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お茶会編 Re:start
23.フリージア夫人からの忠告
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「フリージア夫人、本日は本当にありがとうございました」
「お世話になりました。ジゼルと初めて参加したのがフリージア夫人のお茶会で良かった。楽しかったです」
「いや。序盤にあんなことがあったが、楽しんで貰えたなら何よりだ」
帰る段になり、オウル様と一緒にお礼を言うと、フリージア夫人は子を見守る親のような瞳で頷かれました。オウル様には素の話し方がバレてしまったため、こちらの口調でいくことにされたようです。
「では、そろそろお暇させて頂きますね」
「ジゼル」
「はい?」
会釈をしてその場から辞そうとした時、フリージア夫人に呼び止められました。
指で手招く仕草をされたので、従ってフリージア夫人に近づくと耳元で囁かれました。
「アーモンド伯爵家の動向には気をつけておけ」
「リーファのことですか? 確かに今回のこともありますし注意はしておきますが、家からも出ましたし出くわさないようにすれば今のところ問題はないかと」
今回ことは完全なイレギュラーですし、そう何度も起きることでもないでしょう。
勿論、今後とも社交場で顔を合わせることはあるでしょうが、自由奔放なリーファはともかく、お父様方はある程度世間体を気にする方々です。人目のつく場所で大それたことは出来ないでしょう。
確かに私がオウル様と婚約すればどのみち屋敷を出て、伯爵家からの仕事からも離れることをご理解頂けていない節はありましたが、それも時間を置いて冷静になれば当たり前のことだと分かる筈です。
「お前の妹は確かに何をしでかすか想像がつかず厄介だが、あしらいやすい。アーモンド伯爵家とはリーファ・アーモンドの件で揉めて以降お前以外とは距離を置いていたから内情に詳しい訳ではないが、真に注意を払うべきは伯爵だと思う」
「お父様、ですか? そうは思いませんけど。屋敷を出る際に反対はされましたけど、元々あの方は私には関心がなかったですし」
両親の興味は昔からリーファにだけ向けられていました。
元々、貴族というものは自ら子育てをするものではありませんし、衣食住もアーモンド伯爵家に必要なものもきちんと与えられていました。
知識や教養を身につけてからは、伯爵家のことで意見や提案をしたりすることも増え、考え方の違いからか顔を顰められるようになりましたけど。
お父様を納得させられなかったのは私の実力不足ですし、それを不満に思ったことはありません。
一番困ったことと言えば、リーファを甘やかしすぎて他所と揉めたり、行動を窘めてくれなかったことですね。それもリーファが発端なので、私からしてみればリーファの方が要注意人物なのですけど。
「……そもそも、お前がそういう風に育ったのは──いや、やめておこう。確信がないのにこれは明言したくない……とにかく、今のお前の立場は不安定だ。あらゆる方面に警戒しておくに越したことはない」
「──わかりました。気をつけます」
フリージア夫人の言い回しが気になりましたが、言いたくなさそうなので詮索はしないでおきました。本当に言うべきことなら言ってくれるでしょうし。
「ジゼル、話は終わったかな?」
「はい」
フリージア夫人が私の耳元から顔を離したところで、オウル様が訊ねてきました。話の内容には触れてこられないのはオウル様のお心遣いなのでしょう。まだ何かが起こった訳ではありませんし、私としてもアーモンド伯爵家のことをラピスフィール公爵家に持ち込みたくはないので、フリージア夫人からのご忠告は私の胸に仕舞っておきます。
フリージア夫人もそのことを察してオウル様に聞こえないように話してくれたのでしょう。それぞれのお心遣いに痛み入ります。
「それではフリージア夫人、失礼させて頂きますね」
「ああ、落ち着いたら今度は遊びに来るといい」
オウル様と会釈をして、私たちは馬車へと向かいました。
とりあえず、オウル様の婚約者としてラピスフィール公爵家へ移ったことは周知出来ましたし、オウル様のお知り合いの方々へのご挨拶も出来ました。当初の目的は果たせたと言っていいでしょう。
悪かった点はリーファとロウ様との会話で悪目立ちしてしまったことですね。今回のことはラピスフィール公爵家への引っ越しと一緒に広まってしまうでしょう。
その点が気掛かりですが、今のところ出来る対策は会わないことしかありませんよね。
──気掛かりと言えば、フリージア夫人のお言葉もあります。
──伯爵の動向に気をつけておけ。
フリージア夫人が仰る以上、警戒しておく必要はあるでしょう。
けれど、何が起こるかは想像がつきません。
お父様はリーファのこととなると言動がおかしくなりますが、今の安定したアーモンド伯爵家を運営する手腕をお持ちです。
リーファさえ関わらなければわざわざ騒ぎを起こしたりしないでしょう。そのリーファは希望通りにロウ様と婚約してアーモンド伯爵家に残ることになりました。
お父様もお母様もそれを喜んでいましたし、それで終わる話だと思うのですが……。
