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お茶会編 Re:start
19.借り物の信頼を着こなしてみせろ
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「まぁ、正直言ってあんたの妹にいい印象はないな」
「でしょうね……」
「けど、やっぱりそれであんたに対してどうこう思うこともない」
「……オウル様に紹介されたからですか?」
「そう。はっきり言うけど、別に俺だって今の段階であんた本人を信じてる訳じゃない。俺が信じてるのはオウルだ」
「オウル様への信頼がそのまま、私が信じるに足るかどうかの指標になっているということでしょうか」
「そうだな」
「……」
「不満か?」
私は首を振りました。あくまで信頼しているのはオウル様に対してのものなら、納得がいきます。
オウル様が築いてきた信頼関係のおかげで、こうして憂慮していたマイナスの印象から始めることは避けられましたが。けれど──
「納得は出来ました。ですが、何だかオウル様への信頼を笠に着ているようで、申し訳なくて──」
「それは気にすることないと思うけど。私たちの接点はオウルなんだから、オウルの態度で貴女がどういう人なのかを判断するのは普通のことでしょう。初対面ってそんなものじゃない?」
「そう、ですね……」
エイミー様の仰ることは分かります。それでもこんな風に後ろめたく感じてしまうのは、こうした節々でオウル様のお力を借りてしまっているからでしょう。
信頼を得ることも、実績を積み重ねることも自分でしなくてはならないのに。ご迷惑をお掛けしているのですから、これ以上お手を煩わせないように一人で出来ないといけませんのに。
自身の未熟さにどんどん気が沈んでいきます。そんな気持ちに合わせて俯いていくと、励ますように肩を叩かれました。
「ジゼル、マーカスも言ってたけど、いくら婚約者でも無条件に友人を紹介したりしないよ。僕が大丈夫って思ったから皆のところへ連れてきたんだ」
「オウル様……」
「あんた真面目っつーか、頭固いな。全部自分でやらないとずるって思うタイプ?」
「全てを自分で出来ると思うほど自惚れてはおりません。誰かのお力添えを頂くことを卑怯とも思いません。ですが、自分でしなくてはいけないことというものはあります。それは自分の力だけで成し遂げなくてはならないでしょう」
今の私にとってはそれが信頼を得るということです。
私は一刻も早く、ラピスフィール公爵家に関わる方々からの信頼を得なくてはなりません。
情報共有、有事の協力、人脈の拡大、どれも信頼なくしては成立しないことです。
少しでも早く、少しでも多く、ラピスフィール公爵家での責務を果たすための武器が必要なのです。
「あんたがそうしたいならどうこう言うことじゃないけどさ……少なくとも今の時点では借り物の信頼でもいいだろ。こっから先、自分の物にする機会なんていくらでもある」
「はい。一日でも早く、自分自身の力で皆様にご信頼頂けるよう努力します──と言いましても、今のところは特にこれといって出来ることはありませんが……」
アーモンド伯爵家にいた頃にしていた仕事は全て置いてきましたし、足場固め中に他のことに手を出してはどちらも中途半端になってしまいそうで、今はとにかくオウル様の婚約者として周囲に認知してもらうことが優先です。落ち着いたら何か仕事を探すにも新天地でということになるでしょうから、時間が掛かりそうですね。
「別に俺らから信頼のためにあれこれする必要はないぞ。それよりもやることがあるだろ。ある意味、それが一番手っ取り早い方法だ」
「え?」
「あんたがまず信頼を得るべき相手はオウルだろ。別に今も全く信頼してない訳じゃないだろうけど。友人によくしてくれた相手を嫌う奴はいないだろ。相互理解が信頼の第一歩だし、婚約したばっかりなんだから、話すことなんて山程あるだろう。友人によくしてくれた相手を嫌う奴はいないし、あんたがオウルから信頼を得ればその着ている信頼もいつかはあんた自身のものになるよ」
マーカス様の言葉にはっとしました。
──そういえば、私、他人のことばかりを気にしてオウル様と私的な会話をしたことがほとんどありませんでした。
「でしょうね……」
「けど、やっぱりそれであんたに対してどうこう思うこともない」
「……オウル様に紹介されたからですか?」
「そう。はっきり言うけど、別に俺だって今の段階であんた本人を信じてる訳じゃない。俺が信じてるのはオウルだ」
「オウル様への信頼がそのまま、私が信じるに足るかどうかの指標になっているということでしょうか」
「そうだな」
「……」
「不満か?」
私は首を振りました。あくまで信頼しているのはオウル様に対してのものなら、納得がいきます。
オウル様が築いてきた信頼関係のおかげで、こうして憂慮していたマイナスの印象から始めることは避けられましたが。けれど──
「納得は出来ました。ですが、何だかオウル様への信頼を笠に着ているようで、申し訳なくて──」
「それは気にすることないと思うけど。私たちの接点はオウルなんだから、オウルの態度で貴女がどういう人なのかを判断するのは普通のことでしょう。初対面ってそんなものじゃない?」
「そう、ですね……」
エイミー様の仰ることは分かります。それでもこんな風に後ろめたく感じてしまうのは、こうした節々でオウル様のお力を借りてしまっているからでしょう。
信頼を得ることも、実績を積み重ねることも自分でしなくてはならないのに。ご迷惑をお掛けしているのですから、これ以上お手を煩わせないように一人で出来ないといけませんのに。
自身の未熟さにどんどん気が沈んでいきます。そんな気持ちに合わせて俯いていくと、励ますように肩を叩かれました。
「ジゼル、マーカスも言ってたけど、いくら婚約者でも無条件に友人を紹介したりしないよ。僕が大丈夫って思ったから皆のところへ連れてきたんだ」
「オウル様……」
「あんた真面目っつーか、頭固いな。全部自分でやらないとずるって思うタイプ?」
「全てを自分で出来ると思うほど自惚れてはおりません。誰かのお力添えを頂くことを卑怯とも思いません。ですが、自分でしなくてはいけないことというものはあります。それは自分の力だけで成し遂げなくてはならないでしょう」
今の私にとってはそれが信頼を得るということです。
私は一刻も早く、ラピスフィール公爵家に関わる方々からの信頼を得なくてはなりません。
情報共有、有事の協力、人脈の拡大、どれも信頼なくしては成立しないことです。
少しでも早く、少しでも多く、ラピスフィール公爵家での責務を果たすための武器が必要なのです。
「あんたがそうしたいならどうこう言うことじゃないけどさ……少なくとも今の時点では借り物の信頼でもいいだろ。こっから先、自分の物にする機会なんていくらでもある」
「はい。一日でも早く、自分自身の力で皆様にご信頼頂けるよう努力します──と言いましても、今のところは特にこれといって出来ることはありませんが……」
アーモンド伯爵家にいた頃にしていた仕事は全て置いてきましたし、足場固め中に他のことに手を出してはどちらも中途半端になってしまいそうで、今はとにかくオウル様の婚約者として周囲に認知してもらうことが優先です。落ち着いたら何か仕事を探すにも新天地でということになるでしょうから、時間が掛かりそうですね。
「別に俺らから信頼のためにあれこれする必要はないぞ。それよりもやることがあるだろ。ある意味、それが一番手っ取り早い方法だ」
「え?」
「あんたがまず信頼を得るべき相手はオウルだろ。別に今も全く信頼してない訳じゃないだろうけど。友人によくしてくれた相手を嫌う奴はいないだろ。相互理解が信頼の第一歩だし、婚約したばっかりなんだから、話すことなんて山程あるだろう。友人によくしてくれた相手を嫌う奴はいないし、あんたがオウルから信頼を得ればその着ている信頼もいつかはあんた自身のものになるよ」
マーカス様の言葉にはっとしました。
──そういえば、私、他人のことばかりを気にしてオウル様と私的な会話をしたことがほとんどありませんでした。
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