15 / 21
2章
はじまり
しおりを挟む
『___エ、カナリエ、起きて…』
深い深い闇に落ちてきた声が、僕を引き上げようとする。
『ダメだ…こんなところで負けちゃ』
だんだん鮮明さを得てきたその声は泣いていた。
(なんだろ…すごく、悲しい)
まるで僕の中にある何かがその声に共鳴するかのように、僕のからだは僕に悲しいと訴えかけた。
『失ってしまう、全てを』
(なんで?)
『君が…僕の____だから』
あぁ、一番大事な部分が聞こえなかった。
すごく大事な気がするのに。
『諦めないで、君自身を。僕の力を全部託した君なら大丈夫』
(あなたは…だれ?)
『…僕は、いつでも君の中にいるよ』
どういうことだろう。僕の中の誰か?
あぁ、意識が浮上する。知らなきゃいけない、忘れてはいけない何かがある気がするのに。
『僕はもう、君を起こすために力を使ってしまった。きっともう出てこれない…絶対に忘れないで、あなたの大事な人のことを』
最後に見えたのは、僕が寄り添うあの朱色だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「はっ…」
さっきのは、夢?それにしては鮮明だった。あれは何?そんなことが思考を埋めつくして混乱する。
(そんなことより、ここは?)
ハッとして周りを見渡せば、ここは知らない部屋のベッドの上だった。レオス様たちもいない。
おそらくあの襲撃で僕も一緒に連れ去られたのだろう。
(それと…なんだろう、この感じ)
からだに違和感があった。怪我をしたとか呪われたとかそんな上辺のものではなく、もっと深く、自分自身に変化があった感覚。
敵の工作を警戒すべきところなのだろうけど、僕はこの変化の正体に確信めいたものを感じていた。
(これは…さっきの誰かだ)
僕の奥深くにいる誰かが、僕自身に与えてくれた何か。
そしておそらくあの人は、僕の血に宿った初代リュードリア夫人の魔力そのもの。
(ずっと…見守ってくれてたのか)
僕らの行く末を。そしてきっと、この力で僕たちが不幸にならないように、今僕に与えてくれた何かを隠し持っていた。
そして僕の直感が間違ってなければ、この何かは魔術そのものだ。
試しに魔術を発現させようと意識を向けてみると、確かに知らない術があった。
けれどこれは、おそらく完成されていない。
(…僕がやってやる)
初代リュードリア夫人が完成させられなかった魔術。これを完成させることは、彼に似ているとされる僕にしかできないだろう。
恐怖で手が震えた。
どこかも分からない、味方がどれだけいるかも分からない場所で、僕はあまりに大きな壁を乗り越えようとしている。
(レオス様…)
脳裏に映ったのは、僕が恐怖を感じた時そばに居てくれた人。あの温かい手があったから僕は強くなれると思った。
(あなたがいなければ僕はこんなにも…)
会いたい、そう考えて涙が滲んだ。
そしてその瞬間僕の中の魔力が弾けて、遥か先と繋がった。
「レオス様…?」
今はっきりと、僕はここに居てレオス様と繋がったんだと分かった。
深い深い闇に落ちてきた声が、僕を引き上げようとする。
『ダメだ…こんなところで負けちゃ』
だんだん鮮明さを得てきたその声は泣いていた。
(なんだろ…すごく、悲しい)
まるで僕の中にある何かがその声に共鳴するかのように、僕のからだは僕に悲しいと訴えかけた。
『失ってしまう、全てを』
(なんで?)
『君が…僕の____だから』
あぁ、一番大事な部分が聞こえなかった。
すごく大事な気がするのに。
『諦めないで、君自身を。僕の力を全部託した君なら大丈夫』
(あなたは…だれ?)
『…僕は、いつでも君の中にいるよ』
どういうことだろう。僕の中の誰か?