あの時、フリージア夫人が言いかけて止めた言葉。
その先に何を言おうとしていたのかを私が知るのは、少し後のことでした──。
「お世話になりました。ジゼルと初めて参加したのがフリージア夫人のお茶会で良かった。楽しかったです」
「いや。序盤にあんなことがあったが、楽しんで貰えたなら何よりだ」
帰る段になり、オウル様と一緒にお礼を言うと、フリージア夫人は子を見守る親のような瞳で頷かれました。オウル様には素の話し方がバレてしまったため、こちらの口調でいくことにされたようです。
「では、そろそろお暇させて頂きますね」
「ジゼル」
「はい?」
会釈をしてその場から辞そうとした時、フリージア夫人に呼び止められました。
指で手招く仕草をされたので、従ってフリージア夫人に近づくと耳元で囁かれました。
「アーモンド伯爵家の動向には気をつけておけ」
「リーファのことですか? 確かに今回のこともありますし注意はしておきますが、家からも出ましたし出くわさないようにすれば今のところ問題はないかと」
今回ことは完全なイレギュラーですし、そう何度も起きることでもないでしょう。
勿論、今後とも社交場で顔を合わせることはあるでしょうが、自由奔放なリーファはともかく、お父様方はある程度世間体を気にする方々です。人目のつく場所で大それたことは出来ないでしょう。
確かに私がオウル様と婚約すればどのみち屋敷を出て、伯爵家からの仕事からも離れることをご理解頂けていない節はありましたが、それも時間を置いて冷静になれば当たり前のことだと分かる筈です。
「お前の妹は確かに何をしでかすか想像がつかず厄介だが、あしらいやすい。アーモンド伯爵家とはリーファ・アーモンドの件で揉めて以降お前以外とは距離を置いていたから内情に詳しい訳ではないが、真に注意を払うべきは伯爵だと思う」
「お父様、ですか? そうは思いませんけど。屋敷を出る際に反対はされましたけど、元々あの方は私には関心がなかったですし」
両親の興味は昔からリーファにだけ向けられていました。
元々、貴族というものは自ら子育てをするものではありませんし、衣食住もアーモンド伯爵家に必要なものもきちんと与えられていました。
知識や教養を身につけてからは、伯爵家のことで意見や提案をしたりすることも増え、考え方の違いからか顔を顰められるようになりましたけど。
お父様を納得させられなかったのは私の実力不足ですし、それを不満に思ったことはありません。
一番困ったことと言えば、リーファを甘やかしすぎて他所と揉めたり、行動を窘めてくれなかったことですね。それもリーファが発端なので、私からしてみればリーファの方が要注意人物なのですけど。
「……そもそも、お前がそういう風に育ったのは──いや、やめておこう。確信がないのにこれは明言したくない……とにかく、今のお前の立場は不安定だ。あらゆる方面に警戒しておくに越したことはない」
「──わかりました。気をつけます」
フリージア夫人の言い回しが気になりましたが、言いたくなさそうなので詮索はしないでおきました。本当に言うべきことなら言ってくれるでしょうし。
「ジゼル、話は終わったかな?」
「はい」
フリージア夫人が私の耳元から顔を離したところで、オウル様が訊ねてきました。話の内容には触れてこられないのはオウル様のお心遣いなのでしょう。まだ何かが起こった訳ではありませんし、私としてもアーモンド伯爵家のことをラピスフィール公爵家に持ち込みたくはないので、フリージア夫人からのご忠告は私の胸に仕舞っておきます。
フリージア夫人もそのことを察してオウル様に聞こえないように話してくれたのでしょう。それぞれのお心遣いに痛み入ります。
「それではフリージア夫人、失礼させて頂きますね」
「ああ、落ち着いたら今度は遊びに来るといい」
オウル様と会釈をして、私たちは馬車へと向かいました。
とりあえず、オウル様の婚約者としてラピスフィール公爵家へ移ったことは周知出来ましたし、オウル様のお知り合いの方々へのご挨拶も出来ました。当初の目的は果たせたと言っていいでしょう。
悪かった点はリーファとロウ様との会話で悪目立ちしてしまったことですね。今回のことはラピスフィール公爵家への引っ越しと一緒に広まってしまうでしょう。
その点が気掛かりですが、今のところ出来る対策は会わないことしかありませんよね。
──気掛かりと言えば、フリージア夫人のお言葉もあります。
──伯爵の動向に気をつけておけ。
フリージア夫人が仰る以上、警戒しておく必要はあるでしょう。
けれど、何が起こるかは想像がつきません。
お父様はリーファのこととなると言動がおかしくなりますが、今の安定したアーモンド伯爵家を運営する手腕をお持ちです。
リーファさえ関わらなければわざわざ騒ぎを起こしたりしないでしょう。そのリーファは希望通りにロウ様と婚約してアーモンド伯爵家に残ることになりました。
お父様もお母様もそれを喜んでいましたし、それで終わる話だと思うのですが……。
あの時、フリージア夫人が言いかけて止めた言葉。
その先に何を言おうとしていたのかを私が知るのは、少し後のことでした──。
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