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デート編
37.羽ばたきと幸運の金のリボン
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本日四本目のアスタリスクの道・古書通り。
今までの通りと同じように、この古書通りも他とは違う個性が溢れておりました。
紙の匂い、インクの匂い、絵の具の匂い、他にも色々。それらが入り交じった空気が通りに満ちております。
建物は伝統的なものから初めて見る建築様式のものまで多種多様で、煉瓦や石や塗料にはいくつもの色が使われております。通り全体が一つのキャンバスのような景観は、まるで異国に迷い込んだようです。
「これはまた、趣の違った場所ですね」
「古書通りは芸術家気質の人たちが集まってる場所だよ。いつも誰かが何かしら作っているから、来る度に街並みが変わってるのが面白いんだ」
言われてみると、塗装のための足場が組まれているお店や作りかけの大きなオブジェがところどころに見られます。それらが一つ一つが完成する度に街並みが変わってるゆくのでしょう。万華鏡のようですね。
「日々変化し続ける通りというわけですね。観光客に人気がありそうです」
「そうだね。書店や画材屋みたいな商店だけじゃなくて小劇場や演芸場が多くあるから、観賞に足を運ぶお客さんも多いよ。これから会いに行くのは古書通りの看板娘のエステルって子。この少し先の小広場で不定期に芸を披露してるんだ」
「どのようなことをされている方なのですか? 歌とかお芝居でしょうか?」
そういった場所で披露される催しを想像して、オウル様にお訊きしましたが首を横に振られました。
「それは見てからのお楽しみ。ほら、あの角を曲がったらすぐそこが小広場──」
「さぁ、皆様お立ち合い!」
曲がり角に差し掛かったのと同時に、正面からよく通る女性の声がしました。
前を向くと、すり鉢状の小広場の中央のステージに一人の女性が両腕を広げて立っているのが見えます。
歳の頃は私と同い歳か、少し下くらいでしょうか? 上衣は男性が着るような燕尾服に似た格好で、下衣はふわりと広がった青い膝丈のスカートという不思議な組み合わせです。右手にはステッキ、左手にはシルクハットを持ち、シルクハットは内側を見せるように逆さまに持ってます。
彼女がエステルさんのようですが、どんな芸を披露している方なのかはその身なりからは全く想像出来ません。
「いよ! 待ってましたぁー!」
「エステルー!」
「今日は何から始めるんだー?」
「頑張れー!」
段差に腰掛けた人々が、楽しそうにエステルさんに声を掛けています。
エステルさんは全方位へ手を振ると、向日葵のような笑顔でシルクハットを図上へ掲げました。
「ご声援ありがとう! 今日は私の十八番のこれから! 幸福の鳩のリボンの舞! 青いリボンならちょっといいことが、赤いリボンならかなりいいことが、そして──金のリボンは超ハッピーなことがあるかも!? さぁ、幸運を掴まれるのはどなたでしょう? ではいきますよー? 3、2、1──そぉれ!」
エステルさんが数を数えてステッキでシルクハットを叩くと、どういうわけか中から何羽もの鳩が飛び出して来ました!
シルクハットの中は確かに何もなくて、こんな数の鳩が出てくるわけがありません。これはどういうことでしょう?
驚いている間にも鳩は花火のように円をつくるように飛んでいきます。視線が鳩を追いかけ空を見上げると、ひらひらと何かが降ってきました。それは鳩が咥えていたリボンでした。
ほとんどが赤と青で、観客の皆さんは手を伸ばしてそれを掴まえようとしています。
私のところにもリボンが降ってきて、思わず手を伸ばして受け止めました。それは他とは違う金色のリボンでした。
「わぁ、ジゼルおめでとう」
オウル様が手を叩いて祝ってくれますが、これはなんでしょう? エステルさんは幸運がどうとか言ってましたけど──主旨がわからず戸惑っていると、エステルさんがこちらを手で差し、大きな声で言いました。
「今日の幸運を手にされたのはそちらのお嬢さん! おめでとうございます!」
瞬間、他の観客の方たちから歓声が上がりました。
──私、ですか?
今までの通りと同じように、この古書通りも他とは違う個性が溢れておりました。
紙の匂い、インクの匂い、絵の具の匂い、他にも色々。それらが入り交じった空気が通りに満ちております。
建物は伝統的なものから初めて見る建築様式のものまで多種多様で、煉瓦や石や塗料にはいくつもの色が使われております。通り全体が一つのキャンバスのような景観は、まるで異国に迷い込んだようです。
「これはまた、趣の違った場所ですね」
「古書通りは芸術家気質の人たちが集まってる場所だよ。いつも誰かが何かしら作っているから、来る度に街並みが変わってるのが面白いんだ」
言われてみると、塗装のための足場が組まれているお店や作りかけの大きなオブジェがところどころに見られます。それらが一つ一つが完成する度に街並みが変わってるゆくのでしょう。万華鏡のようですね。
「日々変化し続ける通りというわけですね。観光客に人気がありそうです」
「そうだね。書店や画材屋みたいな商店だけじゃなくて小劇場や演芸場が多くあるから、観賞に足を運ぶお客さんも多いよ。これから会いに行くのは古書通りの看板娘のエステルって子。この少し先の小広場で不定期に芸を披露してるんだ」
「どのようなことをされている方なのですか? 歌とかお芝居でしょうか?」
そういった場所で披露される催しを想像して、オウル様にお訊きしましたが首を横に振られました。
「それは見てからのお楽しみ。ほら、あの角を曲がったらすぐそこが小広場──」
「さぁ、皆様お立ち合い!」
曲がり角に差し掛かったのと同時に、正面からよく通る女性の声がしました。
前を向くと、すり鉢状の小広場の中央のステージに一人の女性が両腕を広げて立っているのが見えます。
歳の頃は私と同い歳か、少し下くらいでしょうか? 上衣は男性が着るような燕尾服に似た格好で、下衣はふわりと広がった青い膝丈のスカートという不思議な組み合わせです。右手にはステッキ、左手にはシルクハットを持ち、シルクハットは内側を見せるように逆さまに持ってます。
彼女がエステルさんのようですが、どんな芸を披露している方なのかはその身なりからは全く想像出来ません。
「いよ! 待ってましたぁー!」
「エステルー!」
「今日は何から始めるんだー?」
「頑張れー!」
段差に腰掛けた人々が、楽しそうにエステルさんに声を掛けています。
エステルさんは全方位へ手を振ると、向日葵のような笑顔でシルクハットを図上へ掲げました。
「ご声援ありがとう! 今日は私の十八番のこれから! 幸福の鳩のリボンの舞! 青いリボンならちょっといいことが、赤いリボンならかなりいいことが、そして──金のリボンは超ハッピーなことがあるかも!? さぁ、幸運を掴まれるのはどなたでしょう? ではいきますよー? 3、2、1──そぉれ!」
エステルさんが数を数えてステッキでシルクハットを叩くと、どういうわけか中から何羽もの鳩が飛び出して来ました!
シルクハットの中は確かに何もなくて、こんな数の鳩が出てくるわけがありません。これはどういうことでしょう?
驚いている間にも鳩は花火のように円をつくるように飛んでいきます。視線が鳩を追いかけ空を見上げると、ひらひらと何かが降ってきました。それは鳩が咥えていたリボンでした。
ほとんどが赤と青で、観客の皆さんは手を伸ばしてそれを掴まえようとしています。
私のところにもリボンが降ってきて、思わず手を伸ばして受け止めました。それは他とは違う金色のリボンでした。
「わぁ、ジゼルおめでとう」
オウル様が手を叩いて祝ってくれますが、これはなんでしょう? エステルさんは幸運がどうとか言ってましたけど──主旨がわからず戸惑っていると、エステルさんがこちらを手で差し、大きな声で言いました。
「今日の幸運を手にされたのはそちらのお嬢さん! おめでとうございます!」
瞬間、他の観客の方たちから歓声が上がりました。
──私、ですか?
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