あぁ、意識が浮上する。知らなきゃいけない、忘れてはいけない何かがある気がするのに。
『僕はもう、君を起こすために力を使ってしまった。きっともう出てこれない…絶対に忘れないで、あなたの大事な人のことを』
最後に見えたのは、僕が寄り添うあの朱色だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「はっ…」
さっきのは、夢?それにしては鮮明だった。あれは何?そんなことが思考を埋めつくして混乱する。
(そんなことより、ここは?)
ハッとして周りを見渡せば、ここは知らない部屋のベッドの上だった。レオス様たちもいない。
おそらくあの襲撃で僕も一緒に連れ去られたのだろう。
(それと…なんだろう、この感じ)
からだに違和感があった。怪我をしたとか呪われたとかそんな上辺のものではなく、もっと深く、自分自身に変化があった感覚。
敵の工作を警戒すべきところなのだろうけど、僕はこの変化の正体に確信めいたものを感じていた。
(これは…さっきの誰かだ)
僕の奥深くにいる誰かが、僕自身に与えてくれた何か。
そしておそらくあの人は、僕の血に宿った初代リュードリア夫人の魔力そのもの。
(ずっと…見守ってくれてたのか)
僕らの行く末を。そしてきっと、この力で僕たちが不幸にならないように、今僕に与えてくれた何かを隠し持っていた。
そして僕の直感が間違ってなければ、この何かは魔術そのものだ。
試しに魔術を発現させようと意識を向けてみると、確かに知らない術があった。
けれどこれは、おそらく完成されていない。
(…僕がやってやる)
初代リュードリア夫人が完成させられなかった魔術。これを完成させることは、彼に似ているとされる僕にしかできないだろう。
恐怖で手が震えた。
どこかも分からない、味方がどれだけいるかも分からない場所で、僕はあまりに大きな壁を乗り越えようとしている。
(レオス様…)
脳裏に映ったのは、僕が恐怖を感じた時そばに居てくれた人。あの温かい手があったから僕は強くなれると思った。
(あなたがいなければ僕はこんなにも…)
会いたい、そう考えて涙が滲んだ。
そしてその瞬間僕の中の魔力が弾けて、遥か先と繋がった。
「レオス様…?」
今はっきりと、僕はここに居てレオス様と繋がったんだと分かった。
29
あなたにおすすめの小説
【本編完結】あなたのいない、この異世界で。
Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」
最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。
そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。
亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。
「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」
ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。
彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。
悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。
※番外編を数話、投稿予定です。
※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。
ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました
岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。
そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……?
「僕、犬を飼うのが夢だったんです」
『俺はおまえのペットではないからな?』
「だから今すごく嬉しいです」
『話聞いてるか? ペットではないからな?』
果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。
※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。
目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?
キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。
目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。
そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。
どうして僕はこんな所に居るんだろう。
それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか……
コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。
【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】
反応いただけるととても喜びます!
匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(^^)
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
【短編】売られていくウサギさんを横取りしたのは誰ですか?<オメガバース>
cyan
BL
ウサギの獣人でΩであることから閉じ込められて育ったラフィー。
隣国の豚殿下と呼ばれる男に売られることが決まったが、その移送中にヒートを起こしてしまう。
単騎で駆けてきた正体不明のαにすれ違い様に攫われ、訳が分からないまま首筋を噛まれ番になってしまった。
口数は少ないけど優しいαに過保護に愛でられるお話。
黒豹陛下の溺愛生活
月城雪華
BL
アレンは母であるアンナを弑した獣人を探すため、生まれ育ったスラム街から街に出ていた。
しかし唐突な大雨に見舞われ、加えて空腹で正常な判断ができない。
幸い街の近くまで来ていたため、明かりの着いた建物に入ると、安心したのか身体の力が抜けてしまう。
目覚めると不思議な目の色をした獣人がおり、すぐ後に長身でどこか威圧感のある獣人がやってきた。
その男はレオと言い、初めて街に来たアレンに優しく接してくれる。
街での滞在が長くなってきた頃、突然「俺の伴侶になってくれ」と言われ──
優しく(?)兄貴肌の黒豹×幸薄系オオカミが織り成す獣人BL、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる