妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!

夢草 蝶

文字の大きさ
10 / 43
お茶会編 Re:start

10.お茶会の招待状

しおりを挟む
 フリージア夫人からの手紙を受け取った私は中を改めたのち、帰宅されたオウル様に手紙を見せました。

「ジゼル、フリージア夫人と面識があったんだね」

「はい。フリージア夫人は私に令嬢としての心得を教えて下さった先生なのです」

 手紙の送り主、フリージア夫人は私の師と呼べるお人です。
 フリージア夫人はジェーン公爵家の娘として生まれ、西の辺境伯に嫁がれた辺境伯夫人。
 西方は隣国との緊張状態が長く続いており、争いの種が絶えない土地です。
 辺境伯の屋敷が襲撃されることもあるため、万が一にも人質にとられるようなことがないようフリージア夫人は王都に住んでいらっしゃいます。ただ避難しているだけではなく、フリージア夫人は国内の情勢に目を配り、国境警備から目を離せない辺境伯へ内政の情報を送ってらっしゃいます。外を辺境伯が、内をフリージア夫人が固めることで強固で磐石な辺境伯家を築いているのです。
 それだけではなく、フリージア夫人は他家の令嬢に淑女になるための指南をされており、私も生徒の一人でした。
 箱入りで育った方などは泣き出してしまうくらい厳しい指導でしたが、権謀術数が蔓延る世界で生き抜くために必要なことを沢山教えて頂きました。
 今の私があるのもフリージア夫人の教えのおかげです。
 私にとって信用出来る方の一人であり、ラピスフィール公爵家への引っ越しも事前にお伝えしておりました。
 なので、私宛ての手紙が届いてもおかしくはありません。重要なのはその内容です。

「あのフリージア夫人の指導を受けていたんだね。通りで仕草が洗練されてるわけだ。それで、フリージア夫人はどうして手紙を?」

「そのことでオウル様にご相談したくて足をお運び頂きました。中をご覧下さい」

「これは──お茶会の招待状だね」

 フリージア夫人からの手紙は招待状でした。
 二週間後に王都にあるフリージア夫人がお住まいの屋敷でお茶会を開くとのことです。
 主催者の格、参加者の顔触れ、お茶会の規模を鑑みても、私が求めていたものが揃っています。
 婚約者を交換した際に、社交場への出入りはしばらく控えるとフリージア夫人にはお伝えしていたので、これは気を回して下さったのでしょう。
 オウル様と共にお茶会に参加し、新たなる一歩を踏み出しなさい、と。
 私にお断りする理由はありません。ありがたくご厚意に甘えさせて頂こうと思います。問題はオウルのご予定ですが──

「オウル様、私、このお茶会に参加したいと思います。それでご都合がよろしければ、一緒に行っていただけないでしょうか?」

「勿論。日取りも問題ないし、婚約者をエスコートするのは当然の務めだからね。一緒に参加しよう」

「ありがとうございます。これから忙しくなりますね。お茶会は二週間後。それまでにしっかり準備しなくては。まずはお茶会にどなたが招待されているかを絞り込んで、どのようにご挨拶するかの予測を立てなくては」

 なんだか久しぶりに与えられた宿題のようで、気が引き締まります。
 この二週間のうちに万全に備え、一分の隙もなく仕上げてみせましょう。

「頑張って。僕に出来ることがあったら何でも言って欲しい」

「では、オウル様の交流関係をお教え願えますか? フリージア夫人のお茶会であれば、オウル様のご友人も招待されているでしょうから、ご挨拶したいです」

「わかった。そうだね、まずは──」

 オウル様の言葉を一つも取り溢さないよう耳に神経を集中させます。
 とはいえ、油断出来ない一幕ではありますが、勝算は十分にあります。フリージア夫人のお茶会には何回も参加したことがありますから、雰囲気や流れはしっかり把握出来ておりますので。

 ──などと、この時の私は些かの気の緩みがありました。
 まさか、お茶会でが起こるなんて、この時の私は予想すらしていなかったのです。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

婚約破棄して支援は継続? 無理ですよ

四季
恋愛
領地持ちかつ長い歴史を持つ家の一人娘であるコルネリア・ガレットは、婚約者レインに呼び出されて……。

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に

柚木ゆず
恋愛
 ※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。  伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。  ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。  そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。  そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。 「そう。どうぞご自由に」

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。

性格が嫌いだと言われ婚約破棄をしました

クロユキ
恋愛
エリック・フィゼリ子息子爵とキャロル・ラシリア令嬢子爵は親同士で決めた婚約で、エリックは不満があった。 十五歳になって突然婚約者を決められエリックは不満だった。婚約者のキャロルは大人しい性格で目立たない彼女がイヤだった。十六歳になったエリックには付き合っている彼女が出来た。 我慢の限界に来たエリックはキャロルと婚約破棄をする事に決めた。 誤字脱字があります不定期ですがよろしくお願いします。

9年ぶりに再会した幼馴染に「幸せに暮らしています」と伝えたら、突然怒り出しました

柚木ゆず
恋愛
「あら!? もしかして貴方、アリアン!?」  かつてわたしは孤児院で暮らしていて、姉妹のように育ったソリーヌという大切な人がいました。そんなソリーヌは突然孤児院を去ってしまい行方が分からなくなっていたのですが、街に買い物に出かけた際に9年ぶりの再会を果たしたのでした。  もう会えないと思っていた人に出会えて、わたしは本当に嬉しかったのですが――。現状を聞かれたため「とても幸せに暮らしています」と伝えると、ソリーヌは激しく怒りだしてしまったのでした。

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。

処理中です...