転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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エピローグ

8-5 けじめ

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「その枕元にあるのは──?」
 
 皓矢こうやが注目したのは、紫色の水晶のような石だった。無機物とは思えないほどの存在感を放つそれに皓矢は警戒せざるを得ない。
 
「ああ、それが石になったすみれさんです。姿は変わっても我が子の側にいたいでしょうから」
 
「……」
 
 皓矢がしばしその石を見つめていると、部屋の外でバタバタと喧しい足音がした。
 
「すんません!すんませーん!」
 
「あの声は──」
 
 はるかはその声の持ち主をすぐに理解し、弾んだ声を出す。
 
「お邪魔しまああす!」
 
 大声で襖を開けたのは梢賢しょうけんだった。
 康乃やすのは少し驚いたがやはり声を弾ませる。
 
「まあ」
 
「梢賢!静かに!」
 
「す、すまん!」
 
 怒鳴った鈴心すずねもその顔は明るかった。
 
「梢賢くん」
 
「随分と寝坊だな」
 
 永も蕾生らいおもニヤニヤ笑いながら揶揄った。
 梢賢は頭を掻きながら一礼する。
 
「いやあ、申し訳ない!──とと、葵くんは?まだ起きひんの?」
 
「ああ。彼の中のキクレー因子は落ち着いているから、後は心の問題だね」
 
 皓矢にそう言われて少し安心した梢賢は、実にふっきれた顔で宣言する。
 
「ほうか……でもちょうどええわ!葵くんにも聞いてもらわな!」
 
「?」
 
 蕾生達が首を傾げていると、梢賢は康乃に向かって土下座した。
 
「康乃様!」
 
「なんです?」
 
「この度は本当に申し訳ありませんでした!雨辺うべが暴走したのはオレのせいです!」
 
「まあ」
 
 康乃は少し目を丸くして梢賢の話を聞いていた。
 
「ここまでのことしといて、何言うてんねん思わはるかもしれませんけど、昨日の件で墨砥ぼくとのおっちゃんと瑠深るみには何の落ち度もありません!」
 
「そうねえ」
 
「ですから眞瀬木ませきの責を負うのはオレにお願いします!」
 
「……具体的にはどう責任を取ると?」
 
 少し厳しい声で康乃が尋ねると、梢賢は伏せていた顔をガバと上げてハッキリ言った。
 
眞瀬木ませきけいは、オレが首根っこ掴んで連れ戻し、必ず康乃様の前に土下座させます!」
 
 それは、梢賢が新たに立てた誓いだった。
 
「梢賢……」
 
 蕾生はそれを聞いて安心し、永は変わらずニヤニヤ笑い、鈴心は安堵の溜息をもらす。
 
「ですからどうか!眞瀬木墨砥、瑠深、並びに八雲やくもを放免してください!」
 
 真っ直ぐに康乃を見て訴える梢賢の瞳には揺るぎない光が宿っていた。
 
「いいでしょう」
 
 康乃は満足げにニコニコ笑って頷いた。永は相変わらずこのおばちゃんは軽いなあ、と苦笑する。
 
「ありがとうございまっす!」
 
「おい、梢賢」
 
「何や?」
 
 蕾生もその晴れた顔を讃えた。
 
「見直したぜ」
 
「──おう!」
 
 戯けるでもなく、含みがあるわけでもない、心から笑う梢賢の顔を蕾生達は初めて見た気がした。







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