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デート編
38.幸運は分け合いましょう。
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手元で光沢を帯びた金色の色が輝いています。
「やった! 赤いリボンだ。今日はカジノだな」
「いいなぁー、私は青だったよ」
「あー! 残念、取れなかった!」
「見て見て! 赤いリボン二本取れちゃった! これでラッキー二倍になるかも!」
「金のリボン取ったのはあっちの嬢ちゃんか」
「おめでとー!」
「見ない顔だな。観光客か?」
「それで金色のリボンを手に入れられるなんて、強運の持ち主ね?」
「あれ? 隣にいるのオウル様じゃない?」
「ほんとだ! ご無沙汰じゃない? 遊びに来てくれたのかしら?」
「オウル様ー!」
リボンの雨が止んだ小広場には梅雨明けの蝉時雨のような歓声が沸き上がっています。
中にはオウル様に気づいて手を振っている人も。
「えっと、これは一体──? 占いのようなものなのでしょうか?」
シルクハットから鳩たちが羽ばたく前のエステルさんの口上からそう推測し、隣で手を振り返していらっしゃるオウル様にお訊きしました。
「占いというよりは、おまじないみたいなものかな? 鳩が落としたリボンを掴んで身につけているとその日はいいことがあるかもっていう。青なら小さなラッキー、赤なら中くらいのラッキー、金なら大きなラッキーっていうね。金のリボンは一本しかないから初めてで取れるなんてジゼルは凄いね」
「なるほど──では、こちらはオウル様にお譲りします」
このリボンが幸運を招くものであるのなら、オウル様に持っていて欲しいと思い、私は金のリボンをオウル様に差し出しました。
「え? 駄目だよ。ジゼルが掴んだものなんだから、ジゼルが持ってて」
首を横に振られたオウル様にリボンを掛けた両手の平を下から掬うように包まれ、やんわりと押し戻されました。
「私の益はオウル様の益です。ですから、オウル様がお持ち下さい」
「それなら僕にとって今日の利益はジゼルが幸福であることだよ。それに今日はずっと一緒なんだから、ジゼルが持ってても大丈夫だよ」
「けれど──オウル様にはお世話になってばかりなので、少しでもお返しがしたいのです」
「そんなのいいのに……」
お互いに一歩も引かないやり取りを続きます。
押しつけがましいでしょうか? けど、今の私が手にした良いものは一つでも多くオウル様に差し上げたいです。
どう言葉を尽くせば受け取って頂けるでしょうか。
悩んでいると、私の心の声を読み取ったかのような声がしました。
「それなら私が幸運を仲良く半分こにして差し上げましょう! 3・2・1──そぉれ!」
「きゃっ」
鳩の時と同じ、呪文のような言葉が響くのと同時に手元のリボンに切れ目が入り、はらりと二本に別れました。
驚いて短い悲鳴を上げてしまいました。
「ジゼル、大丈夫!?」
「は、はい──ですが、これはどうなって──」
「ご心配なく、オウル様。タネも仕掛けもありますが、刃物は使ってないので怪我の心配はありませんよ」
その声に振り返ると、肩や頭に鳩を乗っけたエステルさんがすぐ後ろに立っていました。
「エステル……驚かせないでよ……」
オウル様が眉間を押さえて大きな溜息をつかれます。
エステルさんは指でくるくるとシルクハットを回し、クスクスと笑いました。
「ごめんなさい。けど、せっかくの私のステージを見て頂けないのはムカつくので♪ これで問題解決ですね」
「あの、これは貴方が──?」
そう言って私は真っ二つになったリボンをエステルさんに見せました。
「はい、そうですよ」
あっさりと首肯され、私は驚愕しました。
どうやってリボンを触れもせずに切ったのでしょう? まさか──
「エステルさんは魔法使いなのですか?」
ありえないことと思いつつ、想像上の存在の名を出すと、大きな笑い声が上がりました。
「やった! 赤いリボンだ。今日はカジノだな」
「いいなぁー、私は青だったよ」
「あー! 残念、取れなかった!」
「見て見て! 赤いリボン二本取れちゃった! これでラッキー二倍になるかも!」
「金のリボン取ったのはあっちの嬢ちゃんか」
「おめでとー!」
「見ない顔だな。観光客か?」
「それで金色のリボンを手に入れられるなんて、強運の持ち主ね?」
「あれ? 隣にいるのオウル様じゃない?」
「ほんとだ! ご無沙汰じゃない? 遊びに来てくれたのかしら?」
「オウル様ー!」
リボンの雨が止んだ小広場には梅雨明けの蝉時雨のような歓声が沸き上がっています。
中にはオウル様に気づいて手を振っている人も。
「えっと、これは一体──? 占いのようなものなのでしょうか?」
シルクハットから鳩たちが羽ばたく前のエステルさんの口上からそう推測し、隣で手を振り返していらっしゃるオウル様にお訊きしました。
「占いというよりは、おまじないみたいなものかな? 鳩が落としたリボンを掴んで身につけているとその日はいいことがあるかもっていう。青なら小さなラッキー、赤なら中くらいのラッキー、金なら大きなラッキーっていうね。金のリボンは一本しかないから初めてで取れるなんてジゼルは凄いね」
「なるほど──では、こちらはオウル様にお譲りします」
このリボンが幸運を招くものであるのなら、オウル様に持っていて欲しいと思い、私は金のリボンをオウル様に差し出しました。
「え? 駄目だよ。ジゼルが掴んだものなんだから、ジゼルが持ってて」
首を横に振られたオウル様にリボンを掛けた両手の平を下から掬うように包まれ、やんわりと押し戻されました。
「私の益はオウル様の益です。ですから、オウル様がお持ち下さい」
「それなら僕にとって今日の利益はジゼルが幸福であることだよ。それに今日はずっと一緒なんだから、ジゼルが持ってても大丈夫だよ」
「けれど──オウル様にはお世話になってばかりなので、少しでもお返しがしたいのです」
「そんなのいいのに……」
お互いに一歩も引かないやり取りを続きます。
押しつけがましいでしょうか? けど、今の私が手にした良いものは一つでも多くオウル様に差し上げたいです。
どう言葉を尽くせば受け取って頂けるでしょうか。
悩んでいると、私の心の声を読み取ったかのような声がしました。
「それなら私が幸運を仲良く半分こにして差し上げましょう! 3・2・1──そぉれ!」
「きゃっ」
鳩の時と同じ、呪文のような言葉が響くのと同時に手元のリボンに切れ目が入り、はらりと二本に別れました。
驚いて短い悲鳴を上げてしまいました。
「ジゼル、大丈夫!?」
「は、はい──ですが、これはどうなって──」
「ご心配なく、オウル様。タネも仕掛けもありますが、刃物は使ってないので怪我の心配はありませんよ」
その声に振り返ると、肩や頭に鳩を乗っけたエステルさんがすぐ後ろに立っていました。
「エステル……驚かせないでよ……」
オウル様が眉間を押さえて大きな溜息をつかれます。
エステルさんは指でくるくるとシルクハットを回し、クスクスと笑いました。
「ごめんなさい。けど、せっかくの私のステージを見て頂けないのはムカつくので♪ これで問題解決ですね」
「あの、これは貴方が──?」
そう言って私は真っ二つになったリボンをエステルさんに見せました。
「はい、そうですよ」
あっさりと首肯され、私は驚愕しました。
どうやってリボンを触れもせずに切ったのでしょう? まさか──
「エステルさんは魔法使いなのですか?」
ありえないことと思いつつ、想像上の存在の名を出すと、大きな笑い声が上がりました。
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