
蕾生の疑問に皓矢が自身の見解を述べた。
「もしかすると彼の中のキクレー因子が作用したのかもしれない。眞瀬木珪によってその潜在能力を高められていたんだろうからね」
「キクレー因子はそんなこともできるんですか?」
鈴心が驚いて聞くと、皓矢は眉を顰めて首を捻る。
「さあ……僕も初めて聞く症例だよ」
すると康乃もまた自身の見解を述べた。
「私の想像なんだけれど、葵くんは本当に双子だったのかも。けれど片方は生まれる前に消滅してしまった。でもその魂は常に側にいたのかもしれない」
「そのお考えの方が合理的ではあります。雨辺菫氏がいない今では確かめる術はありませんが」
軽く頷きながら言う皓矢の後に続いて、鈴心が寂しそうに結んだ。
「菫さんは藍ちゃんのことは常に無視していました。彼女が実は存在しないことを知っていたんですね」
「そうだね……」
永もしんみりと頷く。蕾生は鵺に変化していたけれど、あの場で藍が頑張ったことはちゃんと覚えていた。
藍は確かに存在したのだ。真相はどうあれ蕾生達は覚えているし、何より葵の心の中に必ずいるだろう。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
0
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる