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婚約破棄編
4.立つ鳥の足に絡まるもの
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「は? え? 出ていくってどういうこと? お姉様、家出でもされる気なの? やっぱり怒ってるの? 馬鹿な真似はお止めになって。そんなことしたら、お父様とお母様にカンカンに怒られてしまいますわ。ね? 止めましょう。今なら、間に合います。わたしも誰にも言わないから」
「違いますよ、リーファ。とりあえず腕を引っ張るのを止めてください。痛いので」
加減というものがわからないのか、強めにぐいぐいと腕を引っ張りながら止めてくるリーファの手をやんわりと引き離し、落ち着けます。
まぁ、親に直前まで何も言わずに出ていこうとするのは家出に該当するのかもしれませんが、一応こちらにも言い分があるので、まずはそれを聞いて貰いましょう。
正直、リーファよりも両親を説得する方が骨が折れるので、リーファの口から両親に伝えて貰い、その間に出ていければ──という打算もあります。
「違うって何がです? だってお姉様、お屋敷から出ていこうとしてるんでしょ?」
「ええ、そうですけど、別に当て所ない旅に出る訳じゃありませんよ。それだとこの量の荷物は持って行けませんし……今日からラピスフィール公爵家でお世話になることにしたのです」
「オウル様のおうち? どうして?」
「勉強のためですよ。私は今までアーモンド伯爵家のための勉強しかしてきませんでしたから。公爵家ともなれば、覚えなくてはいけない仕事やマナー、交遊関係なども多くあります。私もすでに成人してますし、遅くても数年のうちに式を挙げることになるでしょう。それまでに公爵家のお役に立てる知識と技能を身につけなくてはなりませんから」
実際、公爵家は抱える領地も領民の数も桁違いですし、王家や他の公爵家との交流もあります。ラピスフィール公爵家は財源が豊かなので、共に商売をしたい貴族や商会も多いですし、覚えなくてはいけないことは山程あります。
「お勉強なら、いつもされてるでしょう? わざわざ公爵家に行く必要があるの? 今まで通り、ここでお勉強すればいいじゃない」
「この屋敷にある資料では、勉強になりませんよ。いちいち公爵家から必要な本や書類をお借りするのもお手間をかけてしまいますし。持ち出し出来ないものもあるでしょうしね。
それに、ラピスフィール公爵家には先達であるラピスフィール夫人がいらっしゃいます。手本とするべき方が近くにいた方が、早く身になりますから」
ラピスフィール公爵家でお世話になることは、時間や勉強のためにも最も効率的な選択です。
習うより慣れよとも言いますし、今から公爵家での生活に慣れておくのも良いことと思えます。
公爵家で暮らすことの利点を説明したら、何故かリーファは目を瞠って震え出しました。
「ラピスフィール夫人!? それってオウル様のお母様のこと!!?」
「他にいないでしょう」
何故、こんなにも驚いているのかわかりません。
私が首を傾げていると、リーファがとんでもないことだとばかりに早口で話し始めました。
「あの人をお手本にするなんてダメです!!! とっても意地悪な方なんですよ? お姉様、ただでさえ意地悪なところがあるのに、あんな人をお手本にしたらもっとおへそが曲がっちゃいますよっ」
──そういえば、リーファは公爵家の方々を酷い人たちだと思い込んでいましたね。
実際に話を訊いてみれば、公爵家の方々は常識的なことしか仰ってませんでしたが。金銭感覚含め、価値観が違いすぎて相互理解に至れなかったんですね。
「リーファ、目上の方をそのように言うものではありません──勿論、目下の者であっても侮辱するようなことは言ってはいけませんが。確かに私はラピスフィール夫人の人となりについて詳しくはありませんが、積み上げてきた実績のある公爵夫人として立派な方です。学べることも多くありましょう」
リーファのラピスフィール夫人への評価は明らかに私情が入っていて当てになりませんが、万が一リーファが言うような人物であっても、悪いところは反面教師にするだけです。
私ももう成人してますし、物事の分別はつきます。
一つ一つ、リーファが反対する理由に回答していき、そろそろ納得してはくれないでしょうかと思っていたら、再びリーファは癇癪を起こして叫び出しました。
「も────っ!!! お姉様のために言ってるのに、どうしてわかってくれないの!? とにかく、家出なんてダメです! お姉様、ここでじっとしていてください! お父様とお母様を呼んできます。ちゃんとお説教して貰わなきゃ!」
「説教される覚えはないのですけれど……」
出来るだけ明確に受け答えしたのに、流石に理不尽では? と思わなくもありません。
私の呟きは颯爽と部屋から出ていったリーファには届きませんでした。
リーファが呼びにいった以上、すぐにお父様とお母様がいらっしゃいますね。
まぁ、リーファ経由で伝えるのが一番望ましくはありましたが、元々自分で直接伝えることを前提に考えていたので問題ありませんが。
さて、と。なら、リーファがお父様たちを連れて戻ってくる間に荷造りを終わらせてしまいましょう。
