妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!

夢草 蝶

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お茶会編 Re:start

18.深まる疑問

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「……それだけですか?」

 マーカス様の仰った理由は本当に単純明快で、たったひとつだけでいいのでしょうかと疑問を抱いてしまいました。

「それだけじゃなくて、それが全てだろ。オウルはいくら婚約者でも問題ある奴を問題あるまま俺らに紹介しないし」

「そういえば、前の婚約者──妹ちゃんとは直接話したことないな」

「というよりも、その子とオウルが一緒にいるところをほとんど見たことないわね。パーティーとかお茶会に一緒に参加してても何故か別行動してたし」

「──そうだったのですか?」

「まぁ、ね……」

 エイミー様のお話にオウル様はバツが悪そうに首肯されました。
 正直なところ、婚約していた時のオウル様とリーファがどんな関係だったのかは把握していなかったんですよね。
 婚約者を入れ換えるまで、お会いする機会もほとんどありませんでしたし。
 リーファの様子やロウ様とのことがありますから、良好な関係ではないとは思ってましたけど、恐らくパーティーなどで何度もオウル様とお顔を合わせているであろうエイミー様がほとんど一緒にいるところを見たことがないと仰るのであれば、婚約してから早い段階でオウル様とリーファは婚約者らしい関係性を築くのに躓いてしまったのでしょうか。──まぁ、私も人のことは言えませんけど。

「それでも最初のうちは紹介する気はあったよ? それこそ婚約発表のパーティーの時に──けど──」

「ああー、そういやんなこともあったか」

「なになに? 何の話?」

「忘れたの? ルドルフも一緒に行ったでしょう。オウルの婚約発表パーティー」

「なんかあったっけ?」

「お前……あれ忘れるとか、どんな脳味噌してんだ……」

「いや、まぁ、僕としても忘れてくれた方がいいことではあるし、というか僕も忘れたい。思い出しただけで頬が痛いよ」

「あの……皆様は何のお話をしているのですか?」

 嫌な予感がひしひしとしますが、私とオウル様もまだ予定は未定ですが婚約発表パーティーを開くことになります。その際に参加者の方々はリーファの時の方々と変わらない顔触れでしょう。姉妹ですし、前回のものと比較されるのは避けられません。予防線を張っておくためにもその婚約発表パーティーで何があったのかを把握しておきたいところです。

「え? あ、そういえばジゼルあの時──ううん、何でもな──」

「こいつ、前の婚約発表の時、あんたの妹が招待客の令嬢に何か失礼なこと言ったらしくて、最終的にその令嬢にひっぱたかれてた」

「マーカス!」

「──────!?!?!?」

 ひっぱたかれた? オウル様が!?
 初めて知る衝撃的な内容に目を白黒させて、思わずオウル様を凝視してしまいます。
 オウル様はその時のことを思い出されているのか、左頬を擦っていらっしゃいました。多分、そちらの頬を叩かれたのですね……。

「な、何故そのようなことに……」

「いや、そのご令嬢が怒ってリーファを叩こうとしてたから、咄嗟にね……」

「まさか──そんな──」

「ていうか、知らなかったのか?」

「そういえば、あのパーティーにジゼルさんは参加してなかったわね。都合が合わなかったのかしら?」

「……いえ、オウル様との婚約発表パーティーのリーファの言動は耳にしておりました……ですが、オウル様のことは初耳だったので……」

 あの日のことは私もよく覚えています。両親と共に意気揚々と婚約発表パーティーへ向かったリーファが目に涙を浮かべて帰ってきたことを。
 本人に問い質すと、招待されていた令嬢に対してリーファが「貴女、わたしと同い年なのに婚約者がいないの? かわいそう! 結婚出来ない女の人ってごくつぶしって言うんでしょ? 老いた馬よりも役に立たないってお母様が言ってたわ」という感じの発言をしたと。
 ええ、勿論すぐさま相手の名前を聞き出して謝罪に行きました。例によって例のごとくリーファは着いてきませんでしたが。
 余程怒らせてしまったようで、結局相手の令嬢に会うことは叶わず、謝罪も受け取って頂けませんでした。
 それだけでも卒倒しそうなくらいの話なのに、まさかオウル様まで巻き込んでいたなんて……。
 数年越しに知った新事実に頭がくらくらします。

「あの……オウル様、リーファが申し訳──」

 流石に怪我を負わせてしまう原因となった出来事に関しては謝罪しなくてはならないと思い、頭を下げようとしましたが、 オウル様に遮られました。

「大丈夫だよ。昔の話だし、ジゼルはあの場にはいなかったんだから、本当に謝る必要はないから」

「オウルの言う通りだ。それはそれとして、本当に何でいなかったんだ? 婚約発表って基本家族は全員参加だろ。別に答えたくないなら言わなくていいけど」

「本来であれば私も参加するはずだったのですが、前日にパーティーでの立ち振舞いについてリーファに念を押していたら、しつこいと怒らせてしまって、それを両親に咎められてパーティー当日は屋敷で留守番をしてるよう命じられたので」

 今更後悔しても仕方ありませんが、あの時是が非でも同行していれば少なくともオウル様が巻き込まれることはなかったかもしれません。
 そもそも、前日にしつこく念を押したのはその前に参加したパーティーでもリーファが問題を起こしたからでしたのに。
 つくづく自分の迂闊さを呪いたくなります。あの頃は私もまだ四角四面な考え方しか出来なくて、当主の命令に背くという選択肢を取れなかったのです。

「なんだそりゃ……」

「あっ!」

「ルドルフ、いきなり大声出さないで。驚くじゃない」

「どうしたの?」

「俺も思い出した! あの時のパーティーか! ローストビーフがすっごい美味かった。あと、オウルにめっちゃいいビンタ打ち込んでた子のドレスがすっごい年代ものだったんだよな。あれ、百年くらい前に仕立てられたものだぞ。それをあれだけいい状態で保ってだから、きっと祖母から母、母から娘って感じで大事に受け継いできたんだなーって思って、俺ちょっと感動しちゃった」

「へぇ。ヴィンテージってやつ? 服って珍しいな」

「布はどうしたって傷みやすいからね。保存も大変だし、だからこそとっても大切にしてるって一目で分かるけど」

「…………」

「…………」

「オウル、エイミー、黙り込んでどうした?」

「いえ……あの時、私、たまたまオウルの元婚約者とその令嬢の声が聞こえるとこにいたのよ。確か、元婚約者の子、そのドレスのこと古臭いとか、汚いとか言っててその後にオウルが叩かれてたなって思い出して」

「──大切な物にそんなこと言われたら、そりゃ怒るよね……」

「…………………………」

「ありゃ、ジゼルちゃんが顔を覆ちゃった」

 通りで会っても貰えなかった訳です。
 丁寧な補足付きで過去の出来事を知ってしまい、もう、なんだか、言葉になりませんね……。
 それでもあえて言葉にするなら──

「あの、マーカス様……本当に私を疑わない理由が先程の理由だけでいいのですか?」

 この場にいる皆様、その場面を目撃していて私とリーファを切り離して考えるのは並大抵のことではなくないですか……?
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