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デート編
25.デートは身嗜みから
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「これは少し……派手ではないでしょうか?」
「そんなことありません! とってもよくお似合いです! ジゼルお嬢様の御髪はとても綺麗な金色で、真っ直ぐでさらさらで結いやすいですね。ほら、おかげでこんなに素敵な仕上がりに!」
鏡台の前に座る私の背後で、シェリーが手鏡を持って後頭部を見せてくれます。
合わせ鏡になった鏡台の鏡には、いくつもの編み込みを入れてから、薔薇の花のように纏められた髪が映っています。纏めた髪の下には薄紫のリボンのついた銀細工の髪飾り。髪が金髪なのとリボンの色に紫の系統を希望したため、金よりも銀が良いとシェリーに勧められたので、こちらを選びました。
──とはいえ、これは些かやりすぎでは……。
ここまで凝った髪型をしたのは初めてかもしれません。この間のフリージア夫人のお茶会の際も、シェリーは丁寧に髪を結ってくれましたが、今日はその時以上です。
正直、貴族の女性は髪を伸ばす習慣があるので伸ばしているだけで、仕事中に髪が顔に掛からなければいいくらいの認識で、社交場ではそれなりに整えてはいましたが、ここまで凝った髪型をしたことはありませんでした。
シェリーの器用さに感心する一方で、ここまでしなくても……という気持ちもあります。
「確かに素敵ですけれど、私に似合うでしょうか」
「何を仰いますか! とってもよくお似合いです! ジゼルお嬢様なら下ろし髪も大変素敵ですが、綺麗なお顔を引き立てるなら纏めた方が魅力を引き出せると思いまして。佇まいも美しいので後ろ姿も映えるようにこだわりました! 会心の出来です!」
「そ、そうですか……」
手鏡の持ち手をぎゅっと握り締めて力説するシェリーの熱量に押され、流石に別の髪型にとはお願い出来ませんね。
けれど、シェリーは褒めてくれましたが、やはり私には華やか過ぎる気がします。こういう髪型は、リーファの方が似合うでしょうね。
「はい! きっとオウル様も素敵だと仰るはずです。デート、楽しんできて下さいね!」
「……ええ」
デート、という言葉にはやはり反応に困ってしまいます。
そう、今日はお茶会の帰りにオウル様とお約束したアルフェン領へ訪れる日なのです。
公的な訪問ではないので、服装もドレスではなく白いブラウスとネイビーの膝下のスカートという動きやすいものです。
立ち上がると鏡の前でくるりと回って乱れたところはないかを確認します。うん、大丈夫そうですね。
壁に掛けられた時計を見遣ると、まだ少し時間に余裕がありました。
「そうです。シェリー、以前話した作戦ですが、今回決行しようと思います」
「プレゼント作戦のことですか?」
「ええ、アルフェン領は商業が盛んですし、出掛け先のお土産という形であればあからさまな感じを緩和出来ると思いまして」
依然としてシェリーやハワード以外の使用人からは距離を置かれてしまっています。
教育が行き届いているのでしょう。陰口を叩かれたりはしませんし、声を掛ければ返事をしてくれますが、やはり皆さんよそよそしくて微妙な空気が漂っています。
ラピスフィール公爵家に来た初日にシェリーが提案してくれたプレゼント作戦ですが、買い物へ行くタイミングを逃してなかなか決行出来ずにいました。せっかくの機会なので、皆さんへの贈り物も購入出来たらと思います。
「いいですね! それで何を買うのかはお決めになられたんですか?」
「シェリーに貰った意見を鑑みて、色々と考えたのですが──」
贈り物の内容を伝えると、シェリーは「きっと皆喜んでくれると思います!」と賛同してくれました。
それから今後のスケジュールや他愛もない話をしていると時計の針はあっという間に進み、約束の時間が迫っていました。
「では、そろそろオウル様の元へ向かいますね。シェリー、留守をよろしくお願いします」
「お任せ下さい。お部屋をピカピカにして、読み終わられた資料を片付けて、すっきりと綺麗なお部屋でお出迎え出来るようにしておきます」
「ありがとうございます」
元気いっぱいなシェリーに見送られて、部屋を出て、玄関ポーチを潜ると馬車の前で立っているオウル様が迎えて下さいました。
「おはよう、ジゼル。今日は楽しもうね」
「そんなことありません! とってもよくお似合いです! ジゼルお嬢様の御髪はとても綺麗な金色で、真っ直ぐでさらさらで結いやすいですね。ほら、おかげでこんなに素敵な仕上がりに!」
鏡台の前に座る私の背後で、シェリーが手鏡を持って後頭部を見せてくれます。
合わせ鏡になった鏡台の鏡には、いくつもの編み込みを入れてから、薔薇の花のように纏められた髪が映っています。纏めた髪の下には薄紫のリボンのついた銀細工の髪飾り。髪が金髪なのとリボンの色に紫の系統を希望したため、金よりも銀が良いとシェリーに勧められたので、こちらを選びました。
──とはいえ、これは些かやりすぎでは……。
ここまで凝った髪型をしたのは初めてかもしれません。この間のフリージア夫人のお茶会の際も、シェリーは丁寧に髪を結ってくれましたが、今日はその時以上です。
正直、貴族の女性は髪を伸ばす習慣があるので伸ばしているだけで、仕事中に髪が顔に掛からなければいいくらいの認識で、社交場ではそれなりに整えてはいましたが、ここまで凝った髪型をしたことはありませんでした。
シェリーの器用さに感心する一方で、ここまでしなくても……という気持ちもあります。
「確かに素敵ですけれど、私に似合うでしょうか」
「何を仰いますか! とってもよくお似合いです! ジゼルお嬢様なら下ろし髪も大変素敵ですが、綺麗なお顔を引き立てるなら纏めた方が魅力を引き出せると思いまして。佇まいも美しいので後ろ姿も映えるようにこだわりました! 会心の出来です!」
「そ、そうですか……」
手鏡の持ち手をぎゅっと握り締めて力説するシェリーの熱量に押され、流石に別の髪型にとはお願い出来ませんね。
けれど、シェリーは褒めてくれましたが、やはり私には華やか過ぎる気がします。こういう髪型は、リーファの方が似合うでしょうね。
「はい! きっとオウル様も素敵だと仰るはずです。デート、楽しんできて下さいね!」
「……ええ」
デート、という言葉にはやはり反応に困ってしまいます。
そう、今日はお茶会の帰りにオウル様とお約束したアルフェン領へ訪れる日なのです。
公的な訪問ではないので、服装もドレスではなく白いブラウスとネイビーの膝下のスカートという動きやすいものです。
立ち上がると鏡の前でくるりと回って乱れたところはないかを確認します。うん、大丈夫そうですね。
壁に掛けられた時計を見遣ると、まだ少し時間に余裕がありました。
「そうです。シェリー、以前話した作戦ですが、今回決行しようと思います」
「プレゼント作戦のことですか?」
「ええ、アルフェン領は商業が盛んですし、出掛け先のお土産という形であればあからさまな感じを緩和出来ると思いまして」
依然としてシェリーやハワード以外の使用人からは距離を置かれてしまっています。
教育が行き届いているのでしょう。陰口を叩かれたりはしませんし、声を掛ければ返事をしてくれますが、やはり皆さんよそよそしくて微妙な空気が漂っています。
ラピスフィール公爵家に来た初日にシェリーが提案してくれたプレゼント作戦ですが、買い物へ行くタイミングを逃してなかなか決行出来ずにいました。せっかくの機会なので、皆さんへの贈り物も購入出来たらと思います。
「いいですね! それで何を買うのかはお決めになられたんですか?」
「シェリーに貰った意見を鑑みて、色々と考えたのですが──」
贈り物の内容を伝えると、シェリーは「きっと皆喜んでくれると思います!」と賛同してくれました。
それから今後のスケジュールや他愛もない話をしていると時計の針はあっという間に進み、約束の時間が迫っていました。
「では、そろそろオウル様の元へ向かいますね。シェリー、留守をよろしくお願いします」
「お任せ下さい。お部屋をピカピカにして、読み終わられた資料を片付けて、すっきりと綺麗なお部屋でお出迎え出来るようにしておきます」
「ありがとうございます」
元気いっぱいなシェリーに見送られて、部屋を出て、玄関ポーチを潜ると馬車の前で立っているオウル様が迎えて下さいました。
「おはよう、ジゼル。今日は楽しもうね」
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