【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄

文字の大きさ
4 / 5

4.魔の手

しおりを挟む
 オレはこくり、と唾を飲みこんだ。

「……少しくらい、……いい、よね」

 “最後だから”を大義名分にし、己へと甘い裁定を下す。
 褒められたものではない。わかってる。
 寝込みに不必要に触れるなぞもっての外。いいも悪いも、相手は返事ができないのだから。オレと兄は、なんら“特別”な関係ではないのだから……。
 わかってる。わかっている。なのに――。

 こころもち前かがみになったオレは。おもむろに腕を持ち上げて人差し指を――兄の背に軽く押しつけた。場所は左側の肩甲骨あたり。
 そこからそろそろと、少し右上がりに指先を移動させて。次はそのまま背中を伝って左下に向かわせる。続いて斜めのそれを支えるようにして、真ん中から右下に向かって短い線を引いた。
 ザザザ……。ロイヤルブルーのセーターと指先がこすれるごくわずかな音がたつ。
 再び左側の肩甲骨付近に人差し指を置く。今度は右上がりの線を二本、平行になるように。そしてそれらを貫く右下に向かっての斜め線。

「……なんて、ね」

 自嘲に唇を歪めながらゆっくりと指を編地から離した。部屋には意識の外だった小さな寝息と、規則正しい時計の針の音だけが響く。
 ……無意味な愚行を犯しても、すっきりするはずもない。
 胸が重苦しくなり眼前の兄の姿はぼやけ始め、オレは俯き目をしばたたく。こんなことをする自分にも、こんなことしかできない自分にも。失望するばかりだった。
 ただ苦い思い出が一つ、積み重なっただけ。

 ――ああ、いけない。馬鹿馬鹿しい茶番をやっていないで、兄さんを起こしてあげなきゃ。

「……兄さん、……兄さんっ」

 肩を控えめに揺さぶるが、兄は目覚めてくれない。
 弱ったな。オレより身長の高い兄相手では抱えてベッド、どころか近くのソファにさえ運ぶのは難しかった。
 本当に、風邪をひいたりしてしまったらどうしよう……。あ、

「せめて、膝掛けを持ってこよう……」

 そう思い立ち、オレは足音を忍ばせ自室へと戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛などもう求めない

一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

付き合って一年マンネリ化してたから振られたと思っていたがどうやら違うようなので猛烈に引き止めた話

雨宮里玖
BL
恋人の神尾が突然連絡を経って二週間。神尾のことが諦められない樋口は神尾との思い出のカフェに行く。そこで神尾と一緒にいた山本から「神尾はお前と別れたって言ってたぞ」と言われ——。 樋口(27)サラリーマン。 神尾裕二(27)サラリーマン。 佐上果穂(26)社長令嬢。会社幹部。 山本(27)樋口と神尾の大学時代の同級生。

処理中です...