いそいそと作業に戻り、着々と荷物を仕舞っていきます。
「ジゼル! 家出するとは何事だ!? この不良娘が!」
そう言ってお父様が部屋に入ってきたのは、最後にお気に入りのティーカップを茶櫃に仕舞い終えた時でした。
「違いますよ、リーファ。とりあえず腕を引っ張るのを止めてください。痛いので」
加減というものがわからないのか、強めにぐいぐいと腕を引っ張りながら止めてくるリーファの手をやんわりと引き離し、落ち着けます。
まぁ、親に直前まで何も言わずに出ていこうとするのは家出に該当するのかもしれませんが、一応こちらにも言い分があるので、まずはそれを聞いて貰いましょう。
正直、リーファよりも両親を説得する方が骨が折れるので、リーファの口から両親に伝えて貰い、その間に出ていければ──という打算もあります。
「違うって何がです? だってお姉様、お屋敷から出ていこうとしてるんでしょ?」
「ええ、そうですけど、別に当て所ない旅に出る訳じゃありませんよ。それだとこの量の荷物は持って行けませんし……今日からラピスフィール公爵家でお世話になることにしたのです」
「オウル様のおうち? どうして?」
「勉強のためですよ。私は今までアーモンド伯爵家のための勉強しかしてきませんでしたから。公爵家ともなれば、覚えなくてはいけない仕事やマナー、交遊関係なども多くあります。私もすでに成人してますし、遅くても数年のうちに式を挙げることになるでしょう。それまでに公爵家のお役に立てる知識と技能を身につけなくてはなりませんから」
実際、公爵家は抱える領地も領民の数も桁違いですし、王家や他の公爵家との交流もあります。ラピスフィール公爵家は財源が豊かなので、共に商売をしたい貴族や商会も多いですし、覚えなくてはいけないことは山程あります。
「お勉強なら、いつもされてるでしょう? わざわざ公爵家に行く必要があるの? 今まで通り、ここでお勉強すればいいじゃない」
「この屋敷にある資料では、勉強になりませんよ。いちいち公爵家から必要な本や書類をお借りするのもお手間をかけてしまいますし。持ち出し出来ないものもあるでしょうしね。
それに、ラピスフィール公爵家には先達であるラピスフィール夫人がいらっしゃいます。手本とするべき方が近くにいた方が、早く身になりますから」
ラピスフィール公爵家でお世話になることは、時間や勉強のためにも最も効率的な選択です。
習うより慣れよとも言いますし、今から公爵家での生活に慣れておくのも良いことと思えます。
公爵家で暮らすことの利点を説明したら、何故かリーファは目を瞠って震え出しました。
「ラピスフィール夫人!? それってオウル様のお母様のこと!!?」
「他にいないでしょう」
何故、こんなにも驚いているのかわかりません。
私が首を傾げていると、リーファがとんでもないことだとばかりに早口で話し始めました。
「あの人をお手本にするなんてダメです!!! とっても意地悪な方なんですよ? お姉様、ただでさえ意地悪なところがあるのに、あんな人をお手本にしたらもっとおへそが曲がっちゃいますよっ」
──そういえば、リーファは公爵家の方々を酷い人たちだと思い込んでいましたね。
実際に話を訊いてみれば、公爵家の方々は常識的なことしか仰ってませんでしたが。金銭感覚含め、価値観が違いすぎて相互理解に至れなかったんですね。
「リーファ、目上の方をそのように言うものではありません──勿論、目下の者であっても侮辱するようなことは言ってはいけませんが。確かに私はラピスフィール夫人の人となりについて詳しくはありませんが、積み上げてきた実績のある公爵夫人として立派な方です。学べることも多くありましょう」
リーファのラピスフィール夫人への評価は明らかに私情が入っていて当てになりませんが、万が一リーファが言うような人物であっても、悪いところは反面教師にするだけです。
私ももう成人してますし、物事の分別はつきます。
一つ一つ、リーファが反対する理由に回答していき、そろそろ納得してはくれないでしょうかと思っていたら、再びリーファは癇癪を起こして叫び出しました。
「も────っ!!! お姉様のために言ってるのに、どうしてわかってくれないの!? とにかく、家出なんてダメです! お姉様、ここでじっとしていてください! お父様とお母様を呼んできます。ちゃんとお説教して貰わなきゃ!」
「説教される覚えはないのですけれど……」
出来るだけ明確に受け答えしたのに、流石に理不尽では? と思わなくもありません。
私の呟きは颯爽と部屋から出ていったリーファには届きませんでした。
リーファが呼びにいった以上、すぐにお父様とお母様がいらっしゃいますね。
まぁ、リーファ経由で伝えるのが一番望ましくはありましたが、元々自分で直接伝えることを前提に考えていたので問題ありませんが。
さて、と。なら、リーファがお父様たちを連れて戻ってくる間に荷造りを終わらせてしまいましょう。
いそいそと作業に戻り、着々と荷物を仕舞っていきます。
「ジゼル! 家出するとは何事だ!? この不良娘が!」
そう言ってお父様が部屋に入ってきたのは、最後にお気に入りのティーカップを茶櫃に仕舞い終えた時でした。